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電動アシスト三輪自転車「STREEK」は、日本の生活環境に適した普通自転車のサイズで、車両中央にある大容量のカーゴスペースにより、通常の自転車では不可能だった積載性と安定性を実現しています。大量の荷物を運ぶ乗り物=かっこよくない」という既成概念を覆すデザイン性と実用性を兼ね備えた「STREEK」は、プロダクトデザイナーの岡本崇 氏が Autodesk Fusion を駆使して、アイデアを具現化してきました。そして、製品化をサポートしてきたフヂイエンヂニアリング株式会社も、Autodesk Fusion とクラウドを活用してチーム設計と製造を実現しました。
コンセプト段階から製造までの「STREEK」の開発を Autodesk Fusionはどのように支えてきたのか。

まだ世の中にない革新的なカーゴバイクの「STREEK」開発チームを指揮した岡本崇氏は、「STREEK は Autodesk Fusion がなかったら、製品として世に出すことができませんでした」と切り出します。
「STREEK」のプロジェクトは、2016 年にスタートしました。エンビジョンのプロダクトデザイナーとして、数多くの工業製品をデザインしてきた岡本氏は、「都市部をイメージしたモビテリィをテーマに『自分でも乗ってみたい自転車を開発できないか』と思ったのがきっかけです。オランダやドイツなどのヨーロッパでは、荷物を運ぶための実用的なカーゴバイクという自転車が都市で活躍しています。日本にも昔はリヤカーという牽引型の道具はありましたが、都市部での利用には適していません。そこで、日本にないのならば『自分が魅力的なカーゴバイクを作ってしまおう』と行動を開始しました」。
新しいモビリティ製品の開発に挑んだ STREEK 開発チームがまず始めたのは、ミニチュア模型の制作です。このカーゴバイクを広く知ってもらうため、フィギュアの展示会向けに「STREEK」の模型をフィギュアとともに出展。狙い通り、「STREEK」はコミュニティ内で話題になり、社内での製品化に向けた足がかりとなりました。

岡本氏は、最初のコンセプトアイデアの構想段階から初回の限定生産に至るまで、エンビジョンの社員として「STREEK」の製品化に深く携わってきました。このプロジェクトは同社代表取締役の Uden Harry氏をはじめ、スタッフ全員の理解と協力のもとに進められ、チーム一丸となって実現に向けて取り組んできたものです。現実的な製品設計に取り掛かる際、数多くの自動車をデザインしてきた岡本氏は、これまで Autodesk Alias や Rhino を活用していました。しかし「STREEK」の開発においては、ソリッドモデリングやフォームモデリングなど、複数のモデリング手法に対応できる Autodesk Fusion を選びました。その理由について、「自転車のような複数の部品が合わさって構成されているモビリティデザインにおいては、自動車のような大きな車体形状を得意とするサーフェスモデリングではなく、ソリッドモデリングをメインに異なるモデリング手法にも対応でき、かつレンダリングも、クラウドによるデータ連携のメリットもAutodesk Fusion を利用することで、「STREEK」の製品開発にすべてがプラスに働きました。また、操作や設計自体も直感的でアイデアの具現化を短時間で行え、レンダリングも使いやすく高品質でした」と説明します。
中身の詰まった、体積のある 3D モデルを作成できる Autodesk Fusion によるソリッドモデリングでは、設計の段階で質量、重心、慣性モーメントといった物理的な計算が行え、部品の干渉なども確実にチェックできます。また、3D プリンタや CAM との連携も可能で、製造プロセスへの移行もスムーズです。岡本氏は「世の中にない製品を周りに認めてもらうためには、視覚的に表現できる具体的な出力が重要です。STREEK という製品のコンセプトとイメージを多くの人たちに共感してもらうために、Autodesk Fusion のモデリングからレンダリング、3D プリントは、設計段階から STREEK の魅力を具現化するツールとしてカーゴバイクの姿を示してきました」と話します。
製品化へ本格始動




