社会的距離を保ったオンライン プレゼンテーションを効果的に行う秘訣
デザインの成功はユーザーエクスペリエンスに行き着くことは、広く理解されている。製品やデザインを、実際に手にしたときの感覚に勝るものはない。だが公衆安全のために社会的距離を維持することが重要で、目の前でプレゼンを行えない場合には、そうした体験をどのように生み出せばいいのだろうか。
米フロリダ州セントピーターズバーグのインテリアデザイン事務所 Bee Studios の創立者兼オーナー、ブルック・エヴソール氏は「スタジオでの大規模なプレゼンの興奮と魅力を維持したいと考えました」と述べる。同社は住宅のリフォームや新築時のインテリアやキッチン、バスのデザインを専門とする、フルサービスのデザイン事務所だ。
屋内待避令が出されていた 3 月末に、エヴァソール氏は初めてのオンライン プレゼンテーションを行った。3 部屋分の家具パッケージを ZOOM 経由でプレゼンするのに先立ち、各部屋のビジョンボード (完成形を 1 枚のボードにコラージュしたもの) と、はぎとり式のシート、箱詰めした材料サンプルを収めた、ギフトのようなリボン付きパッケージを用意。それを事前に送付して、プレゼンの際にはクライアントが順番に開けられるようにした。
中庭へのドアをカーテンで処理するアイデアを話す際には、クライアントは生地のサンプルを手にして、それが部屋の明かりの下ではどう見えるのかを確認できた。「生地の色合いや柔らかさは、オンラインでバーチャルには伝えられません」と、エヴァソール氏。「写真で見せることも可能ですが、それは生地の手触りを感じることとは大きく異なります」。
世界中のビジネス顧客と 8 年に渡って仕事をしてきた Curio Design Studio のオーナー、アリソン・ハーロウ氏の場合は、オンラインでプレゼンテーションを行う準備は整っていた。Curio Design Studio は、シングルルームから中規模アパートまでの新築やリノベーション、インテリアコーディネートなどを扱っている。ハーロウ氏は拠点とするミシガン州マルケット近隣に加えて、世界中のクライアントともバーチャルに仕事をしてきた。
「仕上げや家具に関するサポートが必要なデベロッパーと仕事をすることになりました」と、ハーロウ氏。「単なるミーティングでなく、アイデアや資料も伝えるコミュニケーション方法が必要でした」。
そこで、スケジューリングやコラボレーションのプラットフォームからビデオまで、強力なオンラインツールセットを開発。プロセスによっては、デザインと製品のデジタルウォークスルーを記録し、会議の前にデジタルなムードボード (アイデアやコンセプトを画面や紙の上にコラージュしたもの) と一緒にクライアントへと送信している。「重要なデザイン プレゼンテーションは、大抵は圧倒するようなものです。クライアントは、大量の情報と数字で気絶寸前のことが多いのです」。
クライアントが時間のあるときに (そして必要なだけ) ビデオを閲覧できるようにすることで、情報を要約して、フィードバックをプロジェクトのプラットフォームへ提供可能となる。その後、ハーロウ氏は複数の意思決定者とも会議をスケジュールできる。
触覚の要素に関しては、ハーロウ氏はサンプルをクライアントへ直接送るために Material Bank (建築家やインテリアデザイナー向けの、材料の検索やサンプル取り寄せを無料で行えるサービス) を活用している。Material Bank はベンダーとデザイナーを結び付け、プロフェッショナルたちはさまざまなソースからサンプルを注文可能。食材宅配サービスのデザイン プロジェクト版とも言えるもので、壁紙やペイントチップ、タイル、生地のサンプルがワンボックスで届けられる。
Material Bank の Web サイトによると、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、物流ハブは定期的な殺菌を行っており、パッケージは消毒剤で処理され、返送されたサンプルを含む全入荷パッケージに対して 7 日間の隔離が実施されている。
ハーロウ氏は、バーチャルな体験には独自の高い付加価値があると考えている。対面のプレゼンテーションの場合、自身が登場して資料と掲示板を提示し、その全てを持ち帰る。だがバーチャルなシステムを使用すれば、クライアントはいつでもプロジェクトのプラットフォームにログオンして、定期的な更新の取得やプレゼンテーションの確認が可能であり、常にプロジェクトに接続できる。「これほどの深い関係 (ハイタッチ) を築けるものは、他にはありません」。
B2B セクターの例を挙げると、トロントを本拠とする NB3 の場合、ヘルスケアや美容業界でのコンシュマー向け製品の製造から個人用防護機器の製造に至るまで、製造業者との協業プロセスを、よりハイタッチにする必要があった。
NB3 は、2 種類のスキンケア製品ラインと、膝や肘のスタビライザーなど治療用のアパレルライン Rally Active などの開発と製造、販売を行う一方で、こうしたサービスを発明者や起業家に提供している。
同社は現在、股関節骨折の可能性を減らすよう設計された、股関節プロテクター内蔵のショーツを開発中。この保護具に、同じ材料と製造パートナーを採用することを望んでいる。
NB3 の共同創業者兼ビジネス開発ディレクター、エンマ・ウォレス氏によると、同社はこれまでデザインのプロセスに多くの時間を費やしており、調達担当者は工場のスタッフとのミーティングのため頻繁にアジアを訪れていた。
「現在、我々の最も重要な資産は時間です」と、ウォレス氏。NB3 は、複数のプロトタイプ作成とデザイン会議を含む反復プロセスから、必要不可欠なものへと削減を行った。現在、社内デザイナーは海外の工場で 3D プリントを行うための、完璧な CAD モデルの作成に注力している。
「最初の段階で完璧なモデルを作るようにしています。工場でプリントが行われた際には、彼らの手元に、我々が選択した材料で作りたいもののプラスチック版が存在することになります。そのため、混乱も全く起こりません」と、ウォレス氏。「説明が必要なのは、最終的な生産で使われる材料のことだけです」。
医療従事者と作業員にとって保護具が必須となっている現在、「正しく再設計を行うのに数カ月が必要だったものを、数週間で終わらせる必要があるのです」と、ウォレス氏は述べる。
もちろん、実在するものを完全に置き換えることはできない。だが世界がバーチャルにビジネスを行うことに慣れるにつれ、創造性が設計のレジエンスを生み出せることが示されるようになっている。