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日本の製造業がデジタルを活用した課題解決で得られる4つのメリット

デジタル 変革 製造業

  • 生産性の課題解決にデジタルを活用し、それを製造業のプロセスに定着させることで、さまざまなメリットを実現
  • 3次元設計データを活用した製造業のデジタル変革によりビジネスプロセス上の課題が解決し、ものづくりを革新
  • 設計生産性、設計現場力の向上が、営業力の向上につながり、ものづくり革新を実現

中国や新興国の輸出が急激に増加する中で、かつては世界の輸出額の10%を占めていた輸出大国、日本のシェアも現在は4%にまで低下。製造業、とりわけ日本のものづくりを支えてきた中小企業は、その収益性の低さから国際競争力を失っている。この課題に、どう対処していけばいいのだろう。

この問題の要因として、非効率的な研究開発と生産性の低さが挙げられている。同じ研究開発費を投資しても、諸外国より利益が出ない体質に陥っているのだ。こうした問題は経営層だけでなく、現場の従業員も強く認識している。2020年3月に国内で行なわれた製造業に関する意識調査では、自社の業務生産性が高いと考える従業員は、わずか1割強に留まった。だがこうした生産性の課題の解決にデジタルを活用し、それを製造業のプロセスに定着させることで、さまざまなメリットを生み出せるだろう。

1. 設計生産性の向上

この調査で興味深いのは、まだ3次元CADを活用していない設計者が、その導入による設計ミスの減少や社内外との情報共有の円滑化、設計の手戻り削減、製品の開発期間の短縮などを期待している点だ。そこには設計の生産性と開発の効率を向上させたいという思いと、現時点で直面している課題の両方を読み取ることができる。

3次元設計による日本の製造業のデジタル変革

一部の企業はデジタル変革を単なるデジタル化ととらえ、それは2次元CADの活用で達成済みだと考えている。だが3次元CADには、設計データを作成・編集・管理する考え方と仕組みに大きな違いがある。2次元CADは一般的に図面1枚が1ファイルという非常にシンプルな構造で、設計変更の際には、影響する全ての図面に手作業での修正が必要になる。一方、3次元CADでは全てが関連づけられているのが特徴で、部分的なデータ変更が全ての図面に反映されるという大きなメリットがある。

3次元設計を行った場合には、作成した3Dモデルから必要な図面、ドキュメントが作成され、その全てが3Dモデルに関連づけられているので、3Dモデル上での変更が全ての図面やドキュメントに反映される。また複数の担当者が同時に担当箇所を編集できるチーム設計も可能。データ管理を一緒に行えばチーム設計の効率も向上し、エラーも防げるようになる。干渉や重量、部品点数、ネジの不一致なども瞬時に把握できるため、ヒューマンエラーを大きく削減可能だ。

3次元設計データを活用した製造業のデジタル変革は、ビジネスプロセス上の課題を解決する方法となり、それがものづくりの革新へとつながるだろう。

また図面が読めなくても形状を把握できるため、設計部以外の関係者とも共通認識を持てるようになる。これは生産設備など、その規模が大きく複雑になるほど効果も大きくなる。試作を行わずに性能のシミュレーションや動作の検証を行うことで、設備の性能や品質の改善も可能だ。こうしたメリットを既に多くの設計者が理解しているにもかかわらず、それが設計の現場に定着できていないのはなぜだろう?

多くの企業を3次元設計へと導いてきたデジプロ研の太田明氏は、その移行を成功させる三要素として、ワークフローや設計手法などの「レシピ」、適切な3次元CADや解析ソフトウェア、データ管理のPDMなどが統合された「環境」、その統合環境を適切に扱うための操作方法、基礎知識など「スキル」の獲得を挙げる。設計生産性を向上させるには、こうした正しい移行方法の理解と実践が不可欠だ。

2. 設計現場力の向上

2019年度版製造基盤白書 (ものづくり白書) では、いまやほぼ全ての製造業において、何らかの人材確保に関する問題が発生していると述べられている。その解決方法として挙げられているのが「現場力の維持と強化」と「付加価値の創出と最大化」だ。

現場力の維持と強化を進める上では、熟練技能者が持つスキルの継承が大きな課題となっている。本来は現場力の強みとなるべきノウハウが属人化し、その業務が特定の人にしか分からない状態を作ってしまうことで、業務効率の低下や品質管理の難しさ、社内コミュニケーションの悪化など、さまざまな課題が発生。結果として後継者が育たず、組織として知識を構築できないことになる。前述の意識調査でも、半数以上の回答者がベテラン設計者からの技術継承、新たな人材の確保と採用に課題があると答えている。

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設計ノウハウの属人化は、日本の製造業における最大の問題とも言われている。その解決にはベテラン設計者のノウハウと経験を若手設計者に継承できる体制づくりが重要であり、ノウハウの共有にはシステム化による設計標準化の促進が必要だ。そのためには、急がず自社のペースで、確実に3次元設計へ移行するための戦略とプランが必要になる。また、デジタルツールの導入で開発力を強化するには、それを一部でなく全ての設計者が使える環境を作ることも大切で、それが設計力の強化にもつながる。

複数の担当者が同じ設計業務を行うことができ、業務フローの見える化、標準化を実現できるようにするには、設計の自動化が有効だ。自動化の手法はさまざまだが、前述の3次元CADのメリットとの組み合わせにより属人化していた設計ノウハウを共有でき、ベテラン設計者のノウハウの伝承や人件費の削減、業務のスピードアップに貢献するほか、ヒューマンエラーや単純な反復作業を回避することで、より付加価値の高い業務へのシフトが可能になる。

3. 営業・販売力の向上

米 Tech-Clarity の調査レポートによると、平均的な産業用機械メーカーと比較して2.2倍の収益成長率、2.4倍の利幅成長率を達成している業界のトップパフォーマーは、収益向上を実現している大きな理由として、イノベーションによる製品の差別化、カスタマイズによる製品の差別化、そしてグローバル市場への正面からの挑戦を挙げている。

産業機械業界において価格は購入決定を左右する大きな要因だが、トップパフォーマーが目標としているのは、低価格での製品提供による差別化ではない。そのビジネスの成功と収益性の向上に貢献しているのは、正確かつタイムリーな見積もりの提供だという。彼らは平均的な企業以上にプラットフォーム設計やモジュール型設計を取り入れているが、顕著な差が見られるのがルールベース設計手法の積極的な採用だ。

頻繁に変更される顧客からの要求に、きめ細かく対応して見積もりを提出するのは、非常に時間のかかる作業だ。仕様確認が繰り返されるため手戻りも多く、部品表の作成やコスト計算におけるミスは失注や収益悪化につながる可能性もある。また2次元で設計している場合は、紙資料だけでは完成後・製造後のイメージをうまく共有できず、顧客が納得するまでに時間と手間がかかってしまう。さらに設備装置のような大型製品の場合は運搬も容易ではなく、また営業スキルのバラつきにより、営業活動や商談で製品のコンセプトや設計意図、詳細などを丁寧に説明できないこともあるだろう。

自動設計と案件情報に関するノウハウをデータベース化し、それを自動設計と連携させることで、非常に強力な案件支援システムを構築できる。3次元データを確認しながらコンポーネントの構成の選択や検討が可能となり、見積もりも自動作成できるし、ルールベースの営業活動も行える。こうした3次元データがあれば、CGやVRを使って販売促進の強化も可能だ。選択した構成による製品の疑似体験で、意思決定を早めることもできる。また3次元設計は建築業界で広く採用が進むBIMとも親和性が高い。建築業界に製品を収めている建築設備メーカーにとってもBIM導入が非常に重要になってきている中で、建築設備業界でのスペックイン営業の強化にもつながる。

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4. ものづくり革新の実現

日本の製造業が生き残るために必要なものとして「ものづくり革新」に期待を寄せ、既に何らかの準備を始めている企業も多い。その推進には 3Dデータの活用が不可欠だ。3次元設計資産を活用したデジタル変革が設計開発力の強化、国際的な競争優位の獲得につながり、AIやクラウド、3Dプリンターなどの新たなテクノロジーを駆使できるようにすることで、今後の新しい時代のものづくりへの進化を実現できる。

3次元設計データを活用したデジタル変革は、ビジネスプロセス上の課題を解決する方法となり、それがものづくりの革新へとつながるだろう。設計開発を中心とした業務プロセス改革を加速化し、新たなビジネス価値を創造するには、3Dデータの活用が重要だ。3次元設計と自動設計を活用することで、設計品質を向上させながら、人手不足の問題を解決することができる。解析を使うことで設計の事前検証、製品品質の向上が可能。CGやVRを使うことで、情報の発信や、顧客の意思決定を早めて売り上げを伸ばすことも可能になる。そしてチーム設計の導入など、設計から生産までの業務プロセスの効率化を向上することが、生産性の向上へとつながるだろう。

著者プロフィール

ジョン・ウォンジンはオートデスクのビジネス戦略&マーケティング本部インダストリー マネージャー。韓国で機械工学を専攻した後、米国で自動車デザインを勉強。自動車デザインを専門にした日本のデザイン事務所で自動車 OEM 向けのデザインとデジタル業務を担当した後、自動車デザイン用 CAD ソフトウェア ベンダーへ転職。オートデスクへ買収された後も、自動車デザイン向けソリューションを主に担当してきたが、最近は日本の製造業における課題を解決するための、デジタル改革への取り組みを提案している。

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