「データセンター」という言葉は、一見何の変哲もないように思えるかもしれない。郊外に設置された、地味で目立たない建物を想像することが多いだろう。だが、実はそれほど単純ではない。AIに電力を供給し、膨大なデータセットを処理し、未来のデジタルインフラを支えるデータセンターを構築、運用するには、膨大な量のインフラが必要だ。
AIの演算需要は、世界のデータセンターのありかたを大きく変えつつある。必要な処理能力の需要に対応するため、データセンター建設への投資はかつてないほど高まっている。現在、米国だけでも5,400を超えるデータセンターがあり、世界的なAI需要の高まりに対応するため、企業は2030年までに5.2兆米ドルをデータセンターに投資する必要が出てくる。
そして、必要な電力量は指数関数的に増加している。国際エネルギー機関 (IEA) の特別報告書『エネルギーとAI』によると、「世界中のデータセンターによる電力需要は2030年までに2倍以上になると予測」される。AIはこの増加の最も大きな原動力となり、AI最適化型データセンターの電力需要は2030年までに4倍以上になると予測されている。
データセンターの過熱を防ぐため、オーナーの多くは蒸発冷却システムに頼っている。これは、水を使用して蒸発により熱を除去するものだ。この手法は効果的ではあるが、膨大な量の水を消費する––その量は、1施設で年間2億ガロン、1日あたり約55万ガロンに達する。すでに水不足に見舞われている地域では、このようなレベルの消費は地域社会を圧迫する。
AIの指数関数的成長が進む中、この多大な資源の浪費を軽減することは可能なのだろうか? 一言でいえば:それは可能だ。オーナーは、自らのデータセンターの持続可能性目標と、その影響を相殺するための革新的な研究開発を優先させることができる。そして、持続可能な設計原則を適用し、さらにはAIそのものを活用して効率化を推進することで、建築、エンジニアリング、建設、運用 (AECO) のプロフェッショナルはデータセンターの設計、建設、運用方法を構想するまたとない機会を得ている。
業界がAIのカーボンフットプリントにどう対処しているかをより理解するべく、オートデスクは NVIDIA、Arcadis、ArtifexAI、Amazon Web Services (AWS) などのデータセンターエコシステムのリーダーに話を聞いた。彼らの取り組みは、データセンターを含むAIを支えるインフラや、AI応用自体の効率化にも及んでいる。
AIのカーボンフットプリントに対応するため、NVIDIAなどの企業は、シリコンからシステム、ソフトウェア、持続可能性に至るまで、データセンター全体の構造を見直している。彼らのアプローチは、環境への影響を大幅に削減しながらワットあたりのパフォーマンスを最大化するように設計された新世代のAIインフラへとつながっている。
AIモデルが複雑化しサイズが大きくなるにつれ、それらを効率的に実行するにはアーキテクチャとソフトウェアの進歩が必要になる。汎用CPUを中心に構築された従来のデータセンターでは、最新のAIワークロードにはもはや十分ではない。CPUはタスクを順次処理し、限られたスループットに大きな電力を消費する。
CPUとは異なり、GPUは何千もの処理を並列に実行するため、AIワークロードの集中的な要求に理想的だ。NVIDIAのフルスタックアプローチにはGPUクラスター間の演算バランスをインテリジェントに調整する分散推論ソフトウェアが含まれており、アイドル時間を短縮し、より低いエネルギーコストでリアルタイムのAI応答性を実現する。
CPUのみのシステムと比較して、NVIDIA GPUにより高速化されたAIインフラストラクチャは、より高速にデータを処理し、タスクあたりのエネルギー消費量を大幅に削減する。過去10年間で、NVIDIAはAIのエネルギー効率を10万倍高めることに成功し、ムダな演算を削減した。
「ネットワーク、セキュリティ、ストレージなどの演算タスクをGPUにオフロードすることでデータセンターの電力効率を最大30%向上させることができます」NVIDIAでAECO、地理空間、AIソリューション部門ディレクターを務めるショーン・ヤング氏はこう話す。
また、データセンターの建物、GPU、ラックを相互依存化することでサステナブルなゲインを得る機会もある。「密度の要因は大きく、それにより、より少ない冷却装置、より少ないエネルギーを使用するより小規模なデータセンターを構築できます」と、ヤング氏。「たとえば、NVIDIA GB200 NVL72では液冷システムを用いたパワフルな冷却装置が設計されていますが、システム冷却に出る温水は建物の暖房に使用されます。これにより、従来の空冷式アーキテクチャに比べ、AI向けのエネルギー効率は最大25倍、水効率は最大300倍向上します」。
