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公平なアーバニズム: AIが前進させるインクルーシブな都市計画と資源配分

  • より公平かつサステナブルな都市環境の創造のため、AIが世界中でますます活用されるようになっている。
  • AIドリブンなツールは、ラテンアメリカのように急速に都市化が進む地域の非公式居住区をマッピングすることで公平なアーバニズムを向上させるよう開発されている。
  • こうしたツールは、行政サービスが行き届いていない地域を都市計画や資源配分に組み入れ、重要インフラやサービスの格差へ対処することに役立つ。
  • AIを活用した都市環境の分析は、空間的不平等への対処、生物多様性と居住性の向上、より公平な開発のための政策決定の指針となる。
  • 現在進行中の取り組みは、データプライバシーや拡張性などの課題は存在するが、都市という文脈におけるAIの有効性と適用可能性を高めている。

人口の81%が都市に居住するラテンアメリカは、地球上で最も都市化が進んでいる地域であり、その傾向は現在も進行中だ。この地域の都市部へ居住する人口は、1950年には41%に過ぎなかった。その後大量の人々が都市部へ押し寄ると、それによって基本的なサービスや公共事業を享受できず、行政当局にすら認められていない、広大な非公式居住区が生まれることになった。

国連人間居住計画 (ハビタット) によると、こうした非公式居住区にラテンアメリカとカリブ海地域の人口の21%に相当する約1億1千万人が暮らしており、公害、交通やサービスへのアクセス、治安、劣悪なインフラなどの深刻な問題に直面。指導者たちは、この長年くすぶり続ける問題の解決のため、AIのような新しいテクノロジーが一助となることを期待している。

ラテンアメリカでは人口の81%がリオデジャネイロなどの都市に居住している
ラテンアメリカでは人口の81%がリオデジャネイロなどの都市に居住している

AIを活用したフォトグラメトリエンジンで、非公式居住区の地図を作成可能だ。これは行政による人口調査に非公式居住区を組み込み、適切な資源配分を行うための第一歩となる。より開発の進んでいる北米でもAIは重要な役割を果たしており、公開データを使用した政策的解決策を通じて、アーバニズムの質の評価と向上を図っている。

その背景や用途は大きく異なるが、アーバニストとデータサイエンティストは力を合わせ、AIを活用してより公平な都市を発展させようとしている。公開されているビジュアルデータから導き出される都市のプロセスの機能のより詳細な理解が、より良い政策のソリューションと、その支持を得るために必要な連合を生み出すことが期待されている。

だが、AIは都市開発において無条件に優れているというわけではない。このテクノロジーはまだライフサイクルの初期段階にあり、データへのアクセス、専門知識の不足、拡張性の課題といった重大な問題や、データプライバシーの欠如、監視機能、バイアスの内包、労働市場の混乱など一般社会への潜在的な脅威を伴っている。人々のAIに対する信頼は、こうした問題によって大きく損なわれているのだ。いずれにしても、世界の都市計画においてAIツールが果たす役割はますます大きくなるだろう。問題は、その方法にある。

特定地域にフォーカス: ラテンアメリカにおける非公式居住区のマッピング

パラグアイ・アスンシオン都市圏に対するMAIIAの予測結果
パラグアイ・アスンシオン都市圏に対するMAIIAの予測結果[提供: MAIIA project]

都市設計家、情報技術者のアントニオ・バスケス・ブルスト氏が開発したMAIIA  (Mapping with AI for Informal Areas: AIを使用した非公式居住区マッピング) は、ラテンアメリカの非公式居住区をマッピングするフォトグラメトリプラットフォームだ。米州開発銀行から資金援助を受けているMAIIAは、公開されている衛星とドローンの画像を使い、パターン、色、コントラストをスキャンして非公式居住区の境界の定義、マッピングを行う。

このプラットフォームはラテンアメリカとカリブ海地域の自治体による利用が想定されており、ユーザーが既存の地図 (古いものも含む) や想定した非公式居住区の境界線を入力し、このデータでモデルを何日か学習させることで、最もうまく機能する。アルゴリズムがこの地域の背景を一度理解すれば、ユーザーは数カ月ごとにマップを繰り返し作成して、進展を追跡できる。

