建設施工自動化は建築の未来をどう推進するか?
建設業界は、製造と比較すると自動化技術の開発と導入が遅れている。だが建設DXの本格化に向け、建設施工自動化のテクノロジーが大きな役割を果たす機は熟していると言える。
建設業界における今後の継続的な進化は、自動化されたデジタル設計・分析プロセスから実施設計図の自動作成、施工の作業まで、さまざまな形態で自動化に依存したものとなる。建物やインフラの高い需要とライフサイクル全体にわたる持続可能性の必要性という、21世紀における建設業界の2つの課題への取り組みの成否には、先進的な製造のベストプラクティスを模倣したオフサイトでのプレファブリケーション、オンサイトでの建設ロボットなどが影響を与えることになるだろう。
建設施工自動化は、生産時間や材料効率、労働生産性、労働者の健康と安全の向上に加え、労働力不足の補填や環境への影響の軽減、新たなデザインの機会の創出など、自動化された製造プロセスが解決してきたものと同様の機会や課題に対処できる可能性を持っている。つまり建設の自動化は、人口増加に伴う建設とインフラの世界的なニーズへ、安全に応えることができる可能性を秘めているということだ。新しい技術開発や業界の動向からは、今こそ自動化を制する時だというシグナルが読み取れる。
建設施工自動化とは?
建設施工自動化という言葉は、自動化されたワークフローを活用して建物やインフラを構築するプロセスやツール、機器を表現するものだ。従来は手作業で行ってきた作業の自動化にツールを導入する場合もあれば、自動化されたツールにより、新しいプロセスへの移行や建設に特化したプロセス開発が可能になる場合もある。建築における自動化は、ソフトウェアベースの設計段階、オフサイトおよびオンサイトでの建設の自動化から、完成した建物から収集したシステムやエネルギー活用のデータ共有に至るまで、プロジェクトのさまざまな段階で起こり、その全てがクラウドベースのライブなモデルに取り込まれる。この統合されたフィードバックループを実現するには、核となる開発戦略がソフトウェアとハードウェアの両方で必要となる。例えば、協働ロボットや工業化建築戦略、新しいタイプのロボットや自動化された機械、リアルタイムでの現場検知・フィードバック・適応などは、建設における自動化を広く実現するべく融合しつつある技術や戦略だ。
工業化建築 (IC: Industrial Construction) とは製造業からヒントを得た用語で、建設プロセスにおける材料やプロセス、システムの戦略的な活用を定義するために使われる。工業化建築は建設施工自動化と同義ではないものの、両者はリンクしている。自動化されたツールの導入が進むことで、工業化建築の戦略が建設のあり方に大きな影響を与えられるからだ。現在、工業化建築とは主にオフサイト建設を指しており、そこには製造技術が幅広く適用されている。
工業化建築のプロセスでは、通常は製造プロセス向けの技術や戦略が用いられ、個々の部品からコンポーネントや組立全体までの建物やインフラの要素を製造する。ボリュメトリックな工業化建築とは、例えばホテルの客室など一定空間のモジュールを、工場のような環境で製造し、それを建設現場へと運び、組み立てて建物を完成させるものだ。
工業化建築は製造を起源とするため、従来の建設にはない予測可能な変数がもたらす確実性、安全性、品質保証を実現しており、高度に自動化された先進の製造技術を利用できる可能性を秘めている。これらは新しいアイデアではなく、その例は建造環境の起源にまで遡ることができるが、現在は業界全体で展開されるIC戦略の価値と影響を高める、かつてないテクノロジーのコンバージェンス (融合) が生じている。
自動化された工業化建築プロセスでは、3Dモデルやその他の中間生成物であるデジタルデータが自動化された生産ラインへダイレクトに送信されて製造が行われるため、従来の紙の図面を排除することができる。生産ラインには、材料を建築部品や組立品へと変換する産業用ロボットやオーバーヘッドガントリー、コンベヤーなど、自動化された機器が含まれる場合もある。自動化の機会の判断は非常に重要であり、それは環境や労働者、そしてもちろんROIへ影響する。我々は、自動車の組立ラインで見られるような、綿密に調整された人間とマシンの間の協力関係こそが最良の結果だと考えている。
建設施工自動化の歴史
