「無計画は失敗への計画」という格言がある。これは建設業界には特に当てはまる。ムダな時間や資源、予算の浪費を避けるには、鋼材、木材、労働力のすべてを考慮に入れなければならないからだ。ビル所有者のニーズは複雑で、材料が高価で、さらに持続可能性の要件が厳しいこの業界では、建築家、エンジニア、ゼネコンがぶっつけ本番で進める余裕はない。リスクが大きすぎるのだ。
幸いなことに、AECOには変革が起きつつある。建築会社や建設会社がプロジェクト着工前のプロセスに注目し、投資しているのには理由がある。プロジェクトの成否は、今や多くの場合その最初期段階であるプレコンストラクションまで遡ることができるようになっている。
このような認識の高まりにより、プレコンストラクションの強化が脚光を浴びている。それでは、今後はどうなっていくのだろうか? より協調性が高く、効率的で綿密な計画は、建造環境の大きな課題の数々を克服するのに役立つのだろうか?
プレコンストラクションは、設計と建設の間の重要な架け橋であり、ビジョンが現実となる場である。設計段階が終了し着工する前に、チームは建築コンセプトを完全に建設可能なプランにするための複雑な作業を行う。この段階はプロジェクトの成功にとって極めて重要であり、予算の正確さからスケジュール効率まであらゆることに影響を与える。
建築家は設計の意図を明確にし、建物の外観や機能を示す実施設計図を作成する。そこからゼネコンは、プロジェクトチームが現場での業務遂行に活用できるよう、これらの計画を実行可能なモデルやワークフローに落とし込んでゆく。だが、プレコンストラクションとは、単にコストの見積もりや資材の調達、建築チームの編成にとどまらない––コンセプトを磨きあげ、リスクを軽減し、設計されたものを効率的かつ確実に建設できるようにすることでもある。
「プレコンストラクションとは、設計、予算、組織など、建設プロジェクトの計画段階と定義されています。しかし正直なところ、それはむしろオーナー、建築家、施工会社、協力会社の間で建設プロジェクトを成功させるためのチームやパートナーシップを築き、信頼関係を構築するための段階だと感じています」Gilbane Building Companyで北カリフォルニアプレコンストラクション担当ディレクターを務めるスー・バッタチャルジー氏はこう話す。
「プレコンと建設でプレーヤーが変わることもありますが、プロジェクトの基本構成やチームのふるまい、OAC (所有者、建築家、施工会社) の行動やその役割が、長期的に良好な––あるいはそうでない––関係の慣例となるのです」。
プレコンストラクションは舞台裏で行われるものだが、その影響は表舞台に現れる。プレコンストラクションは単なるプランニングにとどまらない––それはプロジェクトの勝敗を左右し、マージンを生むのか蝕むのかが決まる場でもある。この段階は成功の基礎を築くものであり、ゼネコンがリスクを軽減し、入札プロセスを構築し、パートナーを関与させ、プロジェクト遂行を軌道に乗せるためのスケジュールを確立することを可能にする。
クライアントと施工会社の双方にとって、強力なプレコンストラクションプロセスは、以下のような明確なメリットをもたらす。
問題や未知の出来事を早期に特定することによるリスクの低減
プロジェクトのスコープ、実行戦略、成果物の明確化
現実的なスケジュールを設定し、より正確なスケジューリングとプランニングの確保
品質を損なうことなく付加価値を高めるコスト削減の機会の特定
あらゆるシナリオを事前に検討することで、プレコンストラクションはクライアントと施工会社の信頼関係を育む。予想を明確にすることで不測の事態を減らし、業務プロセスを合理化して、最終的にプロジェクトをよりスムーズかつ成功度の高いものへと導く。
適切に構成されたプレコンストラクション段階は、プロジェクト成功のための土台を築き、施工の開始前に重要な細部に対処する。この段階はプロジェクト目標のすり合わせを行う初回ミーティング(プレコンストラクションミーティング)から始まり、その後、綿密なプランニングを行い、デザインを洗練させ、コストを見積もり、予算を最適化するためのバリューエンジニアリングの機会を探る。プロジェクトのスコープを管理し、潜在的なリスクを特定し、クライアントと施工会社のためのコンティンジェンシープラン(不測の事態への対応計画)を策定することで、将来的な不測の事態を軽減できる。
敷地の実現可能性調査や環境への配慮も、プレコンストラクションの重要な要素だ。チームは土壌の状態を評価し、既存のユーティリティを診断し、持続可能な建物の選択肢とライフサイクルコストを検討しながら、必要な設備を決定する。これらの要素に早期に対処することで、チームはよりスムーズで効率的な建設を実現し、スケジュールとコストの超過リスクを低減できる。
