製造業はAIへの信頼をどのようにして学べるか
- AI)の普及は進んでいるが、製造業など従来型の業界でじゃ、このテクノロジーの信頼に時間がかかっている。
- AIは製造プロセスの自動化により効率を向上し、ミスを減らし、ジェネレーティブ デザインによってイノベーションをレベルアップさせ、より安全な労働環境を作り出すことが可能だ。
- メーカーの68% (PDF P.6) は、既にAIを活用した使用事例やプロセスを少なくともひとつは持っており、こうした小さな一歩がAIの価値を実証し、信頼を構築していくだろう。
SiriやAlexaのようなスマート アシスタントからパーソナル ロボット、自動車の自動化、ヘルスケアにおける新たな進歩まで、AIは日々の暮らしに浸透しつつある。だが、その認識には問題が残っており、人々はこの技術の理解に苦労し、また安全性や職を奪われることへの不安、人間性の喪失など、マイナス面の懸念が持たれている。
特に設計・製造 (D&M) のような旧来の業界においては、普及が進むAIテクノロジーへ仕事を委ねることに対する嫌気も蔓延している。だが、AIの可能性はまだ開拓の途上だ。世界経済フォーラムの予測 (PDF P.3) によると、AIは世界の経済へ1,800兆円以上を生み出し、グローバルGDPを2%増加させる可能性がある。AIドリブンなツールの利用を選択することは、企業にデータ共有やセキュリティに関する懸念をもたらす場合がある。だが、企業が自社のデータや専門知識へのリスク無しにAIを活用することに真のメリットを見出せれば、AIへの信頼は高まるだろう。
D&MにおけるAIの現状
AIは最近の現象のように思えるかもしれないが、実際には製造に深く根差している。産業用AIのパイオニアであり、メリーランド大学カレッジパーク校機械工学科特別教授兼人工知能センター長のジェイ・リー博士は「私のAIのキャリアは40年前、ゼネラルモーターズの生産工場での3D視覚誘導型ロボットの自動化システムで始まりました」と述べている。「AIは始まったばかりだと思われているかもしれませんが、既に40年前に機能していたのです。ロボットはスマート ビジョンを使用し、自動識別して補正しながらパスを調整して自動車を組み立てています」と語るリー博士は、世界経済フォーラムの先進製造生産に関するグローバル フューチャー カウンシルのメンバーでもある。
企業は長年、業務改善への支援をリー博士に求めてきた。ケンタッキー州のトヨタ自動車ジョージタウン工場で圧縮空気システムの故障が続いた際には、通常は25秒に1台の新車が生産ラインから運び出されるこの工場に、予定外の中断による経済的打撃と生産遅延が生じた。リー博士は生産ラインにAIを組み込み、AIがセンサーを活用して異常を検知し、システム停止を回避できるようにした。それによって、保守費用は50%減少。2006年にこのソリューションを導入以来、こうした問題によるダウンタイムはゼロになった。
現在、AIはこうした初期の使用事例よりずっと強固なものとなり、基本的な運用機能を超えるものになった。今や企業にさまざまなシナリオのイテレーション (反復) とシミュレーションを可能とし、最良の結果をもたらすジェネレーティブ デザインを活用してイノベーションを起こすのに一役買っている。ビジネスリーダーの66%が、今後2-3年以内にAIが必要になるだろうと考えている。だがボストン コンサルティング グループの最近の調査によると、自社のAI目標に到達しているのは製造企業のわずか16%に過ぎない。製造業は早い段階で飛躍を実現したものの、AIの活用に関しては遅れをとっているのだ。
プロセスの信頼には正しいデータが必要
製造業界は年間約1,812ペタバイトのデータを生成している。そのデータを知見と行動に転換し、イノベーションを推進できるかどうかは業界次第だ。だがデロイトによると経営陣の67%が、他の組織へのデータ提供に抵抗を感じている。
