新興技術により、より良い働き方が可能になり、設計製造業界はよりサステナブルな時代へと前進できると期待されている。しかし、その一方で労働力不足という根本的な問題が企業を悩ませている。人なくして進歩はあり得ない。水面下で、新世代の労働者の育成に力を注いでいる組織はいくつも存在する。これらの組織は、より多様な労働力を備え、建設、製造、ビルオートメーションなどの業界が時代の変化に対応できるよう尽力している。
1882年9月4日はビル運用のターニングポイントとなった日だ。ニューヨーク市内で初めて、ビルに電気による照明が灯ったのだ。今や、ビル運用は世界のエネルギー消費の30%を占めており、温室効果ガス排出量の27%を担っている。今後40年間で、世界には毎月2,300億㎡の建物が追加されると予想されている。
しかし、テクノロジーとモノのインターネット (IoT) の進化により、HVAC、照明、エレベーター、安全、セキュリティ、エネルギー制御などのビルシステムを統合し自動化できるようになったため、ビルは必要なものだけを使用できるようになった。スマートビルを運用すべく訓練された労働力は、効率を高め、無駄を省き、ビルの二酸化炭素排出量を削減するのに役立つ。しかし、現在の労働力の多くが引退を迎える現在、この新しい自動化時代に対応できる新世代の人材は十分に育っていない。
「私たちは、キーからキーボードへの移行とそれにを表現しています」教育者であり、ニューヨークを拠点にビルオートメーション人材の次世代の熟練労働者による充実を図る非営利団体Stacks+Joules共同設立者(パートナーは技術者ジョン・スプーナー氏)のマイク・コンウェイ氏はこう話す。「運用チームとは『人材を見つける上で苦労している新しい技能、新しいタスクは何か』について対話を続けています。機会が生じるのはまさにここです」。
Stacks+Joulesは、デジタルファーストのマインドセットと、最新のビル運用業務に着手するために必要な基礎知識を身につける14週間のカリキュラムをデザインした。受講者は、建物の最適化とサステナビリティに関して、業界で認められた認定、指導、専門家の指導を受けることができる。最初のプロジェクトでは、受講者が好きな曲に合わせてライトショーをプログラムする。その後、空調の基礎、最終的にはシステム統合までを学ぶ。「この過程ではソフトウェアを使用してシステムのシミュレーションを構築し、それを直接接続することでデジタル制御の基礎を形成します」と、コンウェイ氏。「これらのシステムをすべて連携し、スマートビルの性能を最適化するために利用できます」。
ビルオートメーションにおける多様性の拡大を支援するため、Stacks+Joulesはこの分野において見過ごされがちな人々との連携に重点を置いている。「より大きな意味での私たちの使命は、テクノロジーを公益のために活用するキャリアを築くチャンスを、より多くの人々に提供することです」と、コンウェイ氏。「私たちは、職場に基礎を置く学習 (WBL) や、将来有望な高収入の仕事への就職斡旋を通じてそれを実現しています」。
プログラム候補者を見つけるため、Stacks+Joulesは、ロウアー・イースト・サイドの住民やその他のニューヨーカーに機会と福祉を提供する非営利団体Henry Street Settlementと提携した。「彼らは125年を超える歴史を持つ素晴らしい組織で、幅広い年齢層の5万人に対してあらゆるサポートを提供しています」とコンウェイ氏は話す。
アハメド・エルナバウェイ氏が初めてStacks+Joulesのプログラムのことを知ったのもそこだ。「Henry Streetはいろいろな場面で私を助けてくれました」と、エルナバウェイ氏。「最初の仕事も彼らとでした。履歴書の書き方や面接の仕方も教えてくれました」。エルナバウェイ氏は19歳のとき、Henry StreetのコーディネーターからStacks+Joulesを紹介された。「Stacks+Joulesに入学していなかったら、おそらくどういったキャリアに進みたいのか決めかねていたと思います」と、エルナバウェイ氏。「エンジニアリングにこれほど興味を持つことはなかったでしょう」。
現在エルナバウェイ氏は、ニューヨークのビルオートメーション業界で働き、急速に昇進している。サービス技術者として採用された彼は、現在ではコミッショニング技術者に昇進。そして大学にも入学する予定だ。「目指しているキャリアがいくつかあるんです」と、エルナバウェイ氏。「最終的には、建築家、機械技師、電気技師、ソフトウェアエンジニアのいずれかになりたいです」。
