いすゞ中央研究所がジェネレーティブ デザインで挑むディーゼルエンジンの静音化

Tomoko Harada 9月 17, 2025

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2050 年には世界の人口が 97 億人に到達し、その 2/3 が都市部に居住すると予測されています。そうした都市で快適な環境を保つには、環境への配慮やインフラの整備など安全・安心で持続可能な街づくりの重要性が高まり、そのためにはさまざまな規制も進められる予定です。

いすゞ

そうした未来へ向け、「いすゞ中央研究所」は商用車とディーゼルエンジンの先端技術の研究や、いすゞ自動車の商品につながる先行開発を行っています。同社が昨年 12 月に発表した論文「ジェネレーティブ デザインを活用したディーゼルエンジンのギヤ構造最適化」では、小型トラック「エルフ」のエンジンから発生するギヤラトル音(回転トルクの変動や反転時に発生するガラガラという歯打ち音)に、大幅に軽量化した新たなギヤの開発により対策を講じるという、画期的な取り組みが発表されました。

増大する検討項目に設計の自動化で対応

このプロジェクトを手がけた同研究所 研究第一部 第二グループの主任研究員、山岸 誠弥氏は、「自動車には部品点数が非常に多い上、最近はサーキュラーエコノミーを実現するため、リサイクルした材料から物を作ることを考えるなど、検討項目も増えています」と語ります。「さまざまな社会的要請や規制に対応するには、いろいろな検討を行えるツールがないと無理だと思います。設計の自動化で力を使うことで、何とかそれに追いつけるよう取り組んでいます」。

エルフのエンジンでは、クランクからカムシャフトへの動力伝達機構である一連のギヤの中に、シザーズギヤと呼ばれる、ばねを介して接続された 2 枚重ねのギヤが使われています。このシザーズギヤで噛み合う相手側のギヤを挟み込んでラトル音を抑えられる反面、部品点数や設置の工数が増えることで製造段階でのコストが増加し、また摩擦の増加により燃費の悪化や摩耗などの問題が発生していました。

ジェネレーティブ デザインにより 43% の軽量化を実現した試作品 (右) と従来のギヤ部品。

こうしたトレードオフを無くし、燃費が悪化しない方法を模索する中で、ギヤを軽量化することで解決できる可能性があることがシミュレーションによってわかってきました。「ただしシザーズギヤと同等の効果を得るには、30% から 40% というレベルでの軽量化が必要でした」と、山岸氏は言います。「これまでもギヤの重量を減らすために丸い穴を開けて肉抜きをしていたので、これ以上削るところはないかもしれないと心配もありました」。

ギヤの 43% 軽量化で騒音と燃費を低減

Autodesk Fusion に搭載されているジェネレーティブ デザインは、材料や製造方法、パフォーマンス要件などを定義したパラメータをもとに、AI とクラウドコンピューティングを使って幅広い設計案を素早く生成する機能で、人間では思いつかないような独特な形状や新たな解決策を提示します。「ギヤへ適用した事例は見つからなかったのですが、オートデスクにも問い合わせ、歯面への荷重を設定することで形状生成が可能だということが分かりました」という山岸氏は、その後 2 ヵ月ほどに渡って設計を検討。その結果、試作品に採用されたデザインは 43% もの軽量化を実現したものになりました。

ジェネレーティブデザイン実行後の解析結果画面

「切削加工で制作可能な形状にすることができ、また外から見える部品ではないのでデザイン性も検討しなかったことで、試作までの期間を短縮できました」と語る山岸氏は、「荷重がかからない方向は本当に薄くなっていますし、見た目的にインパクトがあるので、この形状を本当にエンジンに載せてテストするかどうか、かなりの議論になりました」と明かします。「2022 年 3 月の段階ではエンジンに火を入れることの許可が下りず、まずは燃焼させずにモーターをつないで行う、モータリング試験になりました」。

こうして行われた試験後の検証で問題ないことが確認されると、形状が再検討された上で、同年 11 月に実際に運転が行われました。「その結果、2 つのギヤを試作ギヤに入れ替えることでシザーズギヤと同程度の騒音低減が実現し、また 0.5% の燃費低減の効果も得られることが分かりました。シザーズギヤの背反が完全に解消されるような結果が得られました」と、山岸氏は続けます。

拘束や荷重の条件設定の画面

新しい世代のデザイナーに求められる取り組み方とは

「駆け足で検討を行いましたが、検討から実際に作成可能な形状が出来上がるまで、非常に短時間で進めることができました。試作品は、歯のところまで作り込んでいる量産部品を開始形状として、そこから CAD データに基づいた切削加工を行っています。試作品での試験においては切削加工で製作可能な形状ができ上がることが重要だったので、製造性まで考慮できることのメリットも大きなものでした」。

山岸氏は、この先にある量産も見据えて準備を進めています。「商用車はかなり長期間使われるもので、ずっとエンジンを回し続けるような大掛かりな試験が必要なので、そうした耐久試験に載せたいと考えています。荷重が面にしかかからないギヤは検討しやすい部類に入りますが、より複雑な形状の検討も始めたりしています」。

こうした新しいテクノロジーは、新しい世代のデザイナーも大いに興味を抱いています。山岸氏は自身の経験をもとに「私も大学や研究室の時代はそうだったのですが、従来はひとつのことを突き詰めれば良かったと思います。ひとつの専門分野を持ち、その専門知識を使って仕事ができるという状況でした」と語ります。

「いまはAI、特に ChatGPT などの生成 AI を使えば情報はすぐに仕入れられるし、そのまとめも作ってくれるので、情報の取得難易度がかなり下がっていると思います。ひとつのことだけやっていても、そこだけでは仕事ができなくなってきて、若い人たちはかなり広く知識を持たないといけないと思います。そしてジュネレーティブ デザインは、従来の図面を描くのとはかなり違い、シミュレーション的な考え方も必要です。まずは取り組んでやってみるところが大切だと思います」。

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