気候変動に対するハチの反応は人類を含めた種の生存に貢献するか
ハチは繊細な生き物であり、ほんの些細な変化に、人間よりもずっと早い段階で気づく。大きな地震の数日前に、養蜂家たちがハチの異変を目撃することもあるという。この小さな生き物に、モノカルチャー経済や、農業で使用される化学薬品、都市化が困難をもたらしており、気候変動も大きな打撃を与えている。
なぜハチは、そうした出来事を事前に察知できるのだろうか? ハチと自然との極めて複雑な相互関係について、我々が理解している部分はまだわずかだ。だがハチの専門家である独ヴュルツブルク大学のユルゲン・タウツ教授は、それを変えたいと考えている。氏のチームが研究しているのは、ミツバチが気候変動にどう反応しており、それが人間にとって何を意味するのかということだ。
世界有数のハチの研究者であり、生物学の名誉教授でもあるタウツ氏は、we4beeプロジェクトの企画者だ。氏の研究チームはヨーロッパの教育機関や地元の養蜂家組織と連携して、センサーやビデオ カメラ、気象観測装置など先進技術を搭載した巣箱を設置。このプロジェクトが目指すのは、気候変動と環境が蜂群にどのような影響を与えるのかを明らかにすることだ。
アンバサダーとしてのミツバチ
「ミツバチは、さまざまな科学的知識を引き合わせます」と、タウツ氏。「その存在は生物学、飛行は物理学、生態は社会学、そして精巧な巣づくりには建築学が関連しています」。タウツ氏は、こうした分野の知識を強化する研究に、ハチが最適な生物だと考えている。2019 年初頭には、300を超える学校、大学、博物館がwe4beeプロジェクトへの参加を表明するビデオ メッセージを送った。その関心はヨーロッパ内に留まらない。「米国ニューメキシコ州の動物園からの問い合わせや、シベリア奥地の養蜂家協会からの連絡もありました」。
現在、ドイツやオーストリア、スイス、ベルギー、リヒテンシュタイン、ルクセンブルクの教育機関の屋上やバルコニー、ビオトープや庭に100を超えるハイテク巣箱が設置されている。この「トップバー (上桟) 式巣箱」スタイルの巣箱は地元養蜂家の支援でメンテナンスとデータ収集が行われる。目指すのは、このプロジェクトを世界展開し、世界各地に蜂群を定住させることだ。気候変動と種の絶滅は、突き詰めれば全ての人に影響を及ぼすことになる。「ハチは今や、Fridays For Futureムーブメントの一環として気候保護運動を行う学生たちに、それぞれの目的のために必要なデータを自ら取得する手段を提供しています」と、タウツ氏。
ハチミツではなくデータを収集
we4beeプロジェクトが最優先するのはハチミツではない。「欲しいのは蜜ではなくデータです」とタウツ氏は述べており、それは巣箱のデザインにも反映されている。このトップバー式巣箱は台形で、ハチの巣が外壁にくっつかないようになっている。この巣箱はもともと、蜂蜜分離器のないアフリカの村落向けに作成されたものだ。
タウツ氏とチームは、このハイテク巣箱にカメラや気象観測装置、ミニコン、さまざまなセンサーを取り付け、気温や湿度、粒状物質、音、風のデータを収集するようデザインしている。
エンジニアであるハンス・ノイマイヤー氏は、Autodesk Eagleソフトウェアを使用して、センサーを使用する3種類の基板の回路図を作成。ノイマイヤー氏は、ソフトウェア開発者のひとりと緊密に連携し、Eagleの最初のプロトタイプの検証を手助けした。
さらに、ステンレス鋼製の小さな筒に温度センサーを収めるため、ノイマイヤー氏は Autodesk Fusion 360を使って3Dプリントによるプラスチック製の軸ざやをカスタム作成した。
AIでデータを評価
収集したデータは、ヴュルツブルク大学のコンピューター センターへ刻々と送られる。十分なデータが揃うと、we4bee研究チームはデータ サイエンスの専門家であるコンピューター科学者のアンドレアス・ホート教授と、クラウドのAIを使ってデータを評価。このプロジェクトには、Microsoftも企業パートナーとして参加してている。
「ハチがこれほど素晴らしい昆虫であり、学ぶべきことがたくさんあるということに、40歳になるまで全く気付きませんでした」と、タウツ氏。「同僚から蜂群をプレゼントされて、一変したのです」。タウツ氏は、主要な研究対象を脳研究からBienenforschung Würzburg (ハチの研究機関) へ、さらにHOBOS (蜂群研究のインターネット プラットフォーム) へと移し、最終的にwe4beeを設立するに至った。ハチに関する彼の著作は19カ国語に翻訳されている。
タウツ氏はハチが気候のアンバサダーであり、人間にとって最も重要な生物のひとつだと考えている。ハチにとって良いことは、他の種、ハリネズミ、チョウ、そして最終的には人間にとっても良いことなのだと、彼は確信しているのだ。