ロボットや自動化されたツールが建設現場を飛び回るのは遠い未来のことだと思われがちだが、こうしたツールの配備に欠かせない方策は何千年も前から存在しており、機械化された建設自動化のアイデアは何世紀にもわたり実証されている。紀元前3世紀の中国で兵馬俑を作るのに用いられたプレファブリケーションの技術から、1920年代のベルリンで現場組み立てが行われた住宅用プレファブパネルまで、初期のオフサイト建設の例には2,000年を超える歴史がある。
しかしロボットを使用した現代の建設施工自動化は、1950年代に初の産業用ロボットが発明され、1960年代に自動車産業で実用化されるようになってから本格化した。工場の自動化が産業界に浸透し、1960年代、70年代になって建設用ロボットが登場し始めた。高齢化や若年層の離職による建設労働者の不足に直面した日本では、1970年代から80年代にかけて建設の自動化やロボット化が進められ、清水建設や大林組、竹中工務店など日本のゼネコンは、掘削や資材運搬、コンクリート打設・仕上げ、防火工事、土工、鉄筋打設などの建設作業を行うロボットや遠隔操作機械を生み出してきた。
建設業界は、これまで自動化プロセスの開発・導入が遅れていた。しかし、現在は産官学の連携によって建設自動化の活性化が進んでいる。
極端な労働力不足が背景となった例を除くと、高額な初期投資や導入の複雑さ、業務の分離、建設に特化したツールの不足などを踏まえても、建設業界における自動化プロセスの開発と導入は遅れている。だが現在は産官学の連携に支えられる形で、建設施工自動化の再活性化が進行中だ。強固なデータとBIM (ビルディング・インフォメーション・モデリング)やAIを活用したジェネレーティブデザインのアプローチがもたらす高度な建築設計・データ管理の可能性が、急速に進歩するロボティクスやIoT技術と組み合わせられ、建設のデジタル化や製造技術とのコンバージェンスを促進している。ハードウェアの低価格化と、設計からロボット製造までをつなぐ新たなワークフローが組み合わせられ、建設分野への産業用ロボットの導入に新たな機会をもたらしている。
建設施工自動化の種類
オフサイト建設施工自動化
オフサイト建設施工自動化とは、建設プロセスを現代の自動化製造に近づける実践を指すものだ。プレファブリケーション、ボリュメトリックパネル式モジュール建築、プレキャストなどは、同義ではないがオフサイト建設施工自動化に近い言葉だ。こういった実践は、自動化、産業用ロボット、デジタル生産ワークフロー、DfMA (製造組立容易性設計) 戦略を活用して最適化可能な慣れ親しみ管理された環境内で、建設プロセスを現場から工場へと移す。
建築業界では現場業務の自動化よりオフサイトの自動化の方が一般的であり、近接した製造からダイレクトな技術移転が可能だが、ひとつ重要な注意点がある。製造の場合は、部品のサイズ、形状、組立順序が同じ、何千というユニットの大量生産に自動化された製造ラインが使用されるのが一般的だ。建物や道路、橋の建設の場合も製造された部品の組立が行われるが、材料や工程の多様性、部品やプロジェクトごとのバリエーションは、工作機械の設置 (生産ラインにおける自動化された機器の構成) に独自の課題を生み、また生産ラインは自動化だけでなくバリエーションに対応できるよう構成する必要がある。
工場の自動化は大きな投資だが、長い目で見れば時間やコスト、資源を節約できると同時に品質管理や品質保証を向上させる。また、一般的な建設プロセスに伴う多くの反復作業を排除することで、より安全で快適な環境を作業員に提供できる。工場ベースの建設は、廃棄物の削減、水使用量の低減、運用エネルギーや粉塵公害の減少、材料の使用・再利用・リサイクルの最適化により、環境面でのメリットをもたらす。また自動化されたプロセスと組み合わせれば、建物やインフラの世界的な需要を満たす上で、大きな役割を果たすことになるだろう。自動化建設工場の中には、人間がほとんど介在せずに24時間稼働できるような野心的なものもある。
それは米国のリーダーシップ研究の先駆者である学者、ウォーレン・ベニスの有名な言葉を思い起こさせる: 「未来の工場の従業員は、人間と犬の2名だけだ。人間はそこで犬に餌をやるために存在し、犬は人間が装置に触れないようにするためにいる」
オンサイト建設施工自動化
工場ベースによる建設の自動化は、一部の例外を除いて製造からの技術移転だと考えられるかもしれないが、この場合の自動化された工作機械は製品でなく建設要素を製造するよう構成されている。だが、オンサイト建設施工自動化は、従来とは異なるユニークな課題と機会を提供する。機器の開発と導入は、ダイレクトな移転ではなく新しい機器やプロセスを必要とするものとなり、研究、新規事業、スタートアップに恵まれた分野となる。現場作業向けの建設自動化機械は、現場まで簡単に移動して、そこでセットアップを行い、使用後は撤収して次の仕事に移行できる移動式でなければならない。土木用重機など既存の機械が改造されるケースもあり、自動化や半自動化を視野に入れた新しい機器の製造も増加している。