バスケス・ブルスト氏によれば、このプロセスは従来の調査方法よりも「指数関数的に」安価であり、「例えば、水を利用できずに暮らしている人が、どこにどれくらいいるのが分かります」という。

現時点では、MAIIAの非公式居住区に関する理解は特定の地域に絞られ、極端に文脈依存だとバスケス・ブルスト氏は述べる。「どの都市でもゼロから始めるようなものです。コロンビアのボゴタ郊外でアルゴリズムを訓練して、沿岸部の別の都市でテストすると、アルゴリズムは混乱してしまいます。人間社会は、それぞれ大きく異なりますから」。

人間の分析者 (赤) とMAIIAの自動分類 (青) により区分された非公式居住区を示した衛星画像
人間の分析者 (赤) とMAIIAの自動分類 (青) により区分された非公式居住区を示した衛星画像 [提供: MAIIA project]

MAIIAは非公式居住区内の要素も初歩的な理解をしており、例えば循環ルートや地形、公共施設へのアクセスなどを識別できる。現在のアルゴリズムでは、特定の地域と、わずか数ブロック離れた場所の個々の要素を理解するために、何時間もの訓練と手作業でのラベリングが必要だ。

「非公式居住区内で何が起きているのかを見極められるようになれば、それは新たなフロンティアです」と、バスケス・ブルスト氏は話す。MAIIAを政府のサービスへダイレクトに接続し、自動化されたレポートを提供する技術は既に存在するものの、ラテンアメリカの「地方自治体や州政府には、こうした責任を担えるような人的資源のインフラは、ほとんど存在しないのが実情です」。

カリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院の講師で、都市におけるAIの活用を研究しているソレダッド・ギレラ氏は、これまでのところMAIIAのようなプラットフォームは「意思決定を行うためのリソースにはなっているものの、現場のチームの自発を促すきっかけにはなっていません」とこう話す。「こうしたツールは情報処理の手法を加速させ、必要なことに的を絞るという点での効率化には役立っていますが、それはまだ人の手によるプロセスなのです」。

MAIIAの次なる目標は、非公式居住区の屋根を数え (それが住戸数に匹敵) 、建物の構造的完全性を確認する機能を構築することもある。だが最も重要なのは、地域毎にツールを適用するための手動・自動の訓練が少なくて済むよう、より普遍的なモデルを用いてデータのスケーラビリティの問題を克服することだ。

街路レベルの知見で都市デザインを変革

MAIIAがラテンアメリカの都市を空から眺めることに焦点を当てているのに対し、State of Placeはアーバニズムの質を街路レベルで判断する。マリエラ・アルフォンゾ博士が開発したこのツールはデータと社会科学に基づくもので、コミュニティの社会、健康、環境、経済上の価値を公平に最適化するのに役立つ。

State of Placeは、街角の画像をもとにAIで建造環境のクオリティを評価するものだ。コンピュータビジョンを使用して127の都市デザインの特徴に関するデータを抽出して、それがState of Place Indexと呼ばれるスコア (0点から100点) にまとめられる。このスコアは、アーバニズムの大まかなパターン (密度、交通ネットワーク、土地利用、街路景観の境界要素と連続性など) と、横断歩道標識、ベンチ、自転車専用レーン、屋外飲食スペースなどの詳細な特徴の両方を包含する、都市デザイン次元を測定する10の下位指標に分類される。このソフトウェアは、このデータを空間的かつグラフィカルに視覚化し、ユーザーが建造環境の資産とニーズを評価するのに役立つ。

State of Placeは建造環境の127の側面に関するデータを抽出し、State of Place Indexと呼ばれるスコアを集計する
State of Placeは建造環境の127の側面に関するデータを抽出し、State of Place Indexと呼ばれるスコアを集計する [提供: Mariela Alfonzo and State of Place]