オートデスクでデータ取得戦略部門のディレクターを務めるアレック・シュルディナーは「データを特定のことのために構築していない場合、そのデータを手直しせずに別の目的に使うことはできないでしょう」と話す。「データ取得とは、例えば分析や機械学習用途などの新しいプロセスに活用できるよう、データを別目的で再利用するのに必要な作業です」
AIの価値は、それが受け取るデータによって決まる。望ましい結果が得られるのは、データの信頼性が高く、正確で、適切なものである場合だけだ。「ゴミのようなデータを渡されても、私には手助けできません」と、リー博士。「役に立つ、有益なデータの提供が必要です。データをユーザーの意図する目的にコネクトするには、適切なコンテキストが必要なのです。例えば、機械の故障を予測したいとしましょう。それには、マシンの状態に関するデータの提供が必要です」。
長引くAI導入への消極的な姿勢と、AIのパワーを最大限に発揮することの間にあるギャップを埋めるには、製造業界は目に見えないものを信頼することを学ぶ必要がある。AIに予知保全を任せることに抵抗はないものの、生成AIは最大の謎だと考えられている。だが、これは冒す価値のあるリスクなのだ。AIがいかにエンドツーエンドの可視化を可能にするかを理解すれば、社内組織にさらなる可能性が生まれるだろう。
信頼を築き、AIの価値を解き放つ
リー博士はAIの利点を「3つのW」、すなわち仕事の削減 (Work)、ムダの削減 (Waste)、懸念 (Worry) の削減だと表現している。「私たちが知らないことは数多くあります」と、リー博士。「工場内を歩き回って、すべてをチェックしたがる人を例に挙げましょう。なぜそうしているのでしょう? 機械が故障したことが無くても、心配だからです」。AIはそうした不安を、より優れた可視化を可能にすることで軽減する。「全員が監視カメラを使用している地域社会では、心配はありません。自宅をアプリで確認できます。あれは誰だろう? アマゾンの配達だな、というように」。AIがその実力を証明し、その仕組みを人々がより認識するようになれば、さらにAIが業務へ取り入れられるようになる。
クラウドにつながった工場が一般的になれば、AIはさらに強化され、リアルタイムですべてのデータを収集し、迅速に知見を得ることができる。しかし、それまではメーカーは意思決定から抜け出せない状態にある。
「今日の設計では、できることなら避けたいトレードオフを強いられることが多いものです」と、シュルディナー氏。「迅速に設計すること、簡単に製造できるように設計すること、リサイクル性などのサステナビリティ目標を達成するよう設計することの、それぞれは実行可能です。しかし多くの場合、それらすべてを一度に行うことは不可能です。つまり設計にリサイクル性を加えたいのであれば、その設計により多くの時間を費やす必要があり、結果として製造コストが高くなる可能性があるということです。AIは私たちを、そうしたトレードオフの必要がなくなる状態へ導いてくれるでしょう。迅速に効率的な設計が可能となり、しかも複数の複雑な設計目標を達成できるようになるのです」。
リー博士は、トヨタ自動車やゼネラルモーターズなど、早くから先進的な技術を導入してきた業界の異端児たちを例に挙げる。こうした企業は現在も革新を続けており、クラウドコンピューティングやAIを活用して、より優れた、より軽量でより効率的な自動車を製造している。だが多くの場合、メーカーにとって、より多くの業務をAIに委ねることは段階的なプロセスだ。「従来型であるこの業界には継続的な改善が必要です」と、リー博士。「一夜にして成功することはありません。まずは小さなことから着手し、それを実現させるのです。 そして成功体験を積み重ね、次へと進むのです」。
AIを活用した使用事例やプロセスを少なくともひとつは持っているメーカーは、68% (PDF P.6) に及ぶ。こうした小さな一歩がAIの価値を実証し、信頼を構築していく。 「優先すべきはAIの利点を認識することです」と、リー博士。「人々はAIの脅威やネガティブな面に対して恐怖心を抱いています。でも、心配し過ぎて前進を止めてしまうべきではありません」。