初期のオンサイト自動化では、建設施工の自動化システムとの連動に特化した建築システムとなり、その多くで建物の独自性が損なわれていた。現在はユニット間の差異に対応しつつ標準化された要素を使用する、建設自動化への再挑戦が行われているところだ。例えばコンクリート補強材を配置する自動装置は、現場での繰り返し作業をなくし、性能を重視した鉄筋配置の変更を余分なコスト無しに実現して、必要な場所へ正確に材料を配置することで廃棄物を削減する。
ボストンを拠点とするNeXtera Roboticsは、建設現場のスキャンとレイアウトを行うロボットOliverなど、建設現場の自動化システムを開発している。NeXteraが開発中の石膏ボード取り付けロボットなどオンサイト建設施工自動化機械は、オフサイトのプレファブリケーションにも応用できるが、このマシンをオンサイトで応用すれば施工者は輸送コストを削減できる。
また、精度が求められる面倒な作業である、レイアウトの課題に注力している企業もある。例えばDusty Roboticsは、デジタルモデルから描画した建設データを建設現場に転送し、建物の床に建設指示書を直接印刷することで時間と労力を節約して精度を向上させるモバイルロボットプラットフォームを展開している。
建設におけるロボット
ロボット、特に産業用ロボットアームや移動式ロボットプラットフォームは、建設の自動化において重要な役割を果たしている。建設に特化したロボットが登場する未来を思い描く読者もいるだろうが、現状では製造ベースのロボットが建設に転用されている。ULC Technologiesなどの企業はカスタムソリューションを開発し、産業用ロボットを建設現場に適した作業セルに統合している。例えば同社のRoadworks and Excavation System (道路工事/掘削システム) は、道路下のインフラ修理を自動で正確に実施し、現場の混乱を最小限に抑えることができる。協働ロボット (コボット) とは、さまざまなレベルの自律性を有し、人間と一緒に働くロボットだ。このコボットには人間を傷つけることのないよう、二重の冗長なセーフガードを備えた安全基準が盛り込まれている場合が多い。建設向けロボットには、不安定で絶えず変化する作業現場の環境をナビゲートするよう、特別な設計が行われるだろう。
人間とロボットのオンサイト連携の一例が、Construction Robotics (CR) のSAM100 (Semi-Autonomous Mason: 半自律型石工) というレンガ積みロボットだ。このロボットシステムは建設作業員と一緒に仕事を行って、作業の迅速化、負担軽減、反復作業の削減を実現する。SAM100では、現場のセットアップと最終的な壁の品質評価は人間の石工が行い、SAMは個々の石工ユニットの分担、配置を行う。
自律型建設機械
自律走行する自動車が街に登場しているように、建設現場にも半自律もしくは完全自律の走行を行う建設機械が登場しつつある。その初期モデルは既に検証が行われており、専門家は将来的には建設用自律走行車両が当たり前になるだろうと予測している。農業や鉱業などの業界は長年に渡って機械の自動化や遠隔操作の恩恵を受けてきたが、そうした機械の導入が建設分野でも進みつつある。他形態の自動化同様、安全性、生産性、効率性の向上のメリットが期待できる。
自動化された建設機械は、建物の個々の部品やコンポーネントを超えて自動化を拡大し、業界が建設現場を現地工場とみなすことが可能になる。建設エンジニアリング会社Black & Veatchと連携するサンフランシスコのBuilt Roboticsは、自社の自律走行型トラックローダー、ブルドーザー、掘削機を使用し、実用規模の再生可能エネルギーシステム建設を促進する自動掘削システムを研究している。Black & VeatchはHondaとも提携し、太陽光発電施設の建設現場で自律走行型作業車両を検証している。
