美保テクノスがデザインビルドとBIMで目指す生産性向上とビジネスの拡大
働き方改革や労働人口減少への対応のため、喫緊の課題とされているのが労働生産性の向上だ。日本の労働生産性が西欧諸国より大幅に低いことは周知の事実であり、とりわけ建設業は国内全産業の平均を大きく下回っているのが現状で、製造業との差も拡大している。この問題解決の糸口は、どこに見つけられるのだろうか?
米子市に拠点を置く鳥取県内有数のゼネコン、美保テクノス株式会社の代表取締役社長を務める野津健市氏が建設業に携わるようになったのは数年前。それ以前は他業界で国内外の仕事を行ってきた経験を持つ野津氏は、建設業における生産性の問題は、工程間の連携の悪さだと考えている。「設計施工を行っている弊社でも、特に設計と施工の連携には問題があると思っています」。
生産性向上に向けたデザインビルドの推進
その背景には、歴史ある業界における現場力の強さも要因にあると野津氏は述べる。「設計と施工の間で、それほどコミュニケーションが取られている様子はないのですが、設計が不完全なものでも施工が優秀なので納めてしまうし、それが設計側にフィードバックされて次のプロジェクトに活かされるという動きにもなっていない。いわば、場当たり的なところがあると感じていました」。
こうした問題は、同じプロジェクトに関わるサブコンや協力業者などを含めた業界全体の問題でもある。「設計事務所の方と話をしても、設計図を作って、それを収めることが自分たちの仕事であり、それがどのように施工されるのかは関係のないことだと考えられている場合が多いのです」。同社BIM戦略部の部長を務める新田唯史氏も、「意匠、構造、設備が独立していて、それぞれが設計図という成果物を納品すれば仕事は終了になります」と述べる。「後工程で干渉が起きた場合にも、それが設計には伝わっていない。こうした問題は、社内にもあります」。
「現場で何とかしてくれる監督は本当に優秀なのですが、その成功体験は極めて属人的なものに留まっています」と新田氏。「問題は、着工の時点で設計仕様を決め切れていない部分が多いことです。そうした穴を現場の人たちが埋める作業に多くの時間を費やしているので、それを着工までに解決すること、すなわちフロントローディング化を最大の目標にしています」。
野津社長は、「それを解決する仕組みやプロセスに変えられるのがデザインビルド方式 (db方式) であり、BIMなのではないかと考えています」と語る。「そこで、まずは社内の設計施工から、全てのプロセスを思い切ってBIMで行うという取り組みを始めています」。
「私は入社時の2004年からRevitを使い始めていますが、それが属人的なものである限りは有効に活用できないと認識するに至り、それを他の人にも広げられるような仕組みへと変えてきました」と、新田氏は振り返る。「設計が後工程に迷惑をかけないようにする、という視点に切り替えることで、現場の人たちにも少しずつ浸透してきていると思います」。
「お客様の合意を得ながら設計を行ったものが施工までつながってないと、どうしても情報が落ちていってしまう。もちろん設計と施工の連携により無駄な作業を減らして生産性を上げることは必要ですが、手戻りを無くすという内向きの生産性向上以上に、お客様の思いを正確に反映させた建築物、築造物をどうやったら作れるかが重要であり、それがBIMだと思っています。それによって後工程である施工が楽になり、フィードバックを受けた設計も楽になるという好循環が必要ですね」。
中小規模企業に実現可能なBIMフォーマットの構築
BIM建築設計の効率化を目指し、施工BIM規格の策定や効果の検証、実施体制作りなどを含む標準化を進めてきた美保テクノスが、次の段階のBIMビジョンとするのが、中小規模企業に実現可能なBIMフォーマットの構築だ。その最初のプロジェクトが、人と環境にやさしい新生・鳥取県西部総合事務所・米子市役所糀町庁舎の実現を目指す、鳥取県西部総合事務所新棟・米子市役所糀町庁舎整備等事業。美保テクノスは、プロポーザル段階からZEBを見据えて一次エネルギー消費量を半減させるZEB Readyを盛り込み、このPFI事業におけるSPC (特別目的会社) の代表企業を務める。
このプロジェクトでは他設計事務所とのBIM連携に加えて、空調に関してはメーカーであるダイキン工業と設計段階から連携し、一緒に検討を行ったと新田氏は語る。「DK BIM for Revitを使うことにより、弊社でも基本設計の段階で熱負荷を計算して機器を選定し、それを自動配置して設計する、ということが可能です。地方の案件でも世界トップクラスのシェアと技術を持つ企業と連携し、そのノウハウを提供してもらえるのは非常に心強く、それによって品質も高いものになります」。
「空調は、通常は建物ができて、部屋割りが決まって、そこから見積もりを出してという流れになりますが、設計段階から入ってもらうことで、製品の特徴やパフォーマンスを生かせる設計を一緒に考えることができます」と、野津社長もそのメリットを強調する。「発注者の発想で一緒に新しい取組をしましょう」と口説き、一緒にやってもらうことができました」
「設計者でなく各メーカーのプロフェッショナルが専門性を如何なく発揮することで、より優れた成果が得られます」と、新田氏。「この場合、どの段階で発注先を決めるかが問題になりますが、美保テクノスが代表企業となったPFIによる西部総合事務所や、自社のプロジェクトであれば、社内の施工部門と予め仕様に合ったベストなメーカーを選定し、その上で設計段階からメーカーと綿密な協議や機能などのすり合わせを行うことができるので、各メーカー提供の機器のベストパフォーマンスに基づくフロントローディングが可能になります」。
さらに自社ビル新築工事では、地域の設計業者を束ねたフルBIMモデル構築と地方ゼネコンにおけるBIM規格の有効性確認及び効果検証を実施。設計段階から設計事務所と美保テクノスがBIMを使って連携することで生産性の向上を図るのに加えて、BIM 360によるワークシェアとフルBIMによる各社のメリットの明確化や理解、共有がテーマとなる。設計には熊本大学や広島工業大学も参加し、新社屋のリフレッシュルームや応接室などに、そのデザインが活用される予定だという。
「自社ビルの設計では熊本大学や広島工業大学と連携しましたが、BIMによって地方同士の連携もでき、そのアウトプットが場所を問わず、どこでやっても同じになればいいと思います。また地方のゼネコンにとっては、BIMによる高付加価値な施工が、今後のビジネスを広げる可能性にもつながる可能性があると期待しています」と、野津氏。
「デザインビルド方式が求められるのは、当然の流れだと思っています。図面を描くことでなく、建物を建て、運営することがゴールなので、良いものが安く、工期通りに建つということが大切です。BIMには素晴らしい可能性があり、特に我々のような地方のゼネコンには、BIMに適切に取り組むことで、仕事のさらなる高付加価値化、高度化ができると思っています」。