マス ティンバー: モダンな高層木造建築で絶賛される建材
- マス ティンバーはコンクリートに代わる環境に優しい革新的な建築材料。
- マス ティンバーは釘接合集成材、ダボ集成材、接着集成材、直交集成材、単板積層材、ストランド積層材の6種類に大別される。
- 木材はリサイクルできるため、建築に使用されたマス ティンバーは2度目、3度目の活用も可能。
- マス ティンバーは汎用性が高いため、サプライチェーンの上下を垂直統合できる可能性がある。
世界最古の高層木造建築とされる中国の応県木塔は約1,000年前に建てられた9層、高さ67mの仏塔で、幾つもの王朝と多様な天候、そして度重なる地震を耐え抜いてきた。この素朴な八角塔では 54 種類もの木造継手が使用され、釘は一本も使われていない。
この例を見ると、高層木造建築が行われなくなった理由とされる常識が妥当でないように思えてくる。木材は多少の日光と土、水さえあれば育つ建築材料で、鋼より軽いが、それに匹敵する強度を持つ。そして大気中の炭素の活発な吸収と隔離を行う。
魅力的な可塑性を持つコンクリートは、建築家にとって環境的な代償を伴う。この木骨造の仏塔が現代の確認検査をパスするのは無理だろうが、従来にはない高さを木造で達成する新たな木構造が研究、再提案されつつある。この「マス ティンバー」と呼ばれるシステムは、I形梁やカーテンウォールの登場のように、斬新な変革をもたらす材料革命を推進する可能性を有しているのだ。
マス ティンバーとは?
マス ティンバーとは、複数の木材を組み合わせて圧縮強度と張力強度を向上させた集成材であり、プレファブリケーションによる建物やモジュール建築に適している。
この集成材が、最大で14階建ての完全木構造に使用されることも多くなってきた。10階建てと12階建ての木造建築に挑戦するデザインコンペもある (各国の建築基準法では従来の木骨造による建築物の階数を6階までに制限していることが多い)。マス ティンバーには、長さ約46m、厚さ約51cmになるものもある。
北米で考案された集成材もあるが、 CLT (直交集成板: 大抵は高層ビルに使用される) は何十年も前にヨーロッパで開発されたものだ。マス ティンバー研究の多くに建築家やエンジニアが参加しており、既存の構造を新たな建築に応用する方法を模索している。木造建築物を設計する建築家やエンジニアに技術支援を提供する組織、WoodWorksの業務執行取締役ジェニファー・カバー氏は「用途と利点を理解し、規制緩和が期待通りのスピードで行われるよう研究を進めることが非常に重要です」と語る。
高層木造建築における洗礼者ヨハネのような存在であるマイケル・グリーン氏は、マス ティンバーは建築家が材料科学と開発に直接関わることのできる機会だと述べている。「私たちはデザイン コミュニティとして、この議論で製作側の立場に戻ることができるのです」。
グリーン氏は「マス ティンバー」という語を6年前に生み出したと話す。彼が手掛けた、ノーザン ブリティッシュ コロンビア大学にある高さ約30mのWood Innovation Design Center (WIDC) は、北米で最も高い木造建築だ。これに続く幾つかのプロジェクトも、その一部はグリーン氏によるものだ。彼は現在、木造30階建ての建築物の企画書に取り組んでいる。
マス ティンバーの材料は?
重量木材は、厚いひき板を接着したものだ。
- NLT (釘接合集成材) はアルミ製の釘を使用してひき板をつなぎ合わせており、切断してサイズを変更できる。
- DLT (ダボ集成材)は、NLTに似ているが、木製のダボで木材を固定する方式。
- GLT (接着集成材) は接着剤を使用して、ひき板を接合。
- CLT (直交集成材) はジェンガのように、ひき板の方向が直交するように並べることで、さらなる強度を付加している。これらはパネルとして使用されることが多いが、CLT はほぼ全ての構造機能に使用することができる。
合板と同様、集成材は複数のひき板を貼り合わせて作成され、梁として使用されることが多い。
- LVL (単板積層材) は幅広の薄い板を、繊維方向を揃えてサンドイッチ状に貼り合わせたものだ。
- LSL (ストランド積層材) は、細かく裁断された木材を熱圧成型したもので、これも繊維方向は揃えられている。
コンクリートとマス ティンバーの両方から成る複合構造は、木材を使用することによる確かな緑化効果を加えつつ、より高層な建築にも対応する。例えば、木造に関するSOM レポート (英文) は、このハイブリッド システムでも、コンクリートのみの同等のビルに比べて炭素排出量を60–75%抑えることができるとしている。マス ティンバーが進展するにつれて、「エンジニアたちは、構造上および環境上のパフォーマンス両方を実現するにはビル内のどこにどの材料を使用するのがベストなのかを判断するようになるでしょう」とカバー氏は話す。
マス ティンバーのメリットは?
炭素排出量の削減
強度重量比に加えて、最も大きな利点となるのが炭素隔離だ。木は成長中に大気の炭素を取り込み、木材内に留める。20階建てビルに使用される木材は、3,150t (英文資料参照) の炭素を隔離できる。同程度のビルの建設に使用されるコンクリートは、1,215tの炭素を排出するため、これにより削減できる炭素排出量は900台の自動車が1年間に排出する量に匹敵する。
廃棄物の他目的利用
さらに木材は柔軟で現場で迅速に処理でき、必要に応じて簡単に切断したり変更を加えたりできる。また木材は、ビル解体後はさまざまな用途にリサイクル可能だ。木材は大型建築で仕上げ材として使用されることが多いが、その豊かで自然な質感 (と人々が感じる魅力) は、構造体や外壁、内壁としても機能する。
マス ティンバー建築のデメリット?