またState of Placeは指標と10の下位指標を不動産価値や慢性疾患の発生状況、暑さ指数、徒歩・車・交通機関の利用状況などの結果と結びつける、一連の予測モデルも開発している。このソフトウェアを使用することで、ユーザーはオフィス賃料の上昇、糖尿病率の低下、犯罪の低下、交通機関の利用者数の増加など、政策目標や望ましい成果の達成に最も役立つと思われる具体的な都市設計案を作成できる。

ユーザーは、建造環境への望ましい変更がState of Place Index全体にどのような影響を与えるか、それによる政策上の優先事項や地域社会の価値の向上・低下をシミュレーションできる。例えば街路樹にベンチを設置したり、植樹をしたりすることで、自動車事故の発生件数はどう変化するか、また固定資産税はどう増加するか。歩行者が増加することで小売店の収益は上がるのだろうか? こうした価値予測 (予測分析) は、公共、非営利、民間セクターのいずれにおいても「投資を正当化したり、コミュニティの賛同を得たりすることで、提案されたプロジェクトに対する資金や承認を確保する」ために説得力ある証拠を活用するのに役立っている、とアルフォンゾ氏は話す。また、地域社会が最も重視する価値を最適化する、再開発案の優先順位付けにも役立つ。

既に彼らのAIモデルは、一見無関係に見えるような、生活の質を高める都市デザインの特徴間の不思議なつながりを発見している。例えばビジョン・ゼロ目標の達成を目指していたノースカロライナ州ダーラム市交通局と協力したState of Placeモデルでは、指標が1ポイント上昇するごとに車両衝突の可能性が平均12.3%減少することが示された。この数字は結果として生じたものだが、ある程度は予想されたものでもあった。だが、さらに掘り下げることで、この指標の公園と公共スペースの下位指標のスコアが高い場所は自動車衝突のリスクがはるかに低いこともアルフォンゾ氏は発見しており、下位指標が1ポイント上昇すると平均で26.5%の衝突リスク低減につながっている。

「これは交通エンジニアが考えそうなことではありません。間接的な関連性なのです」と、アルフォンゾ氏。「公園や公共スペースがあると、人が増え、より多くの人が徒歩で行き交うようになり、これらのエリアの滞留時間が長くなります」。建造環境と生活の質の関連性を理解することは、効果的な設計戦略の優先順位付けに役立つだけでなく、それは文字通り、生死に関わる問題でもある。

建造環境の客観的な指標であるState of Place Indexには人口統計学的要素は含まれていないが、関連がないわけではない。人口統計 (人種、所得、民族など、公平性に影響を与える指標を含む) は、State of Placeの予測分析モデルにより説明される。例えばフィラデルフィア市との連携では、State of Place Indexスコアが低い場所ほど慢性疾患や犯罪、COVID-19の発生率、暑さ、洪水の確率が高いことが判明した。低評価地域に住む人々は、State of Place Indexが高い地域に住む人々に比べて黒人の割合が多く、所得も教育率も低かった。建造環境と結びついた不平等、つまり空間的公平性を定量化することで、ユーザーはより公正かつ活況な場所を、より効果的に提唱できる。

そのため、State of Placeでは、提案されている建造環境への投資に関連するジェントリフィケーションや強制退去のリスクを実際に数値化している。例えば、ある再開発計画でストリートフェスティバルの屋台のためのポケットパーク、新規の芸術文化インキュベーター、小売店、市場価格帯の住宅が追加されるとしよう。このソフトウェアは、こうした変化によるState of Place Indexスコアの上昇を数値化するだけでなく、家賃、住宅価値、固定資産税の上昇についても予測する。

支援団体や政策立案者は、将来予想される家賃や固定資産税と比較して、既存住民や近隣の商店主が実際に支払うことのできる金額とのギャップを計算し、地域利益協定、ランドバンキング、補助金などの政策や戦略に反映させ、住宅取得能力の格差縮小に活用できる。「価値の上昇が、そもそも再開発が必要だった住民に実際に還元されるようにするためには」モデルの予測を反映して作られた積極的な新政策が求められると、アルフォンゾ氏は話す。

不平等の指標としての街路樹の分析

植えられたばかりの木には水分センサーが取り付けられている
植えられたばかりの木には水分センサーが取り付けられているが「好奇心旺盛な」市民の目からは隠されている [提供: Technologiestiftung Berlin]

