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日本のインフラ産業がBIM/CIM導入で目指すべき道筋とは

  • 生産性向上、サステナビリティなどへの対応の改善
  • デジタル活用が生み出す効果
  • テクノロジーへの投資の効果と対象
  • 発注者主導BIM/CIMによるプロセスの変革へ向けて

今日の日本におけるインフラ産業は複雑かつ高コストなものであり、インフラの老朽化が進行していることは一般にも知られている。だが、この業界内で起こっているイノベーションについては、まだ知られていない部分もある。このイノベーションの中核を成す、非常に重要な要素がBIM/CIMだ。

グローバルなBIMの進展に対応する形で、建設業界で日本独自のCIMという言葉が使われるようになったのが2012年の後半。そこから10年が経過した現在、地域のプロジェクトの約半数でBIM/CIMが使われるようになった。そして現在、JRやNEXCOなど民間インフラオーナーや大手建設コンサルタント会社が、このデジタルによる新たな業務プロセスをビジネス拡大の機会として活用を進めているが、なぜ今がその時なのだろう?

BIM CIM

生産性向上、サステナビリティなどへの対応の改善

建設業は、歴史的にみても最も生産性が低い産業と言える。そして現在は廃棄物を少なく、地球温暖化への影響を少なく、そして持続可能なコミュニティに貢献する方法で業務を行うことが必要になり、それを以前より少ない人員で実施する必要もある。天然資源の有効活用、さらにはウェルビーイングと呼ばれる、働きがいや楽しく働ける環境などの指標も投入されるようになっており、これらの部分で建設業は十分に改善の余地があると言える。

グローバルな調査会社であるIDCの報告では、今後企業が成功を収めるにはデジタル投資からビジネス価値を引き出すことが重要だとされている。だが、日本企業のICT投資額を見ると、トップの製造業が売上の3.3%と言われているのに対して、建設業ではわずか1.2%と、最も低いレベルに留まっている。建設業全体が抱えているこうした課題を、BIM/CIMを中心としたデジタル技術でどう解決できるのだろうか。

デジタル活用が生み出す効果

ボストンコンサルティンググループによるグローバルな調査レポートによると、BIMを中心とするデジタル化を徹底的に活用することで、年間70-120兆円のコスト削減が期待できる。これを世界のGDPの6%弱を占める日本に当てはめると、BIM/CIMを中心とするデジタル化によって約4-6兆円のコストダウンが見込めることになる。この金額は当初予算5.2-5.3兆円である国交省の年間公共事業費に相当するもので、デジタル化の貢献がいかに大きなものであるかが分かる。

国もデジタル技術の導入、普及に注力している。平成30年度以降は、防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策費、5か年加速化対策費などが補正予算として計上されるようになった。そのかなりの部分は、従来技術でなくロボットやBIMなどデジタル技術の導入普及に向けられるとされている。

テクノロジーへの投資の効果と対象

生産性の低迷は、テクノロジーへの投資額だけが原因なのだけではない。そこには熟練技術者不足、調達方式や契約条件、さらには行政から課される要領基準類や組織内の縦割りなど、さまざまな要因がある。そして世界の事業でBIM/CIMを中心としたデジタル技術が重要視される中で問題となるのが、デジタルテクノロジーの投資対象だ。

手描きの図面は数十年前にデジタル化され、CADに置き換わったものの、情報共有や意思決定のプロセスはいまだにアナログのままだ。単に3D CADでモデルを作成する、あるいはモデル作成を自動化するといった「過去のテクノロジーへの投資」を増やすだけでは、その投資対効果を実感することはできない。

BIM/CIMへ投資を行い、それを活用することでどの程度の効果があり、誰がどのくらいのメリットを得るのだろうか。オートデスクはその実用的かつ戦略的な分析のため、日本を含めた全世界で計110回以上ものBIM ROIワークショップを実施し、関係者である発注者、設計者、ゼネコン、協力会社が得られるコスト削減の割合を調査してきた。

BIM CIM

コスト削減の受益者という視点で見ると、ワールドワイドで最大のメリットを得ているのは発注者であり、約70%の配分率になっている。これは、とりわけ構造物の寿命が60年、80年とされている地域では、所有者のミッションが維持管理にも大きく関わるからだと考えられる。その次に割合が高いのが施工者であるゼネコン、協力会社の順になる。

日本の場合は、コストメリットの50%をゼネコンが、29%をその協力会社が享受しており、約3/4程度が施工段階のメリットだとされる。その一方で、設計者にとってはほぼ0%で、自分達には一切メリットがないと考えているというのが結論だ。これは日本特有の現象で、他の国では発注者のメリットが必ず50%以上になっている。日本では発注者が建設と維持管理を一緒に考えておらず、ほとんどのリスクが施工段階で吸収されているので、ゼネコンは施工段階で積極的にBIM/CIMを活用する動機があると考えられているということだ。

発注者主導BIM/CIMによるプロセスの変革へ向けて

現在、BIM義務化は世界の潮流となっている。既に英国や北欧諸国、ロシア、米国、メキシコ、ブラジル、オーストラリア、シンガポール、インドネシアなど多くの国が義務化を実施するほか、韓国、中国、カナダ、アルゼンチンなどが準備を進めている。日本においては、情報化へ取り組んできた国土交通省が2013年以降はBIM/CIMの調査を実施。2020年には、2023年までの全事業BIM義務化を打ち出すなど、BIM/CIM原則を推進している。

BIM/CIMの活用により、事業全体に影響を与える課題の事前検討が期待できるが、これは費用を負担する発注者にしか実施できない。こうした発注者主導の流れとするため、国はBIM/CIMポータルサイトを活用した成功事例の蓄積・発信や、「発注者におけるBIM/CIM実施要領」の策定など、標準化すべき内容の基準要領化に取り組んでいる。

Dodge Construction Networkの「BIMで加速するデジタルトランスフォーメーション」白書に掲載された調査結果によると、現在日本でBIMを活用しているプロジェクトは50%以上であり、これは世界平均をやや下回っているものの、今後2-3年で73%まで増加し、近い将来、BIM/CIMがより一般化すると述べられている。そして、まだ多くの人がBIMを「形状の三次元視覚化」だと認識しているが、25%以上の割合でBIM/CIMを活用している回答者の64%が、BIM投資に肯定的な効果を期待。この割合は、世界の回答者の平均より遥かに高いものであり、今後はBIMを本来あるべき姿で活用したプロジェクトが増加し、投資効果がさらに向上することが期待できる。

BIM/CIMで重要なのは、これは技術だけでなくプロセスであるということだ。そして各関係者が個別に導入・運用するのでなく、発注者、設計者、施工者の3者がそれぞれの役割と責任を果たしつながることが大切だ。それによって、BIM/CIMによるプロセスの変革が実現することになるだろう。

著者プロフィール

福地良彦は、オートデスク株式会社のアジア太平洋地域土木事業開発統括部長として、日本を拠点とするアジア太平洋地域の先進国における土木部門の事業開発を担当。2020年にはJR東日本グループのBIM義務化施策や2024年に予定されているNEXCOグループのBIM義務化に向けた施策立案に深く携わり、製品開発部門や技術部門と連携を取り、戦略的なプロジェクトの支援及び指揮を行っている。現在、国土交通省においては大臣官房、総合政策局、国土技術政策総合研究所、土木研究所とBIM/CIM、DXデータセンター、次世代インフラ点検プロセスなどの施策立案のためのパイロットプロジェクトに参画、内閣府では自治体へのスマートシティ事業の推進支援、京都大学、熊本大学、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校など日本と米国の主要大学とインフラ維持管理に関連した共同研究を行っている。マサチューセッツ工科大学 大学院 土木環境工学科修了。熊本大学 大学院 博士 (工学)。

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