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石炭灰をリサイクルしたタイルでサステナビリティと耐久性を実現

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Vecorはフライアッシュをフロアタイルに変貌させる。このタイルは環境に優しいだけでなく、従来のセラミックタイルより耐久性も優れている [提供: Vecor]

石炭を使用する発電所が生み出すのは、電力だけではない。フライアッシュと呼ばれる膨大な量の灰が環境を汚染する。これは、石炭を燃焼することで生じる粉末状の副産物だ。

このフライアッシュは石炭の燃焼で生じる廃棄物の半分以上を占め、その 99% は発電所の排気筒で集じんされる。こうして集められたフライアッシュを、埋め立てゴミとして捨てるのでなく、リサイクルすることが注目されている。このリサイクルのプロセスで、フライアッシュは安心して使用できるものになるだけでなく、コンクリートや壁板などの製品材料に転用され、いわゆるバージン原料より強度の優れた材料を生み出すことができる。香港の環境保全技術開発企業 Vecor は、ドイツのエキスパートと連携して、このフライアッシュを美しくサステナブルなセラミックタイルへのリサイクルに取り組んでいる。ドイツでは 1950 年以降、フライアッシュが 100% リサイクルされている。

2007 年にハンガリーから中国へ移った Vecor 設立者兼代表取締役のアレックス・コスゾー氏は、そこで目にした極度の環境汚染に恐怖を覚えたという。当時、中国は大規模な建築ブームのまっただ中で、建設業界は膨大な量のゴミを生み出していた。「地球の資源不足からしても、全くつじつまの合わないことでした」と、コスゾー氏。

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Vecor 設立者のアレックス・コスゾー氏は生産プロセスをいちから再検討することでセラミック業界を一変させた。Vecor はオーストラリア、中国、インド、イタリア、フィリピンで事業を行っている [提供: Vecor]

火力発電所から出るフライアッシュは、多くの国でその約半分が埋め立てゴミとなり、ヒ素や水銀、リチウムといった有害物質の地下水への浸透を招いている。「ドイツなど、フライアッシュをリサイクルしてセメントを製造している国もありますが、米国や中国、オーストラリア、ロシア、南アフリカなどは現在も後れを取っています」と、コスゾー氏は話す。

この状況を変えたいと考えたコスゾー氏は、シドニーのニューサウスウェールズ大学と連携を始める。フライアッシュ タイルの製造特許を購入して Vecor を設立。同社はムダを最小限に抑え、資源を効率的に使用するサーキュラー エコノミーの原則に従って運営されている。リニアな石炭エコノミーからフライアッシュを取り除き、それを貴重な天然資源である原材料の代わりに使うというアイデアだ。

独アーヘン工科大学との材料研究で、Vecor はフライアッシュが砂や骨材の製造に、またペンキやプラスチックの充填剤としても使用できることを発見した。これはタイル製造にも有効に応用できる。フライアッシュ タイルは現在、中国山東省シ博市にある Vecor 初の工場で製造されている。この山東省には 40 を超える石炭発電所がある。

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フライアッシュでタイルを作る前に、その石炭灰の有害な要素は全て除去される [提供: Vecor/3D Chemoprag]

Autodesk Foundation はこのベンチャーを支援し、ショーケースとなるシ博工場の設計・施工に必要なソフトウェア ソリューションを提供。工場の 3D モデリングに Plant 3DInventorNavisworksRevitAutoCAD が、またエンジニアによる工場のアニメーション作成に 3ds Max が使用された。

Vecor チーフ エンジニアのデイヴ・スミス氏は「こうしたソリューションで、新工場のプランニングと建設の全ての領域がカバーされています」と話す。工場のデジタルツイン開発における重要な要素として、氏は Forge プラットフォームを挙げた。干渉チェックが完了して全ての配管が正しい場所へ配置された後、建設が開始された。この工場は 2019 年 3 月に稼働を開始しているが、さらなる工場の追加も計画されている。

Vecor のプロセスはシンプルかつスマートだ。フライアッシュを処理する前に、鉄と炭が取り除かれる。「必要なのはケイ酸アルミニウムです」と、コスゾー氏。このケイ酸アルミニウムは粘土にも含まれるため、フライアッシュは陶器製造に最適な代替材料となる。一部の国では既に埋蔵粘土が採掘され尽くし、枯渇している。Vecor がタイル製造に使用する材料の 70% はリサイクルされたものだ。フライアッシュがその 55% を、残りをリサイクル石材が占める。

さまざまな原材料から均質なものを作るため、従来の製造手法では大量の水が使用されてきた。その後に熱せられ、再度水を「煮沸除去」するが、材料の準備には通常 40 時間ほどかかる。リサイクルに加えて、ここでも Vecor は製造における環境保護の機会を見出した。「セラミック タイルの製造過程を一変させたのです」と、コスゾー氏は話す。

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フライアッシュに含まれる有害物質は全て、タイルの製造前に除去される [提供: Vecor/3D Chemoprag]

Vecor は時間と水を節約するべく、水分をほとんど必要としないプロセスを開発した。この実現のため、特殊な研削機構を提供するドイツの機械製造会社と連携。材料の準備に必要な時間はわずか 5 分となり、Vecor は水 85% と材料 70%、エネルギー 15%の節約を実現した。このセラミック タイルは磁器のような特殊な釉薬を使用したマイクロファイバーから作られ、一般的なセラミック タイルよりも強度と耐久性に優れている。

Vecor は先日、2019 年度ドイツ アイコニック アワードのイノベーティブ材料分野で「Best of the Best」賞を受賞。審査員は Vecor が「石炭灰を 50% 使用し、製造に必要な水とエネルギーの少ない、極めてサステナブルなタイル ソリューション」を生み出したと、コメントしている。2019 年だけでも中国と米国で 4 つのサステナビリティ関連アワードに輝いた Vecor は、サーキュラー エコノミーがもたらす成功とサステナビリティの可能性を示している。

著者プロフィール

フレデリカ・フォークトはオートデスクのコンテンツマネージャーでRedshiftのEMEA担当者。メディア管理と芸術史を研究し、ジャーナリズムの奨学金を受けて「German Press Agency (dpa)」「Cicero Magazine」などの新聞や雑誌の仕事をしていました。

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