経済成長にもかかわらず天然資源の消費量が減少している理由
2019 年 9 月、作家ジョナサン・フランゼン氏が「ザ・ニューヨーカー」誌に寄稿した遠慮のない挑発的なエッセイは、Twitter 上で気候科学者や環境活動家から怒りを買った。「我々の資源は無限ではない」と、フランゼン氏。「二酸化炭素排出量の削減という最大級のギャンブルに大金をつぎ込むことが、人類を救うことを願ったものであっても、それに全額を賭けるのは愚かだ。気候変動に対する総力戦の闘いは、勝算があるうちにやってこそ意味があったのだ」。
だが、MIT IDE (Initiative on the Digital Economy) のコーディネーターで、MIT スローン マネジメント スクールの主任リサーチ サイエンティストを務めるアンドリュー・マカフィー氏は、それに異を唱える科学者のひとり。それほど心配しなくてもよい理由として、地球の天然資源が底をつくことはないことを挙げている。
この直感に反するトレンドを、彼は自身の新著「More From Less: The Surprising Story of How We Learned to Prosper Using Fewer Resources—and What Happens Next」で説明している。アースデーが始まったのとほぼ時を同じくする 1970 年以降、米国の GDP は 4 倍近くにまで上昇したが、原材料の使用は減少を始めている。それは人口ひとりあたりだけでなく、総計においてもだ。米国では経済が急速な成長を続ける一方で、銅やニッケル、化学肥料、灌漑用水、木材など、ほぼあらゆるものの使用量が減少している (唯一の例外がプラスチック)。
エコモダニストを自認するマカフィー氏は、デジタル テクノロジーと資本主義による善を毅然と主張し、地球を守るには資本主義、技術の進歩、社会の意識、信頼のおける政府の 4 つが必要だと語る。少なくとも、化石燃料のキャップアンドトレード制度やノーベル賞を受賞した経済学者ウィリアム・ノードハウス氏が提唱する炭素税などは、気候変動との闘いに不可欠だ。
だが、こうした資源利用の減少傾向については、マカフィー氏は単なる統計上の逸脱でなく、経済成長が資源の活用から切り離されたという、根本的なパラダイム シフトを示すものだとしている。「蒸気機関の到来から 20 世紀末まで、人類はより多くの資源を利用することで、より多くのモノを得てきました。経済を成長させ、世界各地で豊かさと繁栄を向上させてきましたが、その実現のために地球から取得する資源も年を追うごとに増えてきました」と、マカフィー氏。「経済成長と資源利用の両方の指数曲線を見れば、“いや待て、こんな成長が永久に続くわけがない”と思うでしょう。そこから出た結論が、資源を守るために経済成長を犠牲にする必要がある、ということでした」。
マカフィー氏は、この結論が誤りだったと述べる。脱物質化、つまり人間がモノを作るために使用する原材料が、より少なくなるということを考慮に入れ損ねているからだ。「少し極端な単純化ですが、例えば人間はコンピューターを開発しました」と、マカフィー氏。「このデジタル ツールキットをハードウェア、ソフトウェア、センサーと一体で使用することで、いわゆるアトムをデータへ交換できるようになります。分かりやすい形でも、そうでない形もありますが、それにより経済全体で、より少ないものからより多くを得ることが可能になったのです」。
より具体的に言えば、脱物質化は 2 つの形で生じた。まずテクノロジーにより、資源を効率よく、繰り返し使用できるようになった。「例えばビールやジュースに現在使われているアルミニウム缶は、第 1 世代の重量の 20% 以下です」と、マカフィー氏 (データによるとアルミ製の缶の重量は、1959 年の80 g から、2011 年には 13 gまで減少している)。
より興味深いのは、デジタル化によって初期の製品の機能が、より小型かつ資源効率の高いデバイスへと集約、複製されていることだ。2018 年の TEDxCambridge トークで、1991 年製の Radio Shack の回路を手にしたマカフィー氏は、「コンピューター、ポータブル CD プレーヤー、ビデオカメラ、留守番電話など、15 種類のデバイスのうち 13 種類がスマートフォンに取り込まれて姿を消しました」と指摘している。
経済理論は、資源の利用可能性が低下するにつれ価格は上がる、と示唆していた。だが、そうなってはいない。「非常に奇妙で、いまだに心底驚かされるのですが、1980 年以降、人口と経済が成長を続けているにもかかわらず、食料や木材、羊毛、化石燃料、鉱物、金属など、人間が必要とするほぼすべての材料資源の入手可能性が好転しています」と、マカフィー氏。「不足や枯渇の心配は、全くの見当違いだったのです」。
ただし二酸化炭素排出量に関しては話が別だ。米国エネルギー情報局 (EIA) は二酸化炭素排出量について、2010 年の基準値から試算して 2040 年までに 40% の上昇が予想されると報告している。中国やインドなどの途上国では、経済需要を満たすため、温室効果ガスの排出量が、より急速に増大している。国連の気候変動に関する政府間パネルは、地球の居住適合性の維持には、世界が正味の二酸化炭素排出量を 2030 年までに 50% 近く削減し、2050 年までには完全に排除する必要があることを見出した。
その一方で、世界人口は 2050 年までに約 100 億人に達すると予測されている。人間が増えると、必要な電話や自動車、冷蔵庫、住宅の数も増える。調査会社 Statista によると、建設業界は主要都市でのビル建設を、2050 年まで 1 日平均 13,000 棟のペースで行う必要がある。そして、これは世界で必要な、何兆ドル規模での新規インフラへの建設投資の、ほんの一部でしかない。そしてこれら全てが、化石燃料排出物と材料に内包される二酸化炭素排出量の増大を意味するものだ。
だが徹底的な楽天主義者であるマカフィー氏は、人々はあまりにも長い間、「白黒思考」の影響下におかれてきたと話す。経済成長の鈍化や世界飢餓や貧窮からの脱出など、これまでゼロサムゲームであると信じられてきた地球規模の危機は、実際にはずっと込み入った問題なのだ。気候変動との闘いには、原子力発電と軽量製造、ネットゼロエネルギー ビルディング モデル、より高効率でムダの少ない、あらゆる種類の製品のデザインに貢献する CAD/CAM ソフトウェア、スマート インフラ開発など、全ての科学技術を集積して展開することが必要となるだろう。国際社会の政策立案者たちが政治的意志を追求し、カーボンプライシング (炭素排出量に対する価格付け) を高くできるなら、これは人間の創意工夫で勝利を上げられる闘いとなる。
「温室効果ガスの問題は、人類がフロン (CFC) を削減することでオゾンホールの縮小を果たしたことを思い起こさせます」と、マカフィー氏。「その影響は曖昧かつ距離を感じるものであり、切迫感はありませんでした。でも研究結果に耳を傾けて専門家の話を聴き、オゾンホール拡大の原因となっていた CFC などのガスを制限するように行動を起こすことができました。それが二酸化炭素の問題よりずっと簡単に解決できた理由は、比較的少数の企業や業界から排出される、比較的少量の化学物質であり、企業や業界からの抵抗を克服できたからです」。
「温室効果ガス、特に二酸化炭素が問題なのは、人間のありとあらゆる活動から生成される点にあります」と、マカフィー氏は続ける。「市井の積極的行動と、これらの困難へ実際に取り組み立ち向かおうと願うリーダーを生み出すため、世論の圧力を高める必要があります。簡単ではありませんが、それこそが進むべき道なのです」。