ピニンファリーナがテクノロジーとアイコニックなデザインを融合したEVスーパーカーBattista
- Battistaは現在イタリア最速のスーパーカーだ。その電動ドライブトレインは自動車デザインに新たな自由をもたらすものであり、それをAutomobili Pininfarinaは革命と呼んでいる。
- ピニンファリーナのデザイナーは自然からインスピレーションを得ている。テクノロジーによってBattistaの官能的な曲線が実現でき、生産開始前のシミュレーションやVRによるデザインレビューも可能となった。
- Battistaは全世界で150台の限定生産となっており、膨大なデザインの選択肢により、その全てが異なるものとなる
Automobili Pininfarinaのハイテクデザインスタジオの神殿は、イタリア・トリノ近郊のインダストリアルパークにある。建物の外では枯れ草の上に晩夏の陽光が輝き、屋内では壁が白熱光のように明るく輝いている。
Automobili Pininfarinaのインテリアデザイン部門を統括するフランチェスコ・クンダリ氏は、バーのテーブルにもたれながら、鉛筆でノートに車と動物のスケッチを描いている。「自然界では、あらゆるデザインに理由があります」と、クンダリ氏。「形態は機能に従うものです」。振り返ってBattistaを指差した彼は、空中でそのラインを丁寧になぞる。 このEVスーパーカーのパワーと外観は、イタリアの情熱を純粋に体現するものだ。「自然から“彼女”に、フォルムと機能の共生を取り込んだのです」と、クンダリ氏。「すべての線には理由があり、すべての曲線の背後に意味があります」。
彼の言葉は真実だ。起伏のあるラインはイタリアのリグーリア海岸に打ち寄せる波のように有機的で、ステルヴィオ峠のジグザグの道のように意図を有している。Battistaのキャラクターはイタリア人の性質である、燃えるような情熱という自然の力をも連想させるもので、1,900馬力のエンジンによるものか、200万ドルという価格によるものかは分からないが、触れるのを一瞬ためらってしまうような車になっている。
Automobili Pininfarinaがファンタジーを現実に
ピニンファリーナは、フェラーリ、フィアット、マセラティなど、著名な自動車ブランドのデザインスタジオとして知られている。だが創業者のバッティスタ“ピニン”ファリーナが数十年前に夢見たのは、ピニンファリーナ独自の車をデザインすることだった。ビジョナリーとしての1959年の予言は、現在も生産ホールのボードに堂々と掲げられている。「自動車が内燃機関の制約を乗り越えたとき、次の自動車革命が起こる」
彼は正しかった。数十年後、彼の子孫たちはスタートアップの子会社のAutomobili PininfarinaでBattista (バッティスタ) を生み出し、その幻想を現実のものにしたのだ。 この車名にはバッティスタへの心からの賛辞が込められている。
真のスーパーカー
Battistaは、世界最速のEVスーパーカーのひとつだ。0-100km加速は2秒以下、最高速度は時速350kmで1,900馬力を誇り、4基のモーターで2,340Nmのトルクを発生させる。 一度の充電で約500kmを走行可能だ。800Vの充電システムで250KWの充電電力があり、20%からわずか25分で80%までチャージできる。
データだけでなく、Battistaはデザインも秀逸だ。低く配置されたT字型のバッテリーは、フロア下でなくセントラルトンネルにあるためデザインの自由度も高く、クンダリ氏を大いに喜ばせた。これによって通常の自動車のようなワイヤリングに邪魔されることなく、シャーシ全体のミニマルなデザインラインを実現できた。
「このモーターは、デザインの自由度を驚くほど高めてくれました」と、クンダリ氏は話す。この2シーターにはインテリアのカラーと素材、デザインのカスタマイズに1億2,800万通りのオプションが用意されている。エクステリアは特別塗装、カーボンアクセントパネル、ライティングなど13.9兆通りの組み合わせが可能だ。
これほどのオプションがありながらBattistaのアッセンブルは10週間で行われ、10人のエンジニアが1台あたり1,250時間以上の手作業を行っている。
インスピレーションの最大の源となった自然
クンダリ氏は、この車のデザインを常に自然を例に挙げて説明しており、繭 (まゆ) のようなキャビンを持つ車だと表現する。また建築からもインスピレーションを受けている。「カーデザイナーが受けるインスピレーションは、他の車からだけではいけません」と、クンダリ氏。「それだと、犬が自分の尾を追うような堂々巡りになってしまうしょう」。
20年前からAutodeskのAliasテクノロジーを活用してアイデアをデジタル化しているクンダリ氏だが、その創造性を解き放つため、常に鉛筆と紙で始める。「新世代のデザイナーはデジタル3Dモデルで始める傾向があります」と、クンダリ氏。「私はそうした方法に批判的なのですが、嫉妬しているだけかもしれません」。
新たな自動車のデザイン言語
「昔の車は角張っていました」と、クンダリ氏は述べる。その理由は、主にソフトウェア開発が黎明期であったことにある。その状況は、今や一変した。「テクノロジーにより、白鳥の首やダイブするイルカを彷彿とさせるような、美しいカーブやラインが可能になりました」と、クンダリ氏。彼が最も評価しているのは、テクノロジーが直感的に使用できる点だ。これは、Automobili Pininfarinaのデザイナーはもちろん、クンダリ氏が教えるトリノのデザイン学校の学生たちにとっても簡単に活用できる。
Automobili Pininfarinaは、Aliasで作成された図面の体験、理解を確実に行えるよう、VRソリューションのAutodesk VREDを使用している。VREDでは、デザイナーが生産開始前にVRゴーグルを用いて材料の選択を含めてデザインを確認し、シミュレーションを実行できる。
車内には化学薬品を使用しないクロムフリーのなめし革が使用されており、オリーブ収穫時に得られる葉で処理することで、自動車生産が環境に与える影響を最小限に抑えている。Battistaのフロアマットは、漁網をリサイクル製造したものだ。ピニンファリーナでカラー&マテリアルデザインディレクターを務めるサラ・カンパニョーロ氏は「サステナブルな素材とプロセスを用い、革新的なテクノロジーとピニンファリーナのデザインにおける豊かな伝統を組み合わせられるのは、本当に素晴らしいことです」と話す。
このBattistaの生産台数は全世界で150台限定となっており、同じものは2つとない。まもなく米国の顧客に納車予定の1台は、目を引くグレーと赤のレザーシートを採用。既に完成し、トリノ郊外のAutomobili Pininfarinaの工場で待機中だ。モーターを始動させると、クジラの鳴き声を想起させる音が響く。このスーパーカーの激烈なキャラクターとのバランスをとるため、意図的に選ばれた音だ。「見てください、この美しさを」と話すクンダリ氏は、まるでダビデ像を前にしたミケランジェロのようだ。