モジュール建築のメリット: まるで巨大なレゴ ブロック
モジュール建築は、かつてのプレハブやコンテナハウス、旧来のトレーラーハウスなどのイメージから脱却して、新たなルネサンスを迎えようとしている。現在はハイエンドな邸宅や集合住宅、高層の病院までもがモジュール工法で建設されるようになった。
材料をプロジェクトの現場へ搬入し、熟練の技術者が切断や組み立てを行う従来の住宅やビルの建設モデルは、廃棄物や複雑なスケジュール、建設現場につきものの非効率性の原因となっており、この自動化の時代においては、より綿密に精査されるようになってきた。プロジェクトの成功例の多くで、過去に建設された住宅やビルとは異なる自動組立ラインのアプローチが採用されている。製造は工場で行われ、現場ではレゴ ブロックを思わせるような建築部材の組立作業が行われる。こうしたモジュール建築には、明白なメリットがある。
スケジュールと手戻り
最初に挙げられるメリットは、モジュール建築によりアクセス経路や往来、セキュリティ、材料の保管など、現場における問題が排除されることだ。工場は輸送ハブに隣接した場所にあるのが一般的で、資材のフローを支援し、輸送費を削減する。また交替勤務が行いやすい地域にあれば、必要に応じて24時間態勢で建設作業を行うことが可能だ。
さらに、施工会社が基礎工事を行っている間に、別の施工会社が壁や構成要素の建設に携わることができる。同時進行の建設では、基礎が固まるのを待つ間に、壁を構築してしまうことも可能だ。こうしたスケジュール上の利点により、Modular Building Instituteの概算 (英文情報) によると、在来工法に比べてプロジェクトを30–50%も短い期間で完了できる。Factory_OSがカリフォルニア州ナパ・バレーに建設中のモジュール住宅では、基礎工事から照明器具の設置までを含めて、121平米の建造物がわずか4時間で組み上げられている。
モデルと材料
現場での測量、建設の作業を削減できれば、プロジェクト全体を停止させるような手戻りのリスクを回避する、より一層シームレスな建設生産のプロセスを生み出すことができる。ただし、コンポーネントで構成されるビルには、新たなレベルの設計と制御が必要だ。例えばモジュール ビルディングでは、内装・外装工事が完了する前に MEP (機械、電気、配管) を設置するのでなく、電線や通信ケーブル用の導管であるダクトと配管コンポーネントを使用し、組立時にはめ込まれる。各コンポーネントは、隣接する部分にぴったりと収まるよう、厳密な基準に合わせて設計されていることが絶対条件だ。
BIMツールは、コンポーネントの詳細な3Dビジュアライゼーションを実現し、完成部品の適合を確実にすることで、モジュール組立の進展に大きく寄与している。また BIM は、壁組立のテンプレートや治具、壁枠内に収められる部分組立、ロボット溶接などの自動推進アプローチによって正確な製造を可能にする、各コンポーネントの詳述手段を提供している。
全米住宅建設業者協会 (National Association of Home Builders: NAHB) の調査によると、米国の標準的な186平米の住宅1軒の建設で、約3,630㎏の廃棄物が生じる。管理の行き届いた工場環境では、こうした廃棄物を大幅に削減できる。余剰材料は他のプロセスへとリサイクルでき、管理された保管庫は天候による材料へのダメージを削減するからだ。
労働と安全性
工場環境は、反復作業を自動化し、作業員をより細分化された専門のタスクへ割り当てることで、労力を最大限に活用して建設をスピードアップするのに役立つ。オンサイト建設の人件費は、熟練労働者が比較的多いことと、広範なタスクと最終生産物の高度なカスタマイズに責任を負う作業員を要することによって、高額になりがちだ。
工場環境における厳格なプロセスの導入は、品質基準の向上に役立つ。またプロセスの向上には、作業員の安全上の利点もある。実際、作業時間の短縮と安全性の向上は、従来の現場建設に勝る2つの明白な利点だとされている。管理の行き届いた環境、タスクの自動化と反復のレベルが、安全性の向上とコストの低下につながるのだ。
成功を目の当たりにする
モジュール ビルディングのアプローチが特に秀でているのは、反復が恩恵をもたらすような、複雑性の高い分野だ。その好例となるのがバスルームやキッチンなどのモジュールで、その複雑性と反復性により、購入して従来の建造物へ組み込める「ポッド」が作られている。組立ライン アプローチがメリットをもたらす複雑で反復性の高いビルは、研究所や病院、学校、共同住宅など数多くある。
大規模モジュール建築の採用をリードするのがヘルスケア分野で、室内環境の標準化が従事者の効率性向上に大きく貢献し、柔軟なケアを可能にする。Miami Valley Hospital Heart and Orthopedic Centerは5フロアに及ぶ 全 178 室を同じデザインに統一している。これほどの標準化は、環境によっては退屈だと感じられるかもしれないが、反復デザインによってスタッフは備品の位置を素早く把握でき、患者のニーズに合致するようフロア全体を再構成することもできる。
こうした建物で用いられているモジュールおよびモデルベースのアプローチは、建設プロセスだけでなく、現在進行中の保守においても有益だ。詳細なモデルがあるため、オーナーは壁内部の構造を正確に把握でき、確信を持って管理に取り組むことができる。これは、クラウンプラザ ホテル チャンギ空港のような大型の建物に特に有効だ。このモジュール式構造物は、26 日間で組み立てられている。
建設技術と材料の面だけでなく、一般的な認識においてもモジュール建築が苦境を脱したのは間違いない。今後も軍や学校、従来の建設現場で在来工法による建設は継続される一方で、建築分野の方位磁石の針は、さらなる実験と、これまでの枠を超えた優れた応用へと向けられているのだ。
本記事は2014年10月に掲載された原稿を加筆・修正したものです。