次世代オフィス家具の新たな生産方法をジェネレーティブ デザインで探求

Kohei Ono 2026年4月7日

イトーキ中央研究所が「流動的オフィス」実現に向けアディティブ マニュファクチャリングを活用

働き方の多様化が進行することで、オフィスの在り方とそこで使われるオフィス家具にも大きな変化が生まれています。オフィス家具・各種設備機器を扱う会社として 100 年を超える歴史を持つ株式会社イトーキの中央研究所は、10 年後のオフィス家具づくりに必要となる技術を見据え、ジェネレーティブ デザインを活用した製造に取り組んでいます。

樹脂製天板の強度をサポートするよう、ジェネレーティブ デザインを使ってデザインした意匠を裏側へダイレクトに 3D プリントしたプロトタイプ モデル

オフィスの価値観の変化とオフィス家具に必要な革新

オフィス家具メーカー大手のイトーキは、オフィス空間だけでなく公共空間、生活空間まで、人々を取り巻くさまざまな空間や環境、場づくりをサポートしています。日本企業のオフィスづくりに長年関わってきた同社執行役員の清水 俊也氏は、今はオフィスの価値観が揺れている時代だと語ります。「前近代的な日本のオフィスは基本的な面積が少なく、執務室か会議室しかない無味乾燥なものでした。それが今や、活動に合わせた多様な部屋が増え、お洒落でデザイン性の高いものへと進化してきました」。

社会状況の変化も、オフィスのデザインへ影響を与えます。「これまでオフィスの原単位は人数でしたが、リモートワークの普及などでそれが崩れ、混迷の度合いも増していると思います。それはオフィス家具も同じです。オフィスの部屋が多様になり、個別の机から協働できるような大テーブルになったり素材も白だけでなくいろいろな色が入ったりすることが、オフィス家具にも反映されるようになりました」。

このオフィス家具のユニークな特性を、清水氏は「審美性と機能性が一体化したもの」と表現します。そしてオフィス家具がファッショナブルになることで、トレンドのサイクルが短くなり開発競争も激化。メーカーにも大きな影響を与えるようになりました。

「毎年新しいものを出すため、開発のスピードを上げる、リードタイムを短くする、たくさんアイテムを作る、ということをしてきました」と述べる清水氏は、今後のオフィス家具について「マスプロダクションに頼れなくなるという危機感を感じていますし、生き残るには一個ずつ作れるようにすることも必要だと思っています」と語ります。

2023 年 1 月に設立されたイトーキ中央研究所の清水 俊也所長

10 年後の市場や課題の解決に必要とされる技術の提案

清水氏が所長を務めるイトーキ中央研究所は、今後オフィスとオフィス家具づくりに訪れる課題へ長期的視点で取り組む組織として 2023 年に設立され、所属する専門人材が 10 年後の働き方を見据えたオフィスとオフィス家具のあり方、素材、設計手法、生産技術に関するリサーチを行っています。

「通常の開発の中でも 5 年後のことは考えますが、10 年後には社会情勢も変わっているので、オフィス家具業界ではそこまでは考えないことが多いと思います」と、清水氏は語ります。「新しい技術革新を導入すると、その習熟には時間がかかります。中央研究所は、10 年後の世界で必要になるような技術を選択肢として提供したいと考えています」。

「働き方の多様化やビジネス環境の急速な変化の中で、より良いオフィス環境が従業員エンゲージメント向上や人材確保に寄与することが明らかになり、今後のオフィスづくりでは企業の成長に合わせて、オフィス環境を常に改善することが重要になると考えられています」と、清水氏は続けます。そしてオフィスは常に変化するようになるという仮説のもと、中央研究所がマーケットの未来に関する研究テーマとして掲げるのが「流動的オフィス」です。

さらに、業界としてはプラスチックのリサイクルにも立ち向かう必要があると、清水氏は考えています。「オフィス家具メーカーである私たちにとってプラスチックを自由曲面で造形することは、今やコア技術と言えます。その技術は競争力を保つために温存しつつ、生分解できないというプラスチックの最大の弱点を克服するには、プラスチック リサイクルが重要です」。

ジェネレーティブ デザインを活用した合理的なデザイン

オフィス家具のデザインには、長年 CAD が大きな役割を果たしてきました。「90 年代初頭に AutoCADを導入して以降、CAD で平面図を描き、キャッチーなスケッチを CG で描くことをセットにしてきました。またチェアの製造のために必要な技術として、3 次元での設計、射出成形を習得しました」と語る一方で、最新テクノロジーへの取り組みには必ずしも積極的でない一面があったと清水氏は言います。