「Autodesk Fusion で設計し、3Dプリンタで出力した「STREEK」の試作モデルは、展示会に出展して注目を集めました。そこで製品化に取り組むことになり、カスタマイズや機械設計を担当してくれる自転車店に協力してもらい、実際に人が乗れる 3 輪モデルを試作しました。
2017 年にはオリジナルのフレームを設計して 2 号機を試作、さらに試作 3 号機ではカーゴバイクとしての機能を備えたフレームを独自に設計。ここまでは既存の自転車を改造した試作モデルでした。試作 4 号機ではフレームを Autodesk Fusion でゼロから設計し直しました」と岡本氏は製品化への経緯を振り返ります。2019 年に完成した4号機は、現在の「STREEK」に通じる基本的な設計がすべて盛り込まれていました。しかし 4 号機から 6 号機に至る過程では、運動性能を維持しつつ、量産対応可能なシンプルな前輪サスペンションへの設計変更が求められていました。そんな課題を抱えていたときに、SNS を通じてフヂイエンヂニアリングの藤井社長と知り合ったのです」と話します。
3 輪の電動キックボード開発のノウハウを STREEK のサスペンションに応用
フヂイエンヂニアリングの藤井 充社長は、STREEK の設計や生産に関わってきた経緯を次のように振り返ります。
「当社では、2019 年から Sunameri という 3 輪の電動キックボードをAutodesk Fusion で設計し製造してきました。同じ 3 輪のモビリティとして STREEK の情報はネットで知っていて、もともと注目していました。そんなときに SNS で STREEK を知る機会があり、メッセージを交換した後、私が Sunameri を持参してエンビジョンを訪問しました。そこで話が盛り上がり、すぐに STREEK の開発に関する具体的な話へと発展しました。

Sunameri の開発で独自に設計したサスペンションなら、STREEK の課題も解決できると思ったのです。また、STREEK が Autodesk Fusion で設計されていた点も、当社にとってはメリットでした。当社も Autodesk Fusion のユーザーだったので、設計から生産までクラウドを活用して互いにプロセスを共有できると思いました。そこで、一緒に STREEK を作っていくことになりました」。
前輪のサスペンションや量産化に向けた生産体制の確立に課題を抱えていた STREEK 開発チームは、藤井氏との出会いによりフレーム製造から製品の組み立てまでをフヂイエンヂニアリングに依頼することにしました。
入社から 3 ヵ月で Autodesk Fusion をマスターし STREEK の設計を担う
フヂイエンヂニアリングで STREEK の設計や生産に携わることになったプロジェクトリーダーの有水佐和氏は、その取り組みを次のように話します。
「当社で STREEK の製造に携わるようになったのは、私が入社した 2022 年からでした。大学では建築学科で建築用のソフトウェアは使っていましたが、Autodesk Fusion による設計は未経験でした。しかし、ソリッドモデリングでは立体を足したり引いたりする感覚でモデリングできるため、直観的で習得しやすかったです。また、Autodesk Fusion の使い方に関してはフォーラムの情報が充実していたので、3 ヵ月くらいで実践的に使えるようになりました。カーボン素材を用いたフロントサスペンションの改良に取り組みました。また、マレーシアの製造拠点にも足を運び、品質管理にも携わりました。
Autodesk Fusion はクラウド上で設計データを連携できるので、世界のどこで生産しても STREEK 開発チームが形にしたいと思っている STREEK を製品化できます」。

また、岡本氏は「発想が柔軟で新しい設計に関しても積極的に取り組んでもらえます。STREEK の開発には多くのエンジニアが携わってきましたが、有水さんは先入観や既成概念がなく、まずは作ってみようという姿勢で「STREEK」の開発に携わっていただけたのも量産に導いた 1 つの要因と思っており、信頼しています。また Autodesk Fusion のクラウドを活用して、設計データをリアルタイムで共有できるので離れた拠点にいても円滑に作業を進められた」と評価します。
STREEK を通してそれぞれの夢を叶えていきたい
本格的な量産モデルとなった STREEK 8 号機の設計と製造を担っている有水氏は「ものづくりを通して誰かを幸せにできればいいなと思っています。そのために日々勉強して、STREEK をもっと魅力的な製品にしていきたいです」と抱負を語ります。
また藤井氏は「STREEK には、不思議な魅力があります。STREEK の試作モデルをネットで発見したときに、これをなんとか世に出さないといけないな、そのために協力したい、という力が湧いてきたんです。その STREEK を設計や製造でサポートできて幸いです」と話します。
そして岡本氏も「Autodesk Fusion と出会っていなければ、STREEK を生み出すことはなかったかもしれません。また、Autodesk Fusion があったから、アイデアを具体的なイメージにして共感してくれる仲間を増やしてこられたと思います。現在の 8 号機は、量産モデルとして高い完成度に達していますが、これからも改良を重ねて『かっこいい』と街中で振り向いてもらえるカーゴバイクを作っていきたいと思います」と期待を込めます。