ディズニーのストーリーとテーマパークにさらなる感動をもたらす革新性と業界コンバージェンス
- ディズニーの名高い映画やテーマパークの全てにおいて、ストーリーテリングが核となっている。
- ディズニーのテーマパークにおける没入体験は、建築家、アーティスト、技術者、エンジニアの連携で生み出されている。
- ディズニーのテーマパークやアトラクションのデザイン、制作、設置のために幅広い分野の調整を行う際にはBIMがカギになっている。
1995年にウォルト・ディズニーが初のテーマパークとしてカリフォルニア州アナハイムに元祖ディズニーランドをオープンした際、そこを歓びに満ちた場所にしたいと考えた。そこは結果的に、それ以上の何かを生み出す場所になった。楽しいというだけでなく、人々の興味をそそり、夢中にさせ、感動を与え、没入感をもたらす。極めて直感的で、理屈抜きに忘れられない体験が得られる。
ディズニー自身は、これを「魔法」と呼んだ。だが現在、この独自の創造性のブランドは「イノベーション」と呼ばれるようになった。それは意欲的なエンジニア、独創力豊かなアーティスト、最先端の技術の産物であり、絶えず人々の心をつかんで離さない。では「地球上で一番ハッピーな場所」であるディズニーランドは、地球上で最もビジョナリーな場所でもあるのだろうか?
ディズニーランドと11のディズニーパークでは、新しいアイデアがジューシーでおいしい、熟したリンゴのように育つ。だが、ディズニーのテーマパークをこれほど卓越した存在にしているのは、その斬新なアイデアだけでなく、実行する方法でもある。
ディズニーテーマパークのアトラクションの開発、デザイン、制作を担当するWalt Disney Imagineering (WDI)の副社長兼テクノロジースタジオエグゼクティブ、ベイ・ヤン氏は「これまでの概念を転換させるような、変革の体験を生み出すこと。それが私たちの仕事です」と話す。「ウォルト・ディズニーはディズニーパークについて“パーク内にいる間、人々の目に日常の世界が入らないようにしたい。現実とは違う、全くの別世界にいるのだと感じて欲しいのだ”と言っていました。それを実現するため、我々は現時点で利用できる、あらゆる手段を活用しています」。
ディズニーは建築、デザイン、工業生産、デジタルメディア、アニメーション、アニマトロニクス、3Dモデリングなど、さまざまなトリックを使って、最大の効果を生み出している。
「Walt Disney Imagineering (WDI) は、業界の中の業界と言えます」と、ヤン氏。「我々が提供したいと考える体験を実現するには、こうした業界全てをひとつにまとめる必要があります」。
WDIは業界コンバージェンという概念を発明したわけではないが、そのアイデアを深遠かつ先駆的な方法で完全なものとしている。そのアプローチを理解することは、あらゆる分野、あらゆる規模の企業が、ディズニー規模のイノベーションを実現するのに役立つだろう。
多才なストーリーテリング
ディズニーは映画やテーマパークが有名だが、その核となっているのはストーリーだ。
「ウォルト・ディズニー・カンパニーは、ストーリーテリングの会社です」と、ヤン氏。「人類が世界の仕組みを理解しようと星空を見上げて以来、教訓を示したり、アドバイスを提供したり、世代から世代へと知識を伝えたりするのにストーリーを用いてきました。これは人間同士がコミュニケーションを行い、コネクトするための基本的な方法であり、変革の体験を生み出すのに使用するツールなのです」。
ディズニーのストーリーは、「英雄の旅」と呼ばれる古典的な構成で構築されている。この構成では、ごく普通の人間が特別な任務を請け負う。訓練を授け、準備を整える師の助けにより、幻想的な場所での途方もない挑戦に立ち向かい、最終的には英雄となって、そこから意気揚々と戻ってくる。
ヤン氏はディズニーランドを例に、「ディズニーのパークは、そうした体験をゲストに提供します」と述べる。ディズニーランドでは、ゲストは極めて平凡な場所であるメインストリートUSA (世界のディズニーパークにあるテーマランドのひとつ) から旅をスタートさせ、遠くに見える、眠れる森の美女の城に魅了され、探索と冒険の機会で溢れたパーク内へと誘われる。
この城は、業界コンバージェンスの最適なキャンバスだ。単調な物語を3次元の描写へ変化させることで、より良質で人々の心を引きつけるストーリーテリングが可能となる。
「最初に建てた城は、人々をパークの中心へと引き寄せる、英雄の旅への行動喚起でした」と、ヤン氏。「比較的新しい上海ディズニーランドのエンチャンテッド・ストーリーブック・キャッスルは、城内もほぼ完全に再現されており、実際に城内に入って体験が可能です」。
これは建築家、アーティスト、エンジニア、技術者、デジタルメディアプロデューサーなどのコンバージェンスの賜だ。
