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3Dプリンターを活用したスピーディなものづくりでコロナ禍に挑む学生たち

千葉大学大学院の伊集さん、服部さんによるPITATT 3D print mask (左)、工学院大学附属高等学校の清水さんによる扉のオープナー (中央)、渋谷教育学園幕張高等学校の立崎さんによるフェイスシールド

コロナウイルスによる感染症が世界中で猛威を振るうなか、日本の学生たちが自宅でマスクやフェイスシールド、ドア開閉用のオープナーなど、コロナ対策プロダクトの制作に取り組んでいる。発案からわずか数日で設計から試作、公開や寄贈へと到るスピード感は、企業には真似できないものだ。

感染症の影響が深刻化してきた2020年3月から、日本の学校では通常の授業が行えなくなった。今回話を聞いた学生たちの多くが、現在もオンラインで授業を受けることを余儀なくされている一方で、オンラインによるミーティングを行い、世界中の人々が直面する危機に対して、自宅でのものづくりによる貢献に挑戦している。

クラウドベースのコラボレーション

デザインを専攻する大学院生の伊集千夏さんは、マスクが市場に不足したことと、Twitter のフォロワーからの「フリー素材サイトに海外の方が作ったマスクのデータがあるが、日本人の骨格に合わなくて使えない」というリプライがきっかけで、最適なマスクを作るプロジェクトを思い立った。「プロダクト デザインを学んできたことを生かした活かしたアプローチができるのではないかと思い、PITATT 3D print mask のプロジェクトをスタートしました」。

同じ大学院へ通い、このプロジェクトへ共同で取り組んだ服部司さんは、過去にもボルダリングジムの壁面を掃除する特殊な掃除機を設計。3Dプリントしたものにモーターなども組み込んで提供した経験があったが、ふたりとも今回のように明確な課題と目的があり、多くの人に使ってもらうプロダクトのデザインという経験は初めてのことだった。

「コンセプトだけの提案とは違い、即実用してもらう、ユーザーに作ってもらうためのものなので、形や機能だけでなく、プリントやサポート台のカット処理のしやすさなど、デザインと製造面のバランスを取ることについても気を使いました」と服部さん。デザインのプロセスでは、Fusion 360のクラウド コラボレーション機能を積極的に活用。対面での打ち合わせや作業が難しい状況でも、わずか一週間でデザインを完成させることができた。

「機能性はもちろん、安全性や衛生面に対してもシビアに考えないといけないと感じました」と伊集さんは話す。「必要な方にすぐに使ってもらえるようにデータは無料公開して、世界中の誰でも作ることができるようにしました。より多くの人に使ってもらうために、情報発信の方法も工夫し、今ではクリエイティブコモンズに準じてクレジットを記載してもらえれば、販売や再配布、二次利用ができるようにオープンソース化しています」。

千葉大学大学院 融合理工学府 デザインコース 伊集千夏 服部司
千葉大学大学院 融合理工学府 デザインコース修士2年の伊集千夏さん (左: Twitter | YouTube) と、同1年の服部司さん (Twitter | YouTube)

フィードバックをデザインへ反映

幼少の頃から電子工作に興味を持ち、国際ロボットコンテスト参加チーム SAKURA Tempesta でロボットの設計製作をしてきた高校1年生の立崎乃衣さんは、SNSで海外のロボコン参加チームが現地でフェイスシールドを作って届けていることを知り、自らも日本の医療現場に貢献しようとフェイスシールドの製作と無償提供を始めた。

「とにかく早く現場に届けたかったので、最初は既存のデータを使って出力しました。60施設へ贈ったところで使った方に問題点をフィードバックしてもらい、その意見をもとに自分で設計して、今の形になりました」。

コロナ ものづくり 学生 渋谷教育学園幕張高等学校 立崎乃衣
渋谷教育学園幕張高等学校1年の立崎乃衣さん

これまでも、飲食店の人手不足解消に向けたロボットを設計したことはあったが、多くの人に実際に利用してもらうものを作るのは初めての経験だった。ホルダー部分を3Dプリンターで出力し、シールドは手作業で材料を切って成形。当初の材料費は SAKURA Tempestaが、コロナにより中止になったコンテストのために集めた資金から提供。現在はプロジェクトの賛同者や、フェイスシールドを贈られた医療現場からも寄付金が集まっている。

「アンケートによって、自分だけでは思いつかないような改善点も見つかりました」と立崎さん。標準的なモデルでは額とシールドの間が4cmだが、医療現場では目にルーペを着けたり、診療器具を使ったりすることがあるため、ニーズに応じてシールドと顔の間に10cmの距離が取れるものも作成したという。「Fusion 360の履歴機能を使えばサイズを簡単に調整することができるので、今は使っているルーペなどに応じて、その距離を自由にオーダーしてもらい、ユーザーが一番使いやすいものを届けられていると思います」。

ものづくりのモチベーションと社会貢献

高校2年生の清水大輔さんは、校内の企画でドアノブやタムターンへ直接手を触れずに扉を開けられるキャップ付きのオープナーを発案し、設計、試作を行っている。

「校内の有志団体が集まっているプログラミング講座があるのですが、コロナ禍で集まっての活動ができなくなったこともあり、モデリングバトルをやって、もう一度ものづくりに対するモチベーションを上げていこう、ということになりました」と清水さんは話す。その活動やプレゼンは全て、Zoomを使ってリモートで行われている。

「学校内で、こんなものができないかな?と言われて電子機器を作ってみたことはありましたが、今回のように深刻な状況が起きたことで、ものづくりを自分たちのこととして身近に考えるきっかけになりました」。

コロナ ものづくり 学生 工学院大学附属高等学校 清水大輔
工学院大学附属高等学校2年の清水大輔さん

現在、清水さんたち講座のメンバーは、次のモデリングバトルを計画しているという。「今回のコロナ危機はもちろん脅威ですが、同時に全人類がこの問題について考えましょうというきっかけになったという点では、ポジティブな刺激を受けました」。

3D CADや3Dプリンターで作るプロダクトであれば、人が移動することなく世界中にモノを届けることができるということを実感したと、学生たちは口を揃える。「社会問題というと、これまでは政治や水害など、とても規模が大きく、自分たちの力でどうにかできるものではないと感じてきましたが、今回コロナという全人類が同時に抱えることになった問題に直面して、設計、デザインや3Dプリンター、3D CADという自分のスキルが社会問題に対して直接アプローチできる可能性があるんだということを実感しました」と伊集さんは言う。この危機を迅速にプラスに替え、支援の輪を広げていく力をもった彼らの活躍に期待し、応援していきたい。

著者プロフィール

吉田メグミ。フリーライター。1970 年東京生まれ。デジタル、カルチャー、エンタテインメントなどの雑誌、書籍、Web 記事を執筆。フリーペーパーココカラ編集員。

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