Norconsultの新ソトラ橋はインフラへの完全なデジタルアプローチを体現

Autodesk Design & Make Awardの受賞ケースであるノルウェーのソトラ橋建設において、どのようにデジタルプロセスを活用し、AECO企業がデータ知見、クラウドテクノロジー、革新的な設計を用いて課題を克服したのかを紹介します。


ノルウェーのフィヨルドに雄大に架かる新ソトラ橋はデジタルインフラの未来への飛躍と呼応する

提供: Norconsult

ノルウェーのフィヨルドに雄大に架かる新ソトラ橋はデジタルインフラの未来への飛躍と呼応する

Mark De Wolf

2025年6月25日

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  • ノルウェーには、世界初のフルデジタルで完成させた吊り橋が架かっている。橋長900mのこの橋は、ソトラ島とベルゲンを結ぶ。

  • 新ソトラ橋は、3大陸にわたる専門家陣が参加し、わずか2年で設計された。

  • このグローバルチームはAutodesk Revit、Civil 3D、Inventor、Navisworks、Autodesk Platform Services、Autodesk Construction Cloudなどのデジタルソリューションを活用し、エンジニアリングにおけるこの偉業を達成した。

建築、エンジニアリング、建設、運用 (AECO) 業界の企業各社は近年、気候変動、パンデミック、地政学的不安、景気の浮き沈みによって試練にさらされてきた。しかし、優れた企業はその試練を見事に乗り越えている。テクノロジーがいくつかの解決策を提供し、専門知識とクリエイティビティがそれを補完した。64%を超える企業が「デジタル成熟度が高い」と自認するこの業界において、クラウドプラットフォームと革新性、そして適応性を組み合わせることにより、AECOは困難を突破し、その過程において特筆すべき成功を積み重ねてきた。

AEC業界のデータ主導型アプローチが最大限に活用されたプロジェクトのひとつが、ノルウェーの新ソトラ橋だ。この吊り橋は、2024年度のAutodesk Design & Make Awardで「Most Innovative Use of Autodesk Platform Services (オートデスクプラットフォームサービスイノベーティブ使用例賞) 」を受賞した。現在建設中のこの橋の設計、エンジニアリング、プロジェクト管理は、ノルウェーの建築/エンジニアリング会社Norconsultにより、従来の図面に頼ることなく、すべてデジタル領域で行われた。デザインと創造(Design and Make)のクラウドプラットフォームを使用することで、3Dモデリング、レポート生成、コスト管理、設備管理のための膨大な量のデータを取得し紐付けすることが可能になった。また、APIを活用することでカスタムのエンドツーエンドワークフローを作成し、デジタル設計を分析、最適化も実現した。

物理上のスパンをデジタルで設計

現場に重ねてレンダリング:新ソトラ橋のデジタル設計は物理的なインフラ整備におけるバーチャルモデリングの精度を浮き彫りにしている
現場に重ねてレンダリング:新ソトラ橋のデジタル設計は物理的なインフラ整備におけるバーチャルモデリングの精度を浮き彫りにしている 提供: Norconsult

新ソトラ橋はノルウェー国道555号線ソトラサンバンド (Sotrasambandet) プロジェクトの主要要素だ。このプロジェクトは予算198億ノルウェークローネ (約18億米ドル) にのぼる官民パートナーシップ構想で、現在、契約額でヨーロッパ最大規模のインフラプロジェクトとなっている。

2027年夏に4車線が開通すると、全長900mのこの吊り橋は、ソトラ島と大西洋に浮かぶノルウェーの他の島々とを隔てるフィヨルドの上に屹立することとなる。海抜145mの高さを誇る主塔を有するこの橋は、ソトラ島とベルゲン近郊を9.4kmの高速道路でつなぐ。

このプロジェクトはSotra Linkコンソーシアムによって進められ、設計をNorconsultが、建設をWebuild、FCC Construcción、SK Ecoplantがそれぞれパートナーとして担当した。

デジタルプロセスが引き渡しのリスクを軽減し、顧客に進捗状況の可視性を大幅に高めることができると証明することが、プロジェクトへの賛同を得るカギとなった。「クライアントは、ベストプラクティスに基づいて建設され、可能な限りベストな状態である橋を引き渡してほしいと考えます」Norconsultで橋梁プロジェクトグループマネージャーを務めるヴェガルド・ガヴェル=ソルバーグ氏はこう話す。「デジタルモデルは、各施工会社が作業内容を正しく理解し全体像の把握を向上させるため、施工中のミスを減らすのに大きく役立ちます」。

国の支援による多額の予算と、環境に配慮した建設で高い評価を得ているノルウェーの評価を背景に、この橋の設計と建設が優れたものになることに疑いはなかった。しかし、立地に関連する複雑な問題がいくつもあったため、このプロジェクトは決して容易なものではなかった。「ノルウェーの課題のひとつは、雪国であることです」と、ガヴェル=ソルバーグ氏。「天候の変化が激しく、雨が多くて雪も深い。そして地形も複雑です。これらの条件は、ノルウェーでの橋の設計にさまざまな影響を及ぼします。橋の耐用年数全体に対して、経済性を最適化するためには、それらを考慮する必要があります」。