Stacks+JoulesはAutodesk Foundationと提携し、学生がデジタルツインとテクノロジーをより実践的に体験できるよう支援した。「このAutodesk Foundationとのプロジェクトは、DAB Lab (Diversity and Automated Buildings Laboratory: 多様性および自動化建物研究) イニシアチブの一環です」と、コンウェイ氏。「私たちはHenry Street Settlementが所有するビルの一つに着目しました。そのビルは各システムがまったく連携しておらず、サーモスタットは全館に1台しかなく、それ以外の設備はすべてオンかオフの切り替えしかありませんでした」。Stacks+Joulesの学生は、このビルのシステムを更新し、デジタルツインを作成してライブデータの扱い方を学ぶ。
Stacks+Joulesは毎年の卒業生から、エルナバウェイ氏のような技能を有する人材をビルオートメーションの人材プールに追加していく。エルナバウェイ氏は、次世代の労働力の一員となり、今後の機会を享受している。「最高の気分です」と、エルナバウェイ氏。「とてもエキサイティングですし、もっと学びたいと思っています」。
今後数年間で、製造業界には340万を超える新たな雇用が増えると予測されているが、高度な製造技術の訓練を受けた労働者が不足しているため、そのうち200万は埋まらぬままとなるだろう。雇用の8.5%が製造業であるロードアイランド州では、約1,500社の製造業者の多くが中小企業であり、新しい労働者を訓練する十分なリソースを持っていない。
「問題は、40年以上も同じ業務に従事している人が多かったということです」Jane Addams Resource Corporation (JARC) Rhode Islandの現地ディレクター、アロリ・フェルナンデス氏はこう話す。同団体はまさにこの問題を解決するべく設立された。「彼らが引退してしまえば、そのポジションを引き継ぐ者はいません。後継者を育てる計画がなかったのです」。原型となったシカゴのJARCプログラムと同様に、ロードアイランド支部も地元製造業のために、多様な人材パイプラインの構築に尽力している。
「JARCの使命は単に人々にキャリアを提供することだけではありません」と、フェルナンデス氏。「私たちはまた、多様かつインクルーシブな組織でもあるのです」。JARCの取り組みは、通常はこうした機会にアクセスできない人々のために、新たなチャンスを提供することに重点を置いている。「人々は、キャリアを得るために従来型とは違う学習方法や、迅速な職業訓練プログラムを求めています」と、フェルナンデス氏。「私たちが『サービスが行き届いていないコミュニティ』と言う場合、それは人種やジェンダーに基づく制度的な抑圧を経験してきたグループ、つまり有色人種、BIPOCコミュニティ、そして女性のことを指しています。登録者には、キャリアチェンジを考えている40代のシングルマザーや、高校を卒業したばかりの18歳で、将来何をしたいのかわからないが、手先が器用なのでJARCに応募した、という人もいます」。
JARCロードアイランド支部では、製造基礎コースと20週間のCNCコースを無料で提供している。同団体は、すべての学生にプログラムへの参加機会が平等にもたらされるよう、保育料、家賃、光熱費、交通費などの資金援助も行っている。受講生は金属加工技能研究所 (NIMS) 認定資格を取得して卒業し、ロードアイランド州の製造業拡大を目的とする非営利プログラムPolaris MEPとJARCのパートナーシップにより高収入の仕事を紹介される。
そして、JARCはその全段階においてサポートを提供する。「JARCが他と異なるのは、職業訓練を提供するだけでなく、財政手段や予算管理、面接に自信を持って臨むことなど、そういったことに触れたことのない人々に生活面でのスキルも教えることができることです」と、フェルナンデス氏。「雇用を維持するために必要なスキルとともに、人生を支えるスキルを提供しているのです」。
「私たちもまだ学びの途中ですし、製造業の現場において、女性、有色人種女性、有色人種の数という点ではギャップがあります」と、フェルナンデス氏。「『女性は数学が苦手で科学が嫌いだ』などという誤った通説をどうしたら払拭できるのでしょうか? また、なぜそういった語り口がいまだにまかり通るのでしょうか? ですが、影響はすでに現れ始めています。本プログラムでは11名の研修生のうち5名が女性ですが、彼女たちは大活躍しています」。
クラウディアもその一人だ。「JARCでのこの機会は私にとって極めて重要です」と彼女は話す。クラウディアがJARCに入学したのは、自分の進路を模索していたときだった。「基本的に、設計図を見てプログラムを書き、まずワックスでマシンを操作します」と、クラウディア。「つまり、自分でプログラムを書いた後に実際にマシンを操作し、プログラムを走らせて動作を確認する経験ができます」。ただし、JARCが提供するのは機器のノウハウだけではない。例えば「ソフトスキルフライデー」では、就職準備、個人財務、金銭管理、パブリックスピーキングなど、社会人として必要なスキル獲得にも力を入れている。
製造業が進化し続けるにつれて、JARCのカリキュラムも進化していく。現在、トレーナー陣は、業界で進行中のデジタルトランスフォーメーションに対応するため、Autodesk Fusionの習得に励んでいる。「アディティブマニュファクチャリングとロボット工学をカリキュラムに導入したいと考えています」と、フェルナンデス氏。「私は、卒業生がキャリアを積み、製造業で出世し、いつの日かスーパーバイザーになる姿を見てみたいのです。しかし同時に、製造業の世界をより多様でインクルーシブなものにする手助けをしたいとも考えています」。
その中には、JARCロードアイランドの最初の卒業生であるクラウディアのような人々も含まれている。彼女はNIMS資格を取得し、自動化、ロボット工学、そしてチームの継続訓練に力を入れている企業Lavigne Manufacturingに就職した。「成長し常に学び続けることのできるキャリアに足を踏み出すことに胸を高鳴らせています」とクラウディアは話す。
シカゴでは、建設業の雇用が2026年までに7%増加すると予想されている。しかし、労働需要と供給の間には57%ものギャップがある。また、これほど多様性に富んだ都市であるにもかかわらず、建設労働者は依然として白人男性が中心だ。シカゴの労働年齢人口の17%が黒人だが、黒人労働者は業務従事者の8%にすぎない。また、建設業におけるラテン系労働者の割合は増加傾向にあるものの、彼らのほとんどはキャリアアップの望めない低賃金の職種だ。だが、この物語を新たな方向へと導こうと尽力している組織がある。
Revolution Workshopはシカゴを拠点とする非営利団体で、未来の労働力を支援するため、建設業の職業訓練、キャリアリソース、ライフスキルの提供を行っている。「私たちの使命は、十分な支援サービスを受けられていないコミュニティ––黒人、ラテン系などの有色人種、そして女性––から人材を集め、建設分野に従事させることです」Revolution Workshop創設者兼エグゼクティブディレクターのマニー・ロドリゲス氏はこう話す。「私自身、彼らのような同胞たちとよく似た経験をしながら育ちました。そして周囲の人たちは私のことを気にかけてくれました。大学に通いながら、ときどき建設現場で働き、学位を取ったとき、人々の役に立つことをしたいと心から思うようになったのです」。
ロドリゲス氏は、他の人々に力を与えるための場所を作りたいと思うようになった。「全米やここシカゴでも、十分なサービスを受けられていないコミュニティを苦しめている社会問題―貧困という根本的な原因から派生する暴力やあらゆる症状ーがあることはわかっています」と、ロドリゲス氏。「資本主義社会でこの状況を打破する唯一の方法は、真の経済的流動性と機会を提供することだと思います。そしてそれを実現できるのが建設業なのです。これらは家族を支える収入を得られるキャリアパスなのです」。
Revolution Workshopは2018年10月、従業員4名と研修生10名でスタートした。現在では、シカゴ市内の2施設で年間200名にサービスを提供するまでに成長した。この非営利団体は2つのコースを提供している。ひとつは大工、電気技師、作業員といった職種に就き現場で働くための実践的なスキルを身につける12週間の実習前プログラム。もうひとつはプロジェクト管理と建設業の雑務に焦点を当てた14週間のコースである建設プロフェッショナルパスプログラムだ。
実習前プログラムでは、学生たちは工具から数学、建設技術まであらゆることを学ぶ。「まず下地床を作ります」と、ロドリゲス氏。「その後、その床に壁を立てて屋根を取り付け、外装板で覆うのです。さらには電気工事、配管工事も行います」。コースの最後には、3週間の実地実務体験が待っている。「学生に地域のプロジェクトに参加してもらいます。この工房で作成しなければならないものがあれば、それも作ります。この活動中には、15ドルの時間給が支払われます」。
