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WHILLが最新テクノロジーで追求する次世代のパーソナル モビリティとは

パーソナル モビリティ とは WHILL Model C ジェネレーティブ デザイン
ジェネレーティブ デザインによるフレームに換装したWHILL Model C

「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」。そんなひとりの車椅子ユーザーの言葉から開発が始められたWHILLは、障害の有無や年齢に関わらず、誰でもスマートに移動できる、従来の電動車椅子を超えた次世代のパーソナル モビリティを実現している。

WHILL株式会社で車両開発部 部長を務める平田泰大氏は「我々はWHILLを開発する上で、ふたつのバリアと戦っています」と語る。「ひとつは物理的なバリア、もうひとつは精神的なバリアです。物理的なバリアとは、段差や悪路などによって移動が妨げられている、ということです。従来の車椅子は、段差や悪路にあまり強くなく、まちづくりもちゃんとバリアフリーになっていないため、出かけるのに困難を感じてしまいます」。

「そして精神的なバリアは、車椅子に乗っている姿を人に見られることにためらいを感じる人がいる、ということです。歩行の困難な人を引きこもりがちにしてしまうこのふたつのバリアを、デザイン性が高く、スマートで機能的なパーソナル モビリティであるWHILLで壊すことができれば、かなり良い世界を実現できるというビジョンを持っています」。

iF DESIGN AWARDやRed Dot Design Award、グッドデザイン賞などを獲得したModel Cの市販モデル [提供: WHILL株式会社]

Model Cはバッテリーを外して3分割が可能 [提供: WHILL株式会社]

2014年に発表されたModel A [提供: WHILL株式会社]

ポータブルなパーソナル モビリティとしてデザインされた Model C

最初の商品化モデルとなったWHILL Model Aの購入者から寄せられた要望をもとに、同社が 2017年4月に発表した普及価格帯モデルの WHILL Model Cは、自動車に積んで移動できるコンパクトかつポータブルなパーソナル モビリティとして開発された。「ラストワンマイル」と呼ばれる、自宅から駅やバス停、着いた場所から最終目的地までの、ちょっとした距離を補う用途にも容易に活用できるようにするためだ。

「車のトランクに積むことを考えて、人が持ち上げられるものの重さを調査してみると、15 kgから20kgの間くらいにボーダーラインがありました。15kgなら割と楽に持ち上げて車に積むことができますが、20kgに近づくにつれて持ち上げられる人が少なくなってきます」と、平田氏。「折りたたみ式では、その範囲に重量を収めることはとてもできないので、バッテリーを外して機体を分割するというコンセプトにしました」。

さまざまな試行錯誤の結果採用されたのは、本体を簡単に、シート部、後輪を含むメインボディ部、前輪を含むドライブベース部に3分割できるデザイン。「メインボディ部にはモーターが付いた重い駆動系が入っています。そのため、開発においては、駆動系以外のフレームの部分をどこまで削れるかというチャレンジになりました」。

2017年4月に発表されたModel Cでは、それぞれの重量は約14.5kg、20kg、14.5kgに抑えられた。それにより、一般的なセダンタイプの乗用車のトランクへ積み込み、移動して外出先で組み立てて、そこからWHILLで移動することも容易になった。だが発売後も将来を見据えて、軽量化をどこまで突き詰められるかを考えていたという。

WHILL Model C ジェネレーティブ デザイン
ジェネレーティブ デザインによるフレームに換装したWHILL Model C

ジェネレーティブ デザインによる最適なフレーム形状

「その手段のひとつにジェネレーティブ デザインがあると思っていたところ、Fusion 360で利用できることになったので、トライしてみました。当初はトポロジー最適化もやってみようと思ったんですが、技術的に限界がありそうで。ジェネレーティブ デザインを使って、ゼロベースで最適な形状を考えられるのなら、その方が良い結果が出るんじゃないかと考えました」。

多忙なスケジュールの中、実際の作業はインターン生とふたりで行われた。「ジェネレーティブ デザインという技術への期待とともに、設計経験ゼロのインターンにディレクションをして、ジェネレーティブ デザインを使ったらどういう結果が得られるのか、というところにも二重の面白みを感じて、ふたりでトライしました。行なっている試験のリストを作り、それをどういう形で入力するかを考えて、ラインナップを作りました。モデリングと、荷重条件の入れ方は彼に考えてもらっています」。

初めてのプロジェクトにも関わらず、軽量化の効果は想定以上だったと平田氏はいう。「いかにもジェネレーティブ デザインらしい形状になったと思います。フレームだけで 40% 以上の軽量化ができて、全体で1kg以上は軽くなりました。量産の工法を考えると、なかなか難しい形状であることは分かっていましたが、まずはそのまま形にして、ジェネレーティブ デザインの計算結果がどんなものかを見極めようとしています」。

WHILL株式会社のシャシー開発部部長、平田泰大氏 (右)


「設計以外のソフトウェアや電気のチームからも、メチャクチャ面白いことやっていますねという声がありました。みんなでちょっと先の未来を見ている感じがすごく印象的でしたね。今はこの技術をいかに量産に持っていくかという、基礎研究的なことを考えてやっています。将来的に量産の設計をするときに、この考え方をいかに取り込めるか。会社としての活用法を確立したいと思っています」。

平田氏はデザイナーとのディスカッションを通じて、こうした技術をベースにした、新たなデザインの方法を考えればいいと述べる。「プロダクト デザインの歴史を遡ってみると、設計ツールに依存したトレンドもあったと思います。3次元CADが出る前のプロダクト デザインは平面的だったデザインが、3次元CAD登場後は滑らかな曲線が出せるようになったりもしました。今後は“ジェネレーティブ デザインが存在する時代のデザイン”があってもいい」。

「設計の効率化を考えると、それが“あるべき姿”だと思います」と、平田氏は続ける。「設計にプロダクト デザインがついてこなくてはいけない。エンジニアのためのツールというだけでもダメで、エンジニアが効率よく使って、かつプロダクト デザイン的にも格好良くなっていくべきです。ジェネレーティブ デザインは、絵を描いてもらったり、ディスカッションしたりする上で、ミニマムの形状を見せられるのが強みですね。これが最低限で、ここからはもう肉を削げないというのが、すごく分かりやすい。この線がないと成立しない、ということを把握してディスカッションできるので、チーム全体で複合的に使っていくのがいいですね」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP