歴史と21世紀のソフトウェアモデリングが融合する大エジプト博物館

大エジプト博物館が21世紀のモデリングソフトウェアを活用して複雑な建設上の課題を解決し、貴重な古代遺物を安全に展示するに至った経緯を紹介します。


大エジプト博物館のロビーには常設展示品のひとつである3,200年前に建造された重さ83トンのラムセス2世像が展示されている

[提供: Besix-Orascom joint venture]

大エジプト博物館のロビーには常設展示品のひとつである3,200年前に建造された重さ83トンのラムセス2世像が展示されている

Jeff Link

2026年7月21日

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  • カイロの大エジプト博物館の建設には、貴重な古代遺物を安全に展示するという複雑な課題への対処が求められた。

  • レーザースキャンと3Dモデリング技術を用いて、先史時代からギリシャ・ローマ時代に至るエジプト文明の軌跡をたどる、約10万点にのぼる同博物館の所蔵品を記録した。

  • この複雑かつ環境に配慮した建築設計を実現できたのは、BIMを活用して150社以上の協力会社と5,000名を超える現場作業員を調整・連携させることが不可欠だった。

2018年1月、エジプトのギザに大勢の人々が集まった。重さ83トン、高さ約9.2メートルのラムセス2世の花崗岩像が2台を繋げたトレーラーに載せられ、仮設の建物から新設された大エジプト博物館のそびえ立つアトリウムへと運ばれる様子を見守るためだ。この大エジプト博物館は故ホスニ・ムバラク元エジプト大統領が礎石を据えてから20年以上を経た2023年に開館する予定だ。

古代エジプトで最も権威あるファラオ (王) とみなされているラムセス2世を象った、この3,200年前に建造された像は、紀元前13世紀にアスワンの採石場で切り出された後、プタハ大神殿へと運ばれた。その後数世紀にわたって行方不明となっていたが、1820年にイタリア人エジプト学者ジョヴァンニ・バティスタ・ガヴィーリアによって再発掘された。2006年、この像はカイロのバブ・アル=ハディド広場からギザの大エジプト博物館へ移され、そこで修復・保管されたのち、2018年に同博物館の常設展示品に加えられた。

貴重な古代遺物の輸送や設置はかねてより困難な課題とされてきたが、新たなデジタル技術の登場により、そのプロセスははるかに効率的になり、リスクもある程度軽減されている。ラムセス2世像も、博物館への搬入前にレーザースキャンされ、3Dモデルが作成された。同様に、ツタンカーメン王の墓から出土した遺物の全コレクションを含む、先史時代からギリシャ・ローマ時代までのエジプト文明をたどる同館が所蔵する推定10万点に及ぶ遺物の多くについての3Dモデルも作成された。

建設を主導したのはカイロを拠点とするOrascomで、総工費10億ドル、延床面積540万平方フィートに及ぶこの博物館キャンパスは、現在世界最大の考古学博物館となっている。Orascomは、エジプト観光・考古省およびブリュッセルに拠点を置く建設グループBesixと連携して事業を進めた。Orascomはレーザースキャンデータを用いて、Autodesk ReCap Proでラムセス2世像の微細なデジタルデータ (点群) を作成した。この点群データはAutodesk Revitに取り込まれ、博物館全体を記述するより包括的なビルディングインフォメーションモデル (BIM) 内に配置できる像のメッシュオーバーレイをデジタル構築するために使用された。

大エジプト博物館に展示されるラムセス2世像。
大エジプト博物館のラムセス2世像を別角度から撮影 [提供: Besix-Orascom joint venture]

像の搬入経路を事前に数センチ単位まで詳細にシミュレーションし、特別に製作された金属製のケージに収めた像をアトリウムまで安全に搬入できることが確認された。そこでは、格子状の鉄骨梁が織りなすドラマティックな構造体と、よろい窓が付いた白いコンクリート屋根の下、光と影が織りなす空間に佇むことになる。