キャタピラーなど重機業界のリーダー各社は、将来的には完全自律型を目指すだろうが、現在は半自律型で動作する建設車両の開発を進めている。例えば、キャタピラーの遠隔操作式ブルドーザーD11Tの場合は作業員が搭載されたカメラを使って数百m離れたトレーラーから操作を行う。キャタピラーは、ベクテル、Brick & Mortar VenturesなどとともにNASAと連携し、3Dプリントによるオンサイト建設にフォーカスした3Dプリント製居住空間チャレンジを開催。ここで言う「オンサイト」の舞台は火星だ。
オーストラリアでは、リオ・ティントが自動運転トラックなど100台以上の車両で鉄鉱石の採掘作業に取り組んでいる。これは建設用途ではないものの、建設の未来を予感させるものだ。リオ・ティントのドライバーレス車両は、1,600kmもの遠隔地にいるオペレーターの安全を確保しつつ、最大限の精度と効率を実現している。
ボストン・ダイナミクスは、監査向け現況レーザースキャンや建設スケジュール管理など、建設現場でのさまざまなシーンに対応するロボットプラットフォームを商品化している。同社の自律型4足歩行ロボットSpotは、LiDARスキャニングアタッチメントを装備して、日々の変化を追跡する忠実度の高いリッチな点群データを収集できる。
新たな類型論や技術、姿勢が登場する建設現場における自動化の未来は明るい。現場の機械の自動化がさらに進んでも、作業をスムーズに進めるには熟練労働者が必須であり、ロボットを考慮した新たな足場や工程も必要になる。
建設施工自動化の事例
Howick
ニュージーランドを拠点とするHowickは40年以上にわたりハイテク機械を製造する企業で、現在は建築用の構造体要素を製造する精密な鋼ロール成形機械に特化している。最近のプロジェクトでは、Windover ConstructionのVirtual Design & Constructionチームが伸縮式鉄骨成形機Howick X-Tenda 3600を使用し、マサチューセッツ州グロースターのCape Ann YMCA用に、穿孔およびラベリング済みの屋根トラス935点を15時間で製造した。その後、接続されている3Dモデルのデータを使用してMRヘッドセットユーザーの視野に「ホログラフィックテンプレート」を適用するFologramのMR技術を用いて、わずか1名の作業員が3日でトラスを組み、プロジェクト時間を約70%短縮することでコストを約半分に削減できた。 (WindoverとFologramはどちらもオートデスク テクノロジー センターのOutsight Networkメンバー)。
Howickの機械は、スチールコイルから複雑なロール成形部品を製造する過程を自動化し、部品内に詳細な組立指示を提供することで組立を簡素化している。Howickとバージニア工科大学デザイン研究センターはザンビアの遠隔地域にこの機械を配備することで、コミュニティ診療所の工期を6カ月から6週間へ短縮することを目指している。
Factory_OS
カリフォルニア州ヴァレーホを拠点とするFactory_OSは、最大限の効率を実現するスマートファクトリー環境による建設で、その多くがアフォーダブル住宅や支援住宅に指定されている多世帯向け集合住宅の工業化建築を具現化している。同社では、33ステーションからなる組立ラインでユニットを製造。実績ある製造技術と建設プロセスを活用することで、従来のオンサイト建設より迅速、低コスト、少ない廃棄物で高品質のモジュール型住宅を建設できる。
Factory_OSと連携するAutodesk Researchのチームは、設計から製造、組立、建物の運用までのつながりを改善することで、アフォーダブルかつ持続可能な住宅の製造を最大限に効率化するという野心的なプロジェクトに取り組んでいる。
Factory_OSはすべての部品と組立品をQRコードでトラッキングしており、例えば壁用の部品を切り出した場合、その全ての目録化、追跡が行われる。これは再現性や品質のばらつきをなくすという、製造に与える影響の一部だ。壁が10枚必要な場合、自動鋸でキットを10枚カットし、移動型ロボットプラットフォームでフレーム製造ステーションにキットを届けることができる。
オートデスクはマルチスケールのBIMモデルの作成、つまり現場全体、各建物、建物を構成する各モジュールや、その構成部品に至るまで、すべてがジェネレーティブデザインでつながる多目的な設計最適化を実現するべく、Autodesk RevitでのFactory_OSのデザインカタログへのデジタル接続の実証に取り組んでいる。Factory_OSはその後、人間中心の自動化を用いて完成したモジュールを製造し、各モジュールをセミトレーラートラックに積み込み、現地の建設現場に輸送する。
建設現場では、整地が完了後、作業員が基礎を打つと、床や窓、照明、電気器具、配管設備、内装など全て完成したモジュールが工場から搬入される。モジュールは、水密性、耐火性を備え、シュリンク包装された状態で届く。それを作業員が固定し、システムやユーティリティと接続すれば、建物の入居準備は完了。この新しいワークフローにより、Factory_OSは200-300戸の集合住宅の設計と工場での建設を、わずか数週間で完了させられるようになる。
Apis Cor
Apis Corは、従来のコンクリートブロック (CMU) 壁の設計を模倣し、従来のCMU建築基準法の要件を満たす壁の効率的な構築を可能にする3Dプリンターと3Dプリント用調合材料を開発している。
2019年末、Apis Corはアラブ首長国連邦のドバイに、3Dプリントで2階建て640平米の政府庁舎を建設。石膏ベースの高粘度の3Dプリント用調合材料を独自開発して現地製造し、現場内で建設用3Dプリンターをクレーン移動させて、わずか3名の作業員で建設を完了させた。その後、Apis Corは同社の3Dプリンターを改良し、従来の組積造に比べて8倍以上の速度と半分のコストで建築できるようになった。
Apis Corはオートデスク テクノロジー センターのOutsight Networkのメンバーだ。同社は元来建設機械の製造会社であり、サービスとしてオンサイト製造を行っている。こうしたシナリオでは、同社と構造体または建物の一部を製造する機械を現場へ持ち込む契約を交わし、それから別の業務に移ることになる。契約製造会社 (CM) は設計パラメーターを提供し、設備を所有して、サービスを提供する。これは、現場が工場となることを除けば、製品の委託製造と変わらない。
Apis Corは、オートデスク テクノロジー センターのレジデンスチームである構造エンジニアリング会社Thornton Tomasettiと連携している。この会社は3Dプリント製の壁の構造的完全性を検証し、3Dプリント建築の基準を作成。これが業界団体により建築基準法に取り込まれれば理想的だ。
BamCore
BamCoreのカスタム設計による中空壁の構造用木材は、その主要素が持続可能な方法で収穫された竹で構成されたもので、同社は現地で素早く効率的に壁板を設置できる、工業化されたデータドリブンなデジタル建設ツールを使用している。カスタム製造・設計による竹と木材を組み合わせたハイブリッドパネルは、それぞれが隣接したパネルにぴったりはまるようカットされ、扉や窓、照明用スイッチ、コンセントに合わせてプレカットされたものだ。正確な組立が行えるよう連番が付けられ、色分けされたラインが電気や配管の位置を示している。
現場スタッフは、デジタル建築モデルを連続アニメーションに変換するモバイルアプリでプロジェクトの3Dアニメーションモデルを入手し、それに従って簡単に壁を構築できる。デジタルコンストラクションツールによるBamCoreのプレファブリケーションは、工期の短縮やエラーの減少、廃棄物の削減、コストの抑制を実現する。
建設施工自動化のメリット
サステナビリティ
建設施工自動化のメリットの多くが相関関係を持ち、連鎖しているため、ひとつのメリットを高めることに注力することが、さらなるメリットにつながる。自動化はプロジェクトのより迅速かつ効率的な完了に役立ち、それにより大抵は環境へのメリットと、より持続可能な建設が実現する。例えば、カナダ・バンクーバーのIntelligent Cityは、プレファブモジュール型住宅にロボットによる自動化を採用し、生産効率の15%向上、竣工時間の38%短縮、廃棄物の30%削減を実現している。グローバル建設会社スカンスカは、鉄筋網の製造にオンサイトでのロボット溶接を使用し、品質と社員の生産性、安全性を向上させている。また、完成したかさばる鉄筋網を建築現場に運搬するコストや環境への影響も軽減された。
建設業界を持続可能で環境に優しいものにするには、多くのことが要求される。運輸統計局によると、米国経済の建設・解体分野は米国内の廃棄物の約23%を生成している。またArchitecture 2030によると、世界の二酸化炭素排出量のうち、建物 (の建設と運用) が占める割合は約40%に上る。幸いにも建設施工自動化は、この業界における持続可能性への取り組みにさまざまな方法で貢献している。
- ドローンなどの自動化技術は、風力タービンや屋上太陽光発電など、再生可能エネルギー施設の建設を支援する。
