Fusion が実現するスタートアップならではの迅速な開発&コラボレーション
居住人口や近隣の中小店舗の減少、公共交通の衰退などにより、日本の地方都市では支出の多い移動手段である自動車への依存度が高くならざるを得ません。KG モーターズはこの構造的な問題に、スタートアップ企業ならではの柔軟なアイデアとスピード感による取り組みを進めています。

ミニマムなMaasを実現するチョイ乗りに最適な超小型EV
2022 年に設立された KG モーターズは、一人乗り小型 EV が完全自動運転のロボタクシーとして街中を走る 2030 年の未来を思い描いています。そのミニマムな Maas を実現する超小型 EV として開発を進めているのが、mibot と名付けた小型モビリティロボットです。
国土交通省のデータでは、地域交通における自動車での移動距離は 10 km 以内が約 7 割を占め、平日には一人での移動が 8 割近いことが示されています。mibot は、こうした日常の「チョイ乗り」に特化した超小型の乗り物として考えられています。
そこから導き出された仕様が、原付ミニカーに区分される乗車定員1名、航続距離 100 km、最高時速 60 kmの、普通自動車免許で運転できる超小型 EV。100 V の家庭用コンセントで充電できるため、専用の充電設備は不要。税込 110 万円という低価格で車検や車庫証明も不要のため、導入や維持の費用も抑えられます。
mibot 開発部で車体開発チームのマネージャーを務める久保昌之氏は、「社長の楠の出身地である広島県の呉市が、道が狭く軽自動車ですら苦労するような坂の多い場所で、そこで自由に活用できる乗り物が欲しいというところから始まりました」と語ります。
「一人乗りにフォーカスして無駄なものを省き、値段もできるだけ下げて手軽に乗れるようにする。そのためには、海外で調達してきたものの外装を変えるのでは品質面や自由度などで求めるところには到達しないと考え、全て自社製でということになりました」。
同社デザイナーの岡本 崇氏は、「前後対称のデザインにすることは、最初から決まっていました。そうした独自のパッケージを実現することやコストを考えると、ゼロから作るという選択になります。サイズ感や用途などは決まっていたので、その中で見切りの良さ、運転のしやすさ、乗り降りのしやすさなどを考慮しつつ、新たなモビリティとして魅力的なデザインを採用しました」と述べています。

数百点に及ぶ自動車部品のほぼ全てを Fusion でデザイン
会社設立の翌年、東京オートサロン 2023 で開発中のモデルを発表してから、わずか 2 年で発売を迎える mibot は、その数百点に及ぶ部品のうち 8 割近くがオリジナルでデザインされています。一部の外注部分やフレームなどを除くと、そのほぼ全てが Autodesk Fusion で設計されました。
自動車メーカーで Alias や Maya なども活用してきた岡本氏は、自身では以前から Fusion を使っており、KG モーターズも所有していたため、Fusion を使うのは自然な流れだったと述べます。それだけでなく、部品点数を抑え、工数をできるだけ少なくして価格を抑えるという方向性にもフィットしていたと振り返ります。
「微妙な形状表現に優れた Alias のような CAD を使うと、車らしいデザインを作りたいという方向に欲が出てしまい、その造形のために車体の価格が上がってしまいます。このプロジェクトが目指しているものの場合は機能面で少し制約があることが逆に良くて、そこを活かして修正を行なっていくという、これまでの車の作り方とはだいぶ違うアプローチができたと思います」(岡本氏)
この mibot の開発の様子が YouTube や Note、SNS などで随時発信されているのも、従来の自動車開発とは異なるユニークなアプローチです。そして、そこから伝わるチームの熱意が顧客層のコミュニティをワクワクさせています「YouTube での活動が以前から注目されていたんですが、2022 年の東京オートサロンに発表した T-BOX への反応を見た時に、まだこれでは十分ではないと感じて、そこでガラっとコンセプトを変えました」(久保氏)
「お客さんからの反応を見ると、mibot の初見での可愛さやインパクト、価格などに共感し、そこを評価してくれています。他の乗り物とは価値観が違うというところから攻めていけたのが、強みになっているかなと思います」(岡本氏)

