大和ハウス工業が現場からデジタルコンストラクションで推進するDX
英国でのBIM義務化などグローバルなBIMの制度化を推進してきたBuroHappold Engineering UKのアラン・ワハ氏は、変革を起こすにはトップダウンだけでなく、その考えを理解したボトムアップの動きも重要だと述べている。次世代の建設の工業化を目指し、デジタルコンストラクションへの改革で国内をリードする大和ハウス工業の場合は、その活用をどう浸透させていくのだろうか。
同社関東工事部の石澤一晃統括部長は「大和ハウス工業では現場をサポートするシステムを本社が用意する体制を、早い段階から整えてきました」と語る。各現場で使用するシステムや帳票が、それぞれ異なっていること建設会社も多い中、こうした同社のアプローチが現場の高い生産性を担保してきたことは想像に難くない。
同社はペーパーレス化にフォーカスしたソリューションとして、海外では大手建設会社の標準ツールとして定着しているPlanGridを国内で初めて本格導入し、データ連携の基盤となるクラウドサービスのBIM 360も全面導入するなど、トップダウンの形で現場のデジタル化をサポートするソリューションを着実に採用してきた。
「その一方で、この10数年間、さまざまな部署が先駆的な取り組みを行ってきた結果、いろいろな方法論が林立してしまっている面もあります」と、石澤氏。「その結果、膨大な紙の資料は残されても、それはつながっておらず、簡単に活用できるような形では蓄積されていない。これまで大和ハウス工業にできていなかったのは、“つなぐ”ことです。今年度から本格的に活動を始めたデジタルコンストラクションプロジェクト (デジコンPJ) を通じて、その問題を解決したいと考えています」。
施工現場のデジタル化を推進するデジコンPJでは、現場に関わる取り組みとして「施工監理・管理の省力化、省人化、無人化」と「施工現場における作業省力化、省人化、無人化」をテーマとしている。その取り組みを社内共有するボトムアップでの取り組みの一環として、同横浜支社の主催により、建設中の現場を会場とした「デジコンフェスティバル」が開催された。
ボトムアップで推進するデジタルコンストラクション
会場では、大和ハウス工業 総合技術研究所の開発する耐火被覆吹付ロボットによるロボット施工のデモのほか、トプコンのデジタル測量機器による墨出し・測量の効率化や床レベルの3Dスキャンや、PlanGridによる自主検査・巡視記録のデモなど、パートナー各社のプログラムやデモも実施。「2日間のイベントで感じたのは、全てのブースのキーワードはBIMであり、そこが起点になっているということです」と、石澤氏は語る。「こうして実際にデモを見てもらうことは大切ですが、それ以上にBIMの大切さと、それによってデジタルでつなぐこと、データを貯めることが実現するのだと、改めて認識できました」。
「大和ハウス工業内でデジタルコンストラクションの重要性が共有されたことで、それをできるだけ早く実現したいという気運も高まっています」と、石澤氏。「しかし、目の前の結果を求めるだけでなく、全体を見て考える必要もあると思っています。確実にデジタルコンストラクションを進め、確実につなげて、確実に貯める。それを慎重にジャッジしていくのは、実際にそれを使うことになる、現業の我々の役目にもなるのだろうと考えています」。
その一方で、個々の取り組みを行っていくだけでなく、将来像を見据えた総合的なワークフローを俯瞰しながら進めていくことも、同様に重要だと考えているという。そのためのリアルなプランを描き、アドバイスを求めることが必要になるが、石澤氏は「その役目が結果的にBIM 360であり、Autodesk Construction Cloud になるべきだと思っています」と語る。
未来を描くことは容易だが、その姿を説得力を持って伝えることは難しい。だが、これまでの豊富な工事経験と、その現場で手にした勘を併せ持っていれば、デジタルツールを使った際のリアルなイメージを想像することができ、それを相手にも伝えることが可能だ。
次の世代へとつなげる取り組み
このイベントを統括した同横浜支社関東工事部の本阿弥俊輔課長は「今回のイベントでは、単に製品やソリューションのデモを見せるだけでなく、それを工事担当者の僕らが実際にどう使っていくかに落とし込むことで、伝わり方が全く違うものになると感じました」と述べる。「単に未来像を伝えるのでなく、現段階でどういう風にできて、その先はこうなるということを説明すると、デモが具体性を持ち、より身近なものとして伝えることができました。僕ら自身も使い方を本気で検討するので、自分たちのエンジンにもなりますね」。
こうした取り組みは、今後も継続的に行うことを考えているという。「こういうイベントにより、皆が同じ方向性を共有できると感じました」と、本阿弥氏。「今後は広く展開することで、デジタルコンストラクションの推進を、より加速していきたいと思っています」。
「こうした社内向けのイベントを行うのは、かなりの労力が必要です。でも若い社員が、こうした経験により人財として成長し、それ以上に今後の建設の姿を実感し、大和ハウス工業の未来を垣間見ることができたと思います」と、石澤氏。「それを最も実感したのは、このイベントを設営した若い社員でしょう。その部分でも、本当にやってよかったと思います。デジタルでつなぐ、そのデータを貯める、そして貯めたデータを活用するのは、実際には僕らではなく次の世代の人たちです。そういう人たちの意見や考え方、思いをもっと入れていきたいですね。そのために、もっと社内の人財を巻き込んでいければと思います」。