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衛星軌道投入ロケットの実現を加速するインターステラテクノロジズのアジャイルな開発

インターステラテクノロジズ ロケット 開発 射場
北海道広尾郡大樹町の射場 [インターステラテクノロジズ 提供]

低コストで短期間に開発できる、ロケットに乗せて打ち上げ可能な重量100kg未満の超小型衛星を活用した宇宙ビジネスが注目を集めている。インターステラテクノロジズ株式会社は、そうした超小型人工衛星を搭載できる小型の液体燃料ロケットを開発。今年5月にはMOMO3号機を、民間ロケットとしては日本で初めて高度100kmの宇宙空間へ到達させており、大きな目標である衛星軌道投入ロケットの開発を本格化させている。

日本では、超小型人工衛星や宇宙エレベーターなど宇宙関連の多くのプロジェクトが大学から出発している。インターステラテクノロジズにも、東工大ロケットサークルCREATEの創設メンバーである稲川貴大社長をはじめ、大学でロケット研究を経験してきたメンバーが多い。観測ロケットMOMO2号機や軌道投入ロケッ ZEROのプロジェクト マネージャを務めてきた同社研究開発企画統括の金井 竜一朗氏も、学生時代から宇宙を目指してきた。

高校在学中に読んだ、スペースデブリの回収業者を主役とする漫画「プラネテス」に影響を受け、ロケット エンジンに強い興味を持ってきたという氏は、大学院で次世代のロケット推進機構と呼ばれるハイブリッド ロケットの研究に参加。だが小型ロケットで超小型衛星を安価に打ち上げるシステムの構築を目指すインターステラテクノロジズが取り組むのは、1960 年代に実施されたアポロ計画の月着陸船のエンジンにも採用されていた、いわば“枯れた”機構だ。

民間ロケットとして日本で初めて宇宙空間へ到達した 「宇宙品質にシフト MOMO3号機(以下、MOMO3号機)」 [インターステラテクノロジズ 提供]

MOMO3号機の集合写真。左端が金井氏 [インターステラテクノロジズ 提供]

2019年7月27日に打ち上げが行われた「ペイターズドリーム MOMO4号機」 [インターステラテクノロジズ 提供]

同社のロケット開発では、そのアポロ計画の開示情報を参考にしている部分も少なくない。「ただし50年を経た現在、製造技術や電子機器の部分は全く違うテクノロジーになっているため、かなりの部分を現在の技術でリアレンジしながら、そのノウハウを再現していく必要があります」と、金井氏。

「文献に書いてあることを実機に適用しようとしても、図面が全部載っているわけではないですし、細かい配管の取り回しなどは書いていません。そこの部分は実際に作ってみて、失敗して、この文献の裏にはこういう失敗がきっとあったんだろうな、と納得する。そういうことを、自分たちでトライしているイメージです」。

開発を支える製品データ管理

北海道広尾郡大樹町に本社を置くインターステラテクノロジズは、その前身であるSNS株式会社が2011年に打ち上げた「はるいちばん」以来、成功と失敗を繰り返しながら開発を進めてきた。弾道飛行を行う観測ロケット「MOMO」も、2017年7月の初号機打ち上げ以降、2018 年6月に2号機を、2019年には3、4号機を続けて打ち上げており、そのペースをさらに加速させている。

「常に100%以上の成功は目指していますし、想定できる範囲の問題には対処しています。その一方で、ある程度まで開発が進んだら、起こる確率が非常に少ないことや、それを定量的に算出できないようなものをあぶり出すために実験に踏み切っています」と金井氏。「トラブルの確率を限りなく0%に近づけるには、実機に近い条件での試験を繰り返す必要があります。それで打ち上げ頻度が下がって試験コストばかりかさむのでは、うちのビジネスモデルには合わないんです」。

こうしたアジャイルな開発を支えるのが、流動的とも言える開発体制だ。「MOMOの制御系など、ひとりが担当している部分も多い一方で、機体組み立て班など、ある程度はかっちりした組織でやっている現場もあります。MOMOとZEROの両方のプロジェクトに関わっている人も多いですし、その担当範囲も人によって全く違うのが特徴と言えるかもしれません」と、金井氏。

インターステラテクノロジズ ロケット 開発 MOMO 5
打ち上げ準備中のMOMO5号機のイメージ [インターステラテクノロジズ 提供]

「マネージメント チームの中では、よく“適材適所”と言っています。個々人がそれぞれ向いていること、やりたいことをできるだけやれるようにしながら、それで結果的に全体がうまくいくように、ということは気を配っています」。

こうした環境を効果的にサポートするため、チームは製品データ管理を活用。「図面とかモデルによらない資源はGoogle Driveで共有しながらSlackでもやり取りをしますが、それをモデルにしたり、さらに詳細設計をしたりする段階になると、Autodesk Vaultの機能を使ってモデルや図面の共有やバージョン管理をしています」。

「MOMOの開発プロジェクトが本格化し、大規模化していく中で、ソフトウェアの使い方のバラつきが非常に大きくなりました。例えば機体の構造計算をする人が、2カ月は朝から晩までマシンを使っていても、その構造設計が終わって詳細設計が決まると、それまで解析をやっていても加工の方に回るのでCADは使わない、ということが増えてきました」と、金井氏。

そうした流動的な組織ではライセンス数を柔軟に増減できるサブスクリプションが非常に有用だ。設計業務の中核になった若い社員たちが学生時代から使ってきたこともあり、ロケット設計のソフトをAutodesk Inventorに統一。CAMやCAEとの連携が優れていることも評価したという。配管や配線、見取り図などにはAutoCADを利用し、これらがコレクションされた Product Design & Manufacturing Collectionを導入している。

インターステラテクノロジズ ロケット 開発 ZERO
ZERO の機体イメージ [インターステラテクノロジズ 提供] [インターステラテクノロジズ 提供]

仲間を増やして社会を変革

現在、金井氏はプロジェクトのマネージメントから、他の会社を巻き込み、仲間になってもらって一緒に開発していくこと、さらには宇宙ビジネスの発展に向けて、地元の自治体や北海道、国など、周辺の環境も巻き込んでの宇宙ビジネスに向いた法整備やインフラ整備などに、より注力するようになっているという。

「せっかく宇宙に向けた機運が高まっているので、そのために仲間を増やして、社会を変えていくことへと興味が移っています。クラウドファンディングでは一般の人の仲間を増やしていますし、専門家の中で仲間を増やしていくために、学会へ頻繁に参加し、共同研究をさらに広げています。企業向けの「みんなのロケットパートナーズ」も、企業版ファンクラブのような位置付けの取り組みですね」。

100kgのペイロードを搭載できる軌道投入ロケットZEROが目指すのは、高度500kmの地球低軌道。そこへ到達するためには、今後もさまざまな挑戦が待ち受けている。「もちろんロケット自体を作ることもそうですが、発射場もかなりMOMOとは違ったものになります」と、金井氏。「地上実験用の設備も含めた発射場を作るのも、なかなかチャレンジングかなと思っています。そこもいま土台を踏み固めているところです」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP