製造業界全体のDXを推進するミスミがmeviyで実現する調達革命
- 紙とFaxが使われている調達分野が製造業のボトルネックに
- 3D設計データからAIが価格と納期を自動計算
- 若い設計者のスキル向上や技術伝承を実現
- 調達分野のDXが製造業界全体の生産性を向上
生産設備や金型、検具、工場備品などを構成する機械部品の調達分野で、ミスミは40年前に標準品・カタログ販売というイノベーションを起こす。規格品の膨大なバリエーションと、その確定納期・価格を明記することで、紙の図面作成や価格・納期の見積もりに必要だった手間と時間を大幅に削減し、製造業における社会インフラとなってきた。そして製造業界の生産性向上が喫緊の課題となったいま、同社は調達分野のDXという、新たな発明による改革を目指すことになる。
ミスミグループ本社の常務執行役ID (Industrial Digital Manufacturing) 企業体社長、吉田光伸氏は、「製造業は日本のGDPの2割を占める基幹産業であり、世界シェアの6割以上を持つ日本企業の製品は270品目あります。2019年版ものづくり白書によると、これは米国の2倍、中国の5倍であり、国際競争力は現在も高いと言えます」と述べる。「その一方で生産年齢人口の減少による人手不足、働き方改革法案の中小企業への適用などによる時間不足により、製造業界で廃業が加速しているという現実もあります」。
CAD/CAEによる設計の自動化、製造におけるロボットなどの自働化、販売におけるEコマースなど、製造業でもデジタル化が生産性向上に貢献している分野は多い。「ただし調達においては、いまだに紙とFaxが使われています。先日行った独自の調査では、業界の調達部門でFaxの利用率は98%でした」と、吉田氏は述べる。「製造業全体の生産性向上においては、この調達領域自体がボトルネックだというのが我々の認識です」。
「例えば部品点数が1,500の機械の場合、各部品の図面作成に30分かかるとして、合計で750時間。それを上司が検図して、加工業者に一枚ずつFaxで送るのには25時間が必要です。そこから一週間の見積もり待ち、発注してから納期が二週間とすると、調達までにトータルで1,000時間、約125日かかってしまいます。これでは、業界全体で膨大な時間が失われていることになります」。
ミスミのカタログ販売は、膨大な数の規格品で実現している低価格と、標準2日での出荷という短納期・確定納期により、製造業の生産性向上に長年貢献してきた。それを支えてきたのが、800垓に及ぶ豊富な商品バリエーションに受注生産で対応できるユニークな生産体制の仕組みと、一日20万件もの出荷を行える自社のサプライチェーンだ。だが、現在のカタログで実現している1兆の800億倍という気の遠くなるようなバリエーションをもってしても、そうした規格品がカバーできているのは、顧客のニーズのうちの半分程度だという。
「ミスミは長年に渡る研究開発をもとに、発想の転換を行いました」と、吉田氏は述べる。「これまでは、いかに選んでもらうかという“カタログの発想”を突き詰めてきましたが、今度はお客様が自由に設計したデータをアップロードしてもらうと、その図面品でも規格品同様にその場で価格と納期が分かる仕組みを作ればいいのではないか、という『選ぶから描く』への発想がmeviy (メヴィー) を作るきっかけになりました」。
AIが自動見積もりや製造可能性をサポート
製造業における機械部品調達のデジタル革命としてミスミが2016年にローンチしたmeviyには、2つのイノベーションが盛り込まれている。「ひとつはお客様に対しての、AI自動見積もりというイノベーションです。3D設計を行ったデータをアップロードすると、これまでは職人が頭の中で行っていた形状や加工穴の個数、加工機による切削の時間などを考慮した価格と納期の計算を、AIが数秒で行います」。
meviyのインターフェースでは、材質や表面処理などの設定が即座に価格に反映されるほか、例えば図面上はただの穴であってもネジ穴であることが判断されるなど、数々のスマートな機能が用意されている。meviy上で、細部の変更や公差設定なども可能。さらには生産技術要件にもとづいて加工の可不可も判断され、どうすれば加工可能となるかのアドバイスも表示されるようになっている。
「このところ若い世代への技術伝承が大きな課題となっていて、文章や動画、マニュアルを残すなどの取り組みが行われていますが、なかなか難しいのが現状です。そんな中、ある会社からは、meviyを使っていると設計者が勝手に賢くなっていくという評価を受けました。コロナ禍で、先輩に隣で指導してもらうこともできない、現在の状況にもフィットしていると思います」
デジタルものづくりによる生産革新
「もうひとつは、これまでの受注生産で培った土壌をもとにした、デジタルものづくりによる生産側の革新です」と、吉田氏は続ける。「アップロードされた設計データから加工機を動かすプログラムが自動生成されて、それが工場へ転送されて製造を行うまで、全てがほとんど無人で行われます。その結果、最短でその日のうちに受注、加工して出荷するという、恐らくは世界最速納期と言える即日出荷を実現しています」。
meviyの提供サービスは、製品の設計や開発で活用されるラピッドプロトタイピング、そして板金部品や切削プレートなどのFAメカニカル部品の2つに大別される。「この3つがそろった2019年から本格的に事業展開を始めて、現在はユーザー数54,000以上へと急成長しています。導入企業も自動車、機械、電子、化学、医療など非常に幅広く、これまで470万データのCADモデルをアップロードしていただいています」。
製造業の3D CADユーザー全てにメリットを提供
meviyを活用することで、2次元図面の作図と見積もりの時間が不要となり、製造のプロセスも短縮。前述の部品点数1,500点の設備の部品調達の場合、約1,000時間から80時間へと実に92%もの時間が削減され、圧倒的な労働生産性の改革を実現できることになる。
meviyのサービスそのものは、登録だけで無料で活用できる。Autodesk Inventorなどさまざまな3D CADソフトウェアのネイティブフォーマットや、STEPなどの中間フォーマットにも対応。発注する部品の種類や規模を問わず、3D CADの活用・導入により、さまざまなメリットを享受できる。
実際のユーザーからは、紙の図面作成と見積もり作業の業務負荷を大幅に削減することで、設計から納品までのプロセスが2週間から3日に短縮されたなど、ポジティブなフィードバックが多数寄せられているという。「その結果、これまでは1回しか回せなかった開発サイクルを、2回、3回と実施できるようになり、品質が向上したということです。また、紙の図面を使う必要が無くなったことで、コスト削減や生産性の向上が実現できたケースも多いですね」。
同社が昨年夏に行った中小企業を対象とする調査では、「このコロナ禍と米中貿易摩擦が続いている中で、2割の企業からは、過去2年間で成長しているという回答がありました」と、吉田氏は述べる。「成長を実現している企業と、そうでない企業とで最も差があったポイントは、ZoomやTeamsなどを含めて、デジタルツールをうまく使いこなしていることでした」。
「うまく時間を効率化して、そこで浮かせた時間を付加価値の高いことに当てることが大切だということだと思います。デジタル化や自動化は、全部自前でやろうとすると大変ですし、時間もかかります。世の中にある、簡単に使えるツールを活用することが重要で、あとは意識の問題だと思います」と、吉田氏。「meviyも、そうしたツールとして、製造業の生産性向上に貢献していきたいと考えています。もっと幅広い用途に使えるようサービスを拡大していくつもりですし、UI/UXの向上にも日々取り組んでいます。また、2021年以降には海外のお客さまにも使っていただけるように準備をすすめていますので、期待していてください」。