「自社の内部を見ると、日本の技術者は真面目なので与えられた条件とツールの中で真面目にやっていくのが一番能力も発揮するし、居心地も良いのだと思います。その一方で、最新の手法やテクノロジーから遅れていても、それにボトムアップではなかなか気付きにくい。中央研究所は、10 年先のモノづくりにどんな選択肢があるのかを提示する役割を持っていますが、その中でツールの進化や革新をキャッチしていくことも重要な役割であることに気付きました」。

その上で、「オフィス家具に応用できるコンピュテーショナル デザインとして、ジェネレーティブ デザインやトポロジー最適化、リアルタイムの CAE やビジュアル プログラミング、ラティス構造などがあると考えました」と、清水氏は説明します。「オフィス家具にはバリエーションも多いので、コンピューターでしかできない合理的な設計をやっていく必要があります」。

流動的オフィス向けワークテーブルのプロトタイプ [画像提供: 株式会社イトーキ]

流動的オフィスを実現するための軽量なワークテーブルの製作

頻繁にレイアウトを変更して部屋を変化させられる「流動的オフィス」のビジョンを実現するには、大幅に軽量化したテーブルが必要です。中央研究所は先頃、次世代オフィス家具のプロトタイプモデルとなる流動的オフィス向けの軽量なワークテーブルを試作しました。

このテーブルは、従来は木製芯材とメラニン化粧板で構成され、エッジ部分に樹脂を巻いていた天板を、単一のプラスティック素材に変更しています。その設計に同研究所は、Autodesk Fusion へシミュレーション拡張機能を追加する Autodesk Fusion Simulation Extension を 4 ライセンス活用。天板本体には市販されている 10mm 厚程度のポリプロピレン (PP) 板を使い、その強度をサポートするよう Fusion のジェネレーティブ デザイン機能を使って考案したエッジと枠部分の樹脂が、FDM 方式の 3D プリンターから天板へダイレクトに出力されています。

「天板を補強するような意匠を、ジェネレーティブ デザインを使い、できるだけ軽量に作ろうと考えました」と述べる清水氏の狙い通り、その重量は従来比で約 50% にまで軽量化されています。「この意匠は 3D プリンターで出せるよう、一筆書きできる形状に人間が考えたものです。この天板と 3D プリントの組み合わせだと全体が PP になるので、それを粉砕してリサイクルできる可能性もあります」。

このプロトタイプの制作から、さまざまな学びが得られたと言います。「水平に置いた天板に 3D プリンターから出力すると熱の影響で反りが発生してしまいますが、その影響を樹脂の配合を変えることで減らすことが可能でした」と語る清水氏は、こうした材料の開発もメーカーにとっては重要なことだと言います。

「樹脂の配合自体も開発しながら進めることになります。これは、40 年前に先輩たちが射出成形機を導入して、そこから苦労して自分たちのコア技術として確立させたのと同じことをやらないといけない、ということです。家具メーカーとして材料開発と造形技術を同時に考えないといけないということが、改めてよくわかりました」。

3D プリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械を使い、デジタルデータに基づいてものづくりを行うデジタル ファブリケーションは、スタートアップ企業にも小規模な製造を可能とし、製造の民主化が謳われるようになっています。しかしイトーキのような規模を持つメーカーは、そうした技術を従来の生産方式にどう取り込んでいけるかが重要なのだと清水氏は強調します。

「従来の樹脂には金型が必要でしたが、その一部だけでも 3D プリンターで少量生産にできたら、既に活用しているパイプや押し出し、板金など、他の技術と組み合わせることで、それがすごく楽になります」。

オフィスづくりとオフィス家具の新たな選択肢の提供

自由な選択肢の提供は、これからの働き方、オフィスづくりで重視される点であり、また自社の変革にも不可欠な要素となります。コンピューターを駆使した斬新なデザイン手法の探求、アディティブ マニュファクチャリングによる製造方法の応用に加えて、中央研究所は IoT 技術によるオフィス家具の使用状態の可視化も研究を進めています。このプロトタイプには IoT 機能が内蔵され、センサーにより使用状況をモニター可能です。

これは、ビジネスにも新たな選択肢を提供するものです。「圧力センサーで週や月の単位で圧力を測ることで、例えば天板があと何ヵ月ぐらい使える、交換すべきタイミングになったということを可視化できる。将来的には、お客さんのところに積極的に交換に行くようなこともできると思っています」。

清水氏は、アディティブ マニュファクチャリングがプロトタイプの製作に留まらず、実製品に使われる未来を思い描いています。「モノづくりの開発以上にビジネスの開発が必要ですが、そこに挑戦したい。10 年あれば、それまでに 3 回くらいは試作できますよね。それでリアリティが上がり、賛同する人も出てくると思っています」。

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