集合住宅の計画にジェネレーティブ デザインを活用する大和ハウス工業の先進的な取り組み
工業化住宅のパイオニアにして、住宅・建設業界の国内最大手である大和ハウス工業は、戸建住宅をコア事業として、分譲マンションや介護施設、リゾート施設、大型ショッピングセンター、ホテル、病院等に工業化のアプローチを導入している。その同社が集合住宅の事業・建築計画に自動化を活用する先進的な取り組みが、昨年11月に米ラスベガスで開催されたAutodesk Universityのキーノートで紹介された。
大和ハウス工業 東京本社 情報システム部で集合住宅事業ソリューショングループのグループ長を務める山崎貴史氏は、「賃貸アパートなどの集合住宅においては、敷地の中にどう建物をレイアウトするか、そしてその建物がどれだけ収益を上げられるかが重要です」と語る。
集合住宅事業では、土地オーナーの所有する敷地の形状に合った土地活用のプランを提案し、その収益も勘案した上で建物の設計・建築が行われる。収益だけでなく地域への貢献も考える土地オーナーのニーズに応えるため、複数の提案とそれに対する反応から最終案の絞り込みが行われるが、その提案内容は営業担当のスキルや個性などに頼る部分も多いという。
そうした営業活動の現場を熟知している同グループ主任の播田雅也氏は、設計の自動化に対して「当初は、すごく懐疑的でした」と述べる。「社内でも、過去にいろいろな人たちが設計の自動化にチャレンジしていて、すごく難しいものだということを肌で感じていました」。だが、ジェネレーティブデザインを活用した事例に触れることで、そうした印象が大きく変わることになった。
「ジェネレーティブデザインのテクノロジーを使って作られたオートデスクのオフィス内のレイアウトや、オランダのVan Wijnen (ファン・ワイネン) 社などの例を見て、これならイケるかもしれない、と思いました」と、播田氏。「これまでに全く無いアプローチであることに驚き、それを大和ハウス工業の事業にどう生かしていくのかを考え始めました」。
建築向けジェネレーティブデザイン
ジェネレーティブデザインは、自然が進化するアプローチをデザインに応用するものだ。デザイナーやエンジニアがデザイン上の目標と、材料や製造方法、コスト上の制約などのパラメーターを入力すると、単なるトポロジー最適化とは異なり、膨大なソリューションを検討して異なるデザインが素早くジェネレートされる。
コンピュテーションのパワーを活用して設計オプションの生成、評価、進化を行うジェネレーティブデザインのワークフローは、カナダ トロントのMaRS Innovation District内に改装された、オートデスクの新たなオフィス兼研究システムの建築に応用された。そこで働くことになる社員から働き方やレイアウトなどに関する情報を集めて、働き方や隣接性の嗜好、気を散らす要素の排除や相互接続性、外光や眺望などの測定可能なゴールを設定。何千ものオプションの中からパフォーマンスの高い、斬新な職場環境が得られた。
豊富な経験から生み出す独自のシステム
大和ハウス工業は、都市部における長期的な住宅需要と、入手可能な土地が少ないという現実との折り合いをつけたいと考えてきたという。同社がジェネレーティブデザインを活用して開発を進めるシステムは、都市化が進行する日本の状況にマッチした、狭い土地で最高の小規模開発を判断できるよう支援を行うことを目指すものだ。
顧客への提案は迅速に作成する必要があり、受け入れた提案は営業チームから設計チームへ渡す際に大幅な変更が無いことが重要だ。顧客に受け入れられた提案の設計に最大5営業日程度が必要だという現在のフローは、このシステムによってどう変わるのだろうか?「このツールを営業が操作できるようになると、必要なときに自分ですぐに結果を出して、それをお客さまにプレゼンテーションできるようになります」と山崎氏。
現在開発しているシステムは、営業、設計の両方をサポートするものを目指していると、播田氏は語る。「まずは営業担当がこれまでやってきたことを、すごく簡単に実行できるシステムにするのが最初のゴールだと思っています。その上でジェネレーティブデザインならではの、従来は想像もできなかったようなプランも提示されるようにする。幾つかのパターンに加えて、意外なプランも出てくるのがベストな形ですね」。
「図面を書き慣れてしまうと、整然とした作りになりがちです。そうすると、建物が建ったときに何も面白みがなかったりする。ジェネレーティブデザインは、そうした慣れとは良い意味で関係ない結果が出てくるので、そこが一番面白いと感じています」。
その一方で、顧客に薦められないプランを簡単に作成できるのも有用だと播田氏は語る。「これまで、お薦めできないプランは口頭でしか説明できませんでしたが、それを具体的な図面で説明できるようになる。そうすることで、腑に落ちるというか、納得感が違ってくると思います。現在のフローでは、お薦めできないプランを、わざわざ設計に書かせるのは難しいですからね」。
また、このシステムは社員教育にも効果を発揮すると期待されている。「現在は若手を営業担当として育てるための社内トレーニングに、かなりのコストと労力、時間をかけています。このツールが活用できるようになれば、それを大幅に圧縮できるでしょう。このプロジェクトは、特に若手の社員に対して有効なものだと思っています」。
「こうしたツールを使うことで、従来のように知識を重ねていく段階での技術や知識の習得ができなくなると心配する方もいますが、その代わりに出来上がったものをどうプレゼンするか、どう使うかというところのレベルが上がっていくと思います」。
このシステムは現在開発中で、今後事業所への展開が検討されている。