「長い間、プレコンストラクションはさまざまな名のもとで行われてきました––ビジネス開発に精通したプロジェクトエグゼクティブ、説明の多い見積もり担当者、あるいは同じクライアントから継続して受注する野心的なPM (プロジェクトマネージャー) などです」と、バッタチャルジー氏。「この10年間で、プレコンストラクションは役割として存在感を高めるようになりました。単に数字が分かるだけでなく、その数字を説明し、インパクトのある方法で設計に影響を与えることができる見積もり担当者やPX (プロジェクトエグゼクティブ) の専門領域として認知されています」。
この役割が認知されるにつれて、この分野での技術革新も進んできたと、バッタチャルジー氏。「アメリカ全土のさまざまな分野で統合プロジェクトデリバリースタイルの契約やデザインビルドプロジェクトが増加するにつれ、見積もり、設計決定、スケジュール、プロジェクト予算の動向をクライアントに伝える手法は大きく変化しています」バッタチャルジー氏はこう説明する。「単純なExcelスプレッドシートや複雑なP6スケジュールからより視覚的なダッシュボードまで、イノベーションはありとあらゆる方法で起こっているのです」。
プレコンストラクションとは、物理的な作業を開始する前に、プロジェクトにデジタルで生命を吹き込むことだ。見積もり、設計、改訂が並行して進む中で、従来の融通の効かない各フェーズはより流動的で協働的なアプローチへと変わる。適切なデジタルツールとコネクテッドワークフローは不可欠であり、それによりチームはリアルタイムで計画を練り直し、早い段階でスコープを調整できる。
デジタル空間におけるシームレスなコラボレーションは、より良好なプロジェクトの成果につながる。より正確な見積もりは、予算のサプライズを減らし、施工会社や取引会社は確信を持って入札やスケジューリングが行え、また変更の取り込みも容易になる。
プレコンストラクションは急速に進化しているが、チームが今日直面する課題はますます複雑になっている。最大のハードルのひとつは、断片化するコミュニケーションだ。オーナーから協力会社までステークホルダーがサイロ化された状態のままだと不整合が生じ、着工前にコストのかかる手直しやスコープクリープ、予算超過につながる可能性がある。コラボレーションを可能にする一元化されたプラットフォームがなければ、重要な詳細が混乱に紛れて失われ、プロジェクトのライフサイクル全体に波及する非効率を生み出すことになりかねない。
もうひとつの喫緊の課題は、予算の逼迫とコストの不確実性だ。資材価格やインフレ率の変動に加え、労働力不足によるコスト上昇もあり、施工会社はますます不安定になる市場に対応しなければならない。正確なコストの見積もりは極めて重要だが、依然として多くのチームはエラーの余地が大きい時代遅れの方法に頼っている。データに基づく予測とリアルタイムのコスト追跡がなければ、企業は経費を過小評価したり、入札時に過大な約束をしたりするリスクを抱えることになる。
持続可能で高性能な建物に対する需要の高まりにより、複雑さはさらに増している。クライアントは、エネルギー効率の高い環境に配慮した設計を求めるが、グリーンビルディング戦略をプレコンストラクションに組み込むには、慎重なプランニング、早期の意思決定、長期的なコストの明確な把握が必要だ。適切なツールや専門知識がなければ、持続可能性と予算の制約とのバランスをとることは大きな課題となり得る。
このような課題に対処し競争力を維持するため、企業はデジタルソリューションを採用し、コネクテッドワークフローを活用し、初日からコラボレーションを優先させる必要がある。
バッタチャルジー氏は、現在このプロセスにおける2つの主要な課題に対処する上で、デジタルソリューションに解決の可能性を見出している。まずはコミュニケーションだ。「プレコンストラクションではコミュニケーションが常に課題です」と、バッタチャルジー氏。「私が話す内容と、あなたが理解する内容が異なることがあります。プレコンダッシュボードタイプの新しいソフトウェアが市場に登場することで、私たちは情報をよりスマートに表示でき、また顧客は情報を解釈するためのより良い知見を得ることで、この課題が克服されることを期待しています。クライアントが関心を持つ情報を提供し、正しい決断ができるようサポートすることが重要です。これらのダッシュボードを使用した透明性は、両者が理解を深め、適切な質問をし、情報に基づいた意思決定を行うのに役立つでしょう」。
彼女が考える2つ目の課題は、建設会社全体のデータ標準の欠如に対処するためのデジタルソリューションの必要性だ。「各社の全データをふるいにかけ、建設業界のコンソーシアムとして作成し使用できるデータ標準に一貫した方法で分類するために、AIが役立つのではと期待しています」と、バッタチャルジー氏。「しかし現在のところは、見積もりのスコープが正しく分類されているデータベースを確保するのにどの企業も苦労しています。UniFormatやMasterFormatのようにより厳格な基準が設けられ、企業間でデータをしっかり分析できるようになり、同じクライアントが異なるGCを使用しても、全員が同じ定義を理解していればスコープや予算を正しく理解できる、そんなふうになることを期待しています」。
—スー・バッタチャルジー氏 (Gilbane Building Company北カリフォルニアプレコンストラクション部門ディレクター)
プレコンストラクションがプロジェクト成功の基礎を築くように、クラウドベースのツールはすべてのステークホルダーが足並みを揃えるためのバックボーンとして機能する。プロジェクトデータを一元化することで、チームは最初からシームレスに作業でき、透明性を確保し、遅延を減らし、業務を加速できる。
そのメリットは明白だ。クラウドベースのツールにより、チームは同時に重要な情報を更新しアクセスできるようになり、バージョン管理の問題を解消することができる。また、クラウドベースのコラボレーションは効率性と生産性も向上させ、ドキュメントの共有、承認、やりとりが瞬時に行えるようになる––これにより、チームは順次に仕事を進めるのではなく、同時並行的に取り組むことができる。
今日のクラウドベースのツールやプラットフォームには、AIのような高度な機能がますます取り入れられるようになっている。たとえば、AIを活用した干渉検出は、設計の干渉を早期に特定し、手戻りを減らし、リソースを最適化することで、プロジェクトの成果を向上させる。これによってコストも削減し、また材料のムダを最小限に抑えることで持続可能性への取り組みも支援する。建設業界がよりコネクテッドでデータ主導のプレコンストラクションプロセスに移行するにつれ、クラウドコラボレーションはもはや競争上の優位性ではなく、必要不可欠なものとなっている。
ソフトウェアの相互運用性は、プラットフォーム間での効率的なデータ交換を可能にすることでAECOプロジェクトに変革をもたらしており、プレコンストラクション段階全体で一貫性とコラボレーションを確保する。Autodesk Forma、Autodesk Construction Cloud、AEC Data Model、RevitのBIMビジュアライゼーションなどの主要ツールを統合することで、チームはリアルタイムかつ正確なプロジェクトデータを使用し、より効率的に作業できる。
シームレスな統合は、冗長なデータ入力を排除し、エラーを減らし、ワークフローの効率を向上させる。一元化されたデータ環境は意思決定を向上させ、ステークホルダーは確信を持ってプロジェクト設計、予算編成、スケジューリングを最適化できるようになる。相互運用性は、エネルギーモデリングやライフサイクルアセスメントツールをプランニングに統合することでよりサステナブルな設計手法をサポートし、チームが最初から環境に配慮した選択を行えるよう支援する。プロジェクトが複雑化する中、現代の建設において効率性、正確性、持続可能性を実現するには、コネクテッドなソフトウェアエコシステムが不可欠だ。
共通データ環境 (CDE) は、プレコンストラクションにおけるデジタルソリューションのメリットを最大化するのに不可欠だ。シームレスなコラボレーションを実現し、非効率を削減し、プロジェクトライフサイクル全体を通してより良い意思決定を可能にする。つまりCDEは、プロジェクトとBIMワークフローの一部として情報が集まる集中デジタルハブおよびデータストレージとして機能する。プロジェクトデータを一元管理することで、CDEは建築家、エンジニア、施工会社間のリアルタイムによる更新を容易にし、誤解やデータの重複を最小限に抑えることができる。その結果、プロジェクトの予測可能性が高まり、チームはリアルタイムの知見を活用してリスク管理を強化し、プランニングを最適化できる。
テクノロジーが進化を続ける中、AIと機械学習は、コスト見積もり、リスク評価、スケジューリングの精度を向上させることでプレコンストラクションに変革をもたらしつつある。予測分析は、チームが潜在的な問題を事前に予測し、コストのかかる遅延や超過を削減するのに役立つ。一方、IoT (モノのインターネット) の統合により、プロジェクトのデータ収集が強化され、現場の状況、資材の使用状況、設備の性能をリアルタイムで監視できるようになり、着工前からより多くの情報に基づいた意思決定ができるようになっている。