建設プロフェッショナルパスプログラムは、Revolution Workshopが地元の電力会社ComEdと試験的に実施したPower Up Academyから発展したものだ。このプロフェッショナルパスプログラムでは、学生は建設技術に飛び込む。「Autodesk AutoCADの基礎や、プロジェクト管理の基本を学んでもらい、エンジニアリング会社、ゼネコン、デベロッパー、建築事務所などに新人として配置します。そして企業と連携し、社内トレーニングのコースも構築しています。いわばオフィス版のアプレンティスシップであり、実際の職場で報酬を得ながら学ぶことができます」。
Revolution Workshopは労働力の開発組織であると同時にコミュニティでもある。この組織はブロックパーティーを主催し、在校生や卒業生を対象に起業や住宅購入などの教育セミナーを開催している。プログラムの核となるのは、金融リテラシー、実行機能、就業能力など、成功に必要なライフスキルを教えることだ。受講生たちは、コミュニケーションスキルから予算作成、履歴書の書き方まで自立のための基礎となるあらゆることを学ぶ。
「私の同胞の多くは、トラディショナルな出世や成功といったポジティブなロールモデルを持ったことがないのかもしれません」ロドリゲス氏は、学生たちにこの分野の現実について言及する。「建設業界には特有の文化があり、それを彼らに覚悟させなければなりません。人種差別や性差別を行う企業で働くことを支持したり、そのような企業に人材を斡旋したりする訳ではありませんが、彼らがキャリアを積んでいく中で、現場で何らかの人種差別や性差別を経験することがないかと言えば、必ずあると言わざるを得ません」。
コースの最後に、学生たちは雇用主 (その一部にはRevolution Workshopの卒業生も含まれる) と面談し、仕事を探す。就労コーチは、彼らが労働者の一員として社会へ飛び出すのを手助けする。「組合に入るか入らないか、配管工になるのか、電気技師になるのか大工になるのか、全てはあなた次第です」と、ロドリゲス氏。「あらゆる情報を提供します。バイアスに満ちた意見を言う人の話に耳を傾け、そこから自分に必要なことを引き出し、ベストな決断を下す方法を教えます。これらは全て、学生に主体性を与え、主体性を持つためのツールを提供することなのです」。
Revolution Workshopの卒業生デイジー・ベニテス氏は建設業でキャリアをスタートさせて3年になるが、同組織の支援と指導に感謝している。「若い頃は建築家になりたいと思っていました」と、ベニテス氏。「手を使う仕事に興味がありました。Revolution Workshopを紹介されて、文字通り人生が変わりました」。
同組織がベニテス氏と雇用主を結びつけ、それを通じて彼女は病院、学校、カジノの建設に関わり、現在はオバマ大統領図書館の建設に携わっている。ベニテス氏は最近、初めて家を購入した。また彼女は、自分が建設労働者の型を破る一助となっていることを自覚してもいる。
「最近は建設現場で働く女性を目にするようになりましたが、私が仕事を始めたばかりのころは、チームにいる女性は私だけで、怖気付きそうでした」と、ベニテス氏。「彼らができることが私にはできないと思いますか? 私はこの業界に飛び込む女性たちを非常に誇りに思っています。年配の女性が活躍する現場を見かけたこともあります。彼女たちはクルーを率いる存在でした。私も、願わくばいつかクルーを率いる立場になりたいです。Revolution Workshopが大好きです。人々を助け、人生を変えるために存在しているからです」。
Revolution Workshopは、シカゴにおける、より多様かつ高い技術を持つ労働力をの育成に取り組み、さらには労働力の公平性をめぐる政策の改革にも力を注いでいる。適切な訓練と技術によって、この組織は、これまで、特に建設業におけるキャリアから排除されてきた人々のために、成功する建設業キャリアのあり方を再定義している。だがそれ以上に、彼らは人々の社会的地位向上に役立っているのだ。
建設、製造、建築がデジタルを駆使した未来へとシフトしていくにつれ、業界が力を握るには新たな労働力が必要となる。Stacks+Joules、JARC-RI、Revolution Workshopは、生涯学習センターを設立して未来の労働者にスキル、機会、サポートを提供することで、労働者と労働者が従事する業界に利益をもたらそうとしているのだ。
ジェン・シラルドはメディアプロデューサー兼ライターで、雑誌や映画、企業、博物館のコンテンツを作成。カリフォルニアの耐火住宅から職場の文化を向上させるテクノロジーまで、我々の生活にインパクトを与えるトピックを取り上げています。
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