2011年7月に発生したノルウェー連続テロ事件では、77人が死亡、200人以上が負傷し、複数の政府庁舎が使用不能となった。1,800人以上の公務員が職場を失った––ここには首相も含まれる。6つの省庁用に市内に安全な敷地を確保しなければならず、業務は中断され、長い時間をかけて確立されたワークフローは根底から覆された。
その後、Statsbygg (ノルウェー公共建設不動産局) のプランナー陣は大胆なビジョンを提案した。それは、既存の敷地の象徴的かつ歴史的なステータスを強化しつつ、ポジティブな今後の方向性を示すような新しい官庁舎を建設するというものだった。
このプロジェクトは、ノルウェーの価値観、すなわち、自由、共有、連携、そしてヒューマンスケールで建設された持続可能な建築を体現するものとなるはずだった。しかし、データ保護や国家安全保障をめぐる国の規制により、設計と建設の管理には完全にクローズなアプローチが必要だった。ITシステムはオフラインでなければならず、クラウドプラットフォームは禁止され、チームは明確に分業されたタスクグループへと分割された。情報共有はNeed-to-Knowの原則 (必要とする人にのみ情報へのアクセスを許可する) に基づいて行われ、サイロ化された作業が日常となった。
このプロジェクトを成功させるには、革新性、粘り強さ、構造化されたコラボレーション、そして共通の目標を追求するためにシステムやプロセスを見直す意欲が必要だ。
現在建設中の新庁舎 Regjeringskvartal (RKV) は、公共スペースでつながる7棟のビルへと拡張されつつある。5棟の新築ビルは、改修が予定されている2棟の歴史的建造物と連結される。
プランナーは、国の全省庁を1つの政府センターに集めることで、将来の変化に対応できる組織の柔軟性を組み込むと同時に、人や部署間の物理的なやり取りを簡素化させることを目指している。
このプロジェクトの発端となった事件や、建物が象徴することになる社会的な制度を考慮し、プランナー陣は社会問題について真剣に考慮した。ノルウェーのアイデンティティや価値観を建築にどこまで反映させるべきだろうか? オスロはヨーロッパで急成長している首都のひとつであり、その建造環境において重大かつ時に物議をかもす変化の只中にある。さらに劇的な変化に、市民はどう反応するだろうか?
歴史的連続性への配慮が重要な原則となった。G-blokken (1906年) とHøyblokken (1958年) は2011年のテロで被害を受け、人々の心に刻まれることとなった。これらの建物は、保存に値する、時代の重要なステートメントであると考えられている。
2つの棟はどちらも最新化され、125,000㎡の敷地全体に統合される。最終的には、歴史的中心市街地より高層だが、既存の市街地の高さとうまく調和するよう段差のあるファサードと階段状のテラスを取り入れた、環状に連結する庁舎群となる予定だ。この設計では、歴史的な歩行者通路を再構築して新たなつながりを生み出しており、綿密に計画された通路や公共スペースを通じて庁舎エリアとオスロ周辺の都市構造を統合させている。開放的な緑地スペースにより一般市民がどこからでもアクセスしやすくなっており、各ビルの1階には橋が架けられ、途切れることのない職場環境を作り出している。
コラボレーションを促進するオープンで対等なスペースが構想としてあったものの、プロジェクトの実現を任された12社によるコンソーシアムは、国家の厳しいセキュリティ規約に制約される管理手法を導入する必要もあった。
ノルウェーのセキュリティ法規制では、このような機密性の高い建築プロジェクトでは、クラウドサービスやオンラインストレージを使用することが禁じられている。そのため、システムへのアクセスは厳密に管理する必要があった。「つまり、モデルや図面など、あらゆるデータはオフラインで保存する必要がありました」Nordic Office of Architectureシニアアーキテクトで、本プロジェクトの学際的BIMコーディネーターのモートン・レーダー氏はこう話す。「設計チームはサイロに分かれ、必要とされる情報のみ共有が許されました。すべてはリスクを最小限に抑えるためですが、今日の国際政治情勢においてその重要性が増していることは明らかです」。
