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FRCでルーキーアワードを独占! 中高生チームでロボット制作を行うSAKURA Tempestaの挑戦

SAKURA Tempesta ロボット 制作 FRC
SAKURA Tempesta が活動拠点としている千葉工大津田沼キャンパスで行われた 2018 年シーズンの報告会

FIRST Robotics Competition (FRC) は、セグウェイ発明者として有名なディーン・ケイメン氏が設立したアメリカ・マンチェスターの NPO 法人 For Inspiration and Recognition of Science and Technology (FIRST) が提供する、中学 3 年生から高校 3 年生までを対象としたロボット制作とコンテスト出場までを総合的に行うプログラムだ。

FRC の 2017-2018 シーズンには、世界中から 3,647 チームが参加。その世界大会である First Championship へ日本から初めての出場を果たした千葉県の中高生チーム「SAKURA Tempesta」はハワイで行われた地域大会で、初出場で特に健闘したチームにのみ贈られる Rookie All Star Award、Highest Rookie Seed Award を獲得した。2018 年 7 月 21 日、彼らの活動の拠点となっている千葉工大津田沼キャンパスにて 2018 年シーズンの報告会が行われ、多くのメンターや保護者、スポンサーが集まった。

チームのリーダーとしてメンバー集めから始めたのは、当時高校 2 年生の中嶋花音さん。ミネアポリスに留学中、部活動の中に FRC があり、そこに参加したことが FRC との出会いだった。

今回の大会で First Dean’s List Finalist Award を授与された中嶋さんは、「もともとロボットや機械工作に興味があったわけではありませんでした」と言う。「映画が好きで映像編集に興味があったのですが、FRC のチームに参加すると、高価な映像編集ソフトが使えると聞いて興味を持ち、ボランティアや活動のお手伝いを始めました」。

チームに授与された 3 つのアワード

企業、個人の支援者への報告も大切な活動だ

Facebook や Twitter を活用して情報を集め始めた中嶋さんは、日本に帰国後、今度は日本のチームとして FRC に参加してみたいと考え、チーム作りからスタートする。Facebook で FRC に興味を持っている人を募り、小・中学生向けのプログラミング教室 CoderDojo の Champion にメンターとして参加を依頼。

その際に中嶋さんから SNS を通じて接触があったのが、2014-2015 シーズンの FRC に日本で初めてのチーム Tokyo Technical Samurai として参加経験があり、その情報を発信していた東京工業大学工学院システム制御系の学生である大西祐輝さんだった。彼もまた東工大附属高校電気工学科に在学中に Twitter で FRC の存在を知り、校内の仲間に LINE で参加を呼びかけ、メンバーを集めたという。

「もともと大会やイベントに行くのが好きなタイプだったので、面白そうだなと思ったものは参加してみたいと思い、挑戦することにしました」と、大西さん。人数が増えたので、最終的には私たちの Tokyo Technical Samurai と、友人の Indigo Ninjas の 2 つのチームに分かれて参加したのですが、この FRC というプログラムは、まず参加費が高いので、資金集めから大変でした」。

FRC では、プログラムの内容に資金調達活動も含まれる。参加費から海外での大会に参加するための渡航費や滞在費、国内で設計やモデリングを行うための費用や場所なども、すべてチーム内で調達する必要があるのだ。SAKURA Tempesta も資金調達に奮闘し、500 社以上の企業にアプローチして、会社の訪問やプレゼンを行ったという。

SAKURA Tempesta の中嶋花音さん (左) と立崎乃衣さん

東京工業大学ロボット技術研究会所属のメンターで、FRC の OB でもある大西祐輝さん

実績も実力の保証もない高校生チームということで、資金調達には非常に苦労したが、クラウドファンディングも使ってなんとか必要な資金を調達。千葉工大に連絡して、研究室を拠点として使わせてもらう承諾も得た。

ハワイ予選を勝ち抜き、デトロイトの本戦へと進んだ SAKURA Tempesta は、本戦中にロボットが壊れるトラブルに見舞われながらもランキングポイント 4P を獲得して勝利。世界各地への FRC のアピールに対して与えられる Rookie Inspiration Award も獲得し、ルーキーに与えられる賞の全てをコンプリートするという栄誉に輝いた。

Sakura Tempesta ロボット 制作 FRC
FRC に参加したロボット

SAKURA Tempesta のロボットの設計・モデリングを担当したのは、現在中学 2 年生の立崎乃衣さん。年齢制限で現在も正式なチームメンバーにはラインナップできないが、実質的には設計の多くの部分を担っている。

1 歳の頃にすでに父親から電動ドリルを与えられたという筋金入りの機械工作英才教育を受けて育った立崎さんは、小学校 3 年生の頃にはロボットを作り始める。5 年生のときに通った理科実験教室のロボット制作クラスでは、既に大半を自主習得しており、特例として最後の 1 年分だけを履修することになったという。

「SAKURA Tempesta に参加し始めた時、メンバーの中でロボットを作った経験があるのが高校 2 年生の中嶋さんと自分の 2 人だけしかいませんでした」と、立崎さん。「ロボットの設計には、ある程度の経験や勘所を押さえることが求められます。そこで、勇気をもってハードウェア設計をリードすることにしました。ただ、まだ英語を習い始めたばかりだったので、英語の仕様書や注意書き、1 cm 以上の厚みがあるルールブックを読んでも、当初はどんなものを作ったらいいのか分からず大変でした」。

しかし、そこさえ理解できればあとは早かった。これまで 6 台のロボットを制作してきた経験から、2 週間でマシンの 7 割ほどを設計。「小学生の時に作っていたロボットは方眼紙を使った手書きの設計図でしたが、3D プリンターを使うようになってからは部活の先輩に勧められて 123D Design (無償 3D CAD ツールで、現在は Tinkercad へ機能統合) を使っていました。今回の設計では部品点数も多いため本格的な 3D での設計が必要となり、Fusion 360 で設計をしました。勉強しながら 1 週間くらいでアセンブリまで行いました」。

ソフトの習得も、遊んでいるうちになんとなくわかった、と立崎さんは言う。「適当に長さを測ったり、今回はアルミフレームだから四角柱を描いてみたりとか。部活ではタイマーをかけて、1 分以内にワッシャーを描く、みたいな遊びもしていました」。

チームリーダーの中嶋さんは、「初参加でここまで各賞を受賞することができたのは、すべて各メンバーの努力と、指導していただいたメンター、協力していただいた企業や支えてくれた人たちのおかげです」と感謝を述べる。まだまだ男性中心に構成されている傾向にある機械工学の世界だが、中高生で構成されている SAKURA Tempesta は、約半数が女子メンバーだ。

「学生同士ですし、チーム内では特に性別の差を感じたことはないですね」と中嶋さんは言う。「次年度のことはまだ決まっていませんが、いまチームの半分ほどが高校 3 年生になって受験などで引退することになるので、また新メンバーの募集をしながら来シーズンに向けて活動を続けていきたいと思っています」。

著者プロフィール

吉田メグミ。フリーライター。1970 年東京生まれ。デジタル、カルチャー、エンタテインメントなどの雑誌、書籍、Web 記事を執筆。フリーペーパーココカラ編集員。

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