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廃メタンを製品へと変換することで有害な排ガスと闘うM2X Energy

ガスフレアリングでは大量の有害排出物が生産される
石油・ガス業界から排出されるメタンは世界の温室効果ガス総排出量の約5%を占めている
  • 石油・ガス業界ではメタンの大気放出を防ぐためにガスフレアリングが行われているが、この手法でも有害な排出物が大量に発生する。
  • M2Xはメタンをメタノールに変換し、それを低炭素プラスチックや集成材、合成繊維などの日用品の製造に使える、より低コストで優れた方法の開発に取り組んでいる。
  • M2Xはガスフレアリングの排除と2050年のネットゼロ排出目標達成を目指し、ガスをメタノールへ変換できる、大型トラックへ搭載可能で迅速に展開できる移動型ユニットのプロトタイプを製作中だ。

化石燃料の生産が膨大な有害排出物の原因であることは周知の事実だ。石油・ガス開発により、2021年だけでも2億4,000万トンのCO2が放出されている。油田やガス田から発生する随伴ガスを焼却処分するガスフレアリングが行われている最大の理由は、そうしたガスを販売するためのインフラが整っていないことにある。

石油・ガス業界はメタンガス排出量の1/4を占めており、これは世界の総排出量の20%を占めている (PDF P.1)。ガスフレアリングが行われている現場は世界中に16,000箇所あり、そこで余剰メタンが燃焼されてCO2が排出される。メタンの有害度はCO2の約30倍であるため、それを放出せず燃焼することによって、温室効果ガス (GHG) の影響を低減させてはいる。

M2X Energyはより柔軟かつスケーラブルでありながらコストを大幅に削減することを目標とする廃メタン変換システムを製造
M2X Energyはより柔軟かつスケーラブルでありながらコストを大幅に削減することを目標とする廃メタン変換システムを製造している[提供: M2X Energy]

M2X Energyで事業開発部門統括責任者を務めるダイアナ・アルカラ氏は、その問題は「ガスフレアリングが100%の効率ではない点」だと話す。同社は廃メタンガスをメタノールに変換し、低炭素プラスチック、集成材、合成繊維など、製品生産への利用を目指すスタートアップだ。かつてはガスフレアリングによってメタンの98%が燃焼されると考えられていたが、新たなデータでは、実際には約92%に満たないことが判明している。「小さな差だと思われるかもしれませんが、GHG排出量においては何倍も有害なのです」とアルカラ氏は話す。

温室効果ガス排出を削減・排除する企業への資金提供、立ち上げ、拡大を行う投資会社Breakthrough Energy Venturesは、廃メタンガス変換に価格破壊をもたらし、その規模を迅速に拡大可能な、より柔軟なものとするべく、2020年にM2X Energyを設立している。

移動式ユニットで廃メタンを変換: 大型トラックに搭載可能なモジュール式ユニット

トレーラーに搭載可能なM2X Energyの移動式ユニットを現場でテスト [提供: M2X Energy]

この目標を達成すべく、M2X Energyは廃メタンをカーボンニュートラルな液体メタノール (一般的な化学原料でプラスチックの原料でもある) へと変換する、モジュール式で大型トラックに搭載可能なテクノロジーを開発中だ。同社はAutodesk Foundationの支援を受け、Autodesk InventorVaultを使用して、一般的な大型トラックの荷台に搭載可能な実験ユニットを設計。M2Xは、石油・天然ガス事業からガスフレアリングを完全に排除することを目指している。

2020年から2030年にかけてメタン排出量は9%増加し、石油・ガス関連の排出量は11%増加すると予測されている (PDF P.1)。随伴メタンガスは、従来は水蒸気メタン改質によって有用な化合物へと変換されてきた。このシステムは、過熱蒸気 (704-982℃) を低圧環境下で触媒を使ってメタンと反応させ、水素と一酸化炭素に変換するものだが、複雑かつ高価なプロセスであり、通常は安定したガスの流れと特定のガス組成、そしてメタンをプラントまで届けるためのパイプラインのインフラが必要となる。最小のタイプでもM2Xユニットの5倍の大きさがあり、移動することは不可能だ。