ワットあたりの性能を最大化し、システム全体の効率を向上させることで、NVIDIAはAIの能力を進化させ、これからの演算集約型時代における持続可能なイノベーションのベンチマークを定めつつある。
データセンターの需要が加速するにつれ、大量のエネルギー、水、建材、土地も必要となる。先見の明を持つ組織の多くは、ゼロから始めるのではなく、他の目的のために構築されたインフラを再利用したり併設させたりすることで、既存のものに機会を見出そうとしている。
水の可用性はデータセンターをどこにどのように建設するかにおける重要な要素であり、冷却戦略、季節による供給変動、水質に関する意思決定に影響を与える。従来、水冷式のデータセンターは大量の水に依存し、地域のシステムに負担をかけていた。しかし、より持続可能なモデルが出現しつつある。
Arcadisで水部門のグローバルディレクターを務めるジム・クーパー氏は、同社が電力と水のイノベーションによって世界で最も持続可能なデータセンターを構築している手法を披露している。その一例が、Tomorrow Waterとの「Co-Flow」技術の活用だ。このコンセプトでは、水再生施設にデータセンターを建設、統合することで、2施設間の水と冷却能力の交換をサポートする。
Co-Flowは、老朽化した廃水処理場を、データセンターのニーズに合わせて水を再利用する高度な水リサイクルセンターに変える。たとえば、工場の水はデータセンターの冷却水として再利用できる。その後、データセンターは廃水と熱を直接Co-Flowプラントに戻すため、Co-Flowはリサイクルを続行できる。
データセンターと水再生施設のこの共生関係により、エネルギー使用量と水のムダは大幅に削減される。どちらの施設にも、最高の立地、無限の再生水、再生可能エネルギーの利用という利点がもたらされる。同時に、地域社会は、水インフラの改善や利用可能な再生水の増加、雇用や税収といった恩恵を受けることができる。
「排水処理場は、データセンターに適した場所、特に周辺に公共施設が多い都市部にあります」と、クーパー氏。「データセンター内の温水は、廃水処理プロセスを向上させることができます。優れた循環であり、難解な技術ではありません。活用の機会はたくさん存在しています。データセンター向けのリソースの使い方を少し違った形で考える必要がある、それだけなのです」。
冷却に自然の水域を利用する洋上データセンターや、新規インフラを使用せずカーボンニュートラルなエネルギーを利用するために水力発電に併設された施設など、その他の独創的なアプローチも勢いを増している。
アメリカ合衆国西部の歴史的な干ばつ状況を受け、カリフォルニア州を拠点とするNautilus Data Technologiesは、ビルディングインフォメーションモデリング (BIM) ソフトウェアによる絶え間ないイテレーションにより情報が得られるモジュール式の施設レイアウトを導入している。冷水閉ループによる水冷却の力を利用することで、水消費はなくなり、エネルギー使用量は30%削減される。このシステムは、水辺の陸上で使用することも、水面に浮かべて使用することもできる。
新規のデータセンターはそれぞれ、地元の規制当局、選出議員、地域住民が関与する複雑な承認プロセスを経なければならない。これらのステークホルダーは、環境への影響、インフラの問題、長期的な公共の利益について懸念することが多い。これらの懸念事項への有意義な関与は、単なるチェックボックスではない––責任ある開発のための基盤だ。
新興リューションのひとつは、デベロッパーと地域社会のギャップを埋める支援だ。成長中のAIスタートアップArtifexAIは、地域の政策、許認可要件、世論を整理、分析するAIツールを構築している。同社のプラットフォームは、会議録、ゾーニング規制、環境アセスメントなど、PDFに埋もれていたり政府のウェブサイトに散在していたりすることの多い自治体の公文書からAIを使用して知見を抽出する。これは、提案書を提出する前にデベロッパーが特定のコミュニティにとって何が重要かをよりよく理解するのに役立つ。
