エグゼクティブと生成AI: 職場のイノベーション促進を考えるCIOへの4つのヒント
- CIOを含め、エグゼクティブは生成AIツールを正しい方法で組織に統合すべきだ。
- AIの導入を成功させるには、明確に定義された成果と強固なデータ管理戦略、ガバナンス体制、斬新なマインドセットが必要になる。
- 生成AIの教育とスキルアップを社員へうまく提供することで、導入がより容易になり、そのメリットを誰もが理解できる。
増大するAIの役割について、多くの人は深く考えることなく日常生活を送っている。だがデザインや製造の世界に携わる者にとって、生成AIがコラボレーターとして、人間の創意工夫やイノベーションを急速に補強する存在になりつつあることは無視できない。企業がAI導入のジャーニーへと乗り出す際にはCIOがその先頭に立ち、最も信頼できるアプローチと適切なトレーニングによって、生成AIツールが最初の段階から適切な方法で確実に組み込まれるようにする必要がある。
建築・エンジニアリング・建設・運用 (AECO) 、設計・製造 (D&M) 、メディア&エンターテインメント (M&E) の各業界において、人々は蓄積された知識を駆使することにより創造や革新、これまでの試みの改善を行ってきた。生成AIも、これと同じ仕組みだ。人間とAIは共生関係を築くことが可能であり、人間が創造に必要なデータをAIへ提供するに対して、生成AIは新しいアイデアやイノベーションを生み出す時間を圧縮する。
デザインと創造の世界においてリーダーの66%が、今後2-3年のうちにAIがビジネスに不可欠な存在になるだろうと回答している。デジタル体験のより良い促進と変革を先取りし、デザインと創造の世界における労働力の強化を実現するため、企業が生成AIを業務プロセスへ巧みに導入した経営に役立つヒントを紹介しよう。
1. 成果を定義する
生成AIは現在地と目的地を把握する必要がある。
まずは、会社のこれまでの歩みだ。デザインと創造の業界では膨大なデータが生成され、製造業だけでも年間1,812ペタバイトのデータが生み出されている。企業各社は過去のプロジェクトの豊富な情報を持つものの、その多くが経営には活用されていない。生成AIの威力は、そうした履歴やデータを企業が活用することにより発揮される。生成AIツールは、データを取り込み、スタイルと嗜好を理解した後に、ターゲットに向けた助言を提供し始めるのだ。
人間と同様、生成AIにも目標が必要だ。生成AIの取り組みを始める企業にとって、それは達成すべき真のビジネス成果を理解し、成功の基準を特定することから始まる。それによって、適切な組織の適切な利害関係者とともに、AIの能力を取り入れるための系統的なアプローチを構築できる。成果が明確に定義されていれば、生成AIは、企業がより迅速かつ正確に目標を達成するのに役立つだろう。
生成AIが、これまでの歩みとこれからの方向性を知る必要があるため、生成AIの戦略を立てるには、企業が何を達成しようとしており、その迅速な実現にAIをどう役立てられるのかを検討する必要があるのだ。
自動化が登場した当初は、いかに効率を上げるかに焦点が当てられた。だが、それだけでは十分ではない。生成AIの機能を用いて、効率と有効性の両方を経営に提供することを検討しよう。例えば、ある建築事務所が自動化を用いて、10人でなく20人の潜在顧客にアプローチすると考えているとしよう。これは効率の向上だ。だが真の力が発揮されるのはテクノロジーが有効性も提供できたときであり、その場合、20人の顧客のうちどの3人に連絡すれば100%の回答率が得られるかの判断が可能になる。
効率と有効性を向上させることで、会社全体の生産性が大幅に上昇する。こうした生産性の上昇は、労働力不足や技能格差、サプライチェーンの脆弱性など企業が大きなハードルを乗り越える支援をすると同時に、脱炭素化など新たな目標の達成にも貢献する。レジリエンスを確保し、変革の中で軌道を維持するためのコミットメントを再確認しよう。
2. 優れたデータ管理戦略を持つ
データはAIを動かす燃料だと言える。生成AIツールの導入を成功させるには、企業がどのような手法でデータ管理を行うかが極めて重要だ。だがマッキンゼーの調査によると、現在のデータ管理戦略がAI導入の進展を妨げていると回答した企業は72%に上る。
データの効果的な収集、保存、分析には、適切なインフラへの投資が不可欠だ。そして、「このデータの所有者は誰で、アクセス制御はどうなっているか」「コンプライアンスとセキュリティはどうなっているか」といった疑問に答え、所有権を定義するガバナンス政策を確立することが重要になる。AIツールが許可無しに情報を共有しないよう、適切な対策を講じる必要があるのだ。