迅速な開発をクラウドがサポート
この mibot の開発は、2025 年 7 月末の時点で量産仕様と同等の試作車両を作り上げる T2 フェーズを迎えているところですが、さまざまな変更が頻繁に行われています。「通常は企画、デザイン、設計、試作、生産など段階が分かれていますが、それが全部同時なんですよ」と、岡本氏。「マーケティングも含めて本当に同時で進められているので、次の日には要件が変わったりする。常に、フィックスすることがないですね」。
「最近あった最大の変化が、インパネの角度の変更でした。それも15度起こすということになって、かなりの変更が必要になりました。臨機応変にというか、いろいろなところを見ながら常にアップデートが行われます。これは通常のライン業務ではあり得ない進み方で、スタートアップならではという気がします」(久保氏)
「大きな会社で、それぞれの組織が動き出していると、それを方向転換するのはなかなか難しいと思います。ここでは組織といっても 1 人か 2 人なので、すごく小回りがききますね」(岡本氏)
現在、KG モーターズでは 17 名の社員を中心に計 50 名ほどが勤務。設計を行う 6-7 名のほか、製造部門やマニュアル作成の担当者など 22 名ほどが Fusion を活用し、広島の本社や開発拠点としている浜松、自宅などさまざまな場所で行われる作業をクラウドでのコラボレーションがサポートしています。「データ管理も、最初はざっくりとルールを決め、Fusion でできることを追加しながら進めていますが、問題なく運用できています」(久保氏)
「自動車メーカーはハイエンドの CAD を使うイメージがあると思いますが、スタートアップ企業の予算感だと、そこにそれほどお金はかけられない」と、久保氏は続けます。「Fusion は、用意されている機能に対して価格がものすごく安いので、その部分でのメリットは大きいと思います。社内でも静的応力解析などのシミュレーションは行っています。設計ができて、解析もできて、アセンブリもできるので、この規模の会社には必要十分ですね」
協力会社やサプライヤーとの作業も、Fusion をベースに進められています。「別のソフトが使われている場合は Fusion にインポートしていますし、金型の作成などは海外のサプライヤーでやることが多く、パーツ形状をFusionで作って渡しています。3D データを渡すことでスピードも早く、かつ安いし、技術力も高いですね」(久保氏)
また Fusion のレンダリング機能もさまざまな場面で活用されています。「私自身は、Fusion はレンダリングから使い始めました」と岡本氏は語ります。「Fusion のレンダリングは、リアリティが高いですね。KG モーターズの Web サイトでも使っていますし、社内プレゼン用にも十分だと思います。背景の HDR 画像やライティングの設定さえやれば、かなり良いところまで行けると思います」

試作から量産へ
T2 フェーズでの試作車の設計が終わると、9 月からはその部品を組み立て、そこで T1 までの問題点が確実に対策されているかの評価が行われます。そして信頼性や機能面での開発目標を全てクリアし開発段階が終了すると、量産に向けた準備が始まります。
2024 年 8 月に開始された mibot の予約は、わずか 1 カ月で 1,000 台を突破。2025 年 5 月の段階で累計 2,200 台を超えるなど、業務用モビリティとしての関心と需要も高まっています。快適性、安全性にも十分な配慮が行われており、ミニカーの上位である超小型モビリティカテゴリーと同等の衝突安全性能を最終的な目標とするほか、エアコンやシートヒーターも装備予定です。
販売は 2025 年秋に開始され、量産パーツを使って年末までに 300 台を生産。2026 年は拠点となる広島の Mibot Core Factory の生産ラインを稼働させ、本格的な量産が予定されています。さらに 2027 年には生産台数を 1 万台へ拡大し、Maas に向けた自動運転への対応を図るなど、迅速な進化は今後も継続されていきます。
SDV (Software Defined Vehicle) として開発されている mibot は、出荷後もソフトウェアで進化するコネクテッドカーであり、ユーザーの使用状況を学習して最適化するなどパーソナルな移動を全く新たな体験にするさまざまな特徴を持っています。「まずは日本の中で普及させて、地方都市の課題をしっかりと解決したい。その成功事例を持って、さらに海外にも行きたいと思っています」(久保氏)