AECO

AECO教育をAIの活用でリードし、より良い建造環境を実現するハワード大学

最先端のテクノロジーにより、学生たちが教育課程でサステナブルなデザインに取り組む方法が再構築されつつある。


ハワード大学に新設されたDesign and Make Labにはサンフランシスコのオートデスクテクノロジーセンターと同様のテクノロジーが導入される

[提供: Autodesk]

ハワード大学に新設されたDesign and Make Labにはサンフランシスコのオートデスクテクノロジーセンターと同様のテクノロジーが導入される

Zach Mortice

2025年10月23日

分: 読書時間
  • 建造環境の持続可能性目標を達成するには、今後を担う建築家やエンジニアに対する厳しい技術トレーニングが必要となる。

  • 歴史的な黒人大学であるハワード大学は、スキル構築、没入型学習、学際的連携のためのデジタルデザインラボとメイカースペースを備えた新しいラボDesign and Make Labを創設する。

  • このようなスペースは、デジタルデザインを第一に考え、AECO分野の多様性を高める可能性を秘めている。

  • AIを活用することで、AECO業界における作業を効率化し、反復作業を最小限に抑え、地域社会に配慮した設計を行う余地を増やすことができる。

カーボンニュートラルな建造環境へと向かうのに必要な推進力には前例のないインフラ整備が必要となる。建築、エンジニアリング、建設、運用 (AECO) 業界とそれらを支える教育機関は、ある不都合な事実に直面している。「米国では、AECO業界に必要な技術スキルを持った人材を十分な人数だけ輩出するのには程遠い状況にあります」ハワード大学工学建築学部長ジョン・アンダーソン氏はこう話す。「非常に大きなギャップがあります」。

エデュケーターはAIとデジタル設計ツールを取り入れ、「刻々と変化する国の建造環境に関する持続可能性目標達成に必要なAECO業界の労働人口を生み出す」必要があると、とアンダーソン氏。「それ以外に方法はないと思います」。アンダーソン氏にとってAIは、学生がより速く学ぶのに役立つ教育ツールであり、エンジニアやデザイナーがその才能を最も必要とされる場所で発揮できるようにする効率化装置なのだ。

未来への投資

6月、オートデスクはハワード大学工学建築学部に500万米ドルの寄付を行った。これは大学の歴史において最大となる慈善寄付だ。この投資は、最先端のラボDesign and Make Labの開発に役立てられる。約232平方メートルのこの新施設には、デジタル設計ラボ、メイカースペース、教室スペースがあり、幼稚園児から高校生までのSTEM活動を受け入れる。全米で最も由緒ある歴史的黒人大学にこのような施設が設置されることは、依然としてほぼ白人のみが占める業界を多様化するうえで大いに役立つだろう。黒人の割合は、機械エンジニアは3%建築家は2%に過ぎない。

新しい研究室にはバーチャルリアリティスペースも設けられる
新しい研究室にはバーチャルリアリティスペースも設けられる

「ここは、設計・製造・学習を統合した空間です」と、アンダーソン氏。「理想的な環境では、生徒たちが何らかのニーズを持つ顧客と対話し、仕様を作成し、プロトタイプを設計するところまでできます」。

電気工学の博士号を持つアンダーソン氏は、このラボをデザイナーと顧客をつなぐだけでなく、学際的連携のハブにしたいと考えている。「このアイデアは、必ずしもつながる機会に恵まれているとは限らない大学の異なる分野を結びつける原動力としてこれを利用しようというものです。例えば、経営学部の学生とコンピューターサイエンスや工学部の学生が互いに協力して、ある目的を達成することができるのです」。

デジタル設計の統合

それは、アンダーソン氏自身が電気工学を学ぶことになった経緯にも似ている。アンダーソン氏の父親は医学博士で、ハワード大学の卒業生でもあったが、アンダーソン氏が7歳のときに他界した。父親は生前、電子工作キット (抵抗器、コンデンサーなど) を彼に残していた。父親は通信講座を受講していたのだ。アンダーソン氏がこれらのキットが何なのかに気づいたのはずっと後のことで、この発見が、彼のキャリアを動かすきっかけとなった。

ハワード大学工学建築学部では、学部生と大学院生を対象に機械学習入門コースを提供しており、デジタルデザインを重視している。Design and Make Labに加え、同校はホールランゲージモデルラボを運営しており、そこではAIが重要な役割を果たしている。さらに、政府スポンサーや産業界パートナーが学部生や大学院生の研究に資金を提供している。