「これは数千年前の像であり、取り扱いに細心の注意を要します」Orascomバイスプレジデントで人事・IT部門を統括するカレド・エル=サイード氏はこう話す。「事前に3Dモデルを用意しておくことは、誘導や設置の面で非常に役立ちます。また、他の作品の展示作業を進めるうえで、この像が全体の動線や他の展示の鑑賞体験を妨げないよう配慮する必要もあります」。

ラムセス2世像は、大エジプト博物館における多くのテクノロジー活用のほんのひとつに過ぎない。21世紀の建築モデリングソフトウェアの活用は、この博物館をギザ台地に溶け込ませる––立地、方位、空間構成、材料の選定、環境への配慮、さらにはスケールや壮大さまでを含めて––うえで重要な役割を果たした。ギザ台地は、カイロから約20キロメートル、クフ王、カフラー王、メンカウラー王の古代ピラミッドからは約1.6キロメートルの距離にある。

大エジプト博物館の全景(航空写真)
博物館は視線が外壁から近くのピラミッドへと並ぶよう設計されている [提供: Besix-Orascom joint venture]

近年低迷している地域観光を活性化させ、年間500万人の来場者を迎えることを目指して、この施設には展示ギャラリー、子供向けエリア、3Dシネマを備えたカンファレンスセンター、小売店、図書館、そして10軒のレストランが設けられる。この計画の大部分は屋外スペースで、広場や展示スペース、そして数多くの公園や庭園などで構成されている。『スミソニアン』誌によると、特別展示スペースには4,600年前の木造船、いわゆる「太陽の船」が展示される予定だ。専門家はこの船について「ファラオ (クフ王) が生前所有していた艦隊の一隻であった可能性」、あるいは「ファラオの死後、復活したファラオを天空へと運ぶために設計されたもの」と指摘している。

「観光は最も大きな成長の可能性を秘めており、経済への影響も最大です」Orascom Constructionオサマ・ビシャイCEOはOxford Business Groupが制作したYouTube動画の中でこのプロジェクトについて述べている。「今こそ、エジプトがその文明にふさわしい素晴らしい施設を持つべき時だと思います」。

視覚化、空間分析、製造

大エジプト博物館の外側
28万3,170立方メートルのコンクリート製で通気性が確保されたカスケード状の屋根は館内の展示室を摂氏約23度に一定に保つのに役立っている [提供: Besix-Orascom joint venture]

建築では通常、周辺環境との調和が考慮されるが、これほど歴史的・文化的価値の高いものの場合、その重要性はさらに高まる。Autodesk RevitとBIM 360を用いてモデリングされた博物館の配置は、過去と現在を視覚的に結びつけ、博物館の外壁からギザの三大ピラミッドの頂点へと視線を導く構図となっている––まるで、共通の消失点を持つ単一の透視図から、建物が同時に生まれたかのような印象を与える。

Orascomでプロジェクト手法・管理部門のエグゼクティブディレクターを務めるシェハブ・シェヌーダ氏は、あるギャラリーについて、三大ピラミッドがまるで博物館の延長であるかのように「一つの調和のとれた風景」として一望できると説明する。「まるでピラミッドが博物館の一部であるかのように、三大ピラピッドを同時に眺めることができます」と、エル=サイード氏。これは従来の測量手法ではほぼ不可能だった技術的な偉業でもあると付け加える。

ギザのピラミッドを踏襲した巨大なスケールと面取りされた三角形の形状を持つこの博物館は、エジプト文化省とユネスコが主催した国際設計コンペにおいて1,557件の応募作品の中から選ばれたHenegan Peng Architectsによって設計された。「このユニークな建築デザインの原点となるのは、光の起点となる地点を選択したこと––それがこの博物館なのです」と、シェヌーダ氏。「博物館のある一点から三大ピラミッドに向かって、一筋の光が博物館を貫いてピラミッドまで届いているのです」。長さ最大40メートルに及ぶ魚のえらのようなスラブが並ぶ巨大な白いコンクリート屋根の建設にあたっては、フランスのメーカーLaFargeが特別に配合したコンクリートを使用するため、形鋼梁、接合部、および型枠の間に継ぎ目のない接続が必要とされた。

「3次元でこのような三角形の形状にする場合、スラブは決まった形にはならず、それぞれが異なる幾何学的形状を持つことになります」とシェヌーダ氏。「区画ごとに専用の型枠と鉄筋を製作する必要がありました。複製されたものはひとつもありません」。

チームはAutodesk Dynamoを使用して、これらの要素の微妙なイテレーションのモデリングを自動化するためのカスタムスクリプトを作成した。28万3,170立方メートルを超えるコンクリートが非対称の型枠に高温のまま流し込まれ、滝のように流れるような屋根のラインが形成された。そのラインは、大階段の両脇に並ぶ高さ30メートルの「スティレット」によってさらに印象が際立っている。通気性のあるコンクリート製の屋根と外壁は熱伝導を最小限に抑えるため、真夏の猛暑で外壁の表面温度が摂氏65度という灼熱の状態に達しても、ギャラリー内は自然に約23度に保たれるようになっている。「冷房の必要がなくなることでどれだけのエネルギーが節約できるか、想像してみてください」と、エル=サイード氏。「もちろん冷房はありますが、電力負荷やそれに伴うあらゆる影響を大幅に軽減できます……これこそ、このプロジェクトの設計における環境保護の観点から見て重要な要素なのです」。

この施設には、環境庁の全国産業排出ガス監視ネットワークに接続された大気質監視ステーションが設置されており、地域の環境保護法に基づき、汚染対策に資するデータを収集している。多くの建設資材は地元で製造・調達されており、機械設備や電気機器については、サステナビリティ要件を満たすべく省エネ性を重視して選定された。

BIMと3Dプロジェクト調整

建設中の大エジプト博物館の外観
Besix-Orascom合弁事業チームはBIMを活用し、現場で150社を超える協力会社と5,000名の作業員の調整を行った [提供: Besix-Orascom joint venture]

このプロジェクトの勝利を決定づける一撃は、全長約800メートルに及ぶキャンパス内で、150社の協力会社と5,000名の現場作業員から成るチーム全体にわたる情報の調整だったと言える。建設の中盤で共通データ環境として導入されたBIM 360は、時間のかかるスコーピングのプロセスを大幅に効率化した。エル=サイード氏によると、以前は協力会社が製作図面を出す前に、Besix-Orascom合弁事業体の内部BIMチームが協力会社のモデルを手作業でレビュー、承認する必要があった。BIM 360の使いやすいインターフェースのおかげで、20年もの歳月をかけて進められてきたプロジェクトが加速した。このプロジェクトは、2度の政治革命と新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより大幅に遅延していた。

要するに、この3D環境は物理的な状況の仮想的なレプリカ、すなわちデジタルツインとしての役割を果たしていた。クラウドベースの共有インターフェース上で完成時の状態をリアルタイムに更新して表示することで、BIM 360は多種多様なチームがファイルにアクセスし、ワークフローを調整するのに役立った。総計すると、この共有モデルには1,000件以上の変更依頼、4,000件の数量表依頼、12,000件の抽出された情報提供依頼 (RFI) 、45,000件の抽出された工作図、および33,000件の抽出された竣工図が記録された。BIMは空調・電気・給排水システム間の潜在的な干渉の特定にも使用され、MEP設備施工における手直し指示を全体の5%未満に低減し、干渉発生率も最小限に抑えることができた。

「モデリングは循環建設に役立ちます」と、シェヌーダ氏。「資材の調達業務は手作業でも可能ですが、これほどの規模のプロジェクトでは、毎日のように変更が生じるため、間違いの発生は避けられません。「データの背後にある信頼できる唯一の情報源を確立し、協力会社からの変更や意見を––願わくば時宜を得たやり方で––取り込むことで、業務を効果的に遂行することができるのです」。

Jeff Link

Jeff Link について

ジェフ・リンクはデザインとテクノロジー、環境をカバーし、アワードを受賞するジャーナリスト。その著作は「Wired」「Fast Company」「Architect and Dwell」などに掲載されています。

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