韓国のVFX会社Dexter Studiosは総合コンテンツの大企業になりつつある

コンテンツ制作のワンストップショップへと成長した韓国のVFX会社Dexter Studiosは現在、初の自社ドラマを制作中だ。


Dexter StudiosはNetflixシリーズ『寄生獣 -ザ・グレイ-』のVFXを担当

[提供: Netflix]

Dexter StudiosはNetflixシリーズ『寄生獣 -ザ・グレイ-』のVFXを担当

Drew Turney

2025年11月25日

分: 読書時間
  • メディアとエンターテインメント業界が変化するにつれ、映画や番組の制作を裏側で支えるVFXスタジオなどの関連企業に求められるものも変化する。

  • 韓国のVFX企業であるDexter Studiosは、制作とポストプロダクションサービスの提供へと軸足を移スト同時に、実際の業務を行うアーティストたちのケアにも力を入れている。

  • Dexter Studiosは、作業のパイプラインをより効率的に管理し、ニーズに合わせてカスタムプラットフォームやツールを構築することにも創造性を発揮している。

  • 同社はまた、2D、2.5D、3DでのICVFX VP、3Dスキャン/フォトグラメトリ、パフォーマンスキャプチャ、加齢/若返り処理など、さまざまな制作技術におけるベストプラクティスの手法を常に探求している。

これまでの10年間は、映画やテレビを観客に届ける舞台裏を支える視覚効果 (VFX) 業界にとって試練と変革の時期だった。幾度もの経済的困難の嵐を乗り越えて生き残っただけでなく、盛況でさえあるVFXスタジオの話を聞くと心が温まる。そんなスタジオのひとつが韓国のDexter Studiosだ。視覚効果の増強にCGIを使用する映像制作が増えるなか、制作スケジュールが短縮され作業量が増えても、同社は絶えずイノベーションを追求し、この分野をリードして拡大を続けてきた。

2012年に設立されたDexter Studiosは現在8つの事業部門を擁し、300人以上の従業員を抱えるまでに成長した。最新の取り組みとしては、2021年にバーチャルプロダクションスタジオD1 Studioが追加されている。Dexterの最高戦略責任者キム・ヘジン氏は、同社についてVFX、デジタルインターミディエイトファイル、バーチャルプロダクション、サウンドデザイン、制作を一手に担う国内唯一の「トータルなコンテンツ制作」スタジオだと話す。

Dexterのコンテンツは、パルムドールやアカデミー賞を受賞した作品『パラサイト 半地下の家族』にも使用されている。2015年には韓国証券取引所に上場し、当時は唯一の上場VFXプロバイダーとなった。ハリウッドのスタジオ以外の映画関連業界の企業にとってこれは偉業である。さらにDexter Studiosは2024年、Autodesk’s Design & Make Awardsのメディア&エンターテインメント・イノベーター・オブ・ザ・イヤーに選出された。アジア企業としては初のことだ。

業界とともに成長

Dexter Studios初制作作品『ミスターGO!』のVFXビフォーアフター
Dexter Studios初制作作品『ミスターGO!』のVFXビフォーアフター [提供: Dexter Studios]

Dexter Studiosは2013年、野球をするゴリラが主人公のアドベンチャー映画『ミスターGO!』でその名を知られるようになった。このキャラクターは、創業間もない同社のアーティスト集団の手により完全自社で企画・制作がなされた。

「当時の韓国のVFX業界では、すべての作業を自社で行うことは極めて難しく、非常に大きな挑戦でした」と、キム氏。「しかし、韓国VFXアーティストの第一世代は、それを達成するという共通の目標を掲げ、ベストを尽くし、それを実現させたのです」。

興行成績こそ特筆すべきものではなかったものの、この映画により、Dexter Studiosは業界で一定の評価を受け、また、新たな挑戦を恐れないという揺るぎない哲学も得た。なにしろ、ゴリラに野球をさせることに成功したのだから。

『ミスターGO!』に続いて映画『パイレーツ』が公開されたが、こちらはCGIによる水のシミュレーションが多用されたものだった。これが映画『神と共に』シリーズへとつながり、同社は新たな高みに到達し、自国の精神性や文化に関するテーマを探求することとなった。いくつかの死後の世界を舞台とするこの作品に対するVFXで、Dexterは仏教やアジアの死生観を色濃く反映した。

このプロジェクトでは、7つの異なるデジタルワールドが求められた。新部門の立ち上げとも時期が重なり、同社のアーティスト陣は、多くの新しい環境とその制作に必要な手法に触れることとなった。

それ以降仕事量は右肩上がりとなり、これほど多数のアーティストの生産性と満足度を維持するためにも管理体制の構築が必要となった。場合によっては、Dexter独自のソフトウェアパイプラインであるVELOZのように、特注のツールやプラットフォームを構築することもあった。VELOZを使用すること、またクリエイティブワークフロー全体でAutodesk MayaOpenUSDを統合することで、Dexter Studiosは撮影作業時間を50%削減した。

キム氏によると、同社はデジタルヒューマン、3Dスキャン/フォトグラメトリ、パフォーマンスキャプチャ、老化/若返り処理におけるベストプラクティスの手法を常に探求してもいる。他の設計施工業界の幹部同様、キム氏も人工知能 (AI) に対して興奮と警戒の両方の感情を抱いている。

「AIが私たちの役割に取って代わるとは思いませんが、定型業務を効率的にする手助けにはなるでしょう」と、キム氏。「たとえばAIはわずか数時間のうちに大量のコンセプトアートを描くことができますが、私たちの人間のアーティストなら数日はかかります」。スタジオがより多くの仕事を請け負うようになるにつれ、AIは、アーティストが作業に集中し質の高いコンテンツを制作するための効率化を生み出す可能性を秘めている。

Dexterはこの質の高いコンテンツサンドボックスでの事業を続けるつもりだと、キム氏は話す。しかし、その姿勢は、コンテンツの消費パターンが常に変化する現場においてはビジネス上のリスクにもなり得る。すべての監督、脚本家、プロデューサーがVFXベンダーの灯を点し続けるのに必要な予算を確保できるとは限らないからだ。「とはいえ、より効率的な作業工程で高い品質を維持すれば、何とか生き残ることができます」キム氏はこう話す。

テクノロジーとアートの出会い

Dexter Studiosの子会社LIVETONEのDolby Atmosミキシングスタジオ
Dexter Studiosの子会社LIVETONEのDolby Atmosミキシングスタジオ [提供: Dexter Studios]

Dexter Studiosの活躍の原動力となっているもうひとつの要は、研究開発に重点を置いている点だ。また、Dexterは最も重要な人々の声に耳を傾けることでそれを実現している––アーティストのニーズをリサーチすることから始めるのだと、キム氏は説明する。

その大部分を占めるのは、アーティストが最高の仕事をするための余地と自由を提供するため、バックエンドのインフラを整理することだ。アーティストがアニメーションやエフェクトの作成にMayaを使用していることから、Dexter StudiosはOpenUSDの統合へと移行し、ファイル管理とチーム間のデータ共有を合理化した。これが、パイプラインを管理するカスタム社内自動化ツール、VELOZの誕生へとつながった。

この管理システムは、会社の初期段階において、非常に重要であることが証明された。韓国だけでなくAPAC地域全体から大予算のプロジェクトが舞い込むようになったのだ。キム氏によれば、それはDexter Studiosが急速な成長の中で、プロジェクト管理について独自のノウハウを開発しなければならなかったことを意味する。同社はプロジェクトのニーズを管理する人材を多数雇用し、VFX作業を行うアーティストではなく、管理チームがプロジェクトの要件やスケジュール管理、クライアントとのコミュニケーションを上手く取り仕切っている。

「こういったチームは非常に重要だと考えています」と、キム氏。「予算や時間の管理にも影響しますし、またアーティストにとって労働環境は非常に重要です」。

若く野心的なアーティストに高い労働負荷がかかることで知られるこの業界において、同社は人間中心の取り組みに力を入れている。「当社にはアーティストが330名在籍しており、良好かつポジティブな職場環境は非常に重要です」とキム氏は話す。休憩室にゲーム機を置くなど一般的な福利厚生はすべて提供されているが、Dexterはそれに留まらない。「チームワークの構築が重要です。当社の事業の中核であるVFX業務では、他の複数の人たちと連携する必要があるからです。個人だけで完結するものではないのです」。

