過去を未来へつなぐチリのアダプティブユースのプロジェクト
- チリ・サンティアゴのMatta Sur Complexは、19世紀に建てられた校舎と新築の医療施設をリンクする、模範的なアダプティブユース・プロジェクトになっている。
- この複合施設は重要な社会的役割を担うもので、伝統と革新を融合させた繊細なデザインが求められた。
- このプロジェクトの課題にBIMを活用して取り組んだスペインの建築事務所luis vidal + architectsは、デジタル文化の構築を継続し続けている。
チリのサンティアゴに昨年オープンした複合施設Matta Sur Community Center + CESFAMは、街の歴史と未来をつなぐ架け橋となる、模範的なアダプティブユースのプロジェクトとして評価されている。
設計を担当したスペインのluis vidal + architectsにとって、このプロジェクトはもうひとつの重要な転換点を象徴するものだ。同事務所がAutodesk Revitを使用した初めてプロジェクトであり、デザインスタジオ全体がBIM (ビルディング・インフォメーション・モデリング) を活用する道筋をつけるものになった。
古くて新しい (かつ環境に配慮)
このプロジェクトにluis vidal + architectsが着手した2015年の段階では、敷地内に19世紀に建てられ、2010年の地震で大きな被害を受けた校舎があった。クライアントであるサンティアゴ市は、この約 2,500平米の土地を、ヘルスケア施設やコミュニティキッチン、保育園、ジム、公会堂などの設備を備えた、地域住民のためのリソースとして活用したいと考えていた。この新センターは、歴史地区Matta Surの重要な付加価値として、年間3万人以上の訪問者へのサービス提供が目標とされた。
luis vidal + architectsは、その要求に、環境への影響を最小限に抑えつつ、伝統と革新を融合させた繊細なデザインで応えた。現在、この複合施設は2棟の建物から構成され、細心の注意を払って修復された校舎にはコミュニティセンターが、また隣接する新築の建物にはCESFAMの医療施設が入居しており、両棟は景観に配慮した公共広場で結ばれている。
このプロジェクトの核となったのは、新旧のつながりだった。デザイナーは、歴史的建造物の約4/5をそのまま利用することを選択し、既存の材料を可能な限り回収して活用し、オリジナルのデザインの要素を引き出すよう努めた。新たな構造物は、歴史的な校舎を模倣することなく敬意を表せるよう、マッシング (ボリューム感) や使用する材料を綿密に調整し、地元の文化に根ざしながらもグローバルなアイデアを取り入れた、独特のハイブリッドを実現している。
また、サステナビリティも重要な優先事項だった。建物の運用に必要なエネルギー量を削減するため、デザインチームは自然光をふんだんに取り入れるとともに注意深く窓を配置し、ファサードには暑いサンティアゴの夏の日射熱を制御するための方立を採用。屋上緑化の導入でさらなる冷却効果が得られ、中央広場では自生する植物がもたらす陰が日差しを和らげる。歴史的建造物である校舎には壁に断熱材が追加され、ファンコイルユニットの導入により効率的な冷暖房が実現している。
BIMによるデザインの向上
現在luis vidal + architectsのBIM部門を率いているサラ・モレノ氏は、このプロジェクトが始まった2015年の段階で、社内にBIMを使いこなせる人材はほぼ皆無だったと話す。このプロジェクトを従来のプロセスや技術で完成させようとすると深刻な問題が生じることを、彼女は即座に理解した。「何の迷いもなく、このプロジェクトの開発にAutodesk Revitを使用するよう皆を説得しました」と話すモレノ氏は、その移行には切実な理由があったと言う。
その理由のひとつは、傷んだ歴史的建造物を修復して新しい建物につなげるという複雑な作業であり、プロジェクトの野心的なサステナビリティ目標により、そのタスクはより複雑なものになった。既存の状態を記録し、現場改善のための具体的な計画を立てるには、堅牢なデジタルモデルが必要だった。
大陸を越えた連携も、動機付けの要因となった。luis vidal + architectsのMatta Surプロジェクトチームの約7割はチリにいたが、モレノ氏をはじめとするメンバーは、数時間の時差があるマドリッドの本社で仕事をしていた。地理的に離れた場所にいるコンサルタントと情報やアイデアを共有する必要があり、複数の伝達経路や複雑なワークフローの設定が得策でないことは明白だった。効率と精度を最大限に高めるためには、BIMが適切だったのだ。
BIM活用の賛同を得ると、モレノ氏らは最先端のデザインソフトウェアであるAutodesk RevitとNavisworksを選択。プロジェクトチームのメンバーは、プロジェクトで使用した歴史的建造物と新築建造物の2つのモデルへプライベートクラウド経由でアクセスした。Revit Worksharingツールを使用することで、ローカルファイルとメインモデルの同期を実現。このプロセスは、チームが現場での問題を予測し、より迅速に意思決定を行うのに役立った。
BIMジャーニーを現在も継続中
モレノ氏は現在、「弊社のBIM哲学は、今やスタジオ標準になっています」と話す。チームメンバーはRevitなどオートデスクのソフトウェアを活用し、すべてのプロジェクトでモデルを使っている。
だが、この変化は一夜にして起こったものではない。Matta Surなど初期のBIMプロジェクトの段階では、luis vidal + architectsには、こうした技術やプロセスを扱うチームメンバーに指針を示す社内手続や文書が存在していなかった。標準化とスタッフ教育ツールの必要性を認識したモレノ氏とチームは、初期のBIMの取り組みで何がうまくいき、何がうまくいかなかったかを見極めることに着手。スタッフに話を聞き、プロジェクトの始まりから実施設計図までの文書を精査し、何をどの改善可能かを明確に把握した。
この取り組みの大半は、プロジェクト連携の効率化と改善にBIMをどう使用するのかを、スタッフに教示することに重点を置いていた。モレノ氏と、チリのluis vidal + architectsオフィスでマネージャーを務めるアソシエイトアーキテクトのデビッド・アヴィラ氏を含むスタッフは、伝達経路に関する規範を整備し、プロジェクトチーム内のさまざまな組織を一元的に調整する必要性を強調して、より効率化を図った。
こうした問題にMatta Surのプロジェクトでリアルタイムに取り組み、その結果を事後に分析することで、BIMへの移行手段についての貴重な知見が得られることになった。「それは、まさに私たちのビフォー&アフターでした」と、モレノ氏は語る。