産業用X線検査システムのメーカーが見通すデジタルの未来
X線撮影装置は病院で命を救うことができるが、産業用X線検査システムの場合は空港で、より迅速に命を救うことが可能だ。北ドイツ・リューベック近郊の家族経営企業VisiConsultのコマーシャル ディレクター、レナート・シューレンブルグ氏は「空港で持ち主不明のスーツケースが見つかった際、警察は中に爆弾が入っているかどうかを、わずかな時間で調べなければなりません」と話す。「ターミナルの閉鎖を避けるため、弊社のX線検査システムが使用されています」。
同社は、公共の安全を脅かす前に飛行機部品の微細な問題を検出できる、大型の産業用X線撮影システムも製造。こうした不具合の検出は航空宇宙や石油ガス、自動車、軍需産業などの分野に貢献している。鋼やセラミック、カーボン、チタンで構成されるタービンブレードやエンジンには点検と損傷検査が義務づけられており、溶接や鋳造、3Dプリントで生じた小さな孔や亀裂の見落としは、致命的な結果につながる可能性がある。
この業界は現在、世代交代のまっただ中にあり、プロセスのデジタル化やAI、3Dプリント、サステナブルな成長に重点を置いた投資が行なわれている。VisiConsult は 1996 年にソフトウェア会社としてスタート。産業用X線機器の需要を認識したハヨ・シューレンブルグ氏は、VisiConsultのフォーカスを機械工学へとシフトさせた。
ソフトウェアとインダストリー4.0に重点を置く同社は、顧客の要求にシステムを適応させる設計、自動化部門を社内に設けている。検査プロセスをより簡略化するため、AIやクラウド コネクティビティなどの新技術を検証。自動欠陥検出 (ADR: Automated Defect Recognition) ソフトウェアを提供しており、X線画像を自動診断するシステムは有名メーカーにも採用されており、その多くが自動車メーカーなど大量生産に従事する企業だ。
産業用X線機器を製造する企業は、時に奇妙な要望を受けることがある。VisiConsult は、チーズのX線撮影を依頼されたことがあるという。アイルランドのチーズメーカーの製造ラインで、包装が破れてプラスチック片がチーズに混入した際、メーカーは10tに上る製品を廃棄せずに済ませられないかとVisiConsultに依頼したのだ。
「チーズとプラスチックの密度は似ています」と、シューレンブルグ氏。「チーズには気泡も多く混ざっており、構造が非常に複雑なため、そのケースではお役に立てませんでした」。
3Dプロセスとセキュリティ
VisiConsultは鋳造部品、溶接部品に加えて、3Dプリント製品をX線撮影する。この分野では、積層造形プロセスの多くが、まだ標準化されていない。重要な認定手順の決定が科学者や顧客任せにならないよう、VisiConsultはリューベック応用科学大学 (THL) の一部門である Technikzentrum Lübeck (リューベック技術センター: TZL) の監査役を務めるなど、さまざまな委員会に参加。ドイツの3Dプリンター メーカーであるEOS、SLM Solutions とも意見交換も行っている。
VisiConsultのX線撮影室は重さ数tで、放射線の遮断には鉛が使用されている。開発には Autodesk Inventorが使われ、既存の製造ラインに組み込み可能だ。このプロセスは (大抵はロボットを活用して) 完全自動化されているため、製品ラインから検査用サンプルを取り除いたり、遅延を発生させたりということもない。
VisiConsultのモバイルX線ソリューションは、空港保安の支援だけではなく、スポーツイベントでも活躍。ツール・ド・フランスでは自転車の隠しモーターの検査に、またアフガニスタンなどの紛争地帯では、釘爆弾やその他の爆破装置の特定と処理に使用されている。
ライフサイクルの管理
VisiConsultは、検査用サンプルのCADデータと、材料や期限といったメタデータのデジタル化を目指している。「可能な限り早い段階から、顧客にかかわって欲しいと考えています」と、シューレンブルグ氏。製品のライフサイクル管理にはAutodesk Fusion Lifecycleを使用することで、情報を自動化プロセスで管理し、X線撮影室の製造前にVisiConsultと顧客をつないでいる。
「この管理システムによって顧客を複雑さから解放できます」と、シューレンブルグ氏。「プロセスが、よりクリアで明快になります」。VisiConsultはプロセスのごく早い段階で顧客の要件を特定し、それが最終的には時間とコストの削減となる。
同社はジェネレーティブ デザインも探究しており、このAIソリューションでCアーム型X線撮影装置の軽量化を行っている。Cアーム部分は非常に重いためX線の撮影プロセスで振動が生じ、それが画像を不鮮明にする場合がある。これを防ぐため、デザイナーはジェネレーティブ デザインを活用し、この部分を3Dプリントなどの製造プロセスを考慮に入れて再設計を行った。
サステナブルかつサーキュラー
VisiConsultが最優先しているのがサステナビリティだ。同社は環境保護が企業戦略の中核となるずっと以前に同社初のオフィスを、北ドイツのシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州のパッシブハウス基準に従って建設している。VisiConsultの工場建物には屋上太陽光発電システムが設置されており、サーバー室で生じる熱エネルギーは建物の暖房に使用されている。
当社は急成長中で、今年中にも再生可能原料が使用された新工場が建設される予定だ。「ゼロインパクト工場に大きな関心を持っています」と、シューレンブルグ氏。X線撮影室も、そのライフサイクル終了後には可能な限りリサイクルされ、サーキュラーエコノミーを実践している。
ドイツ商工会議所 (IHK) は、産業用X線撮影システム分野における世界市場のリーダーに VisiConsultを挙げる。昨年にはVisiConsultのサステナブルな成長のイノベーションに対して、ドイツ連邦経済エネルギー省 (BMWi) からGroßer Preis des Mittelstandes (中小企業大賞) が授与された。
次世代のプロセス
VisiConsultは100名を超える従業員を擁し、そのソリューションを世界に提供している。シューレンブルグ氏と妻のジルケ氏は現在、会社を息子たちに継承するプロセスを進めている。レナート氏はコマーシャル ディレクター、フィン氏はテクニカル ディレクターを務め、ティル氏は近々コーオプ教育コースを修了予定。このコースでは、電気工学分野の職業訓練と電子技術者としての実習が組み合わせられている。
シューレンブルグ家は、将来に向けた自社設備は十分に整っており、競争力維持にはソフトウェア ソリューションが重要だと考えている。レナート氏は、ドイツの機械工学系企業にはビジネス モデルの根本的な転換が必要だと話す。VisiConsultの例でいえば、それは機械の販売でなくテスト結果の提供だ。「顧客はX線撮影室を所有したいわけではありません。検査用サンプルが完璧なもので、認可が下りるかどうかを知りたいのです」と、レナート氏。このアプローチこそ、VisiConsultがデジタル化された未来へフォーカスを絞っている理由だ。レナート氏の言葉を借りれば「社のDNAにダイナミズムが組み込まれている」ということなのだ。