時間とのレース: 世界最高速を目指す人力駆動車のデザイン
人力駆動車 (HPV: Human-Powered Vehicle) の熟練ライダー兼デザイナーのマイク・バロウズ氏は、かつてのライバルであるグレン・トンプソン氏とタッグを組んで、時速145km以上を目指す自転車を作り上げた。「スープ・ドラゴン」と名付けた自転車をトンプソン氏とチームがネバダ州バトル・マウンテンへ持ち込み、世界記録に挑む様子をビデオで紹介。
[ビデオ字幕]
ナレーション: 人力駆動車の世界ではスピードが全て。現在の世界記録である時速144kmは、ここネバダ州バトル・マウンテンで記録されている。その世界で好敵手だったベテラン設計者、ライダーのマイク・バロウズとエンジニアのグレン・トンプソンは、友人の葬式で初めてのコラボレーションを決意。そして最後に挑戦することにしたのが時速145kmを超える自転車だ。
マイク・バロウズ (デザイナー): コンピューターがさまざまなモデリングを行って、私のパワーやタイヤの転がり抵抗、空気力学にもとづく提案を行った。それは最高に合理的なものなんだろうが、それでも未知の部分が多い。
これが開発しているシャーシで、シェルは意図的に独立したものにしている。これまでの自転車とは異なっている。これがアクセルで、片側で前後に動かしていて、この内側で回転している。ホイール内には球ジョイントがあるので。チェーンはステアリングには影響されない。
ギアはひとつだけ。スピードを出すには多くのギヤが必要だと思われているが、適切なギヤがひとつあればいい。空気力学やステアリングのジオメトリを理解していても、常に未知のことがあると分かっているのが面白い。それは結局のところ。人間的な要素になる。
ナレーション: スープ・ドラゴンと名付けられたこの自転車は、テストを行うことが重要だった。チームは今年のバトル・マウンテンでのイベントに参加する計画を立てていた。サウスバンク大学のトンプソンの同僚であるバーニー・タウンゼントは、オートデスクと協力して外側のシェルの開発を行った。
バーニー・タウンゼント (サウスバンク大学エンジニア): このソフトウェアを、プロジェクト全体の基本的なモデリング・ツールとして使いました。もちろん最初のフレーム設計はマイク・バロウズがCADソフトウェアを使わずアナログな方法で行ったものです。当初の設計をリバース・エンジニアリングしてデジタルモデルを作る際にも、ステアリングのシステムとあらゆる機械要素の特性を調べる作業を信頼して行うことができました。ジェネレーティブ デザインの能力は、我々を素晴らしい世界に導いてくれます。設計と構造分析のプロセスをわずかに変えて伝えると、物事を逆の方向から見ることができる。その作業をコンピューターに依頼することができます。
ナレーション: 75歳のバロウズは、チームが出発する前に、自身はバトル・マウンテンに行かないと決心する。
バロウズ: それは正しいことではないと感じた。ハンドリングやジオメトリは間違いなく機能する。素晴らしいマシンができた。だが乗るべきなのは私ではない
ナレーション: そしてバロウズは代わりのライダーを探す手助けをする。直前にラッセル・ブリッジの参加が決まった。
ラッセル・ブリッジ (スープ・ドラゴンのライダー): 僕はマイクとほぼ同じ体格なんだけど、足が少し大きいから、入るかどうかが少し心配ですね。ライダーを5、6年やってきていて、これまで2台のマシンでシリーズに参加していて、出場できるのは年間12-13レースです。
ナレーション: ネバダ州バトル・マウンテンに向かったチームは、スープ・ドラゴンの設計の素晴らしさを確信していた。ただし、新しいライダーで記録達成を目指すとなると、悪戦苦闘も避けられない。そして、それは困難の序章に過ぎなかった。スープ・ドラゴンが届けられた先はチームではなく、車で3時間はかかるリノの街だった。
タウンゼント: ありがとうございました。
DHLの従業員: どういたしまして。
タウンゼント: この旅が無駄になるところでしたよ。
ナレーション: ようやくチームが発見したときには、運命のいたずらによる災難が降りかかっていた。
グレン・トンプション (サウスバンク大学リードエンジニア): ノーズは完全に粉砕されていて、 後ろの部分にも問題がある。思ったより酷くはないかもしれない。写真では、とんでもないことになっていると思ったけど。
スープ・ドラゴンのチームメンバー: 長さが半分になっているかと思ったよ。
World Human-Powered Speed Challengeオフィシャル: スープ・ドラゴン、ここから4分を計ります。
残り2分。
スープドラゴンがコースに入りました。
ブリッジ: とても恐ろしかった。揺れが本当にひどかった。
Challengeオフィシャル: スープ・ドラゴンのラッセルの記録は、時速は86.8kmでした。
Challenge参加者: 今年は学びにきたということだし、多くを学んだだろう。来年はもっと良い記録を残せるだろう。
タウンゼント: 今回のデータを見る限り、設計のコアとなる部分は良かった。
トンプソン: これをもとに発展させることで、もっと優れた自転車を作ることができる。
ナレーション: どんな旅にも、その先に長い道がある。現在チームはロンドンのサウスバンク大学で、多くの学生たちと作業を行い、オートデスクのFusionソフトウェアを使って次世代の自転車を作っている。来年、ネバダ州バトル・マウンテンで歴史が作られるのかもしれない。