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軽量化のその先へ: デンソーによる先進的 ECU のデザイン

デンソー ECU ジェネレーティブ デザイン
[提供: デンソー]

今年創業70周年を迎える株式会社デンソーは、先進的な自動車技術やシステム・製品を提供するグローバル企業だ。自動車部品の世界的なシェアを誇り、自動運転や電動化からAI、MaaSから量子コンピューティングまで、未来のモビリティ社会の課題を見据えた開発が行われている。

大気汚染や燃料価格の高騰など、自動車の燃費を向上すべき理由は多い。そのための合理的な方法として、エンジン性能の向上に加えて車全体の軽量化が挙げられる。ハンドルやペダルからシート、エンジンやブレーキから小さなネジまで、実に3万個にも及ぶ部品が使われている自動車の重量を削減するには、個々の部品それぞれの軽量化が欠かせない。それは、手の平に乗るサイズのコンパクトなECUであっても同様だ。

このECU (Engine Control Unit) とは、コンピューターを使ってエンジンが必要とする燃料を正確に供給する電子制御燃料噴射装置で、いわば「エンジンの頭脳」とも呼べるパーツ。燃料噴射の量やタイミングを最適に制御することで走行上の性能を向上させ、排ガスの有害成分低減にも貢献する重要な役割を果たしている。

デンソー ECU ジェネレーティブ デザイン コンセプト
切削加工によるECUのコンセプト モデル

株式会社デンソー デザイン部プロダクトデザイン室 商品開発2課 担当係長の岡本 陽氏は、農建機向けの小型ディーゼルエンジンに搭載する新たなECUの開発に際して、従来の手法でデザインしたものに加えて、ジェネレーティブ デザインを活用した、より先進的なコンセプト モデルを作成している。「最初の形も、極力軽くすることを意識してデザインしています。それをさらに軽量化するため、ジェネレーティブ デザインを使って考えてみました」。

エンジンルームは最高120度に達するため、ECUが問題なく動作するよう、105度程度のエンジン ブロックとの接触部分から熱を逃がすことで放熱が行われる。「熱が逃げやすそうな形は経験から想像できるのですが、軽量化すると熱の逃げる経路も減り、放熱性能も落ちてしまいます。ジェネレーティブ デザインを使うことで、軽量化と放熱性能を両立できる新しい形が生まれるのではないかと考えました」と、岡本氏。

放熱性能への独自のアプローチ

その検討に利用したFusion 360のジェネレーティブ デザインには熱に関するパラメーターは用意されていない。「熱を計算するために熱を荷重ととらえ、放熱する部分から荷重を加えるという考え方で計算すれば形状が求められる、という仮説を立てました。そして、協力会社の株式会社 日南やデザイナーの柳澤郷司さん、海田裕二郎さんともコラボレーションを行いながら作業を進めました」。

ジェネレーティブ デザインで作られた、エンジン ブロックへダイレクト マウントするフレーム部分 [提供: デンソー]

ジェネレーティブ デザインで作られた、エンジン ブロックへダイレクト マウントするフレーム部分 [提供: デンソー]

AIを活用した設計手法であるジェネレーティブ デザインは、与えた要件をもとに膨大な数のデザインのオプションが生成され、そこから取捨選択を繰り返して求めるデザインを選択できる。「このECUのデザインでもトライ&エラーを繰り返し、カタチにならないようなものも生まれましたが、うまくいったものは似たような形が多くなりました」と、岡本氏。

「面白いのは、それを実際に3Dプリントしてみると、ここを熱が流れるというのが見えるように感じられたことです。気持ちの悪い形でもありますが、どこか綺麗でもあると感じました。最終的にはデザインとして美しく、かつ既存の製造方式で作れるようモデファイできる形状を選びました」。

製造を見据えた形状

ジェネレーティブ デザインでは、3Dプリント以外では製造の難しい形も生まれる。「何万個という数を作るには、それではコストやスピードの面で難しい」と、岡本氏。「今回は、ジェネレーティブ デザインの要素を盛り込み、かつ従来の製造方式であるダイキャストで作れる形を考えていました」。

デンソー ECU ジェネレーティブ デザイン
中央のコンセプト モデルは、写真左の基板のカバーと3Dプリントしたジェネレーティブ デザインによるフレームをもとに作られた。右は最初にデザインされた一般的なデザインのもの。

そのため、ユニット内に収められる基板を覆う幾何学的な形状のケースを作って、それをジェネレーティブ デザインによる形状と融合。Autodesk Alias SpeedFormとFusion 360を活用して全体にテーパーを付けた滑らかな形とし、既存の方法で製造できるよう調整が行われた。「それぞれの最低限の形状を融合することで、この形状を生み出しました」と、岡本氏。

こうして作り上げられたコンセプト モデル (Direct Mounted ECU Concept) を、切削加工することでモックアップを作成。「全体で12%の軽量化を達成しましたが、同等の放熱性能を維持できました。質量が減ることで熱が逃げるための経路が少なくなったのに同じ性能にできたということは、放熱の効率が上がったと言えると思います」。

デンソー デザイン部 岡本 陽
株式会社デンソー デザイン部プロダクトデザイン室 商品開発2課 担当係長の岡本 陽氏

これまでにも軽量化のためトポロジー最適化などは試してきたものの、ジェネレーティブ デザインは今回が初の試みだったという。「プロジェクトには3カ月ほどかけました。初めてのトライなのでやり方から模索していた割には早くできたと思います。より大きなECUでは、さらに効果が出るのではないかと思っていますし、もっと詰めたい部分も出てきたので、そこは次の機種で生かしたいと思っています」。

「ひとつひとつの部品を少しでも軽量化することの結果として、その集合体である自動車を軽くできます。今回の試みがECUだけでなく他の部品にも波及していって、全体を軽くできれば理想的ですね」と、岡本氏は今後の展望を語る。「今回は提案用のモデルですが、次のステップは実際に基板を入れて評価試験を行い、そこで結果を出すことになると思います」。

速報:
Direct Mounted ECU Conceptが世界的に最も権威のあるデザイン賞とされる「iF DESIGN AWARD 2019」を受賞

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan。「Design & Make with Autodesk」コンテンツハブの日本語版、韓国語版、中国語 簡体字版を担当。

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