Statsbyggのデジタル戦略では、ワークフローをスリム化し、全員がSSOT (信頼できる唯一の情報源) に基づいて作業できるよう、モデル中心の設計プロセスへのアプローチが求められる。100を超える設計モデルをパートナー12社と複数の施工会社にまたがる150名以上の建築家とエンジニアが扱うという状況で、オフラインでの作業は効率とスケジュールにとって深刻な障害となる恐れがあった。
オフラインでの作業では、必然的に対面時間はより長くなり、技術的な複雑さも生じる。ミーティングを最小限に抑えつつ効率を最大化するには、プロセスの自動化が鍵となる。市販のツールでは十分ではなかった。
「私たちのチームには、市場に普及する一般的な製品を超えた革新が必要でした」と、レーダー氏。「Autodesk Forgeと BIM360|Autodesk Construction Cloudは選択肢にはありませんでしたが、十分に裏付けのあるRevitのオープンAPIにより、品質と生産性を向上できる重要な自動化スクリプトと拡張可能なアドインの開発が可能になり、多様なチーム間でモデルの一貫性を維持し、手作業による監視の必要性を減らすことができました」。
実用面では、カスタマイズ可能なRevitの自動化スクリプトにより、レーダー氏のチームはデータオブジェクトに異なるプロジェクトプロパティのタグを付けるなどの面倒な作業を効率化できた。何十万もの専門分野オブジェクトを人の手を介さずに自動的に更新するアドオンが作成された。このプロジェクトの成功は、建築やエンジニアリングのバックグラウンドを持つデベロッパーが設計グループに組み込まれ、エンドユーザーやクライアントのIT部門と直接連携することにより大いに促進された。
タグ付けを面倒な作業から自動化されたプロセスに変えることで、手作業の必要は減り、データの精度は向上した。また、建築家やエンジニアがプロジェクトのクリエイティブで知性を刺激する側面に集中する時間も増えた。
それでも、これほど多くの人がこれだけ多くのモデルを扱うとなると、モデルの不一致が問題となる。自律的な設計チームはすべて同一のRevitテンプレートで作業するため、100を超えるモデルの設定が標準化されるよう、広範なマスターデータファイルが作成された。
Revitアドインと特注のスクリプトがこれを処理し、一貫性を保つためにマスターデータのルールを参照し、1つのモデルに入力された変更が参照されるすべてのモデルでシームレスかつ双方向に更新されるようにした。
「これにより品質保証がより迅速かつ容易になりました」と、レーダー氏。「何千ものオブジェクトにひとつひとつタグを付ける代わりに、数個のマスオブジェクトを更新すれば、モデル全体で自動的に同期されます」。
反復的な手作業のタスクを削減することで、レーダー氏はビルディングインフォメーションモデリング (BIM) チームをスリムな状態に保つことができた。人員削減と手作業によるデータ処理の大幅な削減により、1万時間以上の作業時間と、400万ドル以上のプロジェクトコストを削減できた。
特注のアドインと自動化スクリプトによって、クライアントのBREEAMサステナビリティ目標も達成しやすくなっている。設計段階で持続可能性に関する優れた成果が得られているが、これを正確に予測するには、信頼性の高い設計データとエンジニアリングデータが必要だ。ハイライトをいくつか紹介しよう:
予想エネルギー消費量は、年間1㎡当たり52kwhまで削減された。
ライフサイクルカーボンフットプリントは34%削減された。
予想される水流出は、既存の敷地と比べてなんと95%も削減された。
「オフライン環境での作業は当初考えていたよりも制約が多かったのですが、全体的にはポジティブな驚きとなりました」と、レーダー氏。「全員の連携具合には本当に驚かされました。設計チーム内だけでなく、クライアントのIT部門や施工会社のBIMコーディネーターとも協力し合っていました。全員が、物事をうまく進めるために期待を遥かに上回る対応をし、現場でも予想以上の働きをしてくれました。相当なレベルのコラボレーションと革新を目の当たりにし、感動を覚えました」。
マーク・ドゥ・ウルフはテクノロジーのストーリーを得意とするフリーランスライターで、コピーライターとしてアワードを獲得しています。ロンドン生まれで、チューリッヒを拠点としています。コンタクトはmarkdewolf.comまで。
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