- オフサイトのモジュール建築は、リサイクル率を増やし、廃棄される材料を減らすことで、材料を最大限に活用する
- オフサイト製造のモジュールを効率的に現場へと輸送することで、作業員の平均移動距離を75%削減できる。
- キャタピラーのフル電気式26tショベルなどの電気式の建設機械は、1台で52tもの二酸化炭素排出量を削減できる。
- 建設用ロボットは人間よりも速く正確に作業を行う傾向があるため、生産の遅れを減らし、それにより機械の稼働や騒音による影響を減らすことができる。ロボットの精度の高さは、エラーや手戻りによる材料の無駄も削減する。
人口需要がある現在は、住宅危機と呼べる状況にある。従来の手法で建設を続ける限り、地球は破滅してしまうだろう。その需要に見合うポルトランドセメントを得られるだけの砂はない。だからこそ、人間は建設手法を変える必要がある。
自動化は、資源不足を解消するための新しいリサイクル能力の一端を担う。例えば、イギリスの非営利団体WRAPはオートデスクと連携し、建物から出る板ガラスをホッパーで粉砕して熔解して新たにクリーンなガラスを生み出すリサイクルを行っている。
労働力不足の解消
ABB Roboticsと米国建設業協会 (AGC) がオートデスクと共同で実施した最近の2つの調査で、建設業界における労働力不足の重大性が裏付けられた。
- 建設会社の80%が、時間給の専門技巧職の確保に苦労している。
- 建設企業の91%で、今後10年でスキル危機に直面すると予想されている。
- 建設会社の45%が、熟練労働者育成に必要なパイプラインが貧弱だと回答している。
建設業界の労働力不足への対処には、中学・高校での技術・職業教育の再開など、さまざまな取り組みが必要となるだろう。しかし建設施工自動化の活用の増大には、熟練工の引退時期を迎えつつある伝統的技術への依存度を下げ、先進技術の扱いに慣れ、それを歓迎する若い労働者への訴求という複合的な効果がある。実際、ABB Roboticsの調査の回答者の81%が、今後10年以内に建設施工自動化の導入や利用拡大を計画している。この戦略は、企業が最大効率を実現するために必要なテクノロジーを提供することで、現社員を最大限に活用するのにも役立つ。
だが機械が行うのは、仕事ではなくタスクの自動化だ。例えば、人間の仕事は穴を開けることではなく、より速く正確に穴を開けられるロボットと一緒に働き、ロボットのメンテナンスを行うことになるかもしれない。こうした技術の導入は、必要なスキルを有する労働者の基本給を上昇させる可能性もある。コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、各国がインフラやアフォーダブル住宅の改善に取り組めば、自動化により雇用数が減少するのではなく、建設業の雇用は2030年までに2億人増加すると予想している。
これらの理由からも、建設施工自動化は、建設会社や政府による助成のもと、キャリアを通じて労働者にスキルアップや再教育を提供する個別生涯教育の新たな戦略と合わせて進行する必要があるだろう。AGC/オートデスクの調査では、すでにゼネコンの半数がキャリア形成プログラムに取り組んでいると回答している。
また大学も自動化に関連した新たなキャリアパスのための新たな機会に応じつつある。スイス連邦工科大学チューリッヒ校、ペンシルバニア大学、カーネギーメロン大学などの教育機関は、建設業界の自動化の未来に焦点を当てた専門学部や大学院プログラムを設けている。
安全性の向上
建設業は、労働者の危険度が高い産業として知られている。2019年、米国の建設労働者の1.7%が負傷により休職し (米国労働統計局調べ)、また米国の労働者死亡者数の約20%が建設業だった (労働安全衛生局: OSHA調べ)。
オフサイト工業化建築、ドローン、自律型ロボットなどでより多くの建設プロセスや作業を自動化することで、建設業界は負傷や死亡の原因となる転倒や物との衝突などのリスクから、より多くの人々を守ることができる。ロボットは、より大きく重量のある積荷を扱うことができ、人間には危険な空間でも作業が可能だ。
自動化と工業化建築は、制御された環境へより多くの建設プロセスをもたらし、人の安全に対するリスクを減らすことができる。
自動化と工業化建築は、制御された環境へより多くの建設プロセスをもたらし、人の安全に対するリスクを減らすことができる。カリフォルニア州サクラメントには、人間不在で24時間365日完全自動で稼働する工場がある。人が存在しなければ、極めて安全な環境となる。自動化により、屋内で作業できたり、現場組立が容易になったりすれば、制御不可能な事象で生じるリスクを減らすことができる。
