BIM でファシリティ マネジメント: ライフサイクル性能の向上とコスト削減の4つのヒント
数字とモデルは嘘をつかない。とりわけ、建物の「グランド オープン」前と数年後のファシリティ マネジメントにおいては。
オハイオ州立大学 (OSU) のファシリティ マネジメント (FM) 学部を例に挙げてみよう。この学部は BIM (ビルディング インフォメーション モデリング) を使用して、500 棟を超える建物と、3.29 平方 kmに及ぶメイン キャンパスの内部空間の、詳細な 3D デジタル プロジェクト モデルの作成を開始した。OSU は、BIM により (建設コストの発生前に調整できるよう) 建物の使用者を早い段階で改修プロセスに関与させ、またカーボン ニュートラルの目標達成に役立つエネルギー利用分析の提供により、コスト削減をさらに進めることができた。
ザビエル大学の場合は、4 棟の新校舎を建設して学部を 25 % 拡大できた。BIM と空間管理ソフトウェアを双方向で統合した、2015 年の段階では最も先進的だと言えるプロジェクトの結果 (英文情報)、この学校の運営チームは、管理予算を年間 75 万ドルから 1,200 万ドルへと拡大している。それはなぜだろう? これまで含まれていないままだった、新たな室内加工や床張り、屋根ふき、機械設備の必要性を、BIM データが実証に基づいて裏付けする役割を果たしたからだ。
FM に BIM が使われるようになり、米国内外の数多くの大学や病院、民間企業が FM ツールとして建物設計用ソフトウェアを使用。占有データやエネルギー レポートから設備のシリアルナンバーや製造データ、モデル データまで、ありとあらゆる大量の情報を活用して、新規建設の計画や改修の決定、建物のエネルギー性能の追跡を行うようになっている。
この記事では、FM:Systems 設立者兼 CEO、国際ファシリティ マネジメント協会フェローで産業専門家のマイケル・シュライ氏が、FM における BIM の利点と、建物のオーナーが建物の構造やシステム、性能の情報を取得し、うまく活用するためのソフトウェアの応用方法に関するアドバイスを紹介している。
BIM はどう役立つのか
まずは、これまでの歴史を簡単に振り返ってみよう。BIM 以前、ゼネコンは建物のカギを、複雑な報告書と一緒にオーナーへ手渡すのが通例だった。その報告書は、ファイリングされた図面、パーツや備品のバインダーやパンフレット、CD-ROM に収められた PDF などで構成されていた。
「BIM 登場以前は、例えばトラックがバックして壁に突っ込んだ場合、修繕用の材料を探そうにも、その答えはファイルの中にあり、検索もできなければ索引もない状態でした」と、シュライ氏。「BIM は情報量が多く、検索が可能で、問い合わせも簡単にできます。製造元やモデル名、シリアルナンバーの情報ソースとして優れたものであり、オーナーは建物内に何があるかを把握し、修繕することができます」。
ライフサイクル管理に BIM を利用した場合も、建物の内部構造の透視図のようなものをオーナーに提供することで、修繕コストを削減できる。「建物は時と共に変化するため、それに付いていくのは困難です」と、シュライ氏。「BIM は情報を常に最新かつ正確なものに保つツールとして機能するため、オーナーは壁の向こうがどうなっているかを把握できます。修繕やリフォームを行う施工会社は、事実上の保険となる金額込みで請求することも多くあります。追加費用を必要としたりコストを跳ね上がらせたりする、電線用導管や送水管、有害な材料の発見などのリスクがあるからです。オーナーが事前に情報を把握していれば、そうした出費も避けられます」。
BIM がオーナーのコスト削減に役立つのは、これだけではない。シュライ氏は、エネルギーと水の使用量を注意深く監視し、建物の運用コストを削減できることも利点だと話す。空調のレベルや自動調光の照明、水の使用など、さまざまなシステムの性能を監視、分析する機能をオーナーに提供することで、BIM によって思慮深いエネルギー使用やコスト削減、資産価値の向上へとつなげることができる。
こういった利点を考慮した上で、シュライ氏は BIM 統合を成功させる以下の 4 つのアドバイスを挙げてくれた。
1. BIM は会話: 全員参加形に
BIM をライフサイクル管理へ転用する場合、その課題の多くはフロントエンドにある。重要なのは、設備や機械の保全と運用に BIM をどう利用するのかを理解すべきファシリティ マネージャーにとって、システムを可能な限りユーザーフレンドリーなものとすることだ。
シュライ氏のアドバイスは、達成事項を統合前に明確に定義しておくこと、そしてファシリティ チームと管理チームを話し合いに参加させることだ。新しい建物の場合、ファシリティ マネージャーは、どのデータに追跡、タグ付けする価値があり、どのデータが不要かを決定しなければならない。既存の建物の場合、進行中のモデルを作成するために、BIM にどういったカスタム、ライフサイクル機能を追加すべきかを決定する必要がある。「必要なものが何で、それをどう要求すべきかを知る必要があります」と、シュライ氏。
もちろんデータ収集は、オーナーやアセット マネージャーのミッションと目標によっても大きく変わってくる。成功させるには、IT チームからファシリティ運用、管理スタッフまで全員を話し合いの場に招き、プロセスの早い段階で彼らの協力を得ることが極めて重要だ。
2. 適切なサイズ設定: 収集すべき 5 つの情報
BIM のビジュアライゼーション モデルは、室内面積、壁や窓の詳細、量、サイズ、形状、向きの情報を伴うグラフィクスで描画された建築要素など、膨大な量の情報をキャプチャする。だがこうした細部の大半は、経営上層部や投資家に新規プロジェクトや改修を売り込む際には有益だが、ファシリティ部門や保全スタッフには無関係なこともある。さらに悪いことに、こうした情報の維持は困難で、非常に時間がかかる場合もある。
シンプルにスタートし、控えめな目標を設定することが重要だ。シュライ氏は初めて BIM を導入する人に、収集する建築設備とシステムの情報を 5 つに限定することを勧めている。型式、モデル、説明、シリアルナンバー、アセット識別ナンバーだ。
3. ソフトウェアのプロを雇う
BIM の担当者には、日常的に情報を使用するファシリティ チームだけでなく、改修が行われた場合や設備が取り替えられた場合に、そうした変更を BIM およびファシリティ マネジメント システムに取り込む責任を持った人物も指名されるべきだ。
「ポンプが壊れて、同等の新しいポンプが取り付けられたとします。こうした場合、システム更新の十分な知識を持った、ソフトウェアのエキスパートが必要になります」と、シュライ氏。不正確な情報と不要な重複を排除するため、部屋の ID 番号と設備の ID 番号を BIM と FM のプラットフォーム間で統一することは極めて重要だ、と氏は話す。
4. データは転送せず一本化
この項目には疑問を持つ人もいるだろう。データの一本化と転送はどこが違うのか? シュライ氏によれば、FMは、作業命令を履行し、空間レポートをまとめるのに優れた情報源だ。つまり、占有率、使用、リースといったアクションにその権限を持つ。一方、BIM は、建物の物理的特性、つまり材料や構造、設備に権限を持つ。理想的には、この統合は双方向であるべきだ。つまり、データが一方のシステムから他方へとシームレスに流れて、入力を二度行う必要がない状態だ。
「私は、BIM モデルと FM の統合が正当であると、確信を持っています」と、シュライ氏。「中には転送で十分だという人もいます。最初はうまくいくかもしれませんが、情報が一切更新されないので、そのうち問題が生じます。BIM とFM は 2 つの独立したシステムであり、その枠を超えた仕事に手を出すべきではないのです」。