今後、AECOプロジェクトではさらにデータドリブンが進み、デジタルツインやクラウドベースのコラボレーションプラットフォームがプロジェクト計画に大きな役割を果たすようになるだろう。自動化やジェネレーティブデザインの活用により、ワークフローは合理化され、手作業による非効率が減り、サステナブルな成果を向上できる。企業がデジタライゼーションを受け入れ続けるにしたがって、プレコンストラクションの未来は、より高い精度、効率性、そしてプロジェクトの全段階にわたるシームレスな統合により定義されるようになるだろう。
「私が望んでいることは2つあります」と、バッタチャルジー氏。「まず、データの不整合を認識し、すべての企業が従う建設業界のコンソーシアムを設立すること、そしてそれを建設業許可と結びつけることです。こうすれば、何を建設するにしても、すべての施工会社は同じ母体に関連づけられることになります。これなら、技術の進歩に応じて、この情報をさまざまな方法で利用できるようになります」。
彼女の願望リストの2番目はこうだ。「クライアントがプレコンストラクション段階でビジュアルダッシュボードを快適に使えるようになることです。そこで彼らは舵取りに一役買い、十分な情報に基づいた決断を自信を持って下すことができます。そして、耐久性の高い決断を下し、社内チームに不安なくプレゼンテーションを行います。GCは縁の下の力持ちのようなものです」。
—スー・バッタチャルジー氏 (Gilbane Building Company北カリフォルニアプレコンストラクション部門ディレクター)
プレコンストラクションの未来はシームレスなデジタルコラボレーションにある。クラウドベースのプラットフォームとソフトウェアの相互運用性によってサイロ化を解消し、効率化が高まる。初めからデジタルツールを導入することで、チームはより正確な見積もり、より優れたリスク管理、合理化されたワークフローを手に入れることができ、最終的なプロジェクトの成果を高めることができる。導入の課題は残るが、トレーニング、統合戦略、リーダーシップの支持を優先する企業は、競争が激化する業界において優勢を保つことができるだろう。
バッタチャルジー氏は、プレコンストラクションに携わるすべての人が考慮すべきことのトップ5を紹介している。
チームの成功はあなたにかかっている。「共感する力、親切にする力、耳を傾ける力は、常にチームへの影響力に左右します。建築家、クライアント、取引先の話を聞き流すのではなく、しっかり耳を傾ければ、さまざまな方法で設計、コスト、スケジュールに影響を与えることができます。これはあなたのチームの成功に重要です」。
もはや「われわれ」対「彼ら」ではない。私は今「あなたの」チームと言いました。これは意図的なものです。デザイナーが決断できないなら、適時に適切な質問をすることで決断を後押ししましょう。もし取引先が行き詰っているなら、定期的にチェックして行き詰まりを解消しましょう」。
電話で話をする。「誰がどういったコミュニケーションを好むのかを把握しましょう。チームチャットが好きな人もいれば、テキストメッセージが好きな人もいます。それを知ることで、Eメールの10倍の速さで返答を得ることができます」。
誰もが訴訟を恐れる世界で関係を築くには、率直さと透明性が大きな役割を果たす。「常に先を見据えて計画を立て、制約に直面しつつもなんとかやっていけるよう、PDCA––計画、実行、確認、改善––をどう回しているかを確認しましょう」。
「最後に、プレコンのプロとして、リーンなツールであるA3やCBA (優位性で選択しています) は、意思決定プロセスに参加しつつスキルを磨くのに最適な方法です」。
AI、IoT、自動化がプレコンストラクションを変革し続けるなか、業界は人材と労働力不足という差し迫った課題にも取り組まなければならない。未来のAECOプロフェッショナルは、次世代の建設に備えるべく、スキルアッププログラム、指導の機会、デジタルツールの実地体験へのアクセスが必要だ。
テクノロジーと人材開発の両面に投資することで、企業は、この業界の進化する需要に対応できる熟練したプロフェッショナルの供給経路を構築できる。今こそ、業界のリーダーたちはイノベーションを受け入れ、プロセスを向上させ、プレコンストラクションとそれを推進する労働力の両方の未来に投資する時だ。
ジョン・ホームズはSEOとオウンドメディアに注力するオートデスクのコンテンツマーケティング スペシャリスト。デトロイトを拠点とする彼はコピーライターを生業とし、詩人、哲学者でもある。簡潔でパンチがあり、説得力のある文章を得意としている。オートデスク入社以前はデジタル住宅ローン会社、AIスタートアップ企業、SAAS製造アプリなどのエンゲージメントとコンバージョンを推進。朝の瞑想とヤマブキシイタケ、長距離ジャンプショットをこよなく愛する。
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