STRABAGの「ティーボックスシステム」は持続可能で効率的な建設のモデル
- オーストリア企業STRABAGは、世界でもトップ10に入る規模の建設グループ。
- STRABAGのイノベーションとデジタル化の重視は、独立した中央部署STRABAG Innovation & Digitalisation (SID) の下で統合されている。
- STRABAGの新しいアプローチは、コスト、納期、品質、リソースの影響が最も大きい、設計と建設プロジェクトのライフサイクルにおける初期段階の最適化を目的とするものだ。
- ジェネレーティブ デザインは、STRABAGとZÜBLIN (ドイツのグループ子会社で建築建設と土木を担当) のデザイナーに、よりネットワーク化・効率化され持続可能な方法で作業するための自動化ツールを提供している。
ドイツ・シュトゥットガルトにあるZÜBLINビルのVRセンター内のティーキッチンに立っているのは、SIDのBIM/5D開発責任者を務めるコンスタンティノス・ケスーディス氏だ。 天井からは多数のカメラが吊るされ、巨大なスクリーンが部屋を照らしている。ケスーディス氏は建設におけるデジタル化の課題を議論しながら、オーストリアやドイツで一般的なキッチン用品である、ティーバッグが収納された仕切り付きの箱を取り出した。
「このティーボックスは、ビルそのものです」と、ケスーディス氏。「そして、ティーバッグはビルに取り付けられる規格部品です」。
ただしケスーディス氏は、ティーボックスはビルよりも柔軟性に欠けていると指摘する。「ティーボックスはあらかじめ形が決まっていますが、ビルの構造は大きさも形もさまざまです」と、ケスーディス氏。「設計段階で細部までを決定できれば理想的です。個々のティーバッグを分類し、構造に依存しない任意の箱に並べ、その箱を生産システムでネットワーク化するのです」。
STRABAGのティーボックスシステムは、製造プロセスにコネクトされた、標準化された規格部品を使用している。ケスーディス氏は、このシステムに1990年代から携わってきた機械エンジニアは、建設作業員よりもはるかに効率的だと考えている。彼は、こうした効率化の代表例として自動車業界における統合工場モデリングを挙げており、建設分野はその遅れを取り戻す必要があると話す。
「建築現場に欠けているのは、プランニング要素と生産プロセスの間のコネクションなのです」と、ケスーディス氏は話す。だが、原材料の調達や建設プロセス、運用が世界の二酸化炭素排出量の40%近くを占める建設分野にとって、変わらないという選択肢はもはや存在せず、その結果としてより無駄のない (リーンな) プロセスの採用が進んでいるSTRABAGの新システムは、適切な方向へ大きな一歩を踏み出すものと言える。
自動化とネットワーク化が現代の建設のカギとなる
ケスーディス氏は、自動化とネットワーク化の話題に興奮を覚えている。「ネットワーク化により、建設現場でものを探すような非効率な作業を減らすことができます」と、ケスーディス氏。「自動化は、競争力を高めると同時に、持続可能性の向上にも役立ちます」。彼は、設計と施工をコネクトすることだけでなく、設計・施工フェーズでロボットや3Dコンクリートプリント、VRゴーグル、AIを活用することにより、材料の数と建設現場での過酷な肉体労働を減らすことにも言及している。
STRABAGはこうしたイノベーションを建設業界の生産性向上に役立てたいと考えており、その目標を達成するべくオートデスクなどのパートナーを巻き込んでいる。両社の連携は、2020年にオートデスクのアンドリュー・アナグノストCEOとSTRABAG Digitalのクレメンス・ハーゼルシュタイナーCEOが署名した基本合意書で始まった。「建設と製造を理解し、両業界での貴重な経験を共同作業に生かすことができるオートデスクは、我々にとって完璧なパートナーです」と、ハーゼルシュタイナー氏は話す。
STRABAGの企画段階を最適化するジェネレーティブデザイン
STRABAGは長年にわたって革新技術に焦点を合わせてきた。数々のイノベーションの原動力のひとつがジェネレーティブ デザインであり、現在はSTRABAG Innovation & Digitalizationの一端としてマルコ・クサヴァー・ボルンシェルグル博士の傘下にある、STRABAGの部門名もなっている。ジェネレーティブ デザイン部門を統括するファビアン・エヴァース氏は、自動化についても頻繁に言及している。「設計段階の再考を行っているところです」と、エヴァース氏。「重要なのは自動化されたプロセスという点です。建築や建設の専門知識をアルゴリズムへと変換し、設計を自動化します。最終的には、設計の自動化により建物の最適化が実現します」。
これまでデザイナーはMicrosoft Excelのスプレッドシートで作業していたが、今では自動化ツールを使用している。デザイナーの仕事は、パラメーターを設定し、目標を定義することだ。そして、それがCADシステムへ送られる。コンピューターは、それをもとに適応型AIの手法を用いて論理計算を行い、3つや4つでなく、無数の最適設計を短時間で作り出す。こうした設計には、人間のデザイナーが提供できるものよりもはるかに多く、正確な数値が含まれている。デザイナーは、一定のパラメーターに従ってフィルタリングを行い、最適な解を決定するだけで良い。
この設計手法はSTRABAG Real Estate (SRE) と共同開発されているもので、土地評価などに使用されている。プロジェクトデベロッパーは最適な造成方法を迅速に判断できる。 このツールでは、最適な直射日光量、CO2排出量、住宅戸数などのパラメーターが最初から考慮される。
彼のチームは、階高などのパラメーターを入力すると階段とエレベーターがAutodesk Revitで自動生成される標準モジュールのプログラムを行った。デザイナーは新しい建設プロジェクトが始まるたびに階段を描き直す必要がなくなり、設計図を参照すれだけでいい。これは「規格化されたティーバッグ」の最たる例だ。
「コンピューターで階段モジュールが生成されることで、設計段階の時間が大幅に短縮されます」と、エヴァース氏。「これまで3週間かけて試行錯誤していた階段の設計が1日で完了するのです」。デザイナーは、もう単純なコンポーネントのモデリングに悩まされることはない。モジュールがモデルの変更へ自動的に対応するため、様々な間取りで壁を簡単に移動可能。これも個々の顧客の要望へ対応する際に、貴重な時間を節約できることになる。
今後、STRABAGとZÜBLINは、この階段のモデルに基づき、建物の一部、さらには全体を「ティーボックス」建築システムとして開発したいと考えている。構造体のプランニング、生産、建設現場での最終組立が、すべて自動化されることになる。これら3段階はすべてシームレスでデジタル化され、ネットワーク化されることとなる。
アルゴリズムがプランナーをつなぐ
こうした業務手法により、これまで別々に仕事をしていたデザイナー同士が、より密接に連携できるようになった。建築家、構造エンジニア、ビルサービスエンジニア、サステナビリティの専門家、防火担当者、ファサードプランナー、構造エンジニアが同じテーブルにつき、相互依存関係をより深く理解し、建物を全体的に検討できるようになる。ジェネレーティブ デザインにより、プランニングのネットワーク化を高まるのだ。
これが建設業界にもたらす大きなメリットのひとつが、持続可能性だ。新しいこのデジタル設計手法では、ツールによってプロジェクトの初期段階からカーボンフットプリントが考慮できるため、これまでは計画段階の最後にしか発言権のなかったサステナビリティの専門家が、プロジェクトの最初から意見を述べることができる。
「持続可能な建設を目指す上で、これは大きな助けになります」とエヴァース氏は話す。デザイン決定が以前は専門家の経験のみに基づくものであったのが、現在では事実とパラメーターに基づくものとなっていると、エヴァース氏は説明する。ジェネレーティブ デザインの助けがなければ、「昔からこの方法でやってきたから」、あるいは「短期的にはその方が経済的だから」という理由で、ビニール窓が特定の手法で設置されていたかもしれない。しかし今では自動化ツールがアルミ窓を提案する。その方が長寿命でサステナブルだからだ。
STRABAGは、自動化ツールとジェネレーティブ デザインがプランニングと建設のプロセスに革命を起こすと考えている。パイプラインを加速させ、専門家を集め、時間、コスト、リソースを節約できる。STRABAGは、紅茶が淹れられるのを待っているのでなく、建設業界のイノベーションを牽引しているのだ。