大量離職時代に対するデザインと創造の業界の労働力不足解消の戦略
- 新型コロナウイルスの流行以前、デザインと創造の業界はテクノロジーの変化とスキル不足に苦しんでいた。
- パンデミックは多くの労働者の離職を招き、それは雇用維持と生産性に影響を与えた。
- 企業は人手不足を解消するため、キャリア開発、給与改善、雇用向上に注力している。
企業は近年さまざまな課題に直面している。そのひとつが大量離職 (大離職: Big Quitとも呼ばれる) がもたらした労働力不足だ。新型コロナウイルスによるパンデミックの最初の2年間で、何百万人もの従業員が自主退職している。
大量離職の影響を完全に把握するには、パンデミック以前の、デザインと創造の業界の状況を理解することが不可欠だ。 建築・エンジニアリング・建設・運用 (AECO) 、設計・製造 (D&M)、メディア&エンターテインメント (M&E) などで分野で構成されるこの業界は、その段階で、既に急速な技術進歩や進化する顧客の要望、競争の激しいグローバル市場などに代表される複雑な状況を何とか切り抜けている状態にあった。企業はコスト管理と品質維持の一方で、業務の革新と合理化を迫られていた。従業員の定着は継続的な課題であり、スキル不足と競争の激化の中、企業は優秀な人材の獲得と維持に必死だったのだ。
パンデミックの発生は、こうした既存の課題を悪化させ、新たな課題をもたらした。世界的な健康危機はサプライチェーンを寸断し、プロジェクトを中断させ、リモートワークへの急激なシフトが余儀なくされた。この大変動が大量離職のお膳立てとなり、さまざまな要因が重なって、かつてないほど従業員の離職が相次ぐことになる。
企業各社は大量離職の余波に現在も対応中
労働統計局 (BLS) によると、米国労働者の離職者は2021年に4,770万人、2022年には5,060万人だった。定年退職者と転勤者は、この数に含まれない。 同様に、国全体の「離職率」 (雇用者に占めるその年の離職者の割合) は、2021年は2.7%、2022年は2.8%だ。2019年の離職率は2.3%、2015年は2.0%だった。
BLSのデータによると、大量離職時代に最も退職率が高かったのは小売業と飲食サービス業だが、建設業 (2.4%)、製造業 (2.3%) や、その他の業界も影響を受けている。
パンデミック中に多くの人々が自主的に仕事を辞めたことには、さまざまな理由が挙げられている。2022年のピュー・リサーチ・センターの調査によると、調査対象者が上位に挙げたのは、低賃金、昇進の機会がないこと、そして職場で軽視されていると感じることだった。
米国における離職率は2023年半ばまでにパンデミック以前のレベルまで下がり、今年はさらに低下している。だが、大量離職の余波がまだ続いているセクターもある。Engineering Management Institute (EMI) の2023年版レポートによると、建築家とエンジニアの55%が、大量離職が現在も業界に影響を及ぼしていると回答している。
さらにEMIのレポートによると、新たな機会のため現在の仕事から離職を検討すると55%が回答している。離職を考える理由には、キャリアアップの追求 (53%) 、高報酬が欲しい (40%)、ストレスが多い (32%) 、仕事で評価されていないと感じる (31%) が上位に挙げられている。
業界の最重要課題は従業員数の漸減
一部の企業では従業員の定着を促進するためにより多くの成長機会、見習い制度、研修プログラムを提供している
EMIの調査結果は、オートデスクの2024年度版『デザインと創造の業界動向調査』の調査結果と一致している。この調査は、世界各国のAECO、D&M、M&Eの各業界リーダーや未来学者、専門家約5,400名を対象に実施した調査とインタビューに基づくものだ。
報告によると、過去3年間における従業員減少の悪化が自業界での最重要課題であると、回答者の38%が述べている。人員減が依然として影響を及ぼしている一方、自社がこの課題に対処していないとする回答者は17%にも達した。
だが多くの企業が、従業員が他職に移ってしまわないような取り組みは行っている。主要な取り組みのひとつに、従業員へのキャリア開発と成長の機会の提供があり、『デザインと創造の業界動向調査』の回答者の18%が、ここに注力していると回答している。企業は現従業員に技術スキルの向上を促し、社内で昇進させることが可能だ。
ALEC Contracting & Engineeringで戦略プロジェクト/開発部門を統括するセヴリン・テニム氏は、このアプローチにおける課題に、どの種類のトレーニングに重点を置くかの判断があると話す。「何を学ぶべきかを指示するのではなく、何を学びたいかを尋ねる場合が多くなっています」と、テニム氏。「複数のプロジェクトで起きている特定の事柄に対処が必要な場合は、(トレーニングを) 特定の問題にフォーカスすることもあります」。
また、回答者の14%が報告している解決策として、健康保険やフレックスタイム制、研修や能力開発の機会など、魅力的な給与や福利厚生の提供による従業員の定着維持がある。一部の企業は、従業員の優れた業績に対する表彰に力を入れてもいる。
さらに回答者の9%が、従業員をより長く定着させるため、採用の微調整に注力していると回答している。これには、教育水準の高い従業員を雇用し、国内と国外の両方に採用を拡大することが含まれる。
たとえば、インドのメディア制作会社88 Picturesは、遠隔地に住む人々を対象とした研修所を立ち上げた。設立者兼CEOのミリンド・D・シノデ氏は、「インフラの整っていないインドの僻地に住む学生を集めていますが、彼らは好奇心旺盛で生来のスキルを持っています」とオートデスクに語った。「彼らをムンバイやバンガロールのような都市へ移動させ、弊社のシステムへと組み込むのです」。
定着率を高める企業文化とサステナビリティ
従業員を支援し、評価する企業文化を確立することで、人員の漸減に対処している企業もある。SteelcaseでESGおよびソーシャルイノベーション部門のグローバルVPを務めるキム・ダブス氏は「ワークエクスペリエンスは、ポリシーやツールなどだけでなく、文化や空間によっても形成されます」と話す。「私たちは、常に人間側の革新にも目を向けています」。
近年、企業文化で重要な要素になっているのが気候変動への対応だ。これは多くの若い労働者の関心事となっている。『デザインと創造の業界動向調査」回答者の72%が、サステナビリティへの取り組みが従業員への訴求と定着に役立つと答えており、この分野への対策が離職の抑制になる可能性がある。
回答者は、ウェルネスやメンタルヘルスプログラムによる従業員のサポートや、定期的な勤務評価の実施など、人事にも従業員の定着を支援する役割があると答えている。しかし、コンサルティング/エンジニアリング会社Royal HaskoningDHVビジネストランスフォーメーション部門ディレクターのリゼット・ホイヤー氏は、これらの取り組みをもってしても「若い世代は相対的に離職率が非常に高い」という事実は変えられないかもしれないと話す。
つまり企業にとっては、この新しいトレンドを受け入れ、適応することが不可欠だ。ホイヤー氏はオートデスクへ「誰かが辞めても、それほど大きな混乱無しに業務を続けられるよう、より迅速な新人研修と、より良好なナレッジマネジメントシステムが必要です」と語っている。