ハリウッド業界––そして、モントリオール、ロンドン、ムンバイなど、遠く離れた場所でハリウッドの傘下にある企業––は、定額報酬制での過酷な労働時間や納期によって、燃え尽き症候群を招くことが知られている。しかしDexter Studiosは、代休などの制度を通じて、週52時間以内という韓国の労働法を遵守している。さらに、アーティストは与えられた時間内で生産性を最大化することに集中し、十分な休息を確保することで、適切なワークライフバランスを実現し、持続可能で幸福度の高い職場環境を維持するよう努めている。

明日の小さなメジャー

Dexter Studiosは2021年、初のバーチャルプロダクションスタジオ「D1」を立ち上げた
Dexter Studiosは2021年、初のバーチャルプロダクションスタジオ「D1」を立ち上げた [提供: Dexter Studios]

人々のコンテンツ消費、そして嗜好にも大きな変化が起きている。「若者の多くは2時間の映画を映画館で座って観ることができません」と、キム氏。「集中できる時間が短くなっていて、短い動画に慣れているのです。30分以上のコンテンツに集中できないという人たちをたくさん見てきました」。

自らの役割の終焉を予言しているのではなく、今後コンテンツは2つの全く異なる市場を代表する2形態で提供されるようになるだろうとキム氏は話す。Dexter Studiosはより質の高いコンテンツの提供を目指しており、それは同社の成長にも現れている。

2021年、同社はデジタルインターミディエイトと音響サービスの拡充を目指し、新たな設備を備えたスタジオを増設した。また、同年に新たなバーチャルプロダクション部門も立ち上げている。現在は子会社のDexter Picturesを通じて、自社IPの企画、開発を行い、Dexterは韓国のテレビチャンネルtvNで2025年6月に放送予定のドラマを含む21プロジェクトのラインナップを製作中だ。

また、急成長するメディアアート市場で独自のブランドを構築を目指し、初のB2C構想となる新しいメディアアートプロジェクトに取り組んでいる。古都慶州で開催される「Flashback Ground:Gyerim」は、古代新羅王国の伝統的な民間伝承とその歴史的背景にインスピレーションを得た没入型のメディアアート展で、Dexterのストーリーテリングとコンテンツ制作における専門性を示す展示となっている。この展覧会は2025年後半にスタートする予定で、10月に慶州で開催されるAPEC首脳会議に先駆けて新たな都市のランドマークとなることが期待されている。

もう一つの子会社Dexter Kremaは、デジタルニューメディアマーケティングを専門としており、Dexter Studiosのサービス分野に相乗効果をもたらしている。バーチャルプロダクション、VFX、サウンド、デジタルインターミディエイトなどの専門知識を駆使して、Dexterは、従来のレガシー広告、デジタル広告、屋外広告、FOOH (フェイクOOH) キャンペーンなど、多様なクライアントのニーズに合わせた広告コンテンツを制作している。この統合的アプローチにより、Dexter Studiosとその子会社は、さまざまなクライアントや視聴者向けのプロジェクトにおいて、より緊密な連携を築き、グループ全体で知識を共有し、拡大する学習経験を育むことができる。

だが結局のところ、VFXの一般的な原則は依然として当てはまる:観客はしばしば、Dexterの最高傑作を完全に見落としてしまうのだ。これについてはキム氏も認めるところだ。「人目に留まらないVFXこそが一番の成功である場合が多いのです」と、キム氏。「例えばポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』や、Netflixのオリジナル作品『寄生獣 -ザ・グレイ-』がその例です。視聴者はストーリーに没頭し、背景にあるCGIやVFXのことなど考えもしません。物語に引き込まれているのです。しかし現実には、そこにはかなりの量のCGIが使用されています。当社にとっては、それこそが真の成功の証なのです」。

Drew Turney

Drew Turney について

成長の過程で世界を変えたいと考えていたドリュー・ターニーは、やがて他の人がどう世界を変えているかについて書くほうが簡単だと理解しました。現在はテクノロジーや映画、科学、書籍などの著述を行なっています。

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