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オフィスから住宅への転用をアルゴリズムで支えるツール

1910年建設のシカゴのオフィスビル111 W. Monroeは、Stantecの設計、The Prime GroupとCapriの開発で集合住宅へと再開発されている
1910年建設のシカゴのオフィスビル111 W. Monroeは、Stantecの設計、The Prime GroupとCapriの開発で集合住宅へと再開発されている [提供: Stantec]
  • 世界各地の都市部では商業オフィスの空室率が記録的に高くなっている一方で、アフォーダブルハウスは不足している。
  • オフィスビルの住宅への転用 (用途変更により全面改装で再生すること) は複雑だが、そのプロセスを効率化するツールが作成されている。これによりデベロッパーは、潜在的な転用プロジェクトを実現不可能なものから実現可能なものにするレイアウトを素早く選択できるようになる。
  • Office Shift Proは、理想的なソリューションを提供する完全なAI・機械学習主導のツールというよりは、もっと柔軟かつ杓子定規ではないアプローチであり、ジョブに合わせてソリューションをカスタマイズできる。

パンデミック後の高層オフィスビル市場の急降下と、危機的なアフォーダブル住宅不足の継続が、解決の難しい複雑なパズルを生み出している。主要なオフィス街にはさまざまな時代に建てられた高層オフィスビルが林立しているものの、住宅への転用に適しているのは、その中でも最も古いものだけであることが多い。古い建物は現在よりも間口が狭く、窓や自然光、新鮮な空気へのアクセスがしやすいのだ。

空調や電気さえなかった時代には、オフィスにはこうした狭めの間口と開閉可能な窓への近さが必要だった。現在は多くの場合、住宅への窓の設置が法的義務となっている。それでも古い高層ビルを集合住宅へ転用するには、建物の中心部を取り壊して窓を並べた吹き抜けを設けるなど、大掛かりな変更が必要だ。

設計事務所Sasakiのインテリアデザイン主任、リズ・フォン・ゲーラー氏は「そうしたコンバージョンプロジェクトがどれほど複雑なもので、また古い建物を裸にしたときにどれほどの発見があるかは、あまり知られていないと思います」と話す。

転用事例

シカゴでは建築家とデベロッパーが、低迷するラサールストリート回廊にあるオフィスビル群を1,600戸のマンションへと転用し、うち600戸は補助金付きのアフォーダブルなものとしている。またニューヨーク市では、エリック・アダムス市長が、市当局高官で構成され、転用プロセスを促進するOffice Conversions Acceleratorの協力のもとリソースの編成・組織を行い、新住戸2万戸の創生を行う計画を提案している。

DesignBridgeが設計、Celedon Partners Blackwood Groupが開発を手がけているシカゴのビル105 W. Adamsの改修工事
DesignBridgeが設計、Celedon Partners Blackwood Groupが開発を手がけているシカゴのビル105 W. Adamsの改修工事 [提供: DesignBridge]

住宅転用は連邦政府にも優先事項であり、バイデン政権はこの取り組みを支援する連邦政府のプログラムを策定したCommercial to Residential Federal Resources Guidebook (商業から住宅への連邦資源ガイドブック) を公開し、米国住宅都市開発省 (HUD) はオフィスビル再利用に関するCommunity Development Block Grants (地域開発建物補助金) 活用の追加ガイダンスを提供している。

2023年の第2四半期の米国のオフィス空室率は18.2%と30年ぶりの高水準に達し、商業不動産投資額は前年比で64%減少した。その一方で住宅市場では400万戸近くが不足しており、2021年時点で賃借人の半数近くが過剰な負担を強いられている。オフィスをマンションに転用することで、市場のギャップを埋めるだけでなく、CO2排出量を大幅に削減可能だ。初期の研究によれば、リノベーションした建造物はCO2排出量が新築より50-75%少ない。

より良いプランニングを実現するプレデザインツール

フォン・ゲーラー氏とSasakiで研究開発担当ディレクターを務めるケン・ゴールディング氏は、急増するオフィス転用の需要に対応するため、パラメトリックモデリングに似たプロセスで高層オフィスビルのフロアプランを分析し、それを住戸へ分割する方法を生み出すツールを開発した。Sasakiはこのツールを社内向けとし、そのサービスを建築関係のクライアントやデベロッパーに売り込むつもりだ。

Office Shift Proと呼ばれるこのツールは、住宅転用の際の住戸タイプの最適な組み合わせを大まかに2Dで作成し、その計画を財務上実行可能なものとする構成を見つけるためのプレデザインソフトウェアだ。これにより、デベロッパーがどうプロジェクトにアプローチするか、直感による反応をパラメーターによる厳密さをもって洗練させ、考え得るすべての選択肢へ広げて整理することでリスクを軽減できる。

「プロジェクトはリスクの高いものになります」と、フォン・ゲーラー氏。「建設費が高くローン金利も高いため、実際に収益を上げるには非常に効率的なレイアウトが必要です。 こうした既存建造物には、建築において相当の熟慮を要する独自の制約が数多くあります」。

柔軟でカスタマイズ可能なデザイン

ユーザーは、Office Shift Proのシンプルなインターフェースでオフィスの平面図をアップロードし、希望する住戸タイプ (ワンルーム、1ベッドルーム、2ベッドルームなど) と、各タイプのユニットサイズの範囲、廊下の幅、窓、賃貸料と転用工事費の見積を入力する。そのエンジンは、入力内容から床面積に応じた何千ものバリエーションを生成され、各ユニットがあらゆる方法で配置される。ユーザーは色分けされたスライダーで住戸タイプの混合率 (ワンルームと大型住戸の割合) を変更でき、オプションは面積の利用効率でランク付けが可能。