研究者はこれまで、木材が対処できない構造上、建築上の機能を発見していないが、木材も完璧ではない。オレゴン州立大学木材科学工学科のレフ・ミュジンスキ教授は、木造では消音効果が問題となることが多いと話す。「バイオリンが木製なのは偶然ではありません」と、ミュジンスキ氏。また木材は、鋼やコンクリートは異なり虫害にも弱い。さらに高温多湿の地域では、湿気や劣化を防ぐため慎重な仕上げが必要となる。
耐火性については、全ての建材は同じ建築基準法に準拠しなければならないが、マス ティンバーは分厚く硬いため、強度を保ったまま外側からゆっくりと予測可能な速度で炭化する。それにより延焼速度が抑えられ、避難時間を確保できる。炭化部分は木材をさらなる崩壊から守り、ビルの構造上の完全性を維持し、木材が炎の燃料となるのを抑える。これはつまり、マス ティンバーを使用して、より高層構造を建築可能ということだ。
森林破壊に対するマス ティンバーの影響は?
これに関して、マス ティンバー推進派は米国内の約3,040平方kmもの森林が、何十年にもわたって不変であると反論している。これは米国の国土の総面積の1/3に相当する、膨大なエリアだ。「北米の森は、CLTを用いた8-10階建てビル1棟分に相当する木を5分で育てることができます」と、グリーン氏。
安定性を促進するひとつの方法は、例えば森から得られる木材を、持続可能性に優れたビルをより多く建設することに使用するなど、森林の金銭的価値を維持することだ。「木製品の市場が強力であれば、森林管理に投資するだけでなく、他の用途のために森林を伐採するのではなく、森への植林を続ける動機を地主たちに与えます」と、カバー氏は話す。
マス ティンバーによる建築システムの未来は?
研究者たちは、地球上で最も成長スピードの速い植物である竹など、他の材料についても研究中だ。オレゴン州立大学木材科学工学ラボでは、科学者たちがマス ティンバーに低価値の木材を使用する方法を模索している。
また建築家たちも、郊外型大規模小売店や大学施設、橋など、マス ティンバーに理想的なビルやインフラの種類を検討している。事実、専門家たちは、マス ティンバーの代表的な建築が必ずしも高層ビルだというわけではないと話している。だがこの素材は便利なので、高層マス ティンバー建築が偶像以上のものになる可能性は高く、いつの日かユビキタスな存在となるだろう。「鉄骨造におけるエッフェル塔のような存在です」と、ミュジンスキ氏。「このテクノロジーがもたらす可能性を示しているのです」。
「高層ビルは、何が可能なのかという一般認識を一変させるのです」と、グリーン氏は述べている。
マス ティンバーとサプライチェーン
Autodesk Technology CentersのOutsight Networkメンバー、Timber City Research Initiativeのリサーチ コーディネーターを務めるGray Organschi Architectureのアンディ・ラフ上級参与は、デザイナーがマス ティンバー メーカーと並行して作業し、サプライチェーンに組み込む能力を身につけることで「デジタルで実行可能なファブリケーションに直接変換できるドキュメントを作成する」ことが目標になると語っている。
マス ティンバーには、構造やファサード、断熱、内装などさまざまな要素が含まれる。「単一の材料、単一のサプライヤーで、建物の大部分を作ることができるのです」とラフ氏は述べる。こうした材料の多様化で、垂直統合の可能性も高まる。マス ティンバーは既に平均10-25%のスケジュール短縮を実現しており、垂直統合は独自チェーンで作成されたデータの所有権の可能性に加えて、付加価値のある効率性を提供する。
こうした理由から、ワシントン州立大学デザイン・建設学部のディレクターであるライアン・スミス氏は、材料サプライヤーが加工や製造へ進出し、ゼネコンはサプライチェーンを上下に移動していると見ている。
スミス氏は、メーカーにとっての問題は「自分たちは既に素材を製造しているのに、なぜそれを加工しないのか、なぜそれを使って作らないのか?」ということだと言う。「デザイナーはデベロッパーや協力会社、プレファブリケーションの会社のために働いています。設計や現場での組み立てまでコントロールすることで、マス ティンバーのファブリケーターは納品までの全プロセスを、さらにコントロール可能になります。私は、特にコロナ禍により、企業統合が起こると考えています」。
オートデスクの工業化建築戦略・エバンジェリズム部門を率いるエイミー・マークスは、「我々は現在、木材に留まらず工業化建築の分野において、業界がプレッシャーを感じていることを目の当たりにしているのです」と述べている。
この記事の一部は、Autodesk Technology CentersでAEC部門の業界エンゲージメントマネージャーを務めるソフィア・ゼロフ、オートデスクの工業化建築戦略・エバンジェリズム部門を率いるエイミー・マークスがホストし、Autodesk の工業化建設戦略およびエバンジェリズム責任者 Amy Marks 氏がモデレーターを務めた、 Autodesk Technology Centers の「Outsights: Design & Construction for Mass Timber」パネルから引用したものです。
この記事は2016年4月に掲載された原稿をアップデートしたものです。