効率と生産性の向上
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、米国では1947年から2010年までの間で製造業の生産性は8倍以上となったのに対して、建設業の生産性はほとんど向上していないと言及している。この時期は製造業の自動化が盛んに行われた時期と重なっており、その終盤には自動化により熟練労働者の需要が高まったため、製造業の求人は過剰状態だった。マッキンゼーは、建設施工自動化は生産性を向上させる一方で、建設業の雇用機会を激減させる可能性は少ないとも予測してもいる。建設施工自動化がもたらす効率化の例は、その予測を裏付けているように思える。
建築設計段階における自動化は、予測設計などAU機能を用いて煩雑な作業を行い、デザイナーがクリエイティビティを発揮するための時間を確保する。また、建設施工自動化により収集されデジタルで共有されるデータは、複数のチームが新たな手段で連携するのに役立つ。
だが効率化による最大のメリットは施工段階にもたらされる。英国のIlke Homeの事例では、鉄骨やモジュラーユニットを建設現場よりも安全かつ管理が行き届く工場でプレファブリケーションを行い、それを現場で組み立てることで、住宅をゼロから建てるよりも早く、安く建設できる。またConstruction Automationは、同社のAutomated Brick Laying Robot (自動レンガ積みロボット) により、レンガとブロックによる家を、より高い生産性、優れた健康および安全性能、低コスト、保証された品質で建設できるとしている。
データ収集による知見と分析の向上
建設施工自動化はその性質上、データが残される。そのデータを適切に分析して変更を行うことにより、リスクを減らし、利益を増やし、時間と材料を節約することができる。一方で、正確性や完全性、一貫性が欠如した不良なデータは、2020年だけでも世界の建設業界に210兆円以上の損失を与えていると推定されている。建設管理ソフトウェアは、データを迅速かつ正確に処理、分析するのに役立つ。
この分野の現在の顧客の大半は、残念ながら設計して建物を建設した後は、次のプロジェクトに役立つ情報をほとんど保持していない。建築事務所の多くは、プロジェクトを雪の結晶のように考えている: すべてが唯一無二で、ゼロからスタートしている。これでは非常に非効率的だ。建設プロジェクトを毎回ゼロから始めていたのでは、効果的な自動化を推進するための情報や知識は得られない。
むしろ目標とすべきなのは、次のプロジェクトが少しでもより効率的になるよう、何が上手くいき、何がそうでなかったのか、マシンでの失敗にはどのようなものがあり、人手による作業で上手くいったことは何かを把握すること、建設施工自動化から十分なデータを収集し、将来のプロジェクトに生かすことだ。このプロセスを繰り返すことで、AIと人間が連携するシステムが進展し、絶え間ない更新によりさらにスマートになる。その結果、人間の知識とマシンの知識の両方がより豊かになり、各プロジェクトがより向上するのだ。
予測可能性と品質の向上
検査や許認可を得るための標準的な建設プロセスは、製造業に比べると非効率的だ。ある一定の予測可能な品質で繰り返し製造可能であることをメーカーが証明すると、UL (United Laboratories) 認証を受けられる。建設業界の自動化や工業化建築の採用が進むほど、検査工程を削減しつつ、再現性があり予測可能な高品質の建築部材を活用できるようになる。
Factory_OSでは、郡から派遣された調査員を工場に常駐させるなど、非常に優れた取り組みを行っている。調査員はFactory_OSが考案し、標準化したすべてのプロセスを検査している。
スケーラビリティ
工業化建築は、部品が標準化された場合に大規模プロジェクトの実行を容易にする。例えば、建物に2,000枚の配管壁や大量のバスルームユニットが必要な場合、オフサイト製造会社は、事前にこれらのコンポーネントをプレファブ製造し、保管して必要な時に現場に搬入できる。コンポーネント調達のための材料、物資、労働力を待つ必要がないため、大規模なプロジェクトをスケジュール通りに進めることができる。また、これらのコンポーネントが標準化されていれば (ある程度のカスタマイズは可能であったとしても) 、建設プロジェクトをさほどの困難なくスケールアップできる。
建設施工自動化の未来とは?
製造業が示すように、一定の規模の企業であれば、自動化が導入の閾値に達すれば、競争力を維持するために自動化を導入せざるを得なくなる回帰不能点が生じる。ABB Roboticsのグローバル調査によると、2021年時点でロボットを使用している建設会社は55%に留まっている (米国はそれ未満)。ただし、建設施工自動化の導入への関心、熟練労働者の不足、建設業における持続可能性向上への動きを考慮すると、自動化とロボットの大規模導入は、近いうちに建設業界の標準となるだろう。だが、その導入はどのような形になるのだろうか?
まずひとつに、建設施工自動化は、今後も建造環境の構築に製造技術を応用させるものいなるだろう。オートデスクとFactory_OSによるアフォーダブルかつ持続可能な住宅プロジェクトは、ボリュメトリックなモジュール建築の製造に向けた先進的な製造技術開発を継続する予定だ。オートデスク テクノロジー センターはまた、より多くの自動化技術を同社工場に展開させるべくイノベーションラボを開発するFactory_OSなど、建設施工自動化のイノベーションに取り組む企業と連携している。
清水建設が展開する最新ロボットRobo-Buddy Floorは、職人のOAフロア施工を支援する産業用ロボットシステムだ。また、シミズ スマート サイトの別構成要素は3台のロボットからなり、1台のロボットが乾式壁などの材料をエレベーター (ロボット) へと運搬し、別のロボットがエレベーターから材料を降ろす。よく考えてみると、これは自動化された製造設備だ。異なるのは、縦にも横にも移動可能であるという点だけだ。清水建設のシステムは建設現場全体を工場として捉えている。同システムは、建設を特異な一分野ではなく互いにつながる分野からなる一体系として扱う、相互連結するロボット技術が使用されている。
建設施工自動化は分散型製造のような方向へと進み始めている。高度な自動化は、Factory_OSのような日々進歩するモジュール型かつプリファブリケーションを使用した工業化建築により、シミズ スマート サイトのようなオンサイト組立を支援する。建設施工自動化とは異なるが、工業化建築は自動化による建設手法向上の可能性に一役買っている。
製造における生産性、労働力不足、材料のムダ、生産時間といった課題は、建築業界においても同じだ。自動化は、製造業界がこうした課題の解決、あるいは解決への取り組みとして採用してきた手段だ。現在、建設施工自動化は建造環境開発で増大する課題に取り組むものだ。
この50年の間に建設施工自動化は大幅に発展したことは明白であり、現在の建設業界にはびこる問題の解決においても格好の位置にいると言える。先端技術に興味を持つ若い労働者への訴求は、熟練労働者不足への対処に一役買うだろう。現場を全労働者にとってより安全な場所にし、データ収集により知見や分析力を高めるのにも役立つ。そして、おそらく最も重要なのは、住宅問題への取り組みを支援できるという点だ。これまで建設業界は環境への悪影響で悪名を轟かせており、また世界人口は増加の一途を辿っているが、自動化技術、オフサイトモジュール建築、ロボット、電動建設機械などを利用してより持続可能な構造体の設計・建設することは、次世代のためにより良い世界を生み出す一助となり得る。
この記事の作成に尽力いただいたオートデスク グローバルテクノロジーセンターネットワークのチームリーダーであるネイサン・キング (DDes)、フリーランス テクノロジーライターのマーカス・ロヴィート両氏に感謝の意を表します。