通常、カリキュラムは各分野で活動する研究者である教授陣によって進められる。「それは学部長レベルからもたらされるわけではありません」と、アンダーソン氏は言う。「その学科内でリーダーとして認められている学科レベルの教授陣が、カリキュラム委員会や他の教授陣と協力し、学生が機会を失うことがないよう、どう準備すればよいかを考えるのです。当校はコーネル大学、マサチューセッツ工科大学、パデュー大学ほど規模が大きくないため、常に実力以上の成果を出せるように努力しています」。アンダーソン氏は、その実現度合いは多くの場合、オートデスクとのようなパートナーシップによって支えられていると説明する。「それは、現在のリソースレベルで可能な限り幅広い機会を学生に提供するためです」。

教育におけるAIの役割の拡大

アカデミアにおけるAECOの進化を次の段階に進めるには、さまざまな背景を持つ建築家やエンジニアの専門知識を広げるだけでなく、教育機関自体の能力も拡大する必要がある。そのためには新しいデジタル教育ツールが必要だ。アンダーソン氏は、AIが生徒の知識に合わせて授業計画をその場で組み立てて提示できる、反応性の高いパーソナライズされたツールを作る可能性があると見ている。これらのツールはテキストや画像によるコミュニケーションが可能で、さまざまなソリューションを比較対照し、パーソナライズされた方法で生徒の学習とコース目標を動的に整合できる。「うまくいっていれば後押しし、そうでなければ引き寄せることができます」とアンダーソン氏は説明する。

自身も教育者であるアンダーソン氏は、STEMエデュケーターがAIに責任を委ねすぎることには注意が必要であることを理解している。「この綱渡りのような状況は、これからのSTEM教育の一部になるでしょう」と、アンダーソン氏。「これらのツールをどう活用し、悪用から守るのか。何か問題があったときにそれを生徒が理解し、盲目的に使用するようなことがないようにするにはどうすればいいのでしょうか?」

AIは、建築、コンピューターサイエンス、エンジニアリングにおいて、重要かつ時間のかかる反復的な細かな作業を支援できます。しかし、建物やプロジェクトのコンセプトや全体的なインスピレーションを展開させることはできない。「全体像の中の小さな部分のコードの修正に2時間も費やす必要はありません」と、アンダーソン氏。「そのおかげで、開発しようとしているソリューション全体について、より幅広く、より創造的に考えることができます」。

地域社会とのつながり

ジョン・アンダーソン氏
ジョン・アンダーソン氏 [提供: John Anderson/Howard University]

アンダーソン氏がAIの恩恵が得られると考えるデザインの一分野に、しばしば軽視されているコミュニティへの働きかけや意見の収集がある。このプロセスは本質的に時間がかかり、不正確で、明らかに非デジタル的だ。だが不可欠であることには変わりない。医療現場であれば、「私は現場にできるだけ長く身を置いて、患者、医療専門家、メンテナンススタッフ、管理者からの情報吸収にもっと時間を費やすでしょう」とアンダーソン氏は話す。

どのようなプロジェクトでも、それをコミュニティに効果的に根付かせるためのカギは、それを利用する人々との間に信頼関係と透明性を築くことにある。このステップは、コミュニティがそのスペースに求める繊細なニーズや要望を明らかにするのに役立つ。例えば3Dモデル要素にラベルを貼るような作業に時間を費やすよりも、クライアントやコミュニティに属する人々と、現在のスペースで何がうまくいっていないのか、どうすればそれを解決できるのかについて話すことは、デザインの能力を活かす、はるかに優れた方法だ。

同様に、アンダーソン氏は、比較的退屈なメンテナンスという仕事は、AIの有用な活用方法だと考えている。過去の実績データに基づいて訓練されたAIアルゴリズムは、エスカレーターや地下鉄車両などの公共インフラの故障しそうな時期を予測し、必要なスタッフ、設備、修理部品を準備しておくことができる。「エスカレーターが故障するのを待って修理チームを派遣するのではなく、深夜0時にチームを派遣して予防保守を行うことでエスカレーターの故障を防ぐことができるのです」アンダーソン氏はこう説明する。「これにより、スループットは向上し、顧客の満足度も高まります」。

教育現場においては、AIの価値は純粋な便宜性だけで測られるものではない。アンダーソン氏によれば、与えられた問題を解決するためのさまざまな方法を目にすることは、生徒たちにとって大きなプラスになる。「極めて簡単に何かを作ることができるという事実は、自分のデザインがどのようにして生まれたのかを掘り下げて考えるきっかけになります。これはAIがもたらす喜ばしい成果と言えるでしょう」。

Zach Mortice

Zach Mortice について

ザック・モーティスはシカゴ在住の建築ジャーナリスト。

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