では、同じ上海ディズニーランドの「カリブの海賊: バトル・フォー・サンケン・トレジャー」はどうだろう。ディズニーランドにあるオリジナルの「カリブの海賊」アトラクションがジオラマベースの完全アニマトロニクスであるのに対し、上海の新バージョンは磁石を動力に使用したボート、従来の受動的なものとは異なる次世代のインタラクティブなアニマトロニクス、没入感のあるデジタルメディアが使用されており、その全てが精密に同期して演出される。
「そのため、非常に複雑なものとなりました」と、ヤン氏。「それは統合を意味します。我々にとって、統合とは選択ではなく必然だったのです」。
超然的な統合
コンバージェンスの成果は、フロリダ州オーランドのウォルト・ディズニー・ワールドのように、規模が大きくなるとさらに明白になる。
「全面積は110km² もあり、マンハッタンの倍の広さです」と語るWDIのエクゼクティブクリエイティブディレクター、アサ・カラマ氏は、ウォルト・ディズニー・ワールドにある4つのテーマパークそれぞれが「小さな街」となっており、ライドやアトラクションだけでなく発電所や浄水設備、交通網を備えていると述べる。「こうした都市規模の体験を生み出すことは、デザイン上は大変な挑戦です」。
そして最大の難題となったのが、ディズニーランドとディズニー・ワールドにある「スター・ウォーズ: ギャラクシーズ・エッジ」だ。「エンチャンテッド・ストーリーブック・キャッスル」と「カリブの海賊: バトル・フォー・サンケン・トレジャー」は単体のアトラクションだが、「スター・ウォーズ: ギャラクシーズ・エッジ」は映画「スター・ウォーズ」シリーズに基づくイマーシブなテーマパークで、「映画用に製作されたセットに匹敵するレベルのディテール」を持っている。「このテーマランドの拡張は、ディズニーパーク史上でも最大規模のものでした。クリエイティブ面でも、技術面でも、そしてロジスティクス面でも、最も野心的なプロジェクトです」。
このパークを代表するアトラクションがミレニアム・ファルコンの実物大のレプリカで、スター・ウォーズファンが自ら操縦し、銀河系の旅をバーチャルに楽しめる。
全長33.5mのミレニアム・ファルコンについて、カラマ氏は「デザインチームも大規模なら、アトラクション体験も壮大で、本当にビッグなプロジェクトです」と、話す。「コンセプトアーティスト、デザイナー、ファシリティアーキテクト、インテリア デザイナー、ショーセットデザイナー、グラフィックデザイナー、メディアデザイナー、ライドエンジニア、ソフトウェアデベロッパー、そして数々のパートナーなど、世界各地の140業種以上の人材が関わっています」。
カラマ氏は、時間帯をまたいだ多様な分野の連携は「ヘラクレス級」の難題だったとしており、これほどの規模でのコンバージェンスが成功した秘密はBIM (ビルディング・インフォメーション・モデリング) にあると話す。「最終的にゲストが楽しむ体験は、600を超えるさまざまなモデルの産物です。その全てがデザイン、製造、設置を包含した単一のソースに統合されています」と、カラマ氏。「モデルを扱うことは、我々が作り上げようとしているもの、それをどう作ろうとしているのかについて、互いにはっきりと表現するための最も重要な手段です。私はそれを、進捗をリアルタイムでトラッキングすることに利用しました。これにより特定の問題にチームの焦点を合わせ、突発的な干渉に対処するデザインの決定を行うことができました」。
だが、BIMの最大のメリットはスピードだった。「共有BIMモデルで連携することの、最も直接的な利点は速度だったと思います」とカラマ氏は続ける。「本来なら順番に行わなければならなかったことを、一部の手順を省略しながら、複数の業種が同時進行で取り組むことができました。その結果、これまでで最も技術的に難しいアトラクションを、目標とした予定日より数カ月も早く完成することができました」。
2020年代: コンバージェンスの10年
ここに業界コンバージェンスの有望性がある。ブランドはBIMやその他のデジタル技術を活用することで、多種多様な大勢の専門家を指揮し、信じられないほどのサイズ、スケール、複雑さのプロジェクトを、前代未聞のスピードとクオリティで実現することができる。
WDIにとって、その水準で行われた最新のプロジェクトが「アベンジャーズ・キャンパス」だ。マーベルのスーパーヒーローをテーマとしたエリアで、既に拡張工事の大部分が進行中だ。だがヤン氏によれば、テーマパークは序の口だ。ディズニー規模の融合への取り組みには、ARから自動運転車、スマートシティまで、あらゆる種類の新興技術が必要だと、ヤン氏は話す。
どの業界に属するかを問わず、「よりタイトな統合がますます増えていくでしょう」と、ヤン氏は締めくくる。「これが次の10年の課題となるでしょう」。