こうしたオプションにより、デベロッパーは取得や建設に資金を投入する前に、さまざまなシナリオを試行錯誤できる。共同キッチンやラウンジ、スポーツジムを備えたワンルームやワンベッドルームのマンションを若年層向けに売り込むことは可能だろうか?それとも、地階にスーパーや学校を併設した、より大規模で部屋数の多い家族向け住戸の建物の方が、費用対効果は高くなるのだろうか?このツールにより「ワンルームが80%を占める場合に利益は出るのか?」という仮説に答えることができるとゴールディング氏は話す。

プレデザインプロセスの早い段階でこうした不確定要素の一部を明確にすることで、他の要素を後からうまく収めることができる。デベロッパーが収益性を高めるための計画上のルートを早い段階で把握していれば、「実際にこのプロジェクトを実現するためには、どこにビルを購入し、市場がどこまで下落するのがよいのか」に答えられるようになると、フォン・ゲーラー氏は話す。

このパラメトリック拡散の結果は2軸の折れ線グラフチャートで示され、住戸タイプの組み合わせ率が収益性別にグループ化される。どの点もユーザーがツールに入力した大まかな住戸タイプ組み合わせのガイドラインに準拠しているが、若干の差異は含まれる。それぞれの点が特定の住戸の組み合わせを示し、より大きな点は、各住戸が指定のフロアに配置される際により多くの選択肢を提供する特定の住戸の組み合わせを表す。将来的には、自然光モデリングや3Dジオメトリを統合するよう拡張することも可能だろう。

これは完全なAIや機械学習主導のツールというより、さらに柔軟で杓子定規ではないアプローチだ。Office Shift Proはジョブ毎にカスタマイズが可能で、設計士やデベロッパーの判断に応じて店舗やアメニティのスペースを設けるよう微調整できる。「私たちが提供するツールは、特定の市場と特定の建物に特化したものです」とゴールディング氏は話す。デベロッパーは「収益のロスに直結するアメニティスペースを、そのニーズを満たすために建物内でどれだけのスペースを割り当てられるか」を検証できると、フォン・ゲーラー氏は話す。

研究者には、アダプティブリユース プロジェクトにおけるプレデザインへのAIの応用を検討している者もいる。アダプティブリユース プロジェクトは現存する施設と長い歴史により複雑なものとなるため、未開発地域の新規建設では重要視されないような手法による既存インフラの詳細な理解が重要だ。そのため、AIが管理するリアリティキャプチャ技術は強力なアドバンテージを提供できる。アダプティブリユースが行われる既存の建物の写真や3Dスキャンを集め、それらをフォトグラメトリエンジンでつなぎ合わせることで、AIにより敷地の要素 (景観タイプ、建物構成、循環ルート) を特定し、それらを品質や機能を定義する特定のメタデータでタグ付けすることが可能だ。リアリティキャプチャとリアルタイムセンサーを組み合わせることで、AIに気候属性だけでなくエネルギー負荷やCO2排出効率も取り入れることができる。

学術誌『Sustainability』に詳述されているとおり、中国の研究者たちは、広州市にある閉鎖された大規模工業用地のアダプティブリユースにAIをどう活用できるかを調査中だ。このグループは、2つのニューラルネットワークをペアにして互いに対抗させるGenerative Adversarial Networks (GAN) の開発に注力している。これは、一方のネットワークが特定の敷地のデザイン介入策を提案すると、もう一方がその提案を選別して受け入れ、または拒否するというもので、元のニューラルネットワークを、より良質かつ正確な結果を生成するよう訓練する。GAN技術は、ここでは敷地内の要素 (道路、歩行者道、緑地、さまざまなタイプの建物、駐車場) の特定と分類、環境性能の評価に使用される。

アダプティブリユース プロジェクトは長い文化的歴史を持つ有名な歴史的建造物に適用されることが多いため、中国の研究者チームは自然言語モデルを使用して潜在的リユースに関するパブリックコメント (ソーシャルメディアへの投稿など) を分析し、そこから設計者がプログラミングのアイデアを簡単に引き出せるように整理する方法も検討している。この自然言語モデルは、潜在的リユースに関するアンケートを作成し、その結果を整理して、ほぼ自動化されたパブリックコメントのフィードバックループを生み出すこともできる。

Office Shift Proが示すように、アダプティブリユースにおけるAIの可能性の多くは、既存の建物の適用可能性の評価と、アダプティブリユースのコストの大きなばらつきへの対処にある。既存の建物の機能を根本的に変えることは、新築よりもずっと安くなることも、高くつくこともある。だが建物のデータセットがより強固なものになり、それを選別するAIの能力がさらに洗練されれば、こうしたアルゴリズムは、より広範なタイプの建物のアダプティブリユースの費用対効果について、よくある世間一般の通念による憶測のない、極めて綿密な見積を算出できるようになるだろう。

「もし私たちの誰かに間取り図が手渡され、ある住戸タイプの組み合わせを作るように言われたら、自分たちの考える建物のあるべき姿を基にした先入観を持ってしまうでしょう。そして、そこから逃れるのは非常に難しいものです」と、フォン・ゲーラー氏。「このツールなら、そうした先入観をたやすく乗り越えることができます」。