最新の工場設計が生み出す、より優れた独の電気自動車
アーヘン工科大学のギュンター・シュー教授は、センセーションを起こしたStreetScooter GmbHの後、電気自動車メーカーe.GOで新たなベンチャーへと乗り出した。独アーヘン市を拠点とするe.GOは、電気自動車を次々と生み出し、そのビジネスモデルのカギとなる先進的な最新の工場設計を開発。同社のスマートファクトリーとシングルデジタルプラットフォームは、施工を行う全建設企業の順調な業務遂行に役立てられる。
アーヘン工科大学は、長らく国内自動車産業の人材育成の場となってきた。エンジニアリングを学んだ才能ある学生の多くが、卒業後にはアウディやBMWをはじめとする自動車メーカーに就職する。このアーヘンを拠点とする新たな自動車メーカー、e.GO Mobile AGはアーヘン工科大学のキャンパス内にあり、手頃なEモビリティを大衆に届けることを目指す。既に500名の社員を抱え、タウンユース向けのコンパクトな電気自動車e.Go Lifeと、電気小型バスのe.GO Moverを製造している。
アーヘン工科大学の工作機械研究室 (WZL) でマネージャーを務め、工場計画のシニアマネージャーとしてe.GOに加わったばかりのマティアス・ベルトリング氏は「単に自動車を作るのでなく、自社工場を製品として考えています」と話す。同社の工場設計の責任者を務める氏は、その工場設計が「現在、市場で最もモダンな工場設計手法」を採用しているという。
わずか2年の間にe.GOは市内に2つの工場を建設し、車両とプロセスデザインを開発。建設中の3つ目の工場も、最大レベルの柔軟性で設計されている。それを実現しているのが、建設に関わる全施工会社をひとつにまとめるクラウドベースのBIMモデルで、エキスパートにはIntegrated Factory Model (IFM) と呼ばれる。
2次元から3次元へ
工場配置は、現在も2次元図面がベースだ。協力会社はデジタルモデルに統合されていないことが多く、されていてもプレースホルダーとしてのみだ。データは既に入手可能な一方で、ビルやMEP (機械、電気、配管) エンジニアリング、インフラに関する考慮はほとんど無い。
e.GOは、そうした時代遅れのモデルを使うのでなく、そのプロセスとワークフローを根本から変えることで設計と履行の時間を短縮して、製品発売を早めようと考えた。設計においては、建築家や工場計画、建設会社、アセンブリのエキスパートから防火管理のスペシャリスト、さまざまな公的機関まで、建設に関わる全ての企業がそれぞれの役割を果たす。IFM内には、設計とデータ、情報 (コスト、サプライヤー、材料、フロアエリアなど) の全てが存在。ソフトウェアの開発同様、建設会社は設計段階では3週間毎にミーティングを開き、最新情報を中央モデルに供給し、データを比較して情報交換を行う。
e.GOのIFMモデルは、建築、機械工学、インフラ、MEPの各分野にまたがるオートデスクのコネクテッド ソフトウェアツールを使用。RevitがビルとMEPの設計に、AutoCADとInventorは工場内のマシンなどのモデル化に役立っている。Infraworksが工場内の環境をマッピングし、建設施工会社はNavisworksを使って干渉テストを実行する。統合モデルはスペシャリストによるプランニングの各パートにリンクしており、VREDで可視化される。BIM 360プラットフォームが中央データのストレージとコメント機能を提供し、Vaultが情報管理を行う。
工場のライフサイクルを単一のデータモデルで
「この統合工場デザインにより、総コストを最大35%削減可能です」と、ベルトリング氏。「エラーを初期段階で検出でき、設計と建設へ配分される時間を大幅に削減できます」。工場が稼働して生産がスタートしても、中央データモデルが不要になるわけではない。モデルは工場のライフサイクル全体を通して、設計、建設、運用など工場の一部であり続ける。工場の増設が計画されているのなら、このモデルをコピーすることさえ可能だ。
「我々は、もはや工場設計を生産ラインが稼働すれば完了するプロジェクトとは考えていません」と、ベルトリング氏。「工場を、変化し続けるものとみなしています」。目標としているのは、リアルタイムデータをデジタルモデルに統合し、それを現場や遠隔からモニターして、工場に必要な変更を加えることだ。このプロセスは5Gテクノロジーによって機能し、e.GOは5Gを工場に統合した初の自動車メーカーとなった。e.GO はLOD (Level Of Detail) 500に留まるのでなく、それをさらに一歩進めており、このライブ転送を「Level of Excellence (卓越度)」と名付けている。
現在、e.GOの最初の工場には年間10,000名もの見学者が訪れる、同社のフラッグシップ工場となっている。見学者の多くが、有名自動車メーカーの幹部やマネージャーたちだ。アーヘンを拠点とするもうひとつの企業、Onefactory GmbHは、e.GOを例とした統合工場モデルのコンセプトを市場に売り込み、国際的な関心を高めようと計画している。こうした戦略は、自動車業界に留まらず、製造業メーカーの興味を刺激するに違いない。