建設ロボットはリスク管理をいかに変革するか
- Scaled Roboticsは、リアリティキャプチャ・ロボットで有名なテック系のスタートアップ企業。
- 同社は現在、データ収集能力を拡大してリスク管理を向上させている。
- 創業者のスチュアート・マグス氏は、同社がデジタルモデルと物理的な建設現場の間における、完璧な架け橋の実現に近づいていると述べる。
- ロボットは優れているが、「人間はそれ以上にうまくやれる」。
建設現場はカオスのように見え、実際にそうなっていることもある。フェンス越しに眺めてみると、家ほどの大きさの車両や半分完成した建物、地面に空いた穴、大量の土の山、積み上げられた導管があり、高視認性安全服を着た大勢の作業員がドリルで穴を開けたりハンマーを振り回したりしている。
こうした厳しい屋外環境で、進捗状況を確認することは困難だ。とりわけ、それが実物とデジタルモデルの比較である場合は。建設工事ではミリ単位の精度が求められることも多いため、こうした管理の甘さがリスクを高め、コストのかかるミスへとつながるのだ。Scaled Roboticsが現実世界とデジタル世界の橋渡しを支援し、プロジェクト管理をより簡単にするツールを開発した理由も、そこにある。
同社は、そのためにLiDARとカメラを搭載した4輪ロボットを製作。このロボットは、従来の手法に比べて10倍の速さで建設現場をマッピングできる。リアリティキャプチャ技術は非常に高精度で、天井の角やドア枠のわずか1cmの逸脱まで検出可能だ。
ロボットがキャプチャしたデータはすべてクラウドにアップロードされ、そこで自動的に処理されて、関連プロジェクトのBIM (ビルディング インフォメーション モデル) と比較される。その後、データは建物の3Dモデルレプリカの形で表示され、現場管理者はAutodesk Forgeを利用したWebベースのビューア内で、モデルの確認、検討が可能だ。
これは進捗管理の精度を格段に高める。コンポーネントが完全に合致しなかったり、材料が想定通りに機能しなかったりした場合に、現場管理者はそれをWebベースの3Dプラットフォームから直接把握でき、解決すべきハイリスクな問題がプラットフォーム上にシンプルなリストで表示される。レーザースキャンロボットが巡回して進捗状況を詳細にキャプチャすることで、問題が大きくなったり後工程が複雑になったりする前に、それをいち早く発見できる。
変化の激しい時代に新たな柔軟性を
Scaled Roboticsの業務はリアリティキャプチャであり、同社は過去12カ月間、パンデミックにより変化した建設のニューノーマルの現場に、自社の自動レーザースキャニング・ソリューションを適応させてきた。
スーツケースサイズのポータブルなロボットが不可欠な存在であることに変わりはないが、本当に重要なのはデータだ。Scaled Roboticsは情報を収集する数々の手段を提供し、それを分析するための優れたツールを開発することで、AEC (建築、エンジニアリング、建設) 企業が持つ、完成度の高い3Dモデルの作成と新築工事の管理という課題とのギャップを縮める支援を行っている。
ソーシャルディスタンスの確保を考慮すれば、現場管理の向上にはロボットが最適だと考えるかもしれない。そして多くの場合、それは正しい。だが、Scaled Robotics創業者のスチュワート・マグズ氏と彼のチームは顧客から、ロボットだけでは制約があると聞かされていた。そのため日常的な、もしくは一時的なデータ収集に柔軟な対応できる、他のスキャン方法を追加する必要があった。
「データのキャプチャにおいて、視野を広げ、抵抗を減らす必要があることが分かりました」と、マグズ氏。「パンデミック以降の最大の変更点は、このソリューションを異なる種類の地上用レーザースキャナーと組み合わせたことです。ロボットは優れたデバイスですが、素晴らしい選択肢は他にも存在します」。
そのひとつがライカのBLK2GOハンドヘルドスキャナーだ。これならエンジニアは好きな時に現場を回ってデータをキャプチャできる。Scaled Roboticsのソフトウェアは、その情報をクラウドに取り込み、処理を行なって詳細な3Dマップを生成する。
これはまさにロボットベースのシステムが行うことだが、デバイスの種類を増やしたことで、建設管理者は日々の業務をより柔軟に行えるようになる。
「現場で点群データをキャプチャする際の障壁を減らし、それをBIMモデルと自動比較して品質やスケジュールを検証しています」と、マグズ氏。「従来はデータをキャプチャするのは週に1回程度でしたが、毎日できるようになりました。これにより課題は一変します」。
BIMを使用してリスクを管理
より頻繁にスキャンを行うことで、データを利用してプロジェクトを順調に進め、中断を最小限に抑えることができる。
「現場での逸脱のみの追跡からは遠ざかりつつあります」と、マグズ氏。「もちろん問題を明確にすることは有益ですが、逸脱を早い段階で見つけられれば、それだけデータの価値は高まります。逸脱の悪影響は、気づくのに時間がかかるほど甚大なものになります」。
「工期の終盤で規格に外れた要素が見つかれば、プロジェクトに損害を与えかねません。そのため我々はリスクの緩和と分担を重視しています」とマグズ氏は続ける。「データを分析して建設プロセスの傾向を把握し、知見を提供することもできます。それは生のデータよりもはるかに価値のあるものです。プロジェクトのリスク軽減に役立つ実用的な情報を提供しているのですから」。
マグズ氏は、このソフトウェアプラットフォームはAEC企業が建設現場をデジタル化し、データ主導のプロジェクト管理を可能にする上で、さらに大きな役割を果たすという。データキャプチャのオプションを拡大することで、Scaled Roboticsは従来のワークフローへより簡単に統合し、BIMデータの価値を最大限に高めることに重点を置けるようになった。
「お客様に高品質なサービスを提供する上で、Autodesk Revitファイル、Navisworksファイルへの対応は非常に重要でした」と、マグズ氏。「多くのお客様のプロジェクトでBIM 360が中心となっています。弊社がBIM 360との統合レベルを上げ、Forgeとの統合を強化しているのは、そのためです。これにより、課題管理やモデル更新が非常に簡単になりました」。
Scaled Roboticsのサクセスストーリー
マグズ氏は成功事例として、大規模屋内遊園地の建設を伴った中東でのプロジェクトを挙げる。温度や湿度が材料の性能に影響を与え得る酷暑で、かつ乾燥した環境下では、例えばジェットコースターやウォータースライダーなどの建設中に逸脱を検出できれば非常に有益だ。
別のプロジェクトでは、新しい生物医学研究施設で、大幅な節約を実現した。「物理的に分断され、手動の作業が含まれていたプロセスを、100%デジタルのワークフローに転換させました」と、マグズ氏は話す。新たなプロセスは50%のコスト削減と75%のスピードアップを実現し、手描きによる修正の書き込みは完全に排除されることになった。
「75%もの時間短縮が可能である理由は、弊社のソリューションが問題を検知し、素早い理解と対処が可能なフォーマットでフラグを立ててくれるからです。また50%のコスト削減は、リソースを付加価値の高いタスクに再配分することで実現しています」と、マグズ氏。「その上、現場評価の実施時間を短縮できます」。
ソフトウェアの成功にはスピードも欠かせない。マグズ氏が「とてつもなく複雑」と表現する別の大規模プロジェクトでは、テラバイト単位のデータに含まれる数十万の要素と数百万のデータ ポイントを調整するBIMチームが、プラットフォーム上で1時間リハーサルを行っただけで価値の提供を開始できた。
デジタルをリアルに保つ
Scaled RoboticsがBIMデータを活用することで実現する究極の価値は、バーチャルな理想と、実際の作業を行う現実空間のマネージャーの体験の間を橋渡しできる点にあるのかもしれない。
BIMは業界を飛躍的に前進させたが、それはある意味で完全性により制限されると、マグズ氏は話す。
「AECには、意図的なリアルと現場で実際に起こっているリアルとのギャップを埋めることができるツールが必要です。弊社のような企業がより多くの情報をBIM環境に送ることで、BIMはますます向上するでしょう。BIMプラットフォームの今後の使用に影響を与える重要な情報源になりたいと考えています」。