都市環境を自然と生物の安息の地へと変える6つの実例
市街化の影響は、上空から眺めれば明白だ。整然とした建造物の区画と、市街地にちりばめられた緑の区画のコントラストを、地上で見るよりずっと簡単に把握できる。
都市の中心部に自然を取り戻す取り組みを行っている都市は、優れた恩恵を見出している。「再野生化」やバイオフォリア (自然とのつながりを取り入れること) によって美しく修復された都市は、サステナビリティや住民の健康をどう向上させるのか。その実例を紹介しよう。
1. 都心に自然を取り戻す
2009 年のマンハッタンのハイラインの成功を受けて、より多くの都市が、十分に活用されていない空間を公園として再生させるプロジェクトを行うようになった。例えばフィラデルフィアの Rail Park は全長 400 m にわたる高架を公園とするプロジェクトで、市内 10 地域を結ぶことになる。ダラス中心部の Klyde Warren Park は総面積 21,000 平米で、2012 年 10 月の開園から 600 万人以上が利用してきた。この公園ではヨガやミュージック ライブ、周辺のスカイラインを定位置から眺める「スタンディング」ツアーなど、無償のアクティビティが連日開催されるほか、放水イベントやインタラクティブな噴水、読書室やゲーム室を備えた子供向けの公園などもある。[記事を読む (英文)]
2. 庭園の中の都市
都市を拡大するために周辺の土地が切り開かれ、自然環境や生物は一掃されてきた。その後、水路が整備され、膨大な量の天然資源が消費されて、膨大な量のゴミが廃棄されてきている。こうした性質の変化するプロセスは「変性」と呼ばれるが、その結果、人間が自然と再びつながるには都市部を離れて、ヨセミテやイエローストーンなどの保護された自然公園を訪れることが必要になった。
だが、いまや多くの都市が都市自然化に参画するようになってきている。これは都市と自然の関係のバランス、サステナビリティを回復させようとする試みだ。それを都市は、生態系や種の多様性を保護し強化すること、人々が自然を満喫する手段を提供することで実践している。例えばシンガポールは大規模な植樹の取り組みをスタートさせ、それを多角的かつ市全域にわたる再自然化への取り組みへと発展。今や公園や自然地域へとつながる回廊地帯を含めて、林冠 (枝葉の茂った部分) がシンガポールの 50% を覆うようになった。[記事を読む (英文)]
3. バイオフィリア: 従来の建築を裏返しに
メリアム = ウェブスター辞典の定義によると、”バイオフィリア (Biophilia)” とは「人間は自然界の他の生物と触れ合い、密接な結び付きを感じる傾向を持つという仮説」を意味する。バイオフィリア的デザインとは、人工物に自然の要素を建築に織り交ぜることが、そこで暮らす人々の健康と生産性に貢献すると提言する理論だ。これは単なる植樹ではなく、外部環境の様相の模写を意味しており、バイオフィリア的機構には自然な光、気流の流れ、天候、音、植物が含まれる。そして、より多くのデザイナーや建築家が、屋上緑化や屋内外の両方に壁面緑化を使用してバイオフィリアを取り入れるようになっている。[記事を読む (英文)]
4. 野生生物を都市部へと連れ戻すには?
このところトレンドになっている都市の再野生化とは、野生生物が全く存在しない密集した都市部を、野生生物が都市生活者と共存できるような、自然界にとって魅力的かつ生存可能な成育環境へと変化させるものだ。この再野生化を実現するために、必ずしも都市デザインの完全な再設計は必要でないと理解しつつある、ロンドンのような都市もある。例えばロンドンの Wild West End プロジェクトは、複数の公園の間に緑の回廊を作り、壁面緑化や屋上緑化で既存の建造物を改良することを目指している。この地域には、珍しい鳥であるクロジョウビタキなど、既に予想外の生物数種が戻ってきている。
都市の再野生化の取り組みは、より多くの緑地空間が提供されることによる人々の幸福度の向上、水はけの問題の解決や洪水抑制への貢献、花粉媒介者などの生物への住処の提供など幅広い利点をもたらしている。また、ミツバチの巣箱をオフィスに設置する取り組みもある。[記事を読む (英文)]
5. ハーブ療法: 自然のための空間を都市内部に作り出す
都市は文字通り有毒かつ危険で、致命的な住環境になりつつある。WHO によると、大気汚染の影響により毎年 700 万人が命を落としている。また最新の昆虫に関する世界的な研究によれば、あらゆる生態系が正しく機能するために必須の存在とされる昆虫のほとんどの種が、このままでは今世紀末には絶滅しかねないほど急速なペースで減少しており、その 40% は既に絶滅の危機にある。
こうした課題に応えるべく、自然を都市部に取り戻し、野生生物と人間へのダメージを相殺しようという動きが生まれている。コンサルティング会社 Regenesis でプリンシパルを務めるビル・リード氏は、バイオフィリア ムーブメントは人間にとっての自然の役割だけではなく、自然に対する人間の役割も検討されるべきだと話す。企業各社は、種の多様性を取り入れ、建造物に美しい景観をもたらすだけでなく、恒常的なケアをしなくても自然に発展するような、持続可能な生態系の育成にも注力している。[記事を読む (英文)]
6. メンタルヘルス向上のために都市部へ自然を組み込む、スタンフォード大学の研究者が提案する方法
都市生活者にとって、現代の暮らしは屋内で画面に向かって過ごす時間がほとんどであり、自然から切り離されている。ある研究によれば、4 億 5,000 万を超える人々が心の病や神経障害に悩まされており、その多くが都市部に居住している。
増加する一方であるメンタルの問題を緩和するため、スタンフォード大学の研究者とワシントン大学による国際的なチームが、自然がメンタルヘルスに与えてきた利点を、再び都市生活者へもたらす取り組みを行なっている。自然を保護し、都市部に自然を取り入れることで得られるメンタルヘルスへの効果を、都市設計者や建築家、デベロッパーなどが利用できるように支援。そこには住宅地域での公園の拡大、街路樹の増加、既存の自然環境にアクセスするための交通インフラの向上なども含まれている。[記事を読む (英文)]