樹木はState of Placeが考える都市の質の指標のひとつであり、その維持と生存能力こそTechnologiestiftung Berlinユリア・ツィンマーマン氏Birds on Marsベルリン・ミッテ区環境課とともに開発したQuantified Trees (QTrees) 全体の焦点だ。QTreesは、ベルリン市内にある約100万本の樹木のうち86万本を網羅する広範な樹木データベースを活用し、AIと降水量、気温、樹種、樹齢、既存の散水スケジュールに関するデータ、水分センサーが収集したデータを用いて、それぞれの樹木に必要な理想的な散水量を決定する。ベルリンの3Dモデルを統合し、高層ビルが木々に落とす影と空を横切る太陽の経路を追跡して各木の日陰レベルを計算するが、このモデルは建物が新たに建てられたり取り壊されたりしても自動的には更新されない。

「1本の樹木の小さな特徴すべてが組み合わさって、今後14日間の土壌水分張力、つまり樹木が土壌から水分を取り出すために吸い上げる力が計算されます」とツィンマーマン氏は話す。土壌水分張力は、樹木にどれだけの水が必要かを示す重要な指標だ。多くの場合、土壌水分の方がより正確な指標となるものの、土壌水分をモニタリングするプロセスは実用的でなく、予測は不可能だ。有効な効果を得るには多くの地点での土壌水分モニターが必要となり、また都市部の土壌は水道管やガス管、建物の基礎、交通機関などのインフラが地下に張り巡らされて樹木への水分の流れを妨げていることが多いため、水分の拡散が不安定なことが多い。

現在、ベルリンには200以上の土壌水分張力モニターのネットワークがあり、データを収集している。「張力が高いほど、地面は乾燥し、より多くの水やりが必要になります」と、ツィンマーマン氏は話す。

QTreesダッシュボード
QTreesダッシュボード[提供: Technologiestiftung Berlin]

ダッシュボードを使用することで、当局は樹木を水やりの必要性、場所、樹齢などで分類できる。QTreesは公共データ上で動作し、オープンソースのコードに基づいている。そのため、AIモデルを訓練するための参考資料として樹木データベースと水分センサーさえ提供すれば、他の都市でも簡単に採用できる。

ベルリン、そして他のどの都市においても、街路樹は不平等を示す強力な指標だ。生物多様性にとって不可欠であり、人間の健康の一助となり、二酸化炭素隔離と保水性を高める。街路樹がないと、都市はより暑く、穏やかさに欠け、居心地の悪い場所となる。「都市に緑があると住みやすさは向上します」と、ツィンマーマン氏は話す。

QTreesに内在するデータ拡張性の問題に対処するには、多大なリソースを投入して他の都市でも同様の樹木データベースを構築する必要があり、またこのケースを実現するには、AIや都市そのものを開発することが多い民間セクターが設定するROIの要求に真っ向からぶつかることになる。緑あふれる都市がもたらす長期的なメリットは明らかだが、短期的なリターンは明白とはいえない。ここでも他の領域同様、純粋な市場効率は公平なアーバニズムへの最良の道ではないのだ。では、収益性を超えた人間の価値を立証するには、どうAIを訓練するべきだろうか?「そのためには、社会科学とデータ科学を組み合わせることが重要なのです」と、アルフォンゾ氏。

AIの倫理は重要な規制問題であり、未だ発展途上の分野での議論次第だ。しかし、適切な政策にたどり着くには、適切なステークホルダー、つまりAIの影響を受けるすべての人の社会的・経済的背景を理解できるよう、可能な限り多様な利害関係者を招き入れる必要がある、とギレラ氏は話す。「能率に走り決断を急ぐほど、どのように決断を下すのか、誰がこの決断に加わるのかという点でのリスクが高まります」と、ギレラ氏。「都市が果たすことのできる大きな役割のひとつは、AIをめぐる市民間の議論をリードすることだと思います。教育の面だけでなく、市民参加や地域レベルでの対話の場を設けるという意味で」。