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デジタルトランスフォーメーションで成功させる未来博物館のエンジニアリング

未来博物館 ドバイ デジタルトランスフォーメーション 成功

我々はデジタルの世界に住んでいる。この世界では驚くべきことが起こり、ムーアの法則にあるような、指数関数的な変化が生まれる。だが、単なるデジタル化では十分でない。この世界でビジネルが生き残るには、トランスフォーメーションが必要だ。それは何を意味しているのだろうか?

10年前にMITが行ったデジタルジャーニーの研究では、単にデジタル化をするだけでは、業績は24%も低下するという結論が得られている。建設・建築業界にもDX (デジタルトランスフォーメーション) の波が押し寄せているが、それが単なるデジタル化、つまりBIMの導入だけでは生き残れない可能性が高い。それを回避するには、少なくとも効率を上げる必要がある。

国際博覧会の開催を今年9月に控えたドバイで、シェイク・モハメド氏のビジョンから生まれた未来博物館 (The Museum of The Future) がオープニングを迎える。建築家ショーン・キラ氏が手がけた、この複雑な形状の建物の実現のため、私が所属するBuroHappoldがBIMをどのように活用したのかを紹介していこう。

未来博物館の内部ではさまざまなイベント開催が予定されている [提供: Killa Design]
 
未来博物館の内部ではさまざまなイベント開催が予定されている [提供: Killa Design]

デジタル化のもたらすメリット

BIMを使うことにより、世界中でコラボレーションを行うことが可能になった。このプロジェクトではスペシャリストたちで構成された23のチームが、12のタイムゾーンで共同作業を行なっている。BIMが、こうした統合をサポートする共通言語となり、コラボレーティブにデジタルツインを作り上げることができた。

皆がコンピューターを使い、全ての音楽がデジタルになったように、全ての設計情報はBIMになるだろう。これは大きな変化だが、テクノロジーではなく人の問題になることも忘れてはならない。重要なのは「BIMとは変革である」と理解することだ。そしてBIMについて考えるのと同じくらいの時間をかけて、どう変革を起こすのかを考える必要がある。

そのためには、会社と個人の両方に変化が起こる必要がある。会社が変化を望んでも個人がそうでなければ抵抗が生じ、逆に個人が変わりたくても会社が変わらなければ欲求不満が生まれる。設計や建設の世界では後者が多いが、これを変えるには、その変化が会社にとっても個人にとっても有益であると、まずは上司が推奨することが大切だ。同時に、こうした考え方を理解して、ボトムアップで変革の動きを生み出すことも重要だろう。

[提供: BuroHappold]

複数の最適化の組み合わせ

前述したように、BIMソフトウェアを購入するだけでは、ビジネスを向上させるには不十分だ。BIMが実際に貢献できる分野を見つける必要がある。未来博物館のエンジニアリングにおいては、ジェネレーティブデザインをシステマチックに活用し、コンピューターにより構造のグリッドが最適化されるようにした。また同様に、ファサードのパネル計画にも複数のオプションを生成している。

コンピューターを使ったエンジニアリングで本当に役立つのが、複数の最適化の組み合わせだ。ファサードパネルの各コーナーは構造で支持される必要があるため、ファサードの変更は構造へ直接的な影響を与えるし、その逆のことも起こる。我々は9世代の設計を経て、パネルの複雑さを80%、鋼材の使用量を30%、アセンブリ時間を40%減らすことができた。

複曲線の数が増えると、その支持のために二次的な構造物が必要になったり、パネルのコストや輸送コストが上がったりする可能性もある。だがジェネレーティブデザインを活用することで、複数の軸を使った比較が可能になった。こうした比較はモデルを使わなければ不可能であり、デジタル化により設計がサポートされることになった。

未来博物館 ドバイ ジェネレーティブ デザイン
複雑な要素の最適化に設計の合理化、ジェネレーティブデザインが活用された [提供: BuroHappold]

もちろん、モデルは施工や運用にも生かすことが可能だが、そのためにはモデルにどの程度のことを盛り込み、どう共有するのかを同意しておく必要がある。同じ会社の中の建築家やエンジニアだけでなく、プレコンストラクションや施工のチーム、協力会社など、全ての関係者が情報を共有するためには、情報管理が重要だ。建築資産のライフサイクル全体で情報を管理するISO 19650が発行されたことで、今後は合意の上でのコラボレーションが、よりシンプルになるだろう。

このISO 19650では、データをセキュアなものにする方法、現場での安全性を改善するためにデータを活用する方法、オーナーが将来的に活用できるようなデータの公開方法、施工でのデータの活用方法などが策定されており、非常に分かりやすいものになっている。

未来博物館の場合は、最終的には65モデルが作成され、正確な設置を行うためレーザースキャンも多用された (270億点)。用意された4、000枚もの図面は、全てモデルから作られたものだ。作成された 20 TB ものデータをクラウド経由で共有するため、BIM 360を440ユーザーで使用。皆がクラウドをチェックし、どんなビルになるのか、次はどんな作業が待っているのかなど、様々な情報が共有された。

ドバイ 未来博物館 建設中
建設中の未来博物館 [提供: Buro Happold]

こうした情報管理の成果のひとつとして、構造物を囲むように堅牢な足場を組み、それが建物を支持するような計画が立てられた。それにより、当初の予定より1カ月以上早い段階でMEPをインストール。通常の低コストな足場では、こうした作業は行えない。BIMを使うことで、より優れたプランニングができたことになる。

今後、モデルを使うことは関係者全員の役割になり、異なる市場で異なるユーザーが、より良い施工を行う方法を「発明」していくことになるだろう。そのためには、テクノロジーを活用するためのビジョンが必要になる。テクノロジーに投資するのであれば、それを回収できるプランも用意しなければならない。会社幹部の責任は、テクノロジーを活用して、会社をどう最適化していくかを検討し、それをBIMストラテジーに盛り込むことだ。

未来を見据えた優れた博物館の実現

BIMにより、より優れた設計と施工を実現でき、その結果として優れた建物を生み出すことができる。だが、この未来博物館の場合、本当に求められているものは優れた博物館であり、実際に足を踏み入れたときに素晴らしい体験ができる場所だ。それは、ほどよい空調が行われ、開催される催し物などに応じた複雑なコンフィギュレーションにも対応できて、素晴らしい体験を提供できる建物ということになる。

BIMモデルを使うことで、シミュレーションの機能ともコネクトできるようになり、ビル内の状況を予測したり、実際に起こっていることを測定したりできるようになる。ビルがどう使われているかを理解できるさまざまなテクノロジーによって、人々が素晴らしい体験をしているかどうかを理解できるのだ。

確実に言えるのは、BIMによるデジタル化を進めて、それを機能させることで優れた会社が実現するということだ。より楽しく働けるようになり、より利益を確保できるようになって、これまで以上に素晴らしいことを実現できるようになるだろう。

この業界では、設計や施工をより良いものにしようという取り組みが続けられてきた。それをさらに良くするには、より良い判断が必要になる。そのためには、より良い情報が必要だ。コンピューターが、そのマネージメントやクリエイトを可能にしてくれる。それがBetter Information Management、つまり新しい意味でのBIMだと言えるだろう。

著者プロフィール

BuroHappold Engineering UK 社の BIM およびデジタルトランスフォーメションのグローバルリード/アドバイザー。航空宇宙、自動車業界でのキャリアを経て 2008 年より建設業界に参画。複数の CAD/BIM 関連スタートアップの CEO を歴任し、BIM による建設業の変革とデジタル化を実現。2014 年より現職にて、英国での BIM 義務化を始めとするグローバルな BIM の制度化を推進。BUILTWords Summit、Autodesk University、BILT ASIA、Ecobuild などの業界イベントで定期的に講演を行う一方、Institute of Civil Engineers Digital Initiative のアドバイザーでもある。

Profile Photo of Alain Waha - JP