創業者のラス・ウィルコックス氏によると、このツールは「自動化されたアナリスト」として機能し、AIを使用して過去の会議記録や規制の履歴に基づくリスク評価を提供する。また、データセンター提案を地域横断的にマッピングし潜在的な累積影響を可視化することで、環境への影響、インフラの制限、地域の生活の質など、地域社会の懸念事項を優先させることもできる。
「私たちは、持続可能性という観点からグローバルな視野に新たな知見を提供しています」と、ウィルコックス氏。「データセンターには環境的に安定した条件が求められるため、どれだけのデータセンターがどの地域に提案されているのかを知る必要があります。これまではそのような知見は得られませんでしたが、AIによりそれが変わりつつあります」。
このアプローチは、見落とされがちな、あるいは統合することが困難な知見を浮き彫りにすることで、持続可能性とソーシャルライセンスが両立する、より透明性の高い、地域社会の情報に基づいた開発プロセスを支援する。
より持続可能な成果を推進するため、企業がAIを設計や製造ワークフローに直接組み込むことは一般的になりつつある。ライフサイクルアセスメントの実現から、気候への影響のシミュレーション、材料廃棄物の削減まで、AIはあらゆる業界のチームがより低炭素な代替案を特定し、より持続可能な意思決定を行えるよう支援している。
オートデスクの2025年度版デザインと創造の業界動向調査によると、AIは自然災害の緩和からプロジェクトのライフサイクル管理まで、設計施工関連企業にとってサステナビリティを実現する最重要要因としての地位を確固たるものにしている。
サイロ化したプロセスを合理化し、重要な段階で知見を提供し、全体的な効率を向上させることで、Autodesk AIを使用すれば、それが建物設計であれインフラストラクチャ管理であれ、AECO顧客は持続可能な未来の可能性を再定義できる。
Autodesk Formaは、建築家やエンジニアがAIを活用し、敷地設計のための風や騒音の迅速な解析や、建物に使用される材料のエンボディドカーボンの影響の推定に活用できる。InfoDrainageを使用すれば、エンジニアや設計者は、機械学習ベースのワークフローを使用して新しい開発現場で雨水や洪水を管理し、気候変動へのレジリエンスを支援できる。
設計プラットフォームに組み込まれているか、統合により接続されているかにかかわらず、これらのツールは、チームがトレードオフを評価し、二酸化炭素排出量を削減し、ますます厳格になるエンボディドカーボンの要件を満たすのに役立つ。
エネルギー効率の向上は持続可能性の目標を達成するためだけのものではない––性能、収益性、そして長期的な競争力にとって不可欠だ。AIのような資源集約的な分野では、効率性はビジネス上の利点となる。
こうした転換は、クラウドプロバイダーからインフラ企業に至るまで、大手企業の規模と持続可能性という課題への取り組み方を変えつつある。二酸化炭素排出量削減と気候変動目標達成へのプレッシャーが高まる中、データセンターは規制当局、投資家、大衆から厳しい監視の目を向けられている。
正確で透明性の高いカーボンデータがなければ、事業者は新生の基準に遅れをとり、事業拡大に必要なソーシャルライセンスを失う危険性がある。デベロッパーがリアルタイムの排出量管理ツール、Scope 1-3排出量評価、ライフサイクル報告書などを利用し、その影響を理解し削減しようとしているのはそのためだ。
AECOプロフェッショナルにとっては、初期段階の設計や材料選択にカーボンモデリングを組み込む機会だ。これにより、クライアントは十分な情報に基づいたトレードオフを行い、規制に遅れることなく、初日から説明責任を果たすことができる。
データセンターの持続可能性をめぐる政策環境は急速に進化している。EUのエネルギー効率指令からアメリカ国内の市や州レベルの指令まで、デベロッパーは新たな報告、効率、透明性の要件に直面している。AECOチームは、今日の法規制だけでなく、今後の法規制の期待に応える設計をすることで、こうした変化を先取りしていく必要がある。
持続可能なデータセンターの構築と運用は、複雑なシステムが問題となる。ひとつのソリューションで解決できるわけではないが、AIの環境への影響を最小限に抑えるための連携の機会はたくさんある。
情報とデータへのかつてないアクセスにより、社会はAIを用いてより良い意思決定と持続可能な成果を促進する可能性のほんの入り口に立ったに過ぎない。最適化から運用に至るまで、リーダーにとってデータセンターは世界規模のインフラと技術の革新を形成する機会をもたらす。
AECO
先端テクノロジー