データによりコストを管理

Autodesk Navisworksで作成されたモデルは新ソトラ橋のスパンの断面図を示している
Autodesk Navisworksで作成されたモデルは新ソトラ橋のスパンの断面図を示している 提供: Norconsult

Norconsultは、複雑なプロジェクトを予算内かつ納期通りに完了させるため、コミュニケーション、プロジェクト管理、コスト管理ツールが統合されたAutodesk Construction Cloud (ACC) を活用した。

コンソーシアム内のパートナーとシームレスに仕事を進めるには、ほぼ100%ペーパーレスにする必要があった。Norconsultによれば、新ソトラ橋では、手書き図面への依存度を過去の同様の橋梁プロジェクトと比較して99.5%削減できた。「橋の構造は実に幾何学的に複雑です」ガヴェル=ソルバーグ氏はこう話す。「そのため、物理的な図面の簡略化された断面だけではすべてを把握するのは困難です。橋の設計、建設、維持管理には多くの人々が関わりますが、3Dモデルを使用すれば、関係者全員が全体像を把握することができます。小さな部品のそれぞれが、プロジェクトの他の部品にどのような影響を与えているのか? これこそ3Dモデルが得意とするところです」。

Autodesk Platform Services APIは、Norconsultがこの複雑なデジタル設計を実現するためのワークフローの合理化と接続に役立った。データ管理、モデル変換、ビューワー、ACC、設計自動化などの各種APIは、データ品質を危険にさらすことなく、膨大な量のモデルとファイルを組み合わせ、プロジェクト特有のワークフロー要件を解決する柔軟性をチームにもたらした。

「データを検証し、それが事実に基づいて正確であることを確認し、正しいデータ型であることをチェックし、正しくフォーマットするのに、APIを使用しました。APIによりデータの検索と交換が大幅に簡素化され、構造化されたデータを用いて作業ができるようになりました」Norconsultビルディングインフォメーションマネジメント (BIM) マネージャー、トーマス・オストグレン氏はこう話す。

時間短縮、作業軽減、複雑性縮減は目を見張るものだった。チームは、前回のプロジェクトでは4,000枚もあった図面を、今回の新ソトラ橋ではわずか15枚にまで削減することができた。また、100万を超える個々のオブジェクトから成る211のモデルから6,000万のデータ点を取得し、保存した。一方、自動化により、プロジェクトにおける反復タスクの数は大幅に減少し、問題追跡、RFI、提出書類に関するプロセスは非常にシンプルになった。

最初から持続可能性を組み込む

持続可能なエンジニアリングの象徴である新ソトラ橋はノルウェーの環境に配慮した建設施工への熱意を体現している
持続可能なエンジニアリングの象徴である新ソトラ橋はノルウェーの環境に配慮した建設施工への熱意を体現している 提供: Norconsult

Norconsultチームによるデジタルアプローチは、クライアントの持続可能性の目標達成にも貢献した。ノルウェーの公共事業は環境への配慮がデフォルトだ。設計から施工、施設管理まで完全にサステナブルでない入札案では、全体のコストを3分の1程度に下げなければ落札の望みはないというのが暗黙の了解となっている。

とすれば、最初からグリーン目標達成を目指さない手はない。新ソトラ橋の例では、Autodesk Revitのようなデジタル設計ツールは、Norconsultの建築家とエンジニアが設計と材料においてより良い選択を行い、橋の性能をモデル化することで二酸化炭素の排出を抑えつつ異常気象に耐えられるものにするのに役立った。

NorconsultのBIMアドバイザーであるテリエ・フェリエビー氏は、これには注意が必要だと説明する。「一部のインフラプロジェクトの長いリードタイムを考慮すると、プロジェクトの計画を始めてから建設が可能になるまでの期間は、ことを複雑にする要因となります。現在行っているプロジェクトの中には、パリ協定が成立するずっと以前に承認されたものもあります。当時は気候変動がデザインに影響するという認識がなかったため、今になってその決定を適応させなければなりません。この課題にデジタルツールは役立ちます。データを読み込み、プロジェクトの初期段階に戻って検討し直すことができるのです。この方法でこの道路を建設することは可能か? 規模の縮小、減速、見通しの再考は必要か? それが次のステップなのです」。

運用と保守の目標の柔軟な変更には、引き渡し後の段階も含まれる。新ソトラ橋の管理者は、橋に内蔵されたセンサーを用いてデジタルツインを運用し、交通量、構造にかかる応力、振動、天候、エネルギー消費、そして地域の生態系に関連する問題をリアルタイムで評価できるようになる。

公共事業には特有の課題や制約がつきものだ。しかし、APIやクラウドプラットフォームを利用したデジタルデリバリーにより、インフラの設計と施工はより柔軟で迅速になる。また、データのハーモナイズや品質管理を簡素化することもできる。

「6,000万ものデータポイントに対して人間が適切なQA (品質保証) とQC (品質管理) を行うことは不可能です」と、トーマス・オストグレン氏は話す。「それは破綻します––間違いなく。だからこそ、自動化されたソリューションが決定的なカギとなっているのです」。

Mark De Wolf

Mark De Wolf について

マーク・ドゥ・ウルフはテクノロジーのストーリーを得意とするフリーランスライターで、コピーライターとしてアワードを獲得しています。ロンドン生まれで、チューリッヒを拠点としています。コンタクトはmarkdewolf.comまで。

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