適切なデータ管理はまた、AIツールを混乱させ効率化の障害となるサイロ化を回避する。企業がデータの作成・保存を行う際に、AIモデルが要求に応じて特定の情報を取得できる場所を把握するための、データ辞書の作成が必要だ。データはオープンな必要があり、それはクラウドベースのプラットフォームで実現するのがベストだ。
最後に、データの質を重視しよう。生成AIの価値は提供されるデータで決まる。質の高いデータセットを持つことで、望ましい結果に到達するための適切な情報を得ることができる。
3. ガバナンス体制の導入
成果とデータに焦点を当てることに加えて、価値提供を加速するガバナンスの仕組みが必要だ。オートデスクはAI Center of Excellence (AIをCoE = 知識の中核とする) アプローチを確立しており、これは構造化された優先順位付けのフレームワークで、AIの使用事例を多角的に検討するのに役立つ。法務、信託、セキュリティ、人事、財務の主要意思決定者すべてが最初からプロセスに関与し、取り組みに関連したリスクを理解している。このアプローチは価値実現までのスピードを加速させる。
4. 組織全体の賛同を得る
AIが職場に導入されると聞いて躊躇する人々がいるのは間違いない。業務にどのような影響を与えるのかという懸念は、あって当然だ。だが危険なのはAIそのものでなく、より良い仕事をするためのAIの導入に失敗することだ。
世界経済フォーラムの調査によると、生成AIの進化により、年間2.6兆ドルから4.4兆ドルもの経済効果がもたらされる。同調査は「イノベーションと創造性を高め、反復作業を自動化し、学習を促進するため、雇用者の93%以上が今後5年以内に生成AIを使用するつもりだ」と述べている。AIツールを採用することで、企業は退屈なタスクを排除してワークライフバランスを向上させ、労働者をより価値の高い有意義な仕事へと解放できる。
企業が平凡なタスクを排除する方法に、大規模言語モデルの力を活用して複雑なコマンドを合成し、自動化するものがある。例えば建築家がAIベースの音声/言語合成/翻訳の力を用いて顧客の意見に耳を傾ければ、意思決定プロセスを促進させるような、鋭い知見に気づくことができる。
リーダーは教育、新たなツールとの接触、学習と革新の文化の育成によって職場の不安を緩和でき、それにより失敗を恐れず取り組むよう働きかけるのだ。うまくいかないことも想定して実験プログラムを規定しよう。AIとは何か、AIをどう活用できるかを社員が理解できるよう、包括的な研修/教育プログラムを開発することが重要だ。
真の課題は、チェンジマネジメントだ。人々はAIへの取り組みを考え始めてはいるが、生成AIを通常業務のワークフローの一部に加えさせるには、どうすればよいだろう? AIに何ができるのかを示すには、ちょっとした後押しが必要であり、そうでなければ現状維持を続けるだろう。例えばデータの要約ではなく、要約すべきデータの理解のためにAIを使うようになれば、AIはさらに効果的になる。人々が単純なクエリから高度なプロンプトへと移行すれば、AIの有用性は向上する。
チェンジマネジメント戦略には、新しいやり方で快適に働けるよう、社員のスキルアップを図ることも含むべきだ。シニアリーダーからのコミュニケーションは重要だが、同僚同士の励ましも不可欠だ。AI信奉者は、どの企業にもいる。社内でそうした人材を探し、生成AIの採用を推進するような裁量を与えよう。「AIを触る」ことから、何が可能かを本当に理解し、結果を補強して改善する方法を知るようになるには、取り組みの過程で人々を教育し続けることが重要だ。当初のAIへの注目の後は利用が鈍化することもあるだろうが、コーチングやトレーニング、アドバイスの追加提供により、それは勤務を通じてより洗練されたものになる。
オートデスクでは、このプロセスが進行中だ。社内のさまざまな人材の特定のニーズに対応するトレーニングプログラムを作成し、AIと生成AIの基礎をカバーする一般的なAI学位取得の手段を全社員向けに用意している。また、さまざまな事業部門でAI信奉者を見つけ、同僚に指導やサポートを提供するチームを結成している。
生成AIがもたらす未来
数年前、デジタルの加速度はワープスピードに突入した。どの企業も、世界で張り合うにはテクノロジー企業にならざるを得なくなった。そして今、業種を問わず全ての企業がAIを導入し始めている。それが、実際に付加価値を提供するからだ。採用はまだ初期段階だが、ほとんどの人がそれに賭けていると言える。
オートデスクが発表した2024年度版の「デザインと創造の業界動向調査」によると、AIを信頼していると回答した人は、過去最も高い割合である76% になった。AIは、これまでは手作業のプロセスを自動化する役割を担っていたが、いまや意思決定プロセスでも積極的な役割を果たすようになった。AIにできること、AIが担うようになることはたくさんある。数年後には、どうやってAIの助けなしに仕事をしていたのかと思うようになるだろう。