エッフェル塔とシャン・ド・マルス公園の景観を変容するプランの内側

2024 年のオリンピックに向け、パリ市はエッフェル塔周辺の公園を再設計するコンテストを開催。コンペに勝利したロンドンの GP+B の計画はグリーンで歩行者を重視した、アイコニックな「鉄の貴婦人」にふさわしいものとなっています。


Paris held a competition, called the Grand Site Tour Eiffel, which called on landscape architects to submit designs for redevelopment of the park lands along the Eiffel Tower.

Park land around the Eiffel tower

Maxime Thomas

2020年7月15日

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Gustafson Porter + BowmanによるOnEプロジェクトでは、手前のトロカデロと奥の陸軍士官学校を結ぶ軸線上に緑地を復元する。
Gustafson Porter + BowmanによるOnEプロジェクトでは、手前のトロカデロと奥の陸軍士官学校を結ぶ軸線上に緑地を復元する [提供: GP+B]

1889 年のバリ万国博覧会に合わせて建設されたエッフェル塔は、常設でなく 20 年後に解体される予定だったが、いまやパリを象徴する不朽の遺産となった。当時世界で最も高い建物だったこの塔は、無線電波送信の重要性が高まったことで、テクノロジーの象徴として幸いにも難を逃れたのだ。

それ以来、エッフェル塔周辺は景観デザインの流行に応じて変化を遂げてきた。現在、シャン・ド・マルス公園と芝地は、トロカデロ広場同様に観光客で混雑している。年間 2,000 万人を超える訪問客が塔の下へ押し寄せ、うち 600 万人は、この高さ 324 m の構造体の少なくとも 1 階部分に足を踏み入れている。

2024 年開催のパリ夏季オリンピックに先立ち、エッフェル塔に沿って広がる 53 万 8 千平米の公園エリアの再開発が予定されている。そのデザインを選択するため、パリ市は「Grand Site Tour Eiffel」という名のコンペを開催。そこで重視されたのは、市民に「鉄の貴婦人」と呼ばれるこのアイコニックな構造物が歴史と自然環境を尊重した形で扱われ、そのエリアの多くが植物や公園、歩行者に返還されることだった。

アイコニックな空間の再考

エッフェル塔 緑のカーペット
塔の下の緑のカーペットのレンダリング画像 [提供: GP+B]

パリ市議会の説明によると、この公園の再設計は「都市として、また景観としての遊歩道を創造、演出し、公共空間の利用に際して歩行者が優先されるようバランスを取り戻して、交通量を最適に管理する」よう意図されている。

ランドスケープ アーキテクトたちは、この敬愛されるエリアの精神を尊重しつつも現代化するという難しい問題に直面。さらにパリ市は、特に制約の厳しい都市計画法の範囲内で改修を行うという難題も課した。このエリアは「保護地域」に指定されているため、ほんのわずかな変更にも市の認可が必要となる。

全 42 作品から選出された Grand Site Tour Eiffel アワードは、最終的にロンドンのスタジオ Gustafson Porter + Bowman (GP+B) のランドスケープ アーキテクトたちが勝ち取った。GP+B は厳格な制約事項に従って OnE (One Line) プロジェクトを生み出している。当初のアイデアは、トロカデロ広場から旧陸軍士官学校までの軸を強化するものだった。本プロジェクトの立案者のひとりであるランドスケープ アーキテクトのメアリー・ボウマン氏は「その実現のため、トロカデロ広場を再び芝生化し、階段で占められたワルシャワ噴水周辺の空間を段付きのスロープのデザインで強調することにしました」と話す。

イエナ橋のデッキは植物で飾られ、歩行者専用となる予定だ。GP+B はシャン・ド・マルス公園の芝面の補強も提案していると話すボウマン氏は、高さを 30 cm ほど上げることで「中心軸の景観が強化される」と説明する。

19 世紀と 21 世紀の融合

トロカデロ広場 噴水周辺 歩行者専用
トロカデロ広場の噴水周辺は歩行者専用となる予定だ [提供: GP+B]

オートデスクとフランス企業 Gexpertise は、スキャンから BIM を作成する技術を用いて、コンペ参加者向けに、最終デザインを説明するための現場のモデルを作成した。このモデルは、トロカデロ広場とシャン・ド・マルス公園、ブランリ通り沿いと、アルマ橋とビル・アケム橋の間のエッフェル塔周辺エリアのスキャンとフォトグラメトリーで収集された、35 GB 近い点群データ (測量データ) を基に作成されたものだ。

定義されたエリアには建物や道路、歩行者専用道路、緑地、セーヌ川が含まれ、それらをベースに Autodesk InfraWorks を使い、Grand Site Tour Eiffel プロジェクトへの参加者向けにエントリー用の簡略化したモデルが作成された。

車や舗装に飲み込まれていた歩行者用の空間を取り戻すことにより、GP+B はパリに新しい訪問者体験を生み出せると期待している。GP+B のランドスケープ アーキテクト、ギル・デウェーバー氏は「交通流量の観測、歴史調査など、社会学的調査を行いました」と話す。

エッフェル塔に重なる軸に沿って広がる絵画のように美しい庭は、デウェーバー氏によると「草木豊かなイギリス式の自然風景式庭園でありながら、それを極めてフランス的な平面幾何学式庭園にうまく当てはめた」スタイルであり、新たに整備が行われる。GP+B は、この塔が建設された時代に公園や庭で伝統的に使用されていた草木を加えることで、印象派の作風も取り入れている。

「我々は、これらを“記憶”植物と呼んでいます」と、デウェーバー氏。「人々が 19 世紀の公園や庭で楽しんだ散歩を想起させるものです」。ここには蜜をもたらす花や実を付ける野生植物が含まれており、「受粉する虫や鳥、その他の微生物を含めた、全体としての魅力を最大限に引き出します」と、デウェーバー氏。

環境面においては、排水機能と生態系の多様性を促進するべく、GP+B によって、より多くの緑地と透水性舗装が加えられる予定だ。緑豊かなこの公園は、名だたる散歩道へ季節に応じた変化をもたらすことになるだろう。芝生 (これまで通り立入り可能となる予定) を守るため、新たな座席設備も提案されることになっている。

エッフェル塔周辺エリアの再開発は 2021 年から 2023 年にかけて行われる予定で、その間もエッフェル塔は営業を続ける。もちろん、それはパリ市民と世界から訪れる観光客が、この世界でも非常に貴重な空間を再び楽めるようになり次第の話だ。

Maxime Thomas

Maxime Thomas について

フランスのラジオのエディターを務めるマキシム・トーマスは、デジタル トランスフォーメーションやその結果など、産業化のさまざまな面をカバーしています。

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