Skip to main content

花田設計事務所が実現するプラント業界のデジタル化とビジネスの持続可能性

プラント業界のデジタル化とビジネスの持続可能性

企業の将来的な成長と競争力の強化に向け、デジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの創出と柔軟な改変の重要性が、あらゆる業界で認識されるようになった。それは燃料や素材の生産、化学製品や医薬品、食品などのものづくりから、水や産業廃棄物の処理まで、日々の生活に不可欠な素材や製品を生み出し、環境保全に貢献してきたプラント業界も例外ではない。

プラント設備の配管・機械設計を長年手がけてきた兵庫県芦屋市の花田設計事務所は、創業者である実父から数年前に代表を受け継いだ花田義勝氏が、その事業内容を3D設計へシフト。受託開発で培ったプラント設計のノウハウをもとに、デジタル化を推進することで、その事業範囲を幅広い業界へと拡張している。

効率化による業務改革と生産性の向上

「日本の企業では非効率なことが多く、お役所的なところがあると昔から感じていました」と語る花田氏は、代表就任と同時にデジタルへの投資を始め、若い人材の採用や、クラウド化に取り組んだ。「まずは徹底的な効率化をしようと考えて、クラウド化に取り組みました。それがあったので、コロナ禍でも在宅勤務ができました」。

プラント設計 点群設計
Navisworksでプラント設備と建築設備の干渉を確認しながら設計を行なっている [提供: 花田設計事務所]

現在も2Dでの設計が多いプラント建設では、建築とプラント設備の間の空間調整に膨大な手間がかけられている。「建屋の中に作られるプラントでは、建築設備とプラント設備の間で干渉が起こらないよう調整が必要になります」と語る花田氏は、従来は職人の現場力で問題を解決してきたため、それが設計側から認識されていないことも多いと言う。

「最近は現場力が落ちてしまっているので、現場で職人が考える必要がないよう、二次元図面であっても建築設備とプラント設備の干渉回避をお互いに意識した図面が、より必要になってきています」と、花田氏。こうした問題を解決して効率を上げられるよう、花田設計事務所はプラント設備設計、建築設備設計の両方を手掛けられるアドバンテージを生かし、設計段階で干渉を回避するだけでなく、技術・技能継承や人材不足の問題からくる現場力低下に対してもソリューションを提供している。

「[Autodesk] Revitで建屋を3Dモデリング、建築設備も3D設計し、配管をPlant 3D、機器・架台・歩廊をInventorで設計したプラント設備を合体させることで干渉を確認します。現場では業者がタブレットを使い、Navisworks経由で3Dデータを確認できるようにしています」と、花田氏。例えば塩ビ管の場合、クリックすることで表示されるカスタマイズしたプロパティには寸法や差し込み代などが表示されるため、アイソメ図を見なくても3Dデータを見ながら施工できるようになってきたという。

点群設計 プラント設計
建築 (Revit)、機器 (Inventor)、配管 (Plant 3D)、点群 (ReCap) をNavisworksに取り組みながら作業が行われる [提供: 花田設計事務所]

「これまでプラントの工事では、干渉により手戻りが発生し、それによって部品の調達が二次発生するのが当たり前でした」と、花田氏は続ける。「干渉が無くなり、建築とプラントの業者がお互いの作業内容を理解できるため、工事の生産性が目に見えて上がります。工程が遅れず無駄な材料も出ないためコストが下がることでBIM設計への移行が進みました。複雑で大規模なプラントほど、その削減効果も大きいですね」。

既設建物のスキャンニングと3D設計

花田設計事務所の花田義勝代表取締役

今後、国内では新規プラントの建設は少なくなり、既存プラントの改造が主流になると言われている。「そのほとんどが30年前の手描き図面しか残っていないような施設の改造であり、図面と現況はほぼ合っていません」と、花田氏。「現況の確認のため、当初はメジャーを使って手作業で測量を行っていました。そのために3-4人が一週間泊まりこんでスケッチしていたのですが、効率よく作業できるよう、その後プラント規模の距離の測量に対応できる3Dスキャナーに投資をしました。現在は、その点群をReCapでBIMに対応させ、Navisworksを使って3D設計と融合しています」。

こうして実現した点群設計には大きな反響があり、プラントメーカーに留まらず自社工場を持つ企業から直接オファーが寄せられるようになる。需要の急増に伴い、現場でスキャンを行うスタッフの負担が増えると、2021年2月には測量専門の子会社であるDxR (ディー・バイ・アール) を設立。3D測量のみならず、バーチャルショールームやホテルの3Dマップ作成なども手がけるなど、アジャイルな事業展開を行なっている。

「プラント業界は他の業界と比べて保守的な方が多く、単に最先端なことを押し付けても相手にされないということは分かっていました」と、花田氏は続ける。「お客さんが使いやすく、実設計として使ってもらえるものを考えた結果、効率的なことができるようになったと思います。花田設計は社員数10名程度の小規模な会社ですが、それだからこそいろいろなことを皆で試せています」。

「スキルを持った人材を集めるのは、かなり大変です。今の社員の中には上場企業で働いていた人もいますが、上場企業に比べて自分の意見が通りやすく、判断が早いので働きやすいと言っています。煩わしい手続きもない。ノウハウを共有しながら、自分にはない知識を、すぐ横の人に聞ける環境になっています。今後もなるべく縦割りがない組織を維持しながら、効率的な設計を究極まで突き詰めたいと思います」。

花田設計事務所のオフィス
花田設計事務所のオフィス。各設計者がNavisworksを見ながら設計を進められるように環境が整えられている。 [提供: 花田設計事務所]

設計事務所の付加価値と持続可能性

受託開発に専念していた3年前には、現在のような事業の姿は全く想像していなかったと、花田氏は笑う。「最近は、ホームページから国内外の企業が問い合わせてくることも増えました。受託開発のお話しだけでなく、大手企業からはDX (デジタルトランスフォーメーション) への取り組みについても相談が寄せられています。自分たちがノウハウを積み重ねて作り上げたソリューションに、これほどの需要がある現在は、信じられないくらいです」。

「設計会社は、設計が終わるとやることがないんです」と語る花田氏は、既にMicrosoft HoloLensを活用した、新設3D設計モデルの現実空間への投影による配置・搬入シミュレーションやエンジニアへの遠隔支援、またBIMデータをモバイルデバイスへ表示できるアプリ「BIM GO」の開発など、新たな分野でのソリューションにも積極的に取り組んでいる。「持続可能なソリューションを展開しないと、将来的には設計だけでは厳しくなると思うので、今後も付加価値をつけていくことが重要だと思っています」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP