製造業界の企業が2022年にDXで目指すべき5つの未来の姿
- 製造業界の課題がもたらす3つの「良い機会」とは
- DXジャーニーの道標となる世界の企業の事例を紹介
- 製造業界の企業が投資すべき5つの変革の未来
世界中の全ての業界が大きなプレッシャーに晒されている。グローバルな生産性は停滞しているが、新製品の導入率は急激に上昇。顧客の需要に応じて、米国だけでも年間3万種類もの新製品が市場に投入されているが、驚くことに、その72%は収益目標に到達していない。もちろん、かつてないほどのスキル不足の問題にも直面している。これらは全て、パンデミック前の話だ。
こうした課題は製造業界に混乱をもたらし、仕事の進め方も混乱している。しかし、これは以前にはなかった、3つの良い機会をもたらしている。
1. 「より良いサービス」を提供する機会
単に「より良い製品」を生み出すだけでなく、よりスマートで、市場へ「より良いサービス」を提供する機会がもたらされている。よりスマートな製品にできなければ、それは単なるコモディティになってしまう危険性があり、それはだれも望まない結果につながってしまう。
2. プロセスをデジタルで補強する機会
進め方を見直し、内部・外部のプロセスをデジタルで補強する機会だ。これが実現できなければ、製品の市場導入までのライフサイクルにおいて、有益な価値創造の機会を失うことになる。
3. サプライチェーンの見直し
もうひとつの機会がサプライチェーンの見直しであり、それを回復力、俊敏性、持続可能性を備えたものにするよう再構築する必要がある。それができなければ、どんなに製品やプロセスが良質なものであっても、顧客に技術や製品を届けることはできない。
機会に関連するこれらの重要なトピックについて、議論することが重要だ。しかし、組織のリソースが不足しており、大量の紙を使い、多くの手作業が残っているなど、連携していないシステムや壊れたプロセスの管理に追われているという話を耳にすることも多い。そうした問題の解決が重要であることは理解していても、対応する時間がないと言うのだ。では、課題を解決した企業は、それをどのように克服し、機会をものにしているのだろうか。行動を起こすのであれば、そこで重要な役割を果たすのがDXだ。
オートデスクは、DXをシンプルに定義している。それはテクノロジーと最善の方法をビジネスの一部に適用することで、人々に対して、ビジネスに対して、そして地球に対しての価値提案を変革するということだ。最後の「地球に対して」というポイントは非常に重要で、DXはサステナビリティへ確実に貢献できる。だからこそ、この問題を正しく理解し、迅速に行動することが重要だ。
DXジャーニーの道標となる5つの事例
DXは一発勝負であり、次の勝負は10年後、20年後になると考えている人も多い。だが、それは真実とはかけ離れた理解だ。DXとはジャーニーであり、どこからでも始めることができるが、そこには戦略が必要だ。それがどのようなものであるかを示す、5つの事例を紹介しよう。
1. Mabey Bridge
英国に拠点を置くMabey Bridgeは、ブリッジモジュールの迅速な設計と構築のスペシャリストだ。橋はあらゆる場所で使われるもので、彼らの製品も世界中で使われている。橋は環境に応じて作られるため、何百もの標準部品を組み合わせ、それぞれがユニークなものになる。彼らのコアとなるビジネス戦略は、正確な見積もりと完全な構成のソリューションを、より迅速に顧客へ届けることだ。それをチームへのプレッシャーを高めるものでもある。
そこでDXへ取り組み、デジタルを活用することで正確な見積もりを自動作成できるようにした。その結果、作成する見積もりの半数で、これまでは数日かかっていた作業が数分になり、顧客への迅速な対応が実現した。これはDXの効果を示す、素晴らしい事例だと言える。
2. Newag
チェコの鉄道企業Newagの仕事は、鉄道車両の製造だけでなく、土地の所有者やインフラ、電力、設備を供給する会社、駅に関係する人たちとも話をしたりする必要がある、非常にユニークなものだ。そのコミュニケーションとコラボレーションは非常に複雑で、想像を絶する時間がかかることは想像に難くない。
NEWAGはデジタル技術への投資を行い、複雑なエコシステムの中でフィードバックを効果的に集められるようにした。その結果、鉄道プロジェクトの期間が約40%短縮され、ビジネスにも大きなインパクトがあったという。
3. Poriferous
米国のPoriferousは、手術用機器や医療用インプラントのものづくり企業。顔に負傷し、骨が損傷した人のためのインプラントは、骨が周囲に編み込まれ、成長できるようにする素晴らしい技術だ。しかし、そのインプラントは顧客に応じて全く異なるものとなり、届けるまでに時間がかかっていた。
彼らの顧客にとって、インプラントが届くまでの時間は、痛みの時間でもある。一品一様の製品をより迅速に届けるため製造能力の見直しが必要だと考えた彼らは、デジタル技術に投資した結果、早朝に会った顧客へ、同日の17時には完成品を届けることができるようになった。
4. Hosokawa Micron Ltd
英国の粉体機器メーカーHosokawa Micron Ltdは、オートデスクと密接に連携している。その製品である粒子と粉体の処理装置は、かなり複雑な産業機械であり、彼らはまず設計した機械のプロトタイプを作成し、それをもとに顧客とのコミュニケーションを行っていた。顧客のフィードバックをもとにモックアップを作り、それを顧客へ戻すというリニアなプロセスだ。
より良い方法を模索した彼らは、デジタル技術を取り入れ、顧客とのインタラクティブな対話を行えるバーチャルモックアップを作成できるようにした。設計変更もライブで行えるようになり、納品を4週間から6週間も短縮することで、大きなビジネスインパクトがあった。
5. Steve Vick International
英国のSteve Vick Internationalは配管システムに特化した会社だが、そのビジネスがコモディティ化してしまう危険性を感じ、新たなビジネスチャンスを探り当てるため、業界や市場から得たデータやインプットを有効活用することにした。そして配管システムの規制レベルが上がっていくトレンドを察知し、ビジネスに有効なニッチ市場を見つけることができた。彼らは、従来の製品にフォーカスしたアプローチでは、こうしたビジネスは展開できなかっただろうと述べている。
自社に問いかけるべき3つの問い
これまで紹介してきた企業は、それぞれDXジャーニーの異なる地点にいる。その共通点は何だろう? 私は各企業との会話の中で、それぞれが自社に3つの問いを行なっていることに気づいた。それは:
- デジタルジャーニーのどの地点にいるのか
- 課題を克服し、機会を生かすには、どこに向かうべきなのか
- ジャーニーにおける障壁は何か
という問いだ。従来のライフサイクルは、製品のコンセプトを作り、設計・製造を行なって、その販売やサービスを行うというものだ。これは今日の産業界を導いたモデルでもあり、現在も多くの企業で採用されているプロセスだ。我々が今考えるべきなのは、このモデルが現在の課題を乗り越え、同時に新たな機会を得るのに十分かというだが、その答えはもちろん「NO」だ。それには2つの理由がある。
最初の理由は、このプロセスの各段階の内部、各段階の間には課題があり、それが相互に通じないシステムになっているということだ。膨大な数の手動プロセスに依存しているためエラーが起こり、多くの業界では2次元図面に頼っているなど、もっと効率的な方法があるにもかかわらず、紙ベースのシステムも多い。
もうひとつの理由は、このモデルは一定の価値を持った製品の販売により成立しているということだ。そうした世界は失速してきているため、現在の市場には適していない。DXの最初の一歩は、現在のプロセスの問題を把握し、よりつながりを持ったプロセスへと変えていくことだ。それはアジャイルで、各ステージの間で情報が自由に行き交うようなプロセスだ。それにより効率や生産性が大幅に向上し、エラーが減って納期が短縮されるだろう。
製造業界の企業が投資すべき5つの変革の未来
しかし、ここで立ち止まるべきではない。時間と経過とともに課題と機会が増え、こうしたプロセスでは十分でないと感じることも出てくるだろう。それに対処するには、生産性や効率性の向上で得られたものを、以下で紹介する5つの変革の未来のひとつに投資することが重要だ。
1. 高度にカスタマイズした個別製品を提供する未来
これは、Mabey Bridgeが目指しているような、万人を満足させるような単一のコンセプト開発から脱却し、顧客や市場に合わせて高度にカスタマイズして個別製品を提供する未来だ。製品を素早くカスタマイズできるようにすることで、200%以上の売り上げアップが実現した場合もある。また、自分用にカスタマイズされた製品であれば、顧客はより長く待つことができると言われている。これは、ものづくり企業にとって魅力的なメリットだ。
2. より連携した設計プロセスへ移行する未来
顧客、サプライチェーン、主要なステークホルダーとの連携により、コラボレーションのスピードと質を改善した、Newagが目指しているような未来を実現できる。そのメリットは、破壊的なイノベーションの機会を向上させ、材料や製造装置への投資を決めた後で大きな問題が発生するようなリスクを低減できることにある。開発サイクルのかなり早い段階で、顧客の支払い意思に関する会話ができるため、収益性の目標を達成し、成功を確実なものにできる。
3. 大量生産から、より柔軟な生産方法へ移行した未来
工場またはサプライチェーンで積層・切削のハイブリッド製造技術を採用することで、設計・製造プロセスを統合した長所を享受できる。もはや単一の製造方法では十分でなく、こうしたリソースをサプライチェーンの中で活用する必要がある。こうしたアプローチにより、Poriferousのように、顧客にとって最も重要な部分へ製品の付加価値を追加できる。
4. 伝統的な売買モデルから、より高度な顧客体験モデルへ移行した未来
こうした移行によって、Hosokawa Micronがそうであるように、顧客が価格以外に何を重視しているのかを理解できる。ユニークで魅力的な価値を顧客に届けられることで、戦略性が大幅に向上する。
5. 知見にもとづいたスマートなサービスへ移行した未来
出荷した製品が稼働し、それに定期的なサービスを提供して、最終的には引退させるというモデルから、知見にもとづいたスマートなサービスへ移行することで、Steve Vick internationalのようにデータを活用し、社内外で新しいサービスを生み出すことができる。
プラットフォームが実現する未来の姿とは
オートデスクは個別のソリューションを業界コレクションという形に集約し、それをサブスクリプションモデルで提供するようになった。しかし、DXジャーニーはそこで終わるわけではなく、ここで紹介した未来を、顧客のエコシステム全体に広げたいと考えている。そのために採用するのが、プラットフォームによるアプローチだ。
オートデスクの設計・製造プラットフォームは、スピード、柔軟性、無制限という3つの原則に基づいている。まずは投資回収率を迅速に上げるため、プラットフォームの展開、活用は簡単なものである必要がある。チームが必要なものに、いつでも、どこでも、そして何にでもアクセスできるようにすることが重要だ。またマルチCAD、マルチプラットフォームの環境では、ビジネスへの負荷への対応が必要だ。ビジネスの規模が大きく好調なときには、その成長を支えるためシステムは柔軟に対応する必要があり、縮小傾向の場合は、運用に必要な水準を支えるよう対応する必要がある。こうしたプラットフォームで、顧客に特別な製品を届けるため、独自の特別なアプリケーションを開発することが可能になる。
そして、プラットフォームは、メカ設計、エレキ設計、製造、購買、ファイナンス、マーケティング、セールス、サプライチェーンなど、組織内の様々な分野との制限の無いつながりを完成させる必要があり、また建設業の企業など、ものづくり以外の異業種との連携も必要になることもある。そのためには、より広範なエコシステムを構築し、結びつける必要があり、また生産性向上のため自動化とインサイトを組み合わせることも必要だ。それにより機会やフォーカス分野を示唆してくれるようになる。