「小型のモジュール式ユニットにより、M2Xは僻地のフレアにも対応できます」と、アルカラ氏。「M2Xは事業者に、随伴メタンのフレアリングに代わる、ロジスティクス上も適切で設備投資効率の高い選択肢を提供します」。

既製の技術でコストを抑制

自社の技術を従来の方法よりも低コストかつ機動性に優れたものにするため、M2Xはベーシックな内燃機関を転用している。M2X社の移動式変換ユニットは、油井やガス井から排出される随伴ガスをパイプで内燃機関に送り込む。この内燃機関の大部分は、既製品のディーゼルエンジンを天然ガスで動くように改造したものだ。エンジンは空気が抜かれた混合燃料で動く改質装置として機能し、一酸化炭素と水素の混合物である合成ガス (シンガス) を生成。合成ガスはその後圧縮され、下流のメタノール合成工程へと送られると、その結果90-95%の液体メタノールが得られる。エンジンはガスの流量の変化に対応するため、スピードを変えることができる。その動力源はメタンガスそのものだ。

当初M2Xが計画したのはメタノール製造に特化したモジュラーユニットだったが、このテンプレートはアンモニアや水素など他の化合物にも転用可能だ。「最終産物に関しては柔軟性があります」とアルカラ氏は話す。既製のコンポーネントを使用するため、M2Xは高額の立ち上げ費用や規模のコストを心配する必要がない。「内燃機関は極めて製造実績が多い技術であり、既にコストカーブの底にあります」とアルカラ氏は説明する。

この変換装置は油井から出る随伴ガスを安価な既製品から構築された内燃機関に送り込む
この変換装置は油井から出る随伴ガスを安価な既製品から構築された内燃機関に送り込む [提供: M2X Energy]

M2X最高技術責任者のジョシュ・ブラウン氏はNASCARエンジニア&クルーチーフとして高性能エンジンのノウハウを蓄積しており、同社のエンジン開発はノースカロライナ州のNASCARチームRCRがリードしている。M2Xはセントラルフロリダ大学のFlorida Solar Energy Centerとも連携し、燃料改質技術や触媒作用 (エンジン改質器の後の移動式メタンプラント内で起こるすべての事象) の研究を行っている。M2Xはノースダコタ州の油田とガス田に現地配備できるプロトタイプを2023年5月までに製作予定だ。

メタノールは多用途な化学原料として使用可能で、プラスチック、接着剤、合板などの集成材、合成繊維の主成分となっている。バイオディーゼルの主成分でもあり、船舶用燃料の生成にも貢献が増大している。

M2Xは事業者からメタンを引き取り、その対価としてメタノールを販売する計画で、石油・ガス事業者が新技術のリスクを負う必要がないよう、移動型メタンユニットをサービスとして提供する。だが、大規模な石油・ガス事業者は自社ユニットの大量購入を望むかもしれない。「事業者にとって柔軟なオプションとなることを意図しているのです」とアルカラ氏は話す。

M2Xスタッフ
M2Xスタッフ (左から) : アンソニー・ディーンCOO (PhD) 、ジョッシュ・ブラウンCTO (PhD) 、マッシミリアーノ・ピエリCEO、ダイアナ・アルカラ事業開発VP、カイル・メルカル主任エンジニア、ポール・イェルヴィントン最高科学責任者 (PhD) 、アンドリュー・ランドルフエンジニアリングVP (PhD) の各氏 [提供: M2X]

脱炭素の未来へ

化石燃料の副産物はあらゆるカーボンゼロの未来に当てはまるものではないが、脱炭素化という未来を実現するためのタイムラインは、M2Xの技術への投資を充分に価値あるものにするほど長いものだとアルカラ氏は話す。「最悪なシナリオは、2050年になってもエネルギー供給の20%程度が化石資源でもたらされている状態です」と、アルカラ氏。「石油とガスが生産されている限り、こうした事業をできるだけ脱炭素化することが必要不可欠です。下流の脱炭素化には多くの課題がありますが、この随伴ガスのガス抜きやフレアリングという非常に